べティを射殺してから、彼女はべティの化粧 「それは嫉妬もしたでしよう。しかし夫人はの寝台のマットの下から発見された。 そうさきよく ぎいさんぶんよ その事では、適当な財産を分与してくれゝば夫人が直ちに捜査局に同行を求められたのは台でそこにあったべティの櫛で髪をかきなで りこん 離婚を承諾してもいいのだがと私にも洩らし云うまでもない。 身づくろいをすませ悠々と部室を逃れでたの ようきゅ・つがく ていました。たゞ夫人の要求額はヒ、ージュ これから後、事件は一瀉千里に解決の道をた であった。 ふたん しんぞう 氏が到底、負担にたえられぬものだったらしどった。科学的検査の結果、べティの心臓を人を殺したあとで鏡をみて櫛をはしらせる つらぬ しんしつ いのです。 貫いた弾丸は、サラ夫人の寝室から発見されこれは女でなければ出来ない奇妙な大胆さで 、んらよう とにかく二人の緊張した関係は、最近になっ たコルト 3 2 から発射されたものであることある。 ちめいてきしようこ て殊に夫人の健康をそこねました』 が立証された。これに加えて、べティの櫛にだがこのために彼女は致命的な証拠をのこし とうはっ 一「ヒステリ 1 と云ったような : ・・ : 』 のこされた二筋の頭髪もサラ夫人の頭髪であてしまったのだ。 ほっさ きゅうさっしんつみ 一「いや、ヒステリーの発作と云うようなことることが立証された。 一九五四年十月、彼女は第二級殺人の罪に服 しようこ ちょうえき づつう はありませんが、夫人はいつも激しい頭痛に二つの証拠をつきつけてのフレッチャ 1 警部し、二十年の懲役を宣告された。 くず ていこう まされていました。そのために最近では殆の訊問に、サラ夫人の抵抗はあえなく崩れさ彼女もまた不幸な女であった はんこう ど常食といってもいいようにアスビリンを飲った。夫人はべティ殺しの犯行を認めたので 全国駐在どこでも活躍できる′ み続けるので : あった。 「アスビリン ! 』と警部は叫ぶなり思わず椅夫人は良人との仲を恢復するのに絶望すると 女子から立ち上った ともに、良人を奪ったべテイへの復讐を決意 阜私立探偵 呆気にとられた医師をしりめに警部は電話した。七月の暑い晩でも女は夏の手袋を使う 正義と博愛の男女学歴年令経験を そうさきよく 機にとびついて捜査局を呼び出した。 ことが出来る。犯行の夜、指紋を残さぬよう条件とわず通信による適正審査と教育 れんらく 三カ月を要す 間もなく捜査局と聯絡したフレッチャー警にレースの手袋をはめたサラは 438 号の貸 終了後選考し一一十才以上は駐在社員とし すうにん 部は数人の刑事を従えてヒ、 1 ジ、氏の留守間家の向側の歩道に立って、良人がべティ て配置され一 ) 十才未満の人は会員として かんし 研究できる と車をおりるのを監視していた。数時間の後 宅にのりこんだ。 ☆職業明記ハガキで申込めば願書送る 夫人を立会わせて厳重な家宅捜索が行われた良人が立ち去るのを待って携えてきた良人の 東京本郷局区内株式 探偵社 意外にもヒュ 1 ジュのコルト 32 はサラ夫人拳銃を手に彼女はべティの部室に忍び入った 春木町一一ノ五八会社 や けんこう したが かた ( そうき きい、ん でんわ けんじゅう をングハウス はつけん かいけっ ふくしゅう のこ しやさっ ふこう かがみ
