声 - みる会図書館


検索対象: 探偵倶楽部 昭和32年2・3月合併號
294件見つかりました。

1. 探偵倶楽部 昭和32年2・3月合併號

どうじよう すべての女が相手の男に同じような質問をしていた。ただ黙々としみとることができた。誰も同情するものはなく、声をかけるものもな とおま ていたのは三平と組んだ色の黒い女性だけだった。彼女はその笑い声 く、そっと離れたところに立って三平を遠巻きにして見ていた。 ちょうしよう が三平の腹の中から漏れてくるのを知っていたからだ。彼女はぶしっするといままで高らかに嘲笑をつづけていた胃袋がびたりと笑い しようら ゃんだと思うや、少年のようにすんだ声で語りはじめた。声ばかりで けな質問が礼にはずれることをよく承知していた。 ことばちょうし むじゃ、 こ、ろも いろあお なく言葉の調子も子供のように無邪気だった。 さすがの三平も心持ち色蒼ざめてしきりに胃のあたりをもんでいオ ばしょ 彼にしてもさつばりわけが判らなかった。このような場所で胃袋が謀『ポクハ知ッテルンダゾ、コノ男ガドンナ人間ダカ、チャント知ッテ しず ゅめ ほん 叛をおこそうとは夢にも思わなかったのだ。この声をどうやって鎮めルンダゾ ! 」 ぎようぜん 一瞬三平は凝然として立ちすくんだ。口をほかんとあけて思わずそ るべきか、この場を如何にしてとりつくろうべきか。 三平はこぶしをるとおのれの胃の上をビタピタと叩きだした。その声に耳を傾けるふうだった。 あくじ 「スッパ抜イテャルゾ、コノ男ノ悪事ヲスッカリバラシテャルゾ。ャ して小声で呟い じゅうじんか ( だま イ、二重人格ノ恵良三平 ! オ前ハ物ヲ云ウ鶏ノ卵ヲ呑ンダコトラ忘 『黙れ、黙れ、黙れ、黙れ・ : ・ : 」 しせん 彼は満場の視線が自分にそそがれていることを意識して、ひたいにレテハイナイダロウナ。ボクハアノ卵カラ孵ッタヒョコナンダゾ。人 いぶくろ あ崟らあ・せ べっとり脂汗をにじませながら、なおも胃袋をなぐりつづけた。それニカクレテオ前ガャッタコトヲ、ボクハオ前ノ胃袋ノ中デスッカリ見 しょ ( ト - く や、いまや忍び笑いではなく、彼のテイタンダ。オ前ハボクヲ胃ノ中デ養ッテイタクセニ、自分ノ食慾ガ でも忍び笑いは止まなかった。い やろう しゅうたいらようしよう フエタコトヲ少シモ怪シマナカッタノダカラ、呆レハテタトンマ野郎 醜態を嘲笑するように声を大きくして高らかに笑いつづけた。 ダゾ、全ク ! 』 本一『黙れ、黙れ、黙れ : ・ : ・』 かみみだ 絵 . ここに至って三平は俄然われに返った。彼はふたたび胃を叩き、も 三平はなおもなぐることを止めなかった。髪は乱れ、脂汗とまじり 合ったボマードが顔から頸のあたりをギトギトぬらした。カフスがはみ、押え、必死になってヒョコのロを封じようとはかない努力をつづ ずれカラ 1 がぶらさがりネクタイはひん曲っていた。だが彼はなおもけた。だが胃袋は決して喋りやめようとはしなかった。 の・ むがむらゆう ろうまい なぐりつづけた。狼の極に達した三平は無我無中だった。紳士をよ「コノ男ハュリ子サンニ隠レテ三人ノ娘ト交際シティルンダゾ。ュリ 絵 . じゃま けっこん あくき ほんしよう そおったマスクはとうの昔に剥れて本性をむきだしにした悪鬼のよう子サント結婚スルノニ三人ノ娘ガ邪魔一一ナルモノダカラ、順々ニ殺シ さつじん、 テシマッタンダ。コイツハ殺人鬼ナンダゾ」 な顔になっていた。 でたらめ ひょうじよう しんししゆくじよ びんかん ( その表情をみて紳士淑女は三平がいかなる人物であるか敏感に読「違う、違う、こいつの云うことは出鱈目なんだ。ュリ子さん、諸君 つぶや だま しつもん む おさ ひっし がせん しゃべ

