321 『時間の習俗』は雑誌『旅』の昭和三十六年五月号から、翌年十一月号にかけて連載された。 『旅』はかって一点と線』を載せたことがあり、そこで事件に携わった警視庁の三原警部補 と、福岡署の鳥飼刑事が再び交情を復活させて、こんどの事件にも提携させている。 めかり がんたん 旧暦元旦の未明に、九州の東北端にある和布刈神社で行われる神事から、幕を上げる本編 だんうら は印象的である。この対岸の下関市壇ノ浦は、源平の古戦場で知られているが、また作者が 一歳から四歳にかけて住んでいた所であった。もちろん当時は係りがなかったにせよ、その ゆいしょ 後、居を小倉に移してからは、この由緒ある神事の耳に触れたことがあろうし、何よりも古 どくせんじよう 式ゆかしい儀式を導入とした物語は、作者の独擅場であった。しかもその古来のしきたりが、 今でもおごそかに執り行われるばかりでなく、カメラの対象になり、吟行の素材になるほど の客を集めているが、それが事件の進展に伴って、大きな役割を果すのだから、心贈い発端 である。 相模湖畔のホテルに連れ立ってきた客のうち、男が殺され、女の行方が皆目知れないとい う事件がまず起った。被害者は交通関係の業界紙の経営者だが、加害者の見当は全くつかな い。担当の三原警部補は、被害者の出入り先であるタクシ 1 会社の専務峰岡に興味を覚えた。 彼には犯行の動機も見当らないし、容疑者としては一番無色なのだが、完全なアリバイがあ るたナこ、、 カえって三原の気持にひっかかるものかある。 松本氏がわが推理小説界に新紀元を画したことは、広く承認されているが、前後を分っ特 たんてい 徴の一つとして、いわゆる名探偵の起用と否定とがある。このジャンルの鼻柤ポーがデュバ さがみこはん かかわ
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時間の習俗 「お待ちどおさま」 女中のお文がにこにこ笑いながら、縁側から下駄をはいて客のところにきた。 「やあ、来たね」 しぼり 客はさっそく肩からカメラをはずし、お文を適当なところに立たせて、距離や絞を合わせ 「ここでいいんですか ? 」 つきやま お文は笑いながら、池の上に掛かっている短い橋を背景に立っている。小さな築山が橋か ら続いていた。 「なかなか、いい構図だ」 客はファインダ 1 を覗いて、 「じゃ、撮るよ」 と指を押した。シャッターの音が小さく鳴った。 「ありがとうございます」 お文は頭を下げた。 「も、つ一枚」 客はそのまま手で制して、もう一度シャッターの音を聞かせた。 ソクが変わった方がいい」 「そうだな、今度はこっちの方に少し来てもらおうか。ハ 客は手を伸ばしてお文に位置を与える。
時間の習俗 「はい、お泊まりのお客さんです」 お文は、自分の受持ちの客が峰岡という名前だとすぐ気づいた。 「電報ですよ」 お文は、その当人がまだ眠っていると思い、自分が代人として判コを押し、受けとった。 客が起きているかどうかまだわからない。電報を見ると、東京かららしい。とにかく、様 かえでま 子を見るだけは見ておこうと思い 二階に上がって、楓ノ間に行った。 「ごめんください」 控の間から小さく言ったが、返事がない。 もう一度呼ぶと短い声が聞こえた。 お文は襖をあけた。客は寝床に顔を半分埋めている。 「お目ざめでございますか ? 客は眼だけ開いた。 「なんだか声が聞こえたから、眼がさめた。なんだね」 「はい、お客さまに電報でございます」 「なに、電報 ? ああ、ばくがここに泊まってることは連絡がついてるから、それで寄こし たんだね。どれ、どれ」 布団から片手を伸ばした。 お文は、そこまですわった格好で歩き、電報を渡した。