ろうムじん のはカなく椅子にくずれ落ちた。 その時、室外で、老婦人の鋭い声がした。 エルムズ氏は猶も続けていった。 「あの可愛いいカメラ・ガールはわたしに宝石を返してくれた、優し ムねうんがちたい しようじき 「残念ながら、あなた方三人は、明日船が運河地帯に着く迄、あなた い正直な娘だ。わしはあの娘に会って話したので、やって来たのだ」 師 ~ ちょうだい 真 ~ 。方の室から出ないんでいて貰わなくちゃなりません」 「あゝ、ガスティング夫人だなたちょっと行っみて頂戴。」 かべよ むごん ところ 写】壁に寄り掛っていたパットは無言だった。 といって、私はヨセフアに夫人の所へ行って貰った。一一人の婦人は べんごし 女】 「承知しました。僕の弁護士が今夜ワシントンから飛行機で来る事に室外で、暫く、ひそひそ声で話していたが、その声も、いつの間にか の】 いんまう おくびようもの よろいど 貌 . なっています。僕は易々とこの陰課の虜となるような臆病者ではありゃんだ。私は小さい部屋の中を行きっ戻りつして、鎧戸を通して、運 かくご つうか すうせき 美】ません。大に争う覚悟です」 河を通過する順を待っている数隻の船をじっと見詰めた。私たちの乗 こうぜん と、ランダルは昻然といった。 っている船はゆっくり進んでいた。 私は卒倒した。 「正午迄には船は入港するだろうが、それからは私たちはどうなるだ 私は病室に運ばれ、そこで一夜を明かした。 ろう」と私は気を揉んでいた。 よくあさ たいよう まちあいしつ 翌朝、目を覚した時には、暑い太陽がきらきらと輝いており、一点スチュワーデスがやって来て、私に待合室へ来るようにと告げた。 まらあいしつ の雲もない青空で、水平線上にはパナマの繁茂した大棕梠がくつきり待合室へ行って見ると、ガスティング夫人とヨセフアとエルムズ氏が すがた 浮び出ていた。 列んで掛けていた。ガスティング夫人は、私の姿を見ると、長らく会 ちょうしょ ( きが ョセフアは朝食と私の着更えを持って来てくれて、いつもの通り、 わなかった孫にでも会ったように、懐しそうに私を迎えた。 しやペ ムじん たちあ 早口に喋り立てた。 「ガスティング夫人があんたに何かいいたい事があるが、僕の立会い うそ 「今度の事件はもう船中へ知れ渡って、蟐と誠のいりまじった、色々の上でなくちゃいけないといわれるので、僕もここに来ておるんで さいくん の噂が立っているのよ。あんたはドンの妻君だって、みんないってるす」 けんか けつか じむちょう よ。あんたのために、二人の男が喧嘩して、あんな結果になったのだ とエルムズ事務長はいった。 こくさいて、ほうせきどろばう とか、あんたは国際的宝石泥棒だとかいう噂も立ってるよ、エルヴァ夫人は取りとめのない事を長々と話してから、やっと、要点にふれ 」 0 からあんたに言伝があって、彼女は何もかもよく知っているから、人 うわさ ろうか の嚀は全く信じていないといってくれといったよ」 「手紙を人れて廊下へ降りて行ったが、道に迷って、戸棚なんかのあ こうい かんしゃ 私はヨセフアとエルヴァの厚意に感謝した。 る違った通廓へ出た。わしは年を取ってるから、随分ばんやりね」 びようしつ す あおぞら なお せんちゅう しつがい まご にゆうこう なっか ずいぶん とだな ようてん
( 171 ) 美貌の女写真師 ことば そう聞いて、エルムズ氏は、直ぐ、私たちの所を去った。 といって、夫人は言葉を切った。 かんしゃ エルムズ氏は指でテープルをこっこっ叩き、私は胸をわくわくさせ私は心からガスティング夫人に感謝し、私が許されている所まで、 て、夫人の次の言葉を待った。 夫人を見送った。 あんしつ し 「するとね、わしはあの暗室の戸が開いてるのを見たので、道をきこ 間もなく、医師に直ぐ六九号室へ来てくれという電話が医務室へか すいみんやく うと思ってその室の側まで行ったよ。すると、アラビア服を着たドー かった。船客の一人が睡眠薬を飲み過ぎて、昏睡してるとの事だった ンさんと彼女が喧嘩してるようだったよ」 机の上に船客名簿があったので、それを繰って見ると、六九号室は 「その女はどんな人でした ? 」 ファーナム・パ ワーズ夫人の室だった。 たず かんらよう と、私は訊ねた。 その晩、官庁の一室へ私たちは呼び人れられた。大団扇が天井で音 けんか こんちゅう きみよ・ ) 「ほんとうは喧嘩していたのじゃなくて、ドーンさんはにやにや笑っを立てて動いており、奇妙な昆虫が沢山燈火につき光っていた。