2. 探偵倶楽部 昭和32年2・3月合併號

( 3 ) 絵のない絵本 ひなどり のだよ』 「で、その雛鳥はどこへ行ってしまったのですか」 あまぐも たず とばくは訊ねてみた。 月がようやくそこまで語ってきたとき雨雲は早やかれの顔を隠しか とうきようわん けていた。ほかに二三訊きたいこともあったがそれは後日にまわして 「あれかい、初めは東京湾に浮んでいる鵜のところに行ったものさ。 あわ おやどり この雛は親鶏とおなじように真ッ黒な羽根をもっていたから、鵜に親ばくは慌てて声をかけた。 げんこうようし 近感を抱いていたのだろうね。だが哀しい哉みずかきがないものだか『ありがとう、お月さん ! ばくはこのことを原稿用紙に書くことに おは かいちゅう ら海中にもぐることができずに溺れかかってしまった。そこで鵜に別 . します。お礼は月見団子にしましようか、それともビ 1 ルにしましょ なかま れをつげると今度は鵜の仲間に入ったものだよ。いま上野の森に住むうか ! 」 みよう たがかれの顔はすでに真黒い雲につつまれてしまっていた。ばくの 鴉の中でカアカアと鳴けずに妙な声をだす黒い鳥がいる。鵜とちがっ かく びなどり 声がきこえないのか月の返事がとどかないのか、とに角そのままにな て飛ぶこともあまり得意じゃない。それがあの物を云う雛鳥なんだ。 この頃はそろそろトサカが生えかけて生意気ざかりになった。この奇っている。一体どっちにしたらいいんだろうな。 どうぶつえん 妙な鳥に近くの動物園や科学博物館の技師や学者達が一向注目せずに いるのは何うしたわけだろうかと、私はいつもいぶかしく思っている 東は危いから 成み厄〕 からす すャ マエ かお まっくろ へんじ 一な面 0 「ナ ・自にゅ 3

