出張 - みる会図書館


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1. 時間の習俗

時間の習俗 ば、峰岡はそれをどこで盗みどりしたのであろうか。最後まで、これが彼には不可解なガン であった。しかし、問題は、手のつけられるところからやるべきだった。 「大島君」と彼は刑事を呼んだ。「ご苦労だが、峰岡が四月二十五日に会社に出勤している かどうか、休んだとしたら、当日、彼はどこに行っていたか、その辺のところを調べてくれ ないか ? 」 「四月二十五日ですね。わかりました」 大島はすぐに出ていった。 一一時間ばかりして大島は戻ってきた。 「わかりましたよ。四月二十五日には、峰岡は大阪に出張しています」 「なに、大阪に ? 」 三原は、身体を椅子から乗りだした。 「それは何を利用して行ってるんだ ? 」 「列車だそうです。こちらを二十四日の夜行で発っています」 「もちろん、社用だろうね ? 」 「そうです : : : これは、あの会社でこっそり聞いてきたんです。幸い、峰岡は席にいません でした。外出していたので、聞くのに都合がよかったです」 「大阪の出張先はわかってるんだろうな ? 」 「はあ、それも聞いてきました」

2. 時間の習俗

時間の習俗 「そうでしような」 くちびる 三原も峰岡周一の顔を思いだして唇に笑いが浮かんだ。 「ところで、あなたの見込みはどうです、峰岡は須貝を知っていると思いますか ? 「思いますな」即座に鳥飼重太郎は答えた。「とばけてまったく何も知らないような顔つき をしておりますが、峰岡は須貝をよく知っとると思いますやな。あのとほけ方には峰岡の作 為が見えます。これは私の先入観ではなく、二三分も須貝のことを話しているうちに、そう わかりました」 「須貝のことでは、どんな話が出たんですか ? 「私は、こうきいたんです。あなたは名古屋の方によく仕事で出張されるが、あそこのゲ ちょうちょう 2 、 イ・ ノ ーで " 蝶々 ~ というのを知っとりますかと言うと、そんなバーは知らないと一言うん ですな」 「なるほどね」 「知っとると言えば、むろん、そこの店に働いている芳子というゲイ・ポーイを口に出すん ですが、店の名前を知らないと言えば仕方がなかです。そのあと、出張した晩に名古屋の花 街を歩いたことがあるかとききましたが、それはたまにはありますよと笑っとりました。だ が、ゲイ・ポーイなんかには興味がないので、寄ったこともないと言っていました」 「それで、峰岡に須貝のことを質問するのに、どういうきっかけをつけたのですか ? こうさっ 「やつばり正攻法でゆきましたよ。福岡郊外の水城で青年の絞殺死体が出て、名古屋のゲ

3. 時間の習俗

時間の習俗 292 る大阪鋼機株式会社の営業所に現われ、同所を十一一時ごろ出ていった。用談は簡単で、ほ とんど、わざわざ出張するほどの内容のものではなかった。次に彼が出張理由の一つとし なにわかわら ている、浪速区河原町の昭和自動車器材には顔を出していない」 これがこちらから依頼した用件に、大阪府警察本部が回答してきた内容だった。 やはり峰岡周一の大阪出張は名目だけだったのだ。二十四日の夜行で東京を発ち、大 阪には午前中に着いている。その足で御堂筋の会社に寄ったが、もう一つの浪速区の方には 行っていない 。これは相当な距離があるので、そこに寄ると暇がかかるためであろう。 三原は時刻表を調べて、日航機の福岡行が伊丹を十二時五十分に発つのを知った。これは 板付に十四時二十五分に到着する。 、司こ合わない。しかし、 これでは『筑紫俳壇』の指定集合時間午後一一時三十分にはとうてし尸。 本付から鐘崎に直行すれば、もちろん吟行の一同に会うことができるわけだ。 三原は、今度はこの件にしほって福岡署に調べを依頼した。 その返事は、あくる日の午前中にあった。 「『筑紫俳壇』の主宰者にきいてみると、たしかに四月二十五日に鐘崎で吟行をしています。 集合場所も赤間駅で、時間も午後一一時三十分だということは間違いありませんでした。また、 その一行の中に梶原君がはいっていて、いつものとおり記念撮影の方を担当していたことも、 主宰者の大野残星ははっきりと言っています。ところで、一行は当日三十名ばかり集まった そうですが、お尋ねの件についてきいてみると、たしかに梶原君のところに、三十七八ぐら たみ

