それが英語でいうと「リバタリアニズム (Libertarianism)- です。ちなみに、リバタリ アニズムの始まりの 1 つには—出身の、ディビッド・ノーランが 19 71 年につくっ こリバタリアン党があります。 国家からのマネー逃避 ところが、囲年代の仮想通貨と昨今の仮想通貨プームでは、その「在り方」に大きな違 いが生じました。年代が「新しいサイバーな国には、新しい通貨が必要だ」という「理 念」ありきの仮想通貨ならば、今回の仮想通貨プームは「利益ーありきの投機的な動きと なっているのです。 もともとビットコインが世界的に注目されたのは、 2013 年のキプロス金融危機で す。キプロスをタックスへイプン ( 租税回避地 ) として利用したロシアマネーが、大量に ビットコインへ換金されました。さらに同年、人民元に不安を感じた中国人富裕層がビッ トコインへ一斉に換金を始め、中国政府が金融機関によるビットコインの取り扱いの一切 を禁止することを発表する事態となりました。
ちが出てくることで、想定していたスピ 1 ドが減速させられることがありました。新たな テクノロジーが社会に受容されるまでは、そ、ついうことが起こるものなのです。 「ビットコイン」はリバタリアンの理想 の る それから、少し年月を経て 2008 年に発表されたサトシ・ナカモトのビットコイン論 え 文から、仮想通貨への関心がじりじりと高まってきました。ここにきて、ようやく皆が何変 となくではありますが、仮想通貨の可能性に気づいたわけです。ここ数年でようやく初めを 家 て「仮想通貨にリアリティが出てきています。 国 細かいところは別として、僕らが年代の当時に仮想通貨で考えていたようなことは、 貨 現在のビットコインのありようについての問題意識とかなり近しいものがあると思ってい通 想 ます。サトシ・ナカモトの論文でも、「必要なのは、信用ではなく暗号化された証明に基販 づく電子取引システムーであり「信用に依存しない電子取引システムの提案、とあります。章 第 ここに書かれていることは、要するに「国家なんか信用するな」と言い換えることもでき ます。
こうした事実からわかるのは、ビットコインが国家から資産を逃避させる手段として買 われたところからスタ 1 トしているということです。その意味において、仮想通貨が「国 家」と切っても切り離せない関係であることがよくわかります。 もはや僕らが年代の当時に考えていたような「仮想空間を国家から独立させるために 用いられる仮想通貨ーという意味合いは、昨今の仮想通貨プームにおいては、かなり薄まる え 変 っているとも言えるのかもしれません。 、つ ど を 家 新たな資金調達手法「ー ( 0 」とは何か ? 国 そもそもリバタリアニズムの発想から始まっているはすのビットコインに代表される仮 想通貨ですが、ここにきて第 1 章で紹介したようなシリコンバレーに代表される資本主義通 想 仮 的な「スケール・イズ・エプリシング」に飲み込まれつつあります。 章 その象徴的な存在が「— 0 0 ( イニシャル・コイン・オファリング ) ーです。現在、世界的 第 な関心事の 1 つになっています。僕も最近『』の新しい連載を始めるにあたっ て、最初に取り上げたテーマです。
1990 年代から続く「仮想通貨」への関心 「仮想通貨」は、日本でも 2017 年 4 月に法律が変わり「仮想通貨交換業」が登場す ると、一気に知名度が上がりました。僕が住む米国を含め、世界的に見ても最もホットな 話題の 1 つです。象徴的な存在である「ビットコイン、以外にも、さまざまな種類の仮想 通貨が登場しました。 僕と仮想通貨との関わりは、すでに年以上になります。 1995 年にさかのばります いま、日本でも「ビットコイン」に代表される、「仮想通貨」が脚光を浴びている。糾 盛り上がったのは、主として株式投資よりも値動きの激しい〈投機〉としての側面だ。 伊藤穰一は 1990 年代から、仮想通貨について自ら取り組んできた歴史上の証人で もある。—a-O ( 新規株式公開 ) に変わる資本調達手段として、クローズアップされ ている「ー 00 ( イニシャル・コイン・オファリング ) 」と共に、仮想通貨の現状を整理 し、今後の在り方を探る。
ばならない時代に入りました。テクノロジーが変えようとしている労働の価値観につい て、「シンギュラリティーをはじめ、その背景にあるシリコンバレーの考え方を解説しま した。 第 2 章は、「国家」についてです。いま世界中で注目を集めるビットコインをはじめと する「仮想通貨」は、ドルや円など国家通貨に対する、もう 1 つの選択肢になる可能性を 秘めています。そもそも「仮想通貨ーは「暗号化に基づく技術であり、その背景には国 家による統制から逃れようとするリバタリアン的な発想がありました。その論理を説明 し、世界経済に大きな影響を与える動きになりつつある新たな資金調達方法「 *00 ( イニ シャル・コイン・オファリング ) ーについて、アメリカの現状をレポートします。 第 3 章は、「資本主義ーについてです。資本主義的な価値観の「終焉ーには、すでにさ まざまな議論や指摘がなされており、世界でも共通認識ができつつあります。実は、、 までの価値観をくつがえすものとして、仮想通貨の背景技術である「プロックチェーンー を位置づけることができます。プロックチェーンがもたらす変化を、「仮想通貨ーや「自 然通貨」といった例から説明します。 しゅ、つ、んん はじめに
通貨はもっと多様であるべき ビットコインだけではなく、世界には数え切れないほどの仮想通貨が誕生しています。 国家が発行する通貨の種類は、地球上で国家が増えない限り、増えることはありませんで した。通貨の種類の上限がある程度、決まっていたと言えるでしよう。ところが、仮想通 貨は理論的には無限に増やすことができます。—00 も同じです。ト 1 クン ( コイン ) は 誰かが「発行したいーと考え、購入者がいれば増えつづけます。 世の中にたくさんの通貨やト 1 クンがあるほうが、国の通貨だけが流通するよりも、世 界が変わる可能性があると僕は思います。これは 1 章で、 1 つに集中させるのではなく、 たくさんに分散させたほうが「レジリエンス ( 回復力、しなやかさ ) ーが高い、と述べたこ とと共通しています。人間の社会は、やはり「スケール・イズ・エプリシング ( 規模がす べて ) ーではないと思うのです。 自然界を見渡してみてください。酸素や糖分を使う生き物もいれば、酸素や糖分を廃棄 物として出す植物もあります。通貨の比喩として有機体を見れば、その種類の数だけさま ざまなプロセスがあり、各プロセスで自分が必要なものと他者が必要なものが違います。 73 第 3 章「プロックチェーン」は「資本主義」をどう変えるのか ?