3. 探偵倶楽部 昭和32年2・3月合併號

ミーカーとフェビアンとの関係をいえば、そこにいるのは二人だけ げんかん うご いまいましい玄関のベルが鳴り響いた。ウルフはすっと続けていた だった。彼等の見詰める眼はがっちりぶつかって動かなかった。フェ 、ろく けんじゅう が、私が記録をやめすにいるのを見てち、らっと私の方に一瞽を投げビアンの拳銃は、彼の眼と同じように、ビクとも動かすねらっていた そうだん りようわき りようて 一た。彼にはそのことについては相談はしなかったのだが、どんな事にが、火は次かなかった。ミーカーの両手は彼の両脇にたれていた。 おと 前なっても出たり入ったり、飛んで行かないつもりで、ベルが隝ったら「手を上げたら好いだろう」と、フェビアンはしやがれ声を落しも上 けんじゅう ドアへ出るように、私はフリツツに話しておいたのだ。私は、ドアに げもせず、いった。拳銃を向けているというだけではなく、ミーカー おも ボルトをおろしておくように彼にいっとくのだったと思った。しかしは優に六フィートを越して、目万もたつぶり一一百二十ポンドあったの 死 ~ 彼は、そういっても私がいる中は決してそうしないのだったが、腹ので、的の大きさでも彼はこの上もない的が相手だった。 だれ 中ではフェビアンはもう来てしまったのだから、誰が来たって大した「今ここでなんか、することじゃねえ」と、ミーカーは細い声でいっ かんが ひろま 」 0 ことではないと考えていたにちがいない。ところが結果は、広間から おし 有りがたくない音が聞えて来るばかりか、声が、しかもその一人の方「誰がお前に教えたんだ」 こえ とりひ、 の声は私を呼ぶフリツツの声で、 「誰もねえ。おれは取引で来たんだ」 「アーチー アーーチーイー 「上げろ、その手を」 ちんにゆうしゃ けんとうちが 私は立ち上って出て行ったが、闖入者はフリツツを押しのけて飛び「馬鹿らしい見当違いだ」と、ウルフはだしぬけに彼等にいったが、 そう、 ひろま う 0 込んで来たのに相選ない。というのは私がまだ広間〈入るドアの十歩彼等の四つの眼はまるきり動かなかった。彼はつづけた。「こりや途万 じむしつ すがた きみたら にんはん きみ 手前まで行きっかない中に、彼は事務室へ入って来た。彼の姿を見てもないことだ ! 君達二人の他に、ここには五人の人間がいる。君が ひらめ 私は足をとめて息を凝らした。私の心にサッと閃いたのは、思考とい彼を射ったって、フェビアン君、どうしようと思うんだ、君は、われ ばかばか しんし えるようなものではなかったが、幾つかの事実だった。一つはフェビわれみんなを射つのか ? 馬鹿馬鹿しい。同じ考えを相手の紳士も持 アンのことで、もう一つはサムス・ミーカーのことだった。私はウル ってるだろう」彼は、もう一人の紳士に向って、「一体君は誰です、あ つくえすみ あともど フのの隅へぶつかりながら大急ぎで後戻りして、くつついて見てい んた ? こんな風にわしの家へ押し込んで来るというのは、どういう た。フェビアンは立ち上って、ウルフが訊ねた証拠を備えていた。それつもりだね ? 」 むね は彼の手に握られていて、肘を腰に当て二の腕をピンと伸ばしていた。 それが私をほッとさせた。私は胸の中で考えた。オーケー、やれや あかがわ まえ シュワルツは赤皮の椅子を離れてその陰の床に這いつくばっていた れ済んだ 今日は。明日も。少くも死ぬ前に、これを私は見た。死 きこ ひしこし ひび じじっ ゅう かれ にそ

4. 探偵倶楽部 昭和32年2・3月合併號

さいこうど んしようて、す 電話がまた隝り響いた。感傷的過ぎたと思っているクレーマーだな私はかってないほど最高度の懐疑を抱いた。彼がどんな予定にしろ、 ひつよう じゅわき と思いながら、私は受話器をとって、話しかけた。声は、クレーマい何か予定を持っていたとは、私には思えなかった。ソールが必要で、 なじみぶか そして何のためということも彼に分っていた彼の方針というものが、 のように馴染深い声だったが、彼の声ではなかった。 ひつよう 「ソール・バンザーですよ」と、私はウルフにいった。そして私に離正真正銘のごまかしだと私は考えていた。クレーマーは、彼が必要 けいさっ れてろという合図をしなかったので、私は聞いていた。ところが短いなものなら何でも、どこで見付けられるか警察ではいつも分っている びか なかま おぎな いぬの仲間の間から、ご用に出来るので一時手を控えたのだ。そして 話で、私には分らないことを補ってくれるようなものは何もなかっ けんさかん 」 0 彼は、ウルフと私とを検査官としても好い仲間じゃないと考えたの ちゅうはん り 0 う だ。ウルフが、ソ 1 ルを昼飯に呼んだたった一つの理由は、誰かと信 「ソールか ? 」 はなし か楽しい話をするためだけだと、私は考えた。 「そうです、あなた」 あふ さいご らゆうはん その最後の考えは、間違いなかったということが分った。活気の溢 「昼飯を食ったか ? 」 もいえ、あなた」 「どれくらいで、直ぐこっちへ来られる ? 」 「八分から十分ぐらいです」 じじよう よてい 「事情のお蔭で、予ウ ~ に一つ二つ変更があるんだ。考えてたよりも早 、み ひつよう ちゅうはん く、君にここへ来て貰う必要があるんだ。やって来て、一緒に昼飯を ーーーミス・べウラ・ペイジ、ミスタ 1 ・モルトン・シェイン、 にやらんか アーチーとわしとだ」 前 「はい、あなた、多分、八分で」 の 死 ウルフカ、 / ゞ彼の昼飯を楽しんでいたかどうか分らないが、私は楽し くなかった。 わりびき 3 どんなものにでも、ひどく割引して考えるのが私の習慣で、その日 ちゅうはん 少び こ へんこう しゅうかん わたしたの みじか しようしんしようめい 〃海がありませんなあ〃 ☆オール留守 ひきしお 〃いま干潮のところですク てんらんかい ある展覧会で何にも描いていな 汐だが平家の船は何処いにます りつば い大きなカンバスを立派な額ぶら ? 〃 ちんれつ にいれて陳列してあった。不思議汐壇の浦さして早くも巡げ去っ に思った見物人が折よく来あわせ たです〃 た画伯に訊ねてみた。 〃源氏の船も見えませんぜ ? 〃 え 〃これはどういう絵ですか ? 〃 〃間もなく到着する筈ですが、 げんべいやしま 〃源平屋島の浦の合戦の絵ですちと遅いようですなあ〃 よ〃 おそ