4. 時間の習俗

時間の習俗 ご了解ください 「いろいろお世話さまになります」 妻はうなだれていた。 「ついては、今日は前にうかがったこと以外に少しご主人のことをおたずねに上がったんで 「はあ、なんでしようか ? 妻は顔をあげた。 「ご主人は、ご商売がら、出張は多かったんでしようね ? 」 「はい、それはございました」 妻女はうなずいた。 「やはり全国の業界に知らせる新聞を出しておりましたから。名古屋、大阪、広島、福岡に はよくまいっておりました」 「では、いちばん多いのは ? 」 「やはり名古屋と大阪ですわ。名古屋はご承知のように自動車のメーカーエ場が集まってる ところですし、大阪は関西の販売元ですから」 「なるほど。で、その出張の度合いは ? 」 「さようでございますね、大阪と名古屋とがひと月に一回ずつ交互というとこでしようか」 「つまり、名古屋に一回出張されると、その翌月は大阪というわけですね ? 」

5. 時間の習俗

時間の習俗 211 「さようでございます」 「で、出張の滞在日数は ? 」 「宅はああいう商売ですから、会社の出張のようにきっちりとまいりません。三日ぐらいい ることもあるし、一週間ぐらいいることもごさいます」 「それは名古屋も大阪も同じくらいですか ? 「大阪の方が少し長かったように思います」 「では、福岡は ? 」 「向こうは短かったようです。もっとも、あちらまで行くと、北九州と長崎とに足を伸ばし たこともあるようでございます」 めかり 三原の頭には " 北九州。という一言葉が鋭敏に響いた。和布刈神社は、もちろん、北九州の 東端、門司市にある。 「小倉にはいらしたことがありますか ? 」 「よく存じません。わたしはあまり仕事にはロを出さない方だし、また主人もいちいちわた しには申しませんから」 「それではつかぬことをうかかいますが、ご主人がそういう出張をなさるさい、峰岡周一さ ん : : : ご承知でしようね ? 極光交通の専務さんの峰岡さんです」 「はい、お名前はよく存じあげています。主人がよく申しておりましたから」 「具体的には、どんなことをお聞きになりましたか ?

6. 時間の習俗

時間の習俗 屋に頼んだ場合に、屋さんが一まとめにして取りにくることはあります。しかし、 撮影者が一本ずっ取りにくることは例にないです 「しかし、もう一度見てください」と三原は言った。「その梶原さんの場合、果たして九州 に送ったかどうかです」 主任は妙な顔をしたが、 警部補にそう言われてまた応接間を出ていった。 今度は一一十分ばかり待たされた。 もど 主任は、頭を掻き掻き戻ってきた。 「まったくおっしやるとおりです。いま、帳簿を調べたら、梶原さんご本人がこちらに取り にみえているんですね」 三原は、鳥飼と眼を見合わせた。それは勝利の表情だった。 「事情はこうです。ちょうど、その係りがいたので、よくわかりましたがね、その梶原さん という人は直接こちらに見えられましてね、なんでも東京に出張したので、この前福岡から 送ったフィルムの現像ができているはずだから、もしできていたら一日でも早く見たいから それを渡してもらえないだろうかと言うのです。私の方としてはご本人かどうかわからない ので、その身分証明を求めたんです。すると、梶原さんは福岡の方の電車の定期券を出され ましてね。たしかに、そこに書かれている梶原さんの名前も、撮影者の送ってきた封筒のも のと間違いなかったのです : : : まあ、フィルムは誰でも早く見たいのが人情ですから、私の 方としては、ご本人にそれをお渡ししたわけですよ

7. 時間の習俗

時間の習俗 イ・ 1 に勤めている男だと、身もとの割りだしができたので、いま、被害者が生前交際し ーに行かれとるちゅ、つことを た人物についてまわっとりますが、峰岡さんもよく名古屋のバ 聞きこんだので、それで訪ねてきたと言いました」 「ははあ」 「なに、向こ、つだって、こちらかいい加減な口実できいとると思うとりますから、ど、つにで も一言えます。すると、やつばり、峰岡は皮肉そうに言いましたよ。おかしいですな、刑事さ ーに、ときたましか顔を出さないか、いったいどこで、私の名前が知れ ん。私は名古屋のバ たんでしようかねってね」 「なるほどね」 「あるバーで峰岡さんの名刺をもらった女の子がいたので、それで、私が東京の出張のつい でにお訪ねに上がったと言いました。ただ、店の名前は先方の都合が悪かろうからそれは伏 せておきます、と言いました。峰岡は、そうですか、と言ってにやにや笑っとりましたよ」 「そんな奴です」と、三原は言った。「しかし、あなたが峰岡に会って、彼がホシだという 直感を受けたのは、それだけでも成功でしたね」 「それは、だいぶん違います。あとは、どうして彼の犯行のきめ手を見つけるかですな。今 度はだいぶん手こずりそうです」 「同感ですね。ばくも早くから峰岡には弱っています : : : しかし、考えてみると、だいぶん 線がはっきりとしてきましたよ。なんといっても、水城から須貝の死体が出てきたのが大き やっ