エル てるのに、その女が一人でがみがみいって、聞くにたえない悪たれロムズ氏、バット、ランダル、着いた許りのランダルの弁護士「二人の かんり たいへんおこ 、こ。そこへ、セレスト 官吏、私の七人が、暑い狭い室に詰め込んでもオ をたたいていたよ。その女は大変怒ってるようだったよ」 かお 「どんな女でした」 ・パワーズも赤青い顔をして入って来た。 ころつも と、今度は、エルムズ氏がせき込んで訊ねた。 「全く時のはずみでした。わたしは彼を殺す積りはなかったのです。 ずんぶん 「ジュリエットの仮装をしていたが、わしは随分拙い仮装だ、と思っ彼は殺してやる程の価値のある人間じゃないのです」 よほど かそう たよ。その女にはクレオパトラの仮装の方が、余程よく似合っていた と、彼女は訊問された時興奮して答えた。 かんり 二人の官吏は顔を見合わせて、彼女の次の言葉を待った。 かす 彼女は息を深く吸い込み、微かに笑って、 「わたしは十六の時に、彼に欺されて、彼と結婚しました」 といった。 はつみ、 それは私には初耳だったが、私自身の経験から、〉下ンが彼女を虜に そうぞう した事は容易に想像された。 彼女は猶も続けた。 「ドンは結婚後、彼とわたしとは何の関係もないように世間へは見 . ゅび かそう むね あく けっこんご なお 2 リい 2 リ , ル けっこん とりこ
ホテルかあラ・コンチャ浜へ行く時、僕はこっそり抜け出て来たので押しかけた。その中にはガスティングス夫人もいて、彼女はカラー・。 かのしょ ろく す。実は、僕はパワーズのような派手でスマートなガールとは碌にロフィルムを求めた。彼女の求めているものが中々見つからないので、 きんぞくせい 私は跪いて、下の方の棚を探し、フィルムを人れておく金属製の箱を がきけないのです」 二つ見つけ、その箱の一つを、ドンのナイフの先で開けようとしてい といって、彼はきまり悪るそうに、につこりした。 たず 「でも、あなたが知事におなりになった時には、どんな人でも、わける所へ、ドンが帰って来た。私は彼に訊ねようとして 0 につこり笑っ ことば へだてはできないのでしよう ? 」 て彼を見上げたが、彼のしかめ面を見て、言葉が喉につかえた。 「あんたは一体何をしてるんだ ? 」 彼は急に真面目顔になった。 うわさ 彼は怒気を含めて訊ねた。 「あなたの耳にも、そんな噂がもう入ったのですか」 ごちゅうもんとくしゅ ひみつ 「まだ秘密なんですか ? 」 「ガスティング夫人の御注文の特殊のカラー・フィルムを探してるん ひみつ のよ」 「秘密という訳じゃありませんが、まだ、はっきりときまっていない こた と、私は立ち上りながら答えた、彼は鋭い目付で、私をにらみつけ んです。僕は余り人気のある方じゃないんですから、駄目でしよう」 もら た。その時には、もう、ガスティング夫人の姿はどこにも見えなかっ 「そんな事はありませんわ。みんなはあなたに知事になって貰いたい た。 と思ってるに違いませんわ」 「いいかげんな作り事をいうもんじゃないよ。ガスティング夫人はこ 「出来れば、指名されたいんですが。一戦争ですよ」 せんそう こにはいないじゃないか」 「あなたはどんな烈しい戦争でも辞さないでしよう ? 」 師 . 「正々堂々の戦ならね」 「あら、夫人は今ここにいらしったのですが、どこへいらしったのだ 真 . といって、彼は笑って、その話題をさけ、 ろう」 写… 「クレインに頼まれて、何か探してるんじゃないかい ? 」 女、「どうも有り難う」 わか の . と、礼をいって、私と別れた。 「クイレン ? それ何の事 ? 」 貎私は店の戸を開けながら、「彼は何という立派な人だろう。彼の家「おい、そんな空とばけた顔をして、一芝居打とうとしても駄目だよ こ一うムく あんたが彼と慣々しく話していたのは、僕はちゃんと知ってるよ」 族は何と幸福だろう」 わる と思った。 といって、気味の悪い笑をして、 とうしん 上陸した船客は続々と海航して、大勢の人が店へフィルムを買いに 「ゼ 1 ン・ケー ) ー が設身した時に、彼がいらざる詮議立をしたのを わる せんそう だめ きみ つく きが するど のど せんぎだ