5. 探偵倶楽部 昭和32年2・3月合併號

若い娘が泣き叫ばうとしかけた時に、それを理解してやる方が彼がし 「知ってたんだね、あんたは ! 」 こうどう じっきい た行動よりも、私としては自然な、最も望ましい効果のあるやり万だ しかし、かの女は実際には、ロでいっているほどには平静ではなか すわ にぎ と考えて、ただ坐って待っていた。つまり、彼のすることよりも、す った。かの女は両手をしつかり一つに握りしめて、悲しみを押えよう つづ たい、ゆうようそう と耐久競争をはじめていた。ただじっと坐っているだけで、話を続けっとよく私の万が眼が利くと思っていたのだ。 ちょうう しばらくして、私は、かの女がを上げたので、かの女の肩に靦情 ようとさえもしなかったが、すべての徴候は同じような結果を示して けつか いた。結果は今にもというところへ来た。小さなさし込みのようにかの手を伸べる時が来たと思いかけていると、かの女は出しぬけにいい たお たじようげ の女の肩が上下しはじめ、つづいてかの女の顔ががくんと前に倒れ、出した。「何だって、あんたも行ってしまうだけの思慮を持ってないの おお 両の手を上げてその顔を蔽ったと思うと、おきまりの声が湧きはじめ ? 」 ていねい 」 0 それは、私をひるませなかった。「持ってますよ」と、私は郎寧にい らようし 「やれやれ」ウルフは、ぞっとするような調子でつぶやくと、立ち上った。「ですが、私は音がすっかりゃんでしまって、もしかしたらモル ようす こえ とたん トンがいる部屋へ、今のあんたの様子では行きたくないのじゃないか って出て行った。その途端に、すっと高い声を、ペウラは立てていた。 かぎか かがみ と、あの階の前の部屋は私の部屋で、鍵を掛けてないんですが、鏡の ・ ) 、ヾタンと鳴るのを聞いた。私は、 私は、彼のエレベ 1 ターのドアカノ よ ( しつ ある浴室があるからって、あんたにいうのを聞いて貰おうと待ってい 断ち切った様に笑い声がやんだかと思 うと一瞬に元の真面目な顔が戻って来た たんですよ」 とちゅう そして又き声でそれでもう女は私の〈。。レ そういって、私はかの女を独りにして出て来た。出る途中で、テオ ものになり切って了ったのです。キッス / 一 ちゅうい うえ ( みしつ のしたい時にキッスが出来ます。抱きし ドルに植込室でどんなことが続いているか注意して、どこか他で仕事 こ一 さが めたい時には抱きしめる事ができます。 を捜すようにと忠告した。自分の階の、自分の部屋で立ちどまって、 : ・だがね、 私はこれで本望ですよ , よくしつきれい 前私は人殺しだから、いっ巡査にみつかる 私は浴室に綺麗なタオルだの全体の様子を確かめた。広間に戻って来 かも知れない。そこで俺 ると南の部屋のドアが開いて、モルトンがそこに立っていた。 の ~ はうまい隱し場を発見し 8 かれ たんだよ。これなら誰も 「ミス・ペイジはどこです ? 」と、彼はきいた。「どんなことがあるん 気がつくまい。ホラ死骸 死 ですか ? 」 とちゅう はちゃんと俺の店先に飾昼 「上でかの女は蘭を見ていますよ」私は、途中で彼に話した。「くつろ 白 ってあるのだよ」 ちうしよく いで下さい。十分で昼食ですから」 2 イ / の らん め ぜんたい ひと ひろま