8. 時間の習俗

時間の習俗 161 が県警に頼んだのは、前記の団体以外に各市内の屋についても、同趣旨の調査を依頼し たのだった。 普通のアマチュアは、現像焼付をほとんど街の屋に出している。自分のところに暗室 を持ち、自分で現像し、自分で焼付をやるのは数が少ない。 また和布刈神事を見にいったのは北九州の住人だとは限らない。だが、そこまでは手が回 らないわけだ。カメラ団体の会員なら、二月の寒夜に一晩中和布刈神社の境内に立って撮影 するくらいの情熱があると思えるから、まず、この人たちにだいたい限定していいと思って 三原が考えたのは、その撮影ずみのフィルムを他人に貸したり、印画をやったりする場合 よりも、和布刈神事の作品展のことだ。 アマチュア団体の撮影会は多い。もしかすると、峰岡周一もそんな作品展があるのを予期 して、そのころに東京から九州にふたたび飛び、会場に陳列された他人の写真をこっそり複 写したのではないか、とも想像できる。 こうすれば、撮影した当事者に気づかれずに、峰岡は自分の八コマのフィルムに自由に " 当時の光景〃を収めることができるわけだ。 そこで、その後、峰岡周一は九州方面に出張していないか、出張があれば、それはいつの ことなのか、を三原は調べてみる必要を感じた。 三原は部下を呼んで、今度は直接に峰岡本人に当たらずに、一一月七日以降の彼の出張を周

9. 時間の習俗

時間の習俗 266 びつくりしていたそうですよ。武雄の母親は小さい時に亡くなっていて、継母にまだ小さい けんか 子があり、家のなかはうまくいっていないようです。武雄が工場の寮にいたのも父親と喧嘩 して家をとび出したという話です 「武雄はどこに行ったか知っているものはいないんですね ? 」 「辞職願いには、家事の都合により、と書いてあったが、大川の実家には戻っていないし、 食品工業の友だちの間でも知った者はいないようです。みんな帰郷したように思っています 三原は、一分ばかり沈黙していたが、 「では、明日、こちらから捜査員をそちらに派遣しますから、よろしくお願いします」と頼 んだ。 「えつ、何か梶原武雄のことで不審があるんですか ? 」 ただそれだけですぐに捜査員を九州まで出すと言ったものだから、先方でもおどろいてい 「詳しいことはいずれあとで報告しますが、とにかく、うちから行ったものが何かと世話に なると思います。よろしくお願いします」 三原は電話を切ったあと、部屋の中を見渡した。 大島刑事がまだ居残って、複写紙の上にかがみこんでしきりと鉄筆を動かしていた。 三原はこの事件で、彼を前に名古屋に出張させている。

10. 時間の習俗

時間の習俗 197 地元の警察署では、どうやら、被害者は福岡地方在住者ではないように考えているんです。 しよかっしょ それで、東京方面の家出人の中に該当者はないかといって、所轄署からききあわせてきたん ですがね。ばくはふいと、峰岡さん、あなたのことに思いあたったんですよ」 ちり 三原がそう言って峰岡の顔をひそかにうかがうと、相変わらず塵ほどの変化も見えない。 「そりやまたどうした理由からですか ? 」 と、うすら笑いを浮かべている。 「いや、あなたはよく福岡の方へ出張されると聞きましたからね」 「そりや向こうの大東商会へは行きます。ですが、あれは仕事の出張ですよ」 「もちろん、そうでしよう : : : ですが、われわれとしてはあらゆることに手がかりをつかみ たいと思っているんです。まあ、なんと言いますか、一種の藁をもっかむという心理でしょ うな。それで、東京の人間が博多で殺された、あなたも東京から博多へよく出張される。そ んなことから、もしゃあなたがご存じじゃないかと思って、顔写真を持参してきたわけです 「そりやムチャですよ、三原さん」 と、峰岡はほとんど声を立てて笑いだした。 「そんなことをおっしやると博多に出張する東京中の人間を、あなたは片端から調べなけれ ばならなくなりますよ」 三原は、なんだか警視庁へまっすぐに帰る気がしなかった。 わら