なぞ ことがら からオスポーンさんの部屋に手紙をさしこん いった謎の女の影が改めてクローズ・アップ、の家庭事情は黷部には初耳の事柄であった ひと なや であの女を悩ませていたのだそうです。 されてきたのであった。 ロバート・ヒュージュと彼の妻サラとの間は けっこんもうしこ ふんそう 手紙と云うのは結婚の申込みなんですよ。と さて、様々に考えあぐんだ末に、ともかくここ一年程、粉争が絶えなかった。ロヾ 女 、ようぎりこん にかくオスポーンさんは、これでは何処かに警部は一応予定どおりに、ヒ、 1 ジ、の家庭はサラと協議離婚をしようとしていたがサラ しじよう 、よぜっ な〕引越でもしないと、うるさくて困ると怒って事情を詳しく知るため、殊にサラ夫人が良人は良人の申出を拒絶した。そこでロバ ゆいごんじよう け . いました』 とべティの関係を知っていたかどうか知るた最近になって彼の遣言状を作りなおして、妻 カ・ を】 この情報は警部のさきの悩みを一つ取り除めに、ヒ = ージ、家のかかりつけの医師の宅には一文の遺産も贈らぬようにしたとのこと そうこんわく 鍵 ~ いてくれたが同時に彼を一層困惑させる結果を訪れてみることに決心した。 であった。警部は更に尋ねた にゆうよく びよう、 ともなった。と云うは、べティは入浴する古いかかりつけの医師と云うものは病気の「こういう事情は夫人からお聞きになったの ドアかぎ そうだん ですか」 ときでさえ、扉に鍵をかけ忘れるような性質相談のほかに、よく家庭内のゴタゴタについ ゅう わけ の女であることが分っ ただがそうだとするても相談をうけるものである。さて警部は憂『さよう、特に聞いたという訳でもないので と、彼女はヒ、 1 ジ、を部屋から送りだして欝であった。何故なら昨日までヒ、 1 ジ、がすが、私はいわばヒ、 1 ジ、氏とサラ夫人の ぜんら から鍵をかけずに全裸のまゝ寝てしまったと真犯人であると信じこんでいた彼の確信が崩両方から種々の愚痴をきかされるものですか くしよう 考えることも出来る。そうなるとヒ、 1 ジ = れてしまったからである。 らね』と医師は苦笑して答えた。 ようぎ しようめつ がべティと別れて帰宅したあとに、誰れかが しかしヒ、 1 ジュの容疑が全く消滅したわ『夫人はヒ、 1 ジュ氏と死んだべティ・オス もらろん かんけい 部室に忍びこむことが出来るのだ。サラ夫人けではない、それどころか目下のところまだポ 1 ンの関係を知っていましたか。勿論、べ みずか しんぶん でも、或はクリストファ 1 でも。ヒ、ージ、まだ一番の容疑者だ、警部は思い返して自らティが殺されてからは新聞も書きたてました しんはんにん こうひょう を真犯人だと決めてしまうのはまだまだ早い勇気を鼓舞したのであった。 が、その以前にです。新聞などに公表される しゆっぱってん 事件は出発点に戻ったのだ 医師はフレッチャー警部を快く迎えた。 前に』 ひつよう けいぶ クリストファーも調らべる必要がある、サラ彼は幸いにして警部に協力的であった。 『知っていました。その事で私によく愚痴を じじよう 夫人も事情につては充分に疑える。警部の頭『これはもう廷に持ち出されている事柄でこばしていました』 じじよう には俄かに今までさほど気にとめなかった、 すから特に秘密にされた事情でもないのです「ふうむ、すると特に嫉妬すると云うような まえおき べティの櫛に青白く光るニ本の頭髪を残してが : ・ : ここう前置して彼の語ったヒュージことは : : : 」 かのじよ にわ けいぶ し で、 けつか うつ しんはんにん かんけい あらた けいぶ し かてい けいぶ さん け、ぶ しっと