6. 探偵倶楽部 昭和32年2・3月合併號

ろうムじん のはカなく椅子にくずれ落ちた。 その時、室外で、老婦人の鋭い声がした。 エルムズ氏は猶も続けていった。 「あの可愛いいカメラ・ガールはわたしに宝石を返してくれた、優し ムねうんがちたい しようじき 「残念ながら、あなた方三人は、明日船が運河地帯に着く迄、あなた い正直な娘だ。わしはあの娘に会って話したので、やって来たのだ」 師 ~ ちょうだい 真 ~ 。方の室から出ないんでいて貰わなくちゃなりません」 「あゝ、ガスティング夫人だなたちょっと行っみて頂戴。」 かべよ むごん ところ 写】壁に寄り掛っていたパットは無言だった。 といって、私はヨセフアに夫人の所へ行って貰った。一一人の婦人は べんごし 女】 「承知しました。僕の弁護士が今夜ワシントンから飛行機で来る事に室外で、暫く、ひそひそ声で話していたが、その声も、いつの間にか の】 いんまう おくびようもの よろいど 貌 . なっています。僕は易々とこの陰課の虜となるような臆病者ではありゃんだ。私は小さい部屋の中を行きっ戻りつして、鎧戸を通して、運 かくご つうか すうせき 美】ません。大に争う覚悟です」 河を通過する順を待っている数隻の船をじっと見詰めた。私たちの乗 こうぜん と、ランダルは昻然といった。 っている船はゆっくり進んでいた。 私は卒倒した。 「正午迄には船は入港するだろうが、それからは私たちはどうなるだ 私は病室に運ばれ、そこで一夜を明かした。 ろう」と私は気を揉んでいた。 よくあさ たいよう まちあいしつ 翌朝、目を覚した時には、暑い太陽がきらきらと輝いており、一点スチュワーデスがやって来て、私に待合室へ来るようにと告げた。 まらあいしつ の雲もない青空で、水平線上にはパナマの繁茂した大棕梠がくつきり待合室へ行って見ると、ガスティング夫人とヨセフアとエルムズ氏が すがた 浮び出ていた。 列んで掛けていた。ガスティング夫人は、私の姿を見ると、長らく会 ちょうしょ ( きが ョセフアは朝食と私の着更えを持って来てくれて、いつもの通り、 わなかった孫にでも会ったように、懐しそうに私を迎えた。 しやペ ムじん たちあ 早口に喋り立てた。 「ガスティング夫人があんたに何かいいたい事があるが、僕の立会い うそ 「今度の事件はもう船中へ知れ渡って、蟐と誠のいりまじった、色々の上でなくちゃいけないといわれるので、僕もここに来ておるんで さいくん の噂が立っているのよ。あんたはドンの妻君だって、みんないってるす」 けんか けつか じむちょう よ。あんたのために、二人の男が喧嘩して、あんな結果になったのだ とエルムズ事務長はいった。 こくさいて、ほうせきどろばう とか、あんたは国際的宝石泥棒だとかいう噂も立ってるよ、エルヴァ夫人は取りとめのない事を長々と話してから、やっと、要点にふれ 」 0 からあんたに言伝があって、彼女は何もかもよく知っているから、人 うわさ ろうか の嚀は全く信じていないといってくれといったよ」 「手紙を人れて廊下へ降りて行ったが、道に迷って、戸棚なんかのあ こうい かんしゃ 私はヨセフアとエルヴァの厚意に感謝した。 る違った通廓へ出た。わしは年を取ってるから、随分ばんやりね」 びようしつ す あおぞら なお せんちゅう しつがい まご にゆうこう なっか ずいぶん とだな ようてん