時間の習俗 286 三原は、そこで考えこんだ。江藤白葉も、いつまでも閑人の訪問客のつきあいはできない もど と思ってか、奥の職場に戻って、しきりと糊づけをやっている。 三原は、急に顔をあげた。 「ご主人、すみませんが、今年の今までの『筑紫俳壇』を全部見せていただけませんか」 すると、白葉は奥から「おい、おい」とまた妻女を呼んだ。今度は少々面倒くさそうな声 だった。 妻女は、今年の分の『筑紫俳壇』を五 , ハ冊運んで、ついでに冷えた茶を取りかえた。 今年の分は、四月号は手もとにあるから、結局、一、 、三、五、の四冊である。 最近出たのが五月号だが、三原はいきなり三月号を取りあげた。この分の巻頭写真は吟行 ではなく、中央の有名な俳人が死去したので、その肖像となっている。 三原がページを繰って捜したのは、四月の吟行の " 予告…が載っていないかということだ それは、あった , やはり表波線で囲ったもので、 かわざき ″予土ロ・鐘崎一何 / と出ている。 のり ひまじん
時間の習俗 す。これが門司港駅に着いたのが、二十三時一一十三分でした」 「ははあ。じゃあ、二月七日まであと半時間ですね」 「そうなんです。あと三十七分で旧暦元旦でした」 「それから、私は門司港駅からタクシーに乗って、和布刈神彳に行きましたよ」 と、峰岡周一はおとなしい話しぶりをつづけた。 「いや、驚きましたね。ずいぶん、見物人が集まっているんです。夜中だというのに、観光 ハスが出ているくらいですからね」 「神事はごらんになったんですか ? たいまっ あか そうごん 「拝観しました。なかなか荘厳なものでしたよ。灯りを全部消しましてね、松明を持った神 そくたい わかめ 主さんが干潮の海に降りてゆくのです。束帯姿の神官が、海の中で若布を刈るのですが、想 こうごう 像した以上に神々しい気分に打たれました」 峰岡は当時の光景を回想するように、眼を半眼に閉じた。 「それでは、かねてのあなたの念願が果たせたわけですね」 「そうなんです。私はカメラを持っていましたから、その神事を撮影しましたがね」 「なに、カメラでお撮りになった ? 三原紀一はびつくりした。
時間の習俗 「それはこちらに保存してありますか ? 「創刊号からずっと取ってあります」 「すみませんが、この年の一年分がありましたら、ざっと拝見したいと思いますが」 「去年のですね。よろしゅうございます。いま出させましよう」 「それから、恐縮ですが、今年の和布刈神事の俳句が載っている号を見せていただきたいの ですが・ : のぞ 白葉は、三原の手に持っている雑誌を覗いて、 「それだったら四月号ですね。それも出させます」 彼はまた奥へ向かって、「おい、おい」と呼んだ。 やがて、妻女が一抱えの雑誌を持ってきた。 三原は、その『筑紫俳壇』の新年号からの巻頭の写真を見ていった。それはたいてい同人 かしいの たちの会合が写されているのだが、三月号には " 太宰府の観梅会 ~ 六月号には " 新緑の香椎 みや つやざき 宮 ~ 八月号には " 津屋崎海岸と大島吟行…十一月号には " 彦山の紅葉行 ~ となっていて、撮 影者は全部 " 同人・梶原武雄 ~ と印刷されているではないか。 三原は、これだと思った。『筑紫俳壇』の吟行には、毎回梶原武雄が必ず同行して撮影し ているのである。 今度は四月号の巻頭写真を見た。 果たして " 和布刈神事 ~ だった。ただし、神官が海にはいっている深夜の神事ではなく、 だざいふ ひこさん