しょぐじ に、私とヨセフアは船に強かったので、二人だけで、食事しながら話 みばうじん ドンのうわさ した。私は彼女が大変好きになった。彼女は四十代で末亡人となり、 その後は、ずっと、船中で土物店を開いていた。彼女は六ヶ国語を食後、私はヨセフアと別れ、遊歩場で少し散歩した、まっ暗な晩だ ちめいじん った。室の万ヘ帰ろうとした時、私は何かにけつまずいた。それを取 話し、ドンと同じように、知名人を知っていた。 とうか かわかばん きやくしつ り上げて見ると、それは革鞄だった。私は通廊の燈火の下へ行って、 「いくらすすめられても、を飲んじゃいけませんよ。客室や甲板か ゅびわ らは遠ざかっておいで、婦人同伴の男には決して笑いかけちゃいけま物好きにそれを開いて見て、吃驚した。中味は指輪やプロ 1 チやイヤ せんきやく リングなどの沢山の宝石だった。私は何だか罪を犯したような気持に せんよ。船客とは、誰とでも一様につき合いなさいよ。あんたは若く ものた みりよく なって、その鞄の外部をよく見ると、ニューヨーク、ジョン・・ガ て魅力があるから、男は、あんたと通り一篇の交際だけでは物足らな きんもじ らかよ いでしようが、あんたが隙さえ見せなければ、男も近寄りにくいからスティング夫人という金文字がついていた。 私はあわてて、その鞄を事務室へ届けに行った。事務長エルムズ氏 よく気をつけるんですよ」 ちゅうこく とパット・クイレンともう一人の事務員がいた と、彼女は色々と私に忠告してくれた。 「どうも有り難う、早速ガスティング夫人に渡しましよう。いずれ後 「あなたはまるで私の母のようね」 程、また連絡します」 といって、私は笑いながら、 みおく といって、事務長は私の室の戸口まで見送った。パットも直ぐその 「今朝、あんたの店に来ていた、コニーさんという綺麗な年増婦人は えがお つうろう どなた ? 」 室を出て、私と並んで通廊を歩いた。彼がいやな笑顔をして、私を見 きもち つまり、マクスウェ下ろしていたので、私はいやな気持がした。 師〕「ああ、あの人はね、コンスタンス・バーバー、 2 」・つせ、さ ー夫人という人よ」 「あんたはあたしが宝石をお届けしたのが変だと思ってるの ? 」 写・ 「あの人と一緒にいた赤髪のガールはあの人の娘 ? 」 と、私はかみつくようにいった。 女 からわら ョセフアは空笑いした。 「いや、はそんな事はちっとも思っちゃいませんよ。ほんとに結構 の・ むすめ 貎 ~ 「いや、あの女はバー ー夫人の娘じゃないのよ。彼女はね、セレスな事だと思ってるんです」 けいべっ 美】 ト・ファーナム・ウイルシー・ドトラゴ・パワーズという、とても長「あんたはカメラ・ガールを軽蔑してるのでしよう ? 」 かねもらけっこん い名の女で、六、七年の間に、三人の金持と結婚した女よ」 「いや、そんな事はありませんよ。仕事に忠実な人は、私は誰でも非 常に尊敬しています」 しょ たいへんす ふじんどうはん きれい としまふじん そんけい れんらく きっそく しごと さんば じむらよう けっこう
だいこんらん 「あんたのお部屋はきまったでしようね ? 」 キッスする者で、船中は大混乱に陥った。 どうしつ 「ええ、十八号室で、ロべッズ夫人と同室することになりましたわ」 私があてどもなく歩ているうちに、戸の開け放しになっている室の すがた 「そうですか、それやよかったですね。あの人と一緒なら、一番安全ところに、一人の女性と向き合って立っているドンの姿が目に入った ねが しごと みどりいろ ですから、願ってもない事です。