7. 探偵倶楽部 昭和32年2・3月合併號

( 273 ) 死の前に 続いて、別の反射作用が武器を執らせた。私は歩道の端までころがっそれから、みなさんはそんなこと信じないだろうし、自分でもとても しん 信じられないと思ったが、私はいった。「エンゼル・フード」 て、手にはコートのポケットからっかみ出したビストルを握って、 かのじよ 」と、彼女はいっ イオレットのクウべの陰にひざをついて、マディスン街の方に向って彼女は直ぐに動くのをやめた。「ううーー・ううーーー あえ かのしょあえ た。彼女は喘いでいた。喘ぎの間に、しゅうという音を立てて息を吸 三十ャードほど、もう動きかけて早く走りかけていたもう一つの車を びきがね たまから ねらった。私は弾丸が空になるまで引金を引いた。車はマディスンを越っていた。彼女は物をいおうとしていた。「あん , ーーああーーああ げんき あんまりだわ」と、やっといった。彼女は元気を出して、私に金切り すとスビードを増した。 した声でいった。「あんまりだわ ! 」それから、あきらめて、ばったり倒れ その時には私は立っていた。そしてバイオレットの万ヘ振り向、 彼女は四つん這いになって起き上ろうとしていた。私が近づくと、彼 女はヘたへたとくず折れた。私がよく見ようとしやがむと、一つの弾私は立ち上って、ぐるっと見廻した。窓が幾つも開いていて、声が . だれ あき 丸が彼女の料に傷をつけているのが分ったが、明らかに他にも弾丸を聞こえて来た。誰かが、五番街の方から私の方へ走って来ていた。天 がわ 幕の向い側のアパ 1 トメント・ハウスのドアが開いて、ドアの係りか 受けていた。 せいムく キッド エレベータ 1 係りか知らないが、制服の男が私の方へやって来た。歩 私は彼女にいった。「動くんじゃないよ。若いの。じっとしてるんだ」 いしゃ じゅんさ 道をやって来る一人が巡査だと分ったので、私は立ち上って、「医者だ 「あの女は耳隱しがよ ! 」とどなった。そしてアパ 1 トメント・ハウスへ飛び込んだ。広間 く似合いました。台 から カら にむかって上手に結いノ は空つばだった。エレベーターも、ドアを開け放したままで空つほだ こうかんにい ・上げた処で、綺麗にお った。私は、交換台を見付けて、プラグを差し込んで、ボタンを押し 化粧した顔が私の方をぐ しつないでんわ しゅうかん むいて一一ッコリ笑うの 習慣の勢できまってそうしていたはすだが、ウルフの部屋の室内電話 碼です」男はこゝで一 0 へつなぎ放しにしておいたかしらと思い出そうとしながら、ダイヤル ・肩を上げて見えをきっ まわ た。濃いが両方から を廻した。 こえ 迫って凄い表情になった。赤い唇が気味悪 そうしてあった。とうとう彼の声が聞こえて来た。「ネロ・ウルフで くヒン曲った「俺は今だと思った。用意し〉 ていた千枚通しを、あの女の匂やかな襟足・ 〈、カまかせにたゝき込んだ。笑顔の消え夢 「アーチイです。彼女を家へ送って行ったんです。ばく達、七十八番 昼 ぬうちに、大きい糸切が唇からのぞいた一 どお まんま・ : ・ : 死んでしまった」 通りのアパートメント・ハウスの前に歩道に立っていたんです。一人 うご を第を・ かのじよ まど あ す てん

