「 O < Z Z (lnternet Corporation for Assigned Names and Numbers) 」です。非営利の民間 6 団体である彼らは、インターネットのドメイン名、アドレスとポート番号の割り振り や割り当てを全世界的に行っています。 「 ( 国際電気通信連合 ) 」は国連の傘下で、国連加盟国にヴァチカンを加えた国家で 成り立っていますが、—O<ZZ においては国家はいち参加者ではあるけれど、アドバイ ザリーカウンシルの立場にしか過ぎません。国のものでも企業のものでもないので、ある 意味でインタ 1 ネットの独立したガバナンスを行えている組織だと言えます。 仮想通貨の世界においても、僕は—O<ZZ のような非中心的で非営利のガバナンス機 関がお手本になるのではないかと考えています。 利害関係がない唯一の組織 僕が所属するメディアラボは、非営利に近いアカデミック領域で活動しているた め、仮想通貨や—00 のガバナンスに対して意見ができる立場にあります。世界を見渡し てみても、何かを売り込もうとしていない唯一の機関が僕たちメディアラボなのかもしれ アイキャン
「プロックチェーン」とは何か ? 仮想通貨を支える技術として、「プロックチェ 1 ン (Blockchain)- に注目が集まってい ます。仮想通貨の背景にある流れが「暗号化であることについて触れましたが、プロッ クチェーンは仮想通貨の取引データを暗号化して、 1 つのプロックとして記録、管理する 技術です。 取引データがネットワークに参加するコンピュータ上で分散的に管理されるため、イン 仮想通貨を支える技術として「フロックチェーン」が脚光を浴びている。新たなテ 2 クノロジーの登場で、インターネットが「デイセントラリゼーション ( 脱中心 ) 」に向 かったように、通貨や経済も脱中心へと歩みはじめた。「お金」を介在せすに成り立 つ新しい価値はあり得るのか。コミュニティにおける通貨的な価値を持つものは何か 「仮想通貨」と「自然通貨」という 2 つの通貨を解説し、これからどのように「資本 主義」と向き合うべきかを考える。
もし地球上に酸素がなくなれば、酸素を使わない生き物が出てくるでしようし、メタンが なくなれば、それに代わるものが出てくるでしよう。自然界では何らかの違う形で補うバ ックアップ機能が働き、地球は「レジリエンスーを持って対応するのです。 人間も同じですし、経済を有機体として見るならば同じことです。 1 つの金融装置、 1 つの基準のままでは、どこかで経済がクラッシュし、機能しなくなるリスクがあると考え ています。 「仮想通貨」と「自然通貨」 プロックチェ 1 ンなど新たなテクノロジーの登場により、これから多様な通貨が登場す るとしたら、僕は通貨には大きく分けて 2 つの概念が存在すると考えています。 1 つは「仮想通貨 (Virtual currency) 」です。本書では、話をわかりやすくするため「暗 号通貨 (cryptocurrency) 」と「仮想通貨」をあえて分けず、日本人になじみのある「仮想 通貨」という言葉を主に使って記述していますが、英語圏ではビットコインは「暗号通貨 と呼ぶのが一般的です。ここで一言う「仮想通貨ーは、英語の *Virtual ( バーチャル′の語
1990 年代から続く「仮想通貨」への関心 「仮想通貨」は、日本でも 2017 年 4 月に法律が変わり「仮想通貨交換業」が登場す ると、一気に知名度が上がりました。僕が住む米国を含め、世界的に見ても最もホットな 話題の 1 つです。象徴的な存在である「ビットコイン、以外にも、さまざまな種類の仮想 通貨が登場しました。 僕と仮想通貨との関わりは、すでに年以上になります。 1995 年にさかのばります いま、日本でも「ビットコイン」に代表される、「仮想通貨」が脚光を浴びている。糾 盛り上がったのは、主として株式投資よりも値動きの激しい〈投機〉としての側面だ。 伊藤穰一は 1990 年代から、仮想通貨について自ら取り組んできた歴史上の証人で もある。—a-O ( 新規株式公開 ) に変わる資本調達手段として、クローズアップされ ている「ー 00 ( イニシャル・コイン・オファリング ) 」と共に、仮想通貨の現状を整理 し、今後の在り方を探る。
かるようになるはずです。 いままでは見えにくかった状況が可視化されることで、リスクが高いと考えられていた の 先物市場のリスクを下げることができるかもしれません。新たなテクノロジーの登場によ え 変 、つ 、新たな選択肢が生まれたのです。 ど 義 主 ハンバーガー通貨における 2 つの課題 本 資 さきに「自然通貨ーについての説明が続きましたが、もっと面白い可能性を秘めている のは「デジタル通貨」なのかもしれません。いままで目に見えにくかった価値を見えやす くすることができます。例えば、マクドナルドの「ハンバ 1 ガ 1 通貨はど、つでしよ、つか チ マクドナルドが大好きな人がいたとして、その人がハンバーガーしか食べないのだとした ロ プ ら、 、ンバーガー通貨をもらったほ、つが、つれしいとい、つことがあり得ます。 マクドナルド側にしてみれば、、 ノンバーガー通貨が発行されており、自分たちの資材が 3 第 そのハンバーガー通貨で先物買いのように購入することができるなら、お互いハンバーガ ー通貨でやり取りが成立してもおかしい話ではありません。要は、自分とハンバーガーと四