換金できるもの、できないもの の測り方に問題がある ュニバーサル・べーシック・インカムの考え方 あなたの労働に「人生の意味」はあるか 新しい〈センシビリティ〉が必要だ 第 2 章「仮想通貨」は「国家」をどう変えるのか ? 1990 年代から続く「仮想通貨」への関心 「暗号化」はインターネットの大きなテーマの 1 っ ンク 国家サイファーバ 「仮想通貨」で国家から独立する 「独立の夢」はバブルでついえた 「ビットコイン」はリバタリアンの理想 国家からのマネー逃避 新たな資金調達手法「ー ( 0 」とは何か ? 投資家がー ( 0 に熱を上げる理由 インチキなー ( 0 がたくさんある 投資されたお金を返す義務がない
ぜんぜん違います。これがコミュニティにおいて、通貨的な価値が流通しやすいという意 味です。 の え 変 お金で解決できるゲームは虚しい ど を いまのゲームはお金で解決できるものが多いように思います。僕が好きなでは、 奇抜で目立っ格好をするためや、ゲーム内でペットを飼うために、それらをお金で買うこ 資 とができますが、基本的にはゲームの勝ち負けに貢献できないものがほとんどです。本当 に強い武器は、時間をかけて手に入れるしかありません。 工 これがもし、お金をつぎ込めばつぎ込むほど強くなるゲームだったらどうでしようか チ 最初は差が大きく開かないのでいいかもしれません。でも、長い目でみたとき、プレイヤ ロ プ ーは時間をつぎ込むのがバカバカしく感じてしまうでしよう。長続きするコミュニティに 章 はなりません。 第 このようにゲームを例にすると、デジタル通貨がいかにコミュニティにとって大切な要 素であるかが理解しやすくなります。ビットコインなどいまの仮想通貨は、ドルや円など新
もし地球上に酸素がなくなれば、酸素を使わない生き物が出てくるでしようし、メタンが なくなれば、それに代わるものが出てくるでしよう。自然界では何らかの違う形で補うバ ックアップ機能が働き、地球は「レジリエンスーを持って対応するのです。 人間も同じですし、経済を有機体として見るならば同じことです。 1 つの金融装置、 1 つの基準のままでは、どこかで経済がクラッシュし、機能しなくなるリスクがあると考え ています。 「仮想通貨」と「自然通貨」 プロックチェ 1 ンなど新たなテクノロジーの登場により、これから多様な通貨が登場す るとしたら、僕は通貨には大きく分けて 2 つの概念が存在すると考えています。 1 つは「仮想通貨 (Virtual currency) 」です。本書では、話をわかりやすくするため「暗 号通貨 (cryptocurrency) 」と「仮想通貨」をあえて分けず、日本人になじみのある「仮想 通貨」という言葉を主に使って記述していますが、英語圏ではビットコインは「暗号通貨 と呼ぶのが一般的です。ここで一言う「仮想通貨ーは、英語の *Virtual ( バーチャル′の語
ません。 メディアラボには「デジタル・カレンシー・イニシアテイプ」とい、つプロジェクトがあ ります。そこにいるメン バーは実に多彩で、「ビットコイン」のリ 1 ド開発者や、早い決 済がウリの仮想通貨「ライティングネットワ 1 クーの創業者、元国際通貨基金 ( — ) のチーフェコノミスト、元バンク・オプ・イングランドのデジタルカレンシ 1 のトップ、る え アメリカの商品先物取引委員会 (ocæo) の元会長などが所属しています。仮想通貨や *00 に対して、おそらく世界でいちばん自分たちの経済的な利害や損得を考えないで意を 家 見できるチームです。 国 メディアラボではさまざまなプロジェクトが動き始めています。例えば、シンガポール ーこ加わりました。国際機関が通 通貨監督庁 (ä<co) や米州開発銀行などが僕らのメンバし 想 どのように仮想通貨や—00 をガバナンスすべきか、議論を始める予定です。先日も世界販 アイオタ 章 で 5 番目くらいに大きな暗号通貨である「」のバグを発見しました。日本円にす 第 ると時価総額で 5000 億円くらいの規模のものです。 なせメディアラボがいろいろな機関と組んで物事を進められるのかといえば、やはり僕