「テクノロジー」は現代社会の基盤です。スマ 1 トフォンが登場してから川年あまりが 経ち、僕たちの生活の在り方は大きく変わりました。スマートフォン以降も日々、新しい テクノロジーが登場しています。 <—、仮想通貨、プロックチェーン : : : 理解するのが大 変な言葉が次々と現れ、ともすれば「まだ自分たちには関係ない」と多くの人たちが思っ ているかもしれません。 しかし、テクノロジ 1 はもはや「一部の人たちのもの、ではありません。現代社会を生 きる人々が、共通して理解しておくべきものになりつつあります。なぜなら、テクノロジ ーは、現代に生きる私たち一人ひとりに影響を与え、これまでとは違う生き方を迫ってく るからです。 はじめに
そもそも人間とは何か ? 人間性を尊重し、「人間ーの解放を目指す。いわゆる「ヒュ 1 マニズム (Humanism) 」の 主張は、昔もいまも存在します。しかし、最近になり僕たちは「そもそも人間とは何か ? 」 という疑問を突きつけられています。新たなテクノロジ 1 の登場により、いままでは でしかなかったことがだんだんと現実味を帯びてきて、いままでになかった概念が生まれ ました。テクノロジ 1 による「人間拡張 (Human Augmentation)_ であり、また「人間と 機械の融合」です。 人工知能や人間拡張のテクノロジーが発展する一」とで、人間の果たす役割や意味が 変わる可能性がある。進化しすぎたテクノロジーは、人間の存在そのものを圧迫する かもしれないという危険性を同時に持つものだ。いま最も必要とされているのは、正 しい「倫理」を設定することである。また人間の在り方を知るため、環境としての「都 市」について考える。
僕は「パラリンピックがいつの日か、オリンピックを超える競技会になる」ことをいっ も想像をしています。人間が拡張の方向に大いに進んでいくだろうと予想していますし、 それを可能にするテクノロジーが次々と登場しているからです。 「なぜ ? 」に答えるむずかしさ ハラリンピックが「障害者」の競技から、「拡張者」の競技に変わったとき、必ず起こ るだろうことは、「拡張することの倫理的な是非ーです。新しい倫理や美学を探っていくこ とが必要であり、議論が求められます。バイオテクノロジ 1 、人工知能、ゲノム編集 : ・ 人間が拡張する延長線には、新しいテクノロジーがすべてつながってくるでしよう。 オリンピックにおいてドーピング ( 運動能力を高めるために薬物を使う ) はなぜいけないの でしようか。病気を治療するためのクスリと何が違うのでしようか。新しいテクノロジ 1 が次々と登場してくるなかで、何をして良くて、何をしてはいけないのか、ということを 決めていくことは非常にむずかしいはずです。 実験ではすでに、細菌や古細菌がウイルス感染を防御するために発達させた免疫防御シ
アルゴリズムが社会を良くするわけではない テクノロジーへの安易な期待は、先ほどの「アメと鞭」に似た、社会の過剰なシンプル 化につながります。つまり、「きっとテクノロジ 1 がすべてを解決するはずだ」という発 想になりやすく、シリコンバレ 1 の人たちは、自分の目の前にいまある政治や教育など社 会の課題に対して、真剣に向き合う機会が少ないように思えます。 社会の問題に対して、あまり深く考えず「アルゴリズムさえ良くなれば、コンピュ 1 タ が全部やってくれるだろう」というのは、とても危険な考えではないかと感じます。なぜ なら、こうしたシンギュラリティ信仰に基づく「テクノロジー・イズ・エプリシングーの 考え方が、冒頭であげたような資本主義的な「スケ 1 ル・イズ・エプリシング」の考え方 につながり、本来は社会を良くするためにある「情報技術の発展」や「規模の拡大 , が自 己目的化して、さまざまな場所で軋轢や弊害を生み出しているように思えるからです。 <—が人間を代替する これまでの時代では、企業という単位で富や資源を分配するために、「経済学ーは機能
教養としの テクノロジー テクノロジーの未来 ・「 < ー」は「労働」をどう変えるのか ? ・「仮想通貨」は「国家」をどう変えるのか ? ・「フロックチェーン」は 「資本主義」をどう変えるのか ? 伊藤穰一教養としてのテクノロジー アンドレー・ウール äー l—メディアラボ所長 伊藤穰 - アントレー・ウール And 「 eUhl < ー、仮想通貨、プロックチェーン 9784140885451 伊藤穰一 いとう・じよういち マサチューセッツ工科大学 ( MIT ) メディアラボ所長。 株式会社デジタルガレージ共同創業者で取締役。 インターネット事業への投資に携わり、これまでに Twitter などネットべンチャー企業の事業展開、事業 育成を支援。米国 Foreign P 。 licy 誌にて、「世界の思 想家 100 人」に選出。著書に「「ひらめき」を生む技術』 ( 角川 EPUB 選書 ) 、共著に「 9 プリンシプルズ』 ( 早川 書房 ) など。 アンドレー・ウーノレ AndreUhl マサチューセッツ工科大学 ( MIT ) メディアラボ研究 員。 MIT ダライラマ・センター特別研究員ノ ド大学芸術科学大学院メディア研究科博士課程在 籍。ベルリン自由大学日本学学部卒業。