時間の習俗 ッターを切るわけですね。この神事の場面の予定コマをとしましよう」 「うむ、なるほど」 「それから本人は小倉の旅館にはいり、そこの女中さんを何コマか撮影するんです。何コマ 目といっても、ちゃんと当人は計算しているわけです。この女中像を O としましよう。つま りですね、こうすれば、 < と O のネガの間に未撮影のコマ CQ がはさまっているわけですね。 そこで今度は、最後の 0 の撮影を終わると、巻き戻しをやるんです。そして、の最後のコ マ、これは当人が覚えていますから、キャップをはめたままそのコマ数だけシャッターを切 る。こうすると、二重写しにはならないで、例の空白のの最初のコマを迎えます」 「わかった」 三原はそこまで聞いて礼を言った。 「それから先はばくなんかにもわかるよ。つまり、当人は未撮影の八コマ分だけを、改めて 撮影すればいいわけだな」 「そうです、そうです : : : しかし、うまく考えたもんですな」 支師は感、いしていた。が、 すぐそのあとでちょっと妙な顔をした。 「三原さん、それはそれでいいんですが、ばくには疑問がありますよ」 「ほう。どういうことかな」 「あなたは、当人がテレビのニュースからそれを撮ったと言われていますが、それは一種の 複写ですからな。動いている写真を撮るだけのことです」
時間の習俗 276 その話は信用していいと思います」 「彼がカメラを持って和布刈神事に行ったというのは、どうしてわかったのかね ? 「梶原武雄は俳句が好きで、自分の所属している結社の連中と和布刈神事を主題に吟行に出 かけ、神事の写真や一同の記念撮影を撮ったというんです」 「なに、梶原も俳句をつくるのか ? 」 三原が思わず、梶原も、と言ったのは、峰岡周一の俳句趣味を考えたからだった。 「そうなんです。俳句もやるし、カメラ狂でもあります。福岡食品工業の寄宿舎の彼の部屋 には暗室の設備までしてあったそうです」 「ほう。すると、彼は町の屋には頼まなかったわけだな ? 「そうです」 三原はこれはいい筋だぞと思った。前に福岡市内や、その周辺の屋を洗ったが、該当 のフィルムを扱った店が出なかった。もし峰岡周一のフィルムに収められたあの写真が誰か の撮影の複写だとすると、その原画ともなった実際の撮影者は屋に出さずに、自分で現 像と焼付をしたのであろうという疑いは、前から持っていたのだ。 「その梶原の友だちの山岡という男は、和布刈神事の写真を梶原から見せてもらったことが あるのかい ? 」 「はあ、それは見せられたそうです。彼の話を聞くと、どうも峰岡のフィルムにはいってい る場面そっくりのようです」
時間の習俗 295 ますので、いちおう、その辺で打ち切らねばなりません。すると、こない人のぶんだけシ 1 に空席ができるわけです。それをどうするのかと思っていると、そこはよくしたもので、 そういうキャンセルしたぶんは、予約のとれなかった人たちが飛行場に来ていて、その席が 空くのを待っているわけです。係りの人にきいてみると、各便の旅客機とも、ほとんど二人 あきら か三人はそんな例があるそうです。だから、希望の飛行機が取れないといっても諦めるのは 早いわけですな。飛行場に行きさえすれば、運がよいと、そんなキャンセルの席にありつけ るわけです」 なぞ その話を聞いて、三原には峰岡の行動の謎が解けた。 峰岡は二月六日に羽田から福岡まで通しの日航機 311 便を取っている。だが、推定では、 彼は大阪から東京に引きかえしているわけだから、大阪、福岡間のシートは空席になってい るはずだ。しかし、調べでは、空席は一つもなく、全部満席だった。つまり峰岡が福岡まで 通しで乗っていたことが、そのことだけで証明されたのだった。 この問題が今までどうしても解けなかった。よく考えてみると、峰岡は大阪で降りている のだから、当然、福岡までのシ 1 トのリザープがあるわけだ。 前にもちょっとふれたように、途中寄港の乗客は優先的に乗継機にふたたび乗りこめるわ けだから、空港のロビ 1 で二十分間ばかり休憩している間に、持っているリザープ券を誰か に譲りわたすことは可能なのである。 鳥飼の話にもあるように、空港には、その便の飛行機が取れなかった人たちがキャンセル