あんたはド 1 ンと一緒に仕事をする彼女は緑色のびろうどの小さい縁なし帽子をかぶり、ミンクのコート しゆるい 種類のガ 1 ルのようには見受けられないが、僕はちょっと気がかりなを着ていた。彼女の髪は燃えているような赤だった。彼女は彼を見上 ねっしん 、んちょう んです」 げて、何か熱心に話しかけ、二人は緊張して話しているようだった。 と、バットは謎のような事をいった。 彼は室に入って戸を締め、婦人は急いで、そこを立ち去った。 だれ かんけ 「だって、あの人はとても親切でよいお方じゃありませんの ? 」 「あの女は誰で、ドンとどんな関係があるのだろう」と思いながら、 ムとう 「彼を知らない人にはそう見えるでしようが、僕はもう何度も彼と同私は階段を駈け昇って、甲板に出た。陸の人々は埠頭に列んでいた。 しゆっぽん じ船で航海してるのですから、彼の事はよく知っているんです」 ベルや笛が鳴って、 . 船は将に出帆せんとしていた。私は急いで埠頭に くしょ・フ と、引き締った顔に苦笑を浮べていって、 列んでいる人々の写真を撮った、吹く風は非常に冷かった。船客は殆ん せんしつ 「よく気をつけた方がいいですよ」 ど皆船室へ閉じ籠った。甲板上に立っているのは私だけになった。雪 ある といってから、彼はゆっくり歩いて行った。 がちらちら降り出した。甲板上は急に静になって過ぎる二時間の騒ぎ ひや うそ 私が冷りとしたのは、その時吹いていた風のせいではなかった。 はまるで嘘のようだった。船がゆっくり河ち下る時、私は、黒い雲を 背景とした、壮厳なニュ 1 ヨークの空をじっと見つめて、名残りを惜 すう 赤髪の女 師 んだ。私がそこを立ち去ろうとして、向を変えた時、数フィート離れ みと なが 真 ( 私が手摺によりかかって、ばんやり眺めていると、乗客や見送人がた所に立っている男の影を認めた。彼は美男子ではなかったが、鼻は しゆっぱん 写 次々と道板を昇って来た。出帆までには二時間あった。その二時間は高く、口元は引き締っていて、どことなく威厳が備わっていた。 の ( 文字通り、黄金の流の混雑だった。美男美女、新婚の若夫婦、はでな彼が私の方を向いた時、私はにつこりした「笑いかけることは、ロ ことば こうか 胖装や、しゃれた会話のやりとりなど、私は映画でもみているようなをすつばくしてお世辞をいうより効果がある」といったドンの言葉を 美 ~ 忘れてはいなかった。 気がした。 しやしんや 「あなたは船の写真屋さんですか」 やがて、ゴングが隝り渡り「見送人下船 ! 」という声がスピーカー しやしんてん 「はい、そうです。写真店の者です」 を流れ出て、船中の隅々まで行き渡った。叫ぶ者、笑う者、泣く者、 こうかい しま なぞ かお しんせつ えしカ しんこん かいだん ある かんばんじよう びじよう いげん
あ加がみ しゃべ の「じゃ、あの空を背景とした私の写真を撮ってくれませんか」 着た、美しい赤髪の女だった。三人は連れ立って、猶も何か喋りなが しようら 「はい、承知しました」 ら、列んで歩いていた。 あくじようけん と答えて、悪条件の光線の中で、彼の写真を数枚取った。 ドンはべンに指図を終り、注文人名を入念に片附けていたが、そ 師 しやしん の声のする方を見やった。すると赤髪の女は立ち停った。 真一「その写真は、いつお店へ取りに行ったらよろしうございますか」 めず 写一「いや、店へお出で下さらなくても、出来次第、あなたのお部屋へお「あら、まあ、ドーンさん、お珍らしい事 ! 」 てぶくろ 女 届けします」 といって、彼女は手袋をはめた手をさし出した。 の 貎 ~ 「じゃ、そうお願いします。僕は三十二号室のジョール・ランダルで「あ、パワーズ夫人ですか。またお目にかかって、僕は大変嬉しいで 美 ( す」 私は手帳を開いて、それを書き留めお礼をいって、また、につこり「コニー、あんたはドーンさんを覚えているでしよう。十月のヴァン しら しやしん した。