8. 探偵倶楽部 昭和32年2・3月合併號

( 157 ) 美貎の女写真師 戸を持ったまま、 私を待っていた。 その時には、そ だれ のあたりには誰 すがた の姿も見えな かった。私は 室内へ入った 電燈のスイツ チをひねろうと した彼の手を、 おさ 私は押えた。 だれ 「誰か外から見て るかも知れないか ら、暗い方がいし わ」 あんこく といって、私は暗黒 の中で彼の側に立った ふう す、ま ヴェニス風の簾の隙間 から、外部の微光がちら ちらさし込むだけだった。 「一体何の事だね ? 」 こえたず と、彼は小さいが強い声で訊ね しつない

9. 探偵倶楽部 昭和32年2・3月合併號

くらびるふる といって、、につこりしようとしたが駄目だった。唇は震え、涙は両 ギャパジンの作業ズボンとスポート・シャツを着たスマ 1 トな服装で い私を待っていた。 規を伝って流れ、一一の句がっげず、黙ったまま、例の写真を差し出し かそう きばっかを ) 「今夜は仮装ダンス会があるから、あんたも奇抜な仮装をして、みん 師一 かそう その写真を見て、彼の顔は青くなり、手は震えた。彼の自は大きく 真 ( なを驚かしてやれ。おれはアラビヤ人の仮装をするんだが、本物そっ もうれつ 写】 開いて、冷たく、唇に浮んだ悪罵は猛烈だった。 くりだよ」 しゃべ 女一 「これは一体どんな罠だ ? 」 彼が喋っている間、私は彼をじっと見詰めていた。 の たず と、彼はきつい声で訊ねた。 貎「あんたは、どうしてそんなに平気で、ダンス会に出られるの ? 」 美 ( 「おい、そんな凄い顔をするのはよせ、あんたは無邪気な房観者のよ「船が金曜日にバナマを出る前に、この写真の原板を二万ドルで買い 、かんしんぶんしゃ せいてき 、こ、、でないと、それをあんたの政敵の機関新聞社に売り うに思っていちゃ駄目だよ。とにかく、君の相手の色男と会う時間を取って貰 ( オも 、力もってるんです」 込む、とドノ・ ) 、 電話で打ち合わせをしておき給え」 す しやしん でんわ でんわ ランダルはその写真を投げ棄て、私を見下ろして立った。 私が電話をかけると、ランダルは直ぐ電話に出たが、私と話してい しんよう きゅう するど ほが おどろ 「どんなガールにも信用はおけないもんだね。セレスト・パワーズの るうちに、彼の朗らかな声が、急に、驚いたような鋭い声に変った。 しつ いいような女なら、どんな悪らつな事でもしかねないと思っていたから、 「え、僕は今一人きりで室にいるから、今直ぐ私の室へ来ても れんちゅう 僕はあんな連中は避けていたんだが、よもや、あんたまでが : : : 」 ことば まんぞく ドンは満足そうにうなずい、て、例の写真を私に渡した。 私は彼の言葉をさえぎって、 しん げんばんひじよう 、え、あたしはちっとも知らない事です。あたしを信じて下さい」 「この写真をまきあげられたっていいんだよ。原板は非常に安全なと「いも げんばん しんばい しんじっかた ころに隠してあるから、誰にも気づかれる心配はないんだ。その原板と私は真実を語ろうとしたが、彼は私のいう事には耳をかさず、頭 しつない げんぞう 髪をかきむしりながら、室内を歩き廻って、 でいるだけ何百枚でも現像出来るからね」 としょ きようかっ 私が屠所に赴く羊のように、ゆっくりと通廊を歩いている時、運命「僕は強喝されて金を払うようなのろまじゃないよ。ようし、僕も一 せんちょう っ戦おう。早速、この事を船長と事務長に知らせよう」 も私と一緒に歩いていた。 せいてき 「あなたの政敵から一万ドルの手附金を貰ってるが、あなたに先に申 私がランドルの室に入ると、彼は戸を締めて、鍵をかけた。 げんばん かおいろたいへん し込んで、原板を二万ドルで買い取って貰いたいんだと、ドンはいっ 「ホリー、 あんたは顔色が大変悪いが、どうかしたのかね ? 」 おんなまはうつかい てるのです」 「あたし、女魔法使よ」 さぎよ ) だめ へや しやしん いろおとこ かぎ うんめい はっ こ 0 0 わな かお こと め