東京藝術大 学大学院映像研究科修士号取得。日本の文部科学 省によるフェローシップ・プログラム、ドイツ国立学術 財団の卒業生。専門は、人工知能とポストヒューマン 時代の倫理。 日本は、バブル景気が終わった以降、 失われた年とも発年とも言われてきました。 そして、「平成」が終わろうとしています その節目において、年の東京オリンヒックは、 1 つの区切りをつける良いきっかけになると考えています いまここで、私たちを取り巻く最新の状況を整理し、 付け焼き刃ではない「そもそも論」と呼ぶべき、 本質的な議論を始めるタイミングだと僕は思っていますー - ー「はじめに」より 1920250007800 」 0 h : tO 旧 BN978-4-1 4-088545-1 C0230 Y780E 定価 : [ 体体プ 80 円 ] + 税 日本人はどう 変わるべきなのか ? ロ 5 「テクノロジーが変えつつある世界」を、 きちんとした視点を持って 捉えることができなければ、 出いまの経済や社会を 正確に語ることができないーー 写真】 OAndy Ryan 「はしめに」より 教養としてのテクノロジー AIS 仮想通貨、プロックチェーン
第 7 章は、「日本ーについてです。日本は、 2020 年に東京オリンピックをひかえて います。前回 1964 年のオリンピックと比べて、今回はその意義がとても見えにくいよ うに思えます。世界に「日本ーという国をアピールできる、この絶好の機会に、僕たちは 何ができるのかを考えたいと思います。 インターネットが一般に普及して、すでに幻年ほどが経ちました。「情報革命」と呼ば れた時代はすでに終わり、テクノロジーは僕たちの経済や社会を根底から変えようとして います。テクノロジ 1 が経済や社会へ与える影響を知るものとして、またその変化と真剣 に向き合うきっかけになる一冊として、本書が皆さんにとって価値のあるものになればと 願っています。 伊藤穰一 はじめに
「トランスヒューマニズム」の思想 テクノロジーがあらゆる人間の拡張を可能にするなかで、注目を集めるようになったの が「トランスヒュ 1 マニズム (Transhumanism) 」です。これは科学技術を使って人間の身 体や認知能力を進化させ、人間を前例のない状態まで向上させようという思想です。 トランスヒューマニズムを信じる人たち ( トランスヒューマニスト ) は、「人間は人間以 上の存在になるために科学技術を使用すべきだ」と考えます。こうした考え方は、第 1 章 で紹介した「シンギュラリティーの思想に近いと僕は感じます。 トランスヒューマニズムの考え方を先に進めていくと、必ず「人間と人間でないものを 分ける一線は何か ? ーという「 卩い」が生まれることになるでしよ、つ。人間とトランスヒ きました。 「そもそも人間とは何か ? ー「テクノロジ 1 により人間は変わるのではないか ? 」という 投げかけは、聴衆の方々の興味を惹きつけていたように感じましたし、僕自身も手応えを 感じた 2 日間でした。 102
元して、例えばのように、経済の指標として国家の運営に役立てようという発想が あるように思います。産業革命以降の経済発展には、とても役立ってきたと思いますが、 情報技術などあらゆるテクノロジーが社会を抜本的に変えつつある現在、どこまでそうし た指標が重要かについては議論が必要でしよう。 さもなければお金に換算できないボランティアや遊び、家事や子育てといった活動が軽 の 視されやすい社会になってしまいます。ノ 1 ベル経済学賞も受賞しているジョゼフ・・ 、ん スティグリツツも提唱しているように、いまほど経済効率や生産性だけではないの変 を 測り方が必要とされているタイミングはありません。 働 労 ュニバーサル・べーシック・インカムの考え方 テクノロジ 1 が社会をドラスティックに変えつつある現状をふまえて、大きな動きとし 章 て話題になっているのが「ユニバ 1 サル・べーシック・インカム (> —) ーという仕組み 第 です。 はすべての国民に政府が生活費として一定額を支給する制度です。現行の生活保
を使って、ゲノム編集や遺伝子治療をすることが進 ステム「クリスパ んでいます。脳をいかに拡張させるかの研究や、さらには脳とコンピュータを直接につな げる研究も始まっています。 それらの分野に投じられている研究開発費が飛躍的に増え、またそのジャンルに興味を 持っ優秀な技術者や研究者が増えているところを見るに、いっかはすべて実用化が現実に なるでしよう。もしかしたら、そんなに遠くない未来かもしれません。 いずれにせよ、新しい「倫理ーのあり方を「パラリンピックーは社会に先行する形で、 る わ 世の中に提示することができる予感がします。 変 、つ ど テクノロジーにより「問い」が遍在する 新たなテクノロジ 1 の登場により、これからはそうした「なぜ ? 、が世の中にあふれる从 章 ことになるでしよ、つ。 第 例えば、遺伝子工学を用いて人間のクロ 1 ンを 10 0 人っくっていいのでしようか ? クローンとして生まれた人の権利はどうなるのでしようか ? 人間のクローンをつくるこ
教養としてのテクノロジー AI 、仮想通貨、プロックチェーン 伊藤穰一 アンドレー・ウーノレ Andre Uh1 NHK 出版新書