通廊に備えつけてある旅客名簿を調べて見ると、その室は特別ドラインでのパーティーの時、私たちの写真を取ってくれた人よ」 かいんぎいん 室で、彼は西部のヘロキー・フォールス区選出の下院議員で、視察団 これをきっかけに、一同は楽しそうに喋り立てた。 さそ の一人ということが分った。 ョセフアがその時私を誘ってくれたので、私はドンの側を通り抜け 店へ帰ると、ドンはべンに何か指図していた。二時間の間に、人・ ) 不カて、室外へ出た。 見た事や、した事で、ドンに報告することが沢山あったので、私は側「このパワ 1 ズ夫人は、先、ドンと話していた赤髪の婦人に違いな しよくどう に立って、べンがそこを去るのを待っていた。 い」と思いながら、私はヨセフアと連れ立って食堂へ行った。 わらいごえ その時、隣りの店で、女の笑声や、甲高い話声がしていた。ョセフ その後は、その日中、私はドンと二人だけでおる事は全くなかった しゃべ せんこく アがお客相手に喋っているのだった。 ので、色々くだらん想像までしてみた。パワーズ夫人が、つい先刻ド こうすい びじよう 「ハヴァナでは香水、パナマでは帽子と香水、ベルーではリンネルやンと非常に慣れ慣れしく話していながら、今は長らく会わなかった人 ぜびみ がてん 銀細工物が、この店へ来ますから、その時には是非見に来て下さい」 に対するような挨拶をしているのが、私にはどうも合点が行かなかっ えいご しんせつ と、ヨセフアはスペイン人らしく、ぎこちない英語で喋っていた。 た。そして、彼が前の晩には、私に対して非常に親切であったのに、 かぎ ちゅうじき いまれいたん やがて、彼女が戸に鍵をかける音がした、彼女は中食に行くらしかっ今冷淡になっているのを思い合わさざるを得なかった。 あんしつ た。その時、ヨセフアと話していた婦人たちも目に入った。スマート店は七時にしまったが、べンはまだ暗室で仕事をしていた。 ねんちょう うみあ な年長の婦人と、若い婦人だった。その若い方は、ミンクのコートを その晩は海が荒れたので、食堂に出て来る人は非常に少かった。幸 てちょう ねが と さきまど あかがみ たいへんうれ
と、慢性の腸疾患です」 と説明した。そして、これにふさわしい手 ようたい アメリカ大使毒殺の陰謀 当をしたが、容態は悪くなるばかり。遂に女 はアメリカ人であるところから、ナポリの米 雑誌「タイム、社長夫人をめぐる しんさっ ぐんびよういん 軍病院で徹底的な診察をうけ、厳重な血液検 奇怪なストーリィー てんけいてー 査の結果、これは典型的な砒素中毒と判明し 道本清一 その女は、アメリカ新聞王の妻であり、雑 誌『タイム』社長の夫人であり、イタリヤ駐 これが一年っゞいた。 在アメリカ大使である。名前はクラール・ き、め 一年目に毒の利目が現われ、まず貧血症状・ル 1 ス。 を起して怖ろしく疲れやすくなり、瓜がちょ ローマのタベルナ荘 っと硬いものに当ってもすぐに傷ついたり剥 ルネッサンス風のこの大邸宅は三年前にア びほう メリカ政府が四億円で買いとったもので、どがれたりし、歯が冷たいものや熱いものに異この美貌の女大使は、四年前ローマに赴任 しよう がんけん したときは、刺としていた。一元々頑健とい 謀の部屋も豪華な格子天井になっていて、すば常に敏感になった。 こくび かゞみいた 女は小首をかしげた。そして、昨年の秋につていゝほど身体は丈夫な方だった。 の . らしい鏡板が篏めこんである。 かくじっ 毒この邸の寝室にひとりの女がべットのなか可愛がっていた『ミッキー』という大が原因それが、除々に確実に生命をちじめてゆく しつびよう だんてい 大で朝のコーヒイをのんでいる。のむたびに天不明の疾病にかゝって死んだことを思出した怖ろしい砒素中毒にかゝっているという断定 しようじよう を下された。だが一体その砒素はどうしてか 井からまいおちる毒の霧がノドにながれこむあの大の症状と自分の症状が似ている。 