被害者が出る仕組みはやめよう ー ( 0 の健全化を目指すシリコンバレー インターネット・バブルの再来 リバタリアニズムの反動 仮想通貨をガバナンスするのは誰か ? 利害関係がない唯一の組織 学術機関だからこそ貢献できること 第 3 章「プロックチェーンは「資本主義をどう変えるのか 7 「プロックチェーン」とは何か ? 脱中心に向かう金融と経済 通貨はもっと多様であるべき 「仮想通貨」と「自然通貨」 テクノロジーで自然資本を管理する マグロの漁獲も「自然資本」 オイル自体が通貨になる可能性も ハンバーガー通貨における 2 つの課題 価値はコミュニティの人と人の間にある
義に近いもので、「仮想 - ではなく「実質的には本物と同じ」という意味になります。 語弊を恐れずに言えば、国家が発行する通貨も「バ 1 チャル」です。例えば、日本銀行 が発行する日本銀行券の紙幣は、それ自体に実質的な価値はありません。紙幣を金 ( ゴー ルド ) と交換できる「金本位制は、とうの昔に終わっているからです。しかし、国家が 発行する通貨はあらゆるものと価値を交換することができ、実質的には価値があるため、 通貨であり得ます。 「仮想通貨」という言葉は、すでに 2 章の説明で多用しており、また、これから広がる と見込まれるデジタル世界との相性が良いため、ここから本書では「デジタル通貨 (Digital currency)- と言い換えて説明をしていきたいと思います。 そして、もう 1 つが「自然通貨 (Natural currency) 」です。これは、地球のバランスシ 1 トのうえでは重要なもので、たとえば森林やマグロなど、要するに「自然資本 (Natural capital)- に基づく通貨です。 75 第 3 章「プロックチェーン」は「資本主義」をどう変えるのか ?
通貨はもっと多様であるべき ビットコインだけではなく、世界には数え切れないほどの仮想通貨が誕生しています。 国家が発行する通貨の種類は、地球上で国家が増えない限り、増えることはありませんで した。通貨の種類の上限がある程度、決まっていたと言えるでしよう。ところが、仮想通 貨は理論的には無限に増やすことができます。—00 も同じです。ト 1 クン ( コイン ) は 誰かが「発行したいーと考え、購入者がいれば増えつづけます。 世の中にたくさんの通貨やト 1 クンがあるほうが、国の通貨だけが流通するよりも、世 界が変わる可能性があると僕は思います。これは 1 章で、 1 つに集中させるのではなく、 たくさんに分散させたほうが「レジリエンス ( 回復力、しなやかさ ) ーが高い、と述べたこ とと共通しています。人間の社会は、やはり「スケール・イズ・エプリシング ( 規模がす べて ) ーではないと思うのです。 自然界を見渡してみてください。酸素や糖分を使う生き物もいれば、酸素や糖分を廃棄 物として出す植物もあります。通貨の比喩として有機体を見れば、その種類の数だけさま ざまなプロセスがあり、各プロセスで自分が必要なものと他者が必要なものが違います。 73 第 3 章「プロックチェーン」は「資本主義」をどう変えるのか ?
るさまざまな「自然資本」を通貨やトークンの形で管理できるようになれば、ナチュラル・ ハランスシートができるはずです。目に見える形にすることで、改善を促すことができる ようになるかもしれません。 オイル自体が通貨になる可能性も 市場経済において、すでに先物取引市場がある「原油」に対して、通貨やトークンを適 応したらどうなるでしようか。いままで原油をドル建てで計算していましたが、最近にな り中国の人民元建てで先物取引を始める動きがありました。経済における中国の存在感が 増し、世界でも有数の石油輸入国となったからです。こうした動きは国家通貨に大きな影 響を与えます。 石油を「自然資本」とみなして、新たな通貨やト 1 クンが発行されるようになると、こ うした資本主義に基づく国家通貨のバランスが大きく変わる可能性があります。これが良 いことなのか悪いことなのか、はっきりとはわかりませんが、技術的には透明性を持って 管理できるようになります。誤解を恐れず一言えば、物事の価値やリスクがよりクリアにわ
現実世界のお金と交換できることが前提になっていますが、。のようにあえて現実の お金と交換できない仕組みを考えるのも面白いのではないかと思っています。紙幣や硬貨 などモノとして物理的にお金をつくるにはフィジカルコストがかかりますが、デジタル通 貨ならばおそらく、それほどむずかしくなく実現が可能です。 仮想空間にも価値が生まれる ゲ 1 ムをプレイして感じるのは、そこが現実世界なのか仮想空間なのかが、それほど重 要ではないということです。なぜなら、同じ価値を共有する仲間やコミュニティがあり、 その空間で通貨的な価値が生じるストックが存在するからです。 昔のことではありますが、僕も本気になってゲームに没頭していた時期がありました。 その頃の自分をふり返ってみれば、現実世界のモノよりも、ゲーム内のアイテムのほうが 価値が高いと感じていたことを覚えています。ゲーム内の大切なアイテムを失うほうが、 喪失感が大きかったのです。 またギルドへの所属も同じです。ゴールドは保持できるけど村八分になるのと、ゴ 1 ル