10. 探偵倶楽部 昭和32年2・3月合併號

ていた。 影はなかった。私は急いで階段を馳け降りて、ドンの室へ行った。 しよるい きぶん 「ドン、どうしたの ? 気分でも悪いの ? 」 戸棚の中から彼の書類人鞄を取り出して、中味を調べたが、私の求 ふく といって、彼の腕にさわると、彼の大きな身体がくつついて、妙なめるものはそこにもなかった。彼がいつも着ている服のポケットを探 かっこう でんと ) げんばん 恰好で、私の足下にばたりと倒れた。私はたった一つあった弱い電燈したが、私が求める原板は矢張りなくて、それから現像した写真が一一 を点して、彼の身体の上にのしかかかって見た。彼は目と口を大きく枚入っている袋が見つかっただけだった。私はその写真を持って、急 いで、室から出た。 開け、何かいおうとするように、私をじっと見詰めていた。そして、 つか つうろ その時、彼が色々の事に使っていたびかびか光るナイフの柄が私の目 その時、通路の角を曲っていた一人のポーイが、派手なスペイン服 にとまった。彼の胸のところに、ナイフの柄だけ見えて、は見えを着ている私を見たので、私はびくっとした。 しんぞう 、ゆうけいしつ なかった。ドンは心臓をナイフで突き刺されて殺されていたのだっ 私は休憩室へ行った。その室の係りのポーイは甲板に出ていて、その おゝいそ しやしん 」 0 大きな室には誰もいなかった。私は大急ぎで、その二枚の写真をすた こえのど は↓ざら 「あっ ! 」と叫ぶ声も喉から出ず、私は凍えたように、そこに立ちすずたに破り、灰皿の中へ落して、火をつけた。私がその室を出ようと しゅんかん くんだ。下手人は誰だろうと思った瞬間、第一に私の頭に浮んだのはしている時鋭い叫び声がした。その声のした方へ走って行って見ると あんしつ ジョール・ランダルだった。「彼はドンと話しあっているうちかっと暗室で、べンが震えながら、ドンの死体の側に立っていた。私とべン ぜんご なり、前後を忘れて、側にあったドンのナイフを取り上げて、ドンをが、茫然として死体を見下ろして立っている所へ、エルムズ氏やポー きようらん 刺したのじゃあるまいか」と思い、私は狂乱して、跪き、彼のズボンイたちが、駈けつけて来た。 かみいれ いむしつ 師 ~ のポケットを探して、彼の紙入を取り出した。手を震わせながら中味ポーイたちはドンの死体を医務室へ運び、エルムズ氏とべンと私は うけとりる しやしんげんばん 真を調べた。金や受取類はあったが、例の写真の原板は見つからなかっその後に続いた。ペンと私が附添人室で待っているところへ、医師と しんさっ 写 看護婦が来て、手術室でドンを診察した。やがて、手術室の戸が開い 女 ~ せいふく の ~ 私は彼の一房の鍵を取って、戸をしめ、店へ走り帰った。彼がいって、医師や看護婦やエルムズ氏が出て来た。着ている制服の色と同じ せんらようしつ 貎 ~ も鍵をかけておいた抽斗を探して見た。沢山の外の讎楓はあったが、 ような青白い顔をしたエルムズ氏はべンと私を船長室へ連れて行った ひきだしもとどう ひじようやさ 私が求めるものはなかった。抽斗を元通りにしめて、鍵をかけておい コクリン船長は、非常に優しく、べンと私に問いかけた。 とぎ げきじよう ペンは激情で乱れた声で途切れ途切れに答えた。 わらいごえ あんしつ おんがく ダンス室からは、矢張り、音楽や笑声が聞こえていた。通路には人「僕がフィルムを取りに暗室へ帰って見ると、ドンさんがそこに倒れ 」 0 」 0 からだ わる ころ かえ ばうぜん かんごふ ~ し↓ , ル しやしん