しんにゆう こわ ) みつじようほう メ ワシントン政府へおくる機密情報について考怖くなった女は、かゝりつけのドイツ生れの女の体内に侵入したのか ? マルチーヌ・ ア しゆえん どくやく ちょうかん えているときも、朝刊に目を通している時もの医師ブドチスラウスキ 1 博士に診察してもキャロル主演の「ポルジャ家の毒薬』をみた 人は少くないと思うが、あの時用いられた ? 毒の霧をすいこみ、夜眠っている間でも毒霧らったところ、 かんぞラ 『これはマダム、肝臓障害と、ひどい貧血病がこの砒素だ。砒素は、千年の昔からイタリ てを吸いこんでいる。 だいていた ( し 」 0 せつめい らようしつかん はつらっ
した大きな鉢を抱えて、それぞれの皿の中に、ひしやくでスープを注といって、スープを配っている最中に、毒物を投入することも不可 しゆっせき いで廻った 能だ。給仕にしろ当夜出席した人々にしろ、酔ったとはいえ皆んなが こうどう 人々が、蟹スープを、三匙か四匙ロへ運んだ時、同じくおいしそう見ていたのだから、皆んなの見ている前で不可解な行動を執れば、誰 とっぜんおうど に、スープを礙っていたフリツツが突然嘔吐した。そして、七転八倒かが気づいている筈だ。 くもん ほうぜん こまぬ かんじん の苦悶の後、大人達が呆然として手を拱いている間に、フリツツはグ だが、それよりも何よりも、一番問題なのは、肝腎の、フリツツの こっぜん ッタリと動かなくなった。 使った天馬の絵のある皿が、忽然と消えて失くなっていることだ。 すで 直ぐに医者が来たが、既にフリツツは絶命していオ そうして、フリツツのスープ皿は他の皿と、同じように、純白の盟 けいかんたち 所轄の警察から、検屍官や警官達が駆せつけた。 に変っているのだ。 はんめい とりか 警察医の診断の結果、死因は青酸加里の故と判明した。 誰がその天馬の皿を取換えたのか ? けんしゆっ すす フリツツのっていたス」プから、青酸加里が検出された。他の人が、誰にも、他人に気づかれずにそんなことをする時間はなかった。 ごう 々のスープには、そのようなものは、毫も混入していなかった。 「パーティに皿を出すのに、一番最後にそれらの皿を調べたのはいっ すると、フリツツのだけに混っていたことになる。ーーー誰が青酸加か ? そして、誰が調べたのか ? 」 じんもん 里を投人したか ? 警察のこの訊問に対して、プラウンが、 。ーー何故といって、 警察の捜査は、ここでハタと壁にぶつかった 「私が調べました。このホテルへ来る一寸前に、家で調べたのです。 げんじゅう 当夜出席したものは、すべて厳重に取調べたが、毒物はおろか、怪しそしてそれを、妻に洗わせました。その時には、天馬の皿は混ってい 謎 ~ いと思われる物は何一つ持っていなかった。 ませんでした」 ~ 勿論、スープを注いで廻った給仕も取調べた。が、怪しい点は一つ 「すると、混ったとすれば、その後だな。 あなたに限らず、家の の ~ もない。 方なら、誰でも、好きな時に、その皿に触れることが出来ますか ? 」 とうにゆう ひつよう 馬 . 第一、どうやって青酸加里を投入したか、というのが問題だ。 「ええ、勿論出来ます。しかし、そんなことをする必要もないでしょ かんたん はじめから、ス 1 プに混入していれば一番簡単だが、それでは、他のうが : : : 9 天 - こうむ いぶか 人々も被害を蒙っていなければならない筈だから、この説は成立たな と、今はスッカリ酔の醒めたプラウンは、訝し気に反問した。 かんけい どんな動機で、フリツツを毒殺したか ? 。それに、何の関係もない調理場の者や給仕が、そんな馬鹿げたこ どくぶつ とをする筈がない。 いつ、どのようにして毒物は投入されたか ? そうき も . ル」い ~ に ~ ~ ~ りに どうき