3 . 好きと嫌い 四十時間描きつづける 「日本画は楽しいです。縛りがあるなかで工夫するのがいいんですー 元ホストクラブ経営者、高橋さんは日本画の魅力をそんなふうに表現する。 「腕前を競い合えるんですよ。たとえば最初に粗めの岩絵の具を塗って、次に細かめ の岩絵の具を塗ります。それを後から削りだしてみる。こうすると、びつくりするく らい独特の表現ができたりします」 「なるほど。工夫の余地がたくさんあるんですね」 ねら 「工夫は、狙って行うだけではなく、本当に偶然生まれることもあります。完全に自 分の思い通りにはならなくて : : : 絵の具が勝手にやっている仕事を拾っているような ゝんです」 感覚になることもあります。でもそれが、しし ほはえ かす ずっと無表情だった高橋さんが、微かに微笑む。 「他人の描いた日本画には、どうやって描いたのかさつばりわからないような絵もあ るんです。負けたくなくて、自分もいろいろなやり方を試すんです。自分が日本画を やるからこそ、その絵の凄さや難しさがわかり、そしてどうやって描いたのか、とい 行うところが気になるんです
5 . 時間は平等に流れない 113 ちなと の うか音んがい痛下梅親親や お いら校てあえい、雨不不し 。か大明知知 っプのなる たロ学いそ痛らきけがも と生しういでなの抜抜 本しは 、なのす黒暑けけ 番て んはか縁いなな コ練週でい ? の日くい にン習間すい 眼。て 臨サと本。ん 鏡器困 ん一レ番そで の楽 でトツがうす 奥科て 名にスななが でホる を出ンいっ ルん 売るだタた抜 理ンで り 知専す けイらく 、とでミホと 的攻よ 技も毎ンル なの 術あ日グン場 印鎌 をるをもが合 象田 上し過な吹に の渓 、、かけよ て時しなまっ をさ いにてかせて しん くはいなんは ばは だンわん週 のコるい たい そクけでも間 いた うーですホく て だルは い少 ルら 0 を腫は 出 吹れ す生 なが し るの いる た 日 つ 5 ・時間は平等に流れない 鎌田渓志 ( 器楽科ホルン専攻 ) りよ・つ 荒木遼 ( 建築科 ) うちゃまゆう 内山悠 ( 工芸科陶芸専攻 ) しみずゅうき 清水雄稀 ( 工芸科陶芸専攻 )
「そのせいか、音楽にもけっこう興味があります。美術と音楽にどう接点を持たせ、 存在させたらいいのか、という意識は常にあるんです」 「それを活かして、建築にも携わっていくんでしようか ? 荒木さんはしばらく考え込む。それから、声を潜めて答えた。 「まだ、悩んでいるんです。踊りと建築、音楽と美術 : : : 結びつきそうで、なかなか 結びつかないんです。何とかしたいんですよ。何とかしたいんですが、どうしたらい 学 の 美 329 絵画科日本画専攻の佐藤果林さんも、音楽と美術の融合を意識している一人だ。 「同じ日本画専攻の高橋雄一君と、グラフィティを試してみたこともあるんですけど。 でもちょっと私には厳しかった。スプレ 1 のトリガーを押し続けるのってけっこうき ついんです。指の筋肉が二十分くらいしかもたなくて。あと、体格的にも」 たしかに、佐藤さんは小柄である。 「大きな円を描くには大きな体があったほうが有利なんです。思ったようにできなく て、合わないなって。でも今は、ライプペイントやっているんです」 かりん
です。習慣、持ち歩いているもの、街を歩いていて目が行く場所、お金の使い方、そ んなところからして何もかもが違いました。そ、つい、つ意味でやはり彼等は秘境に住ん でいます。 ただ、本当の驚きはそこではありません。 思ったよりも意気投合できるということです。 たとえば僕は小説を書いていることもあり、作品作りの苦しみや、思うようにいか 藝ない時の悩みなどは共通する部分が多くありました。それ以外にも恋愛の話や、好き 京 東な漫画、酒の飲み方など、色んな話題で盛り上がる瞬間がありました。芸術は縁遠き 境 世界だと勝手に思い込んでいたので、どこかほっとしたような思いです。 の 結局人間は、そう大きな違いのある生き物ではないのかもしれません。牛は食べる 最 けれど鯨を食べることに反対する人、鯨は食べるけれど家畜は食べない人、主張は真 っ向から食い違うかもしれませんが、深い思いかあって何かを食べないという点では そっくりとも一一一口、んましよ、つ。 異世界人に思える相手であっても、一段掘ってみると何ら変わらぬ隣人である。そ んなことに気づけたのは、僕にとって素敵な経験になりました。 違、つところを面白がり、同じところに感謝して。 354
226 恋愛も存分に味わってこそ、人生を楽しめる。いい歌が歌える。恋をしたことがな 。皮らはそれを、本能で知っているのかもし い人間が恋を歌っても、きっと届かない彳 れない。 ふと、立花さんの「美しいものを作る人が美しくなかったら、説得力がない」とい う言葉が思い浮かんだ。 藝「 : : : ところで、声楽科の人ってカラオケではマイク使、つんですか ? 」 京 東「ああ、カラオケは : : : 実は苦手なんです」 秘苦笑いする井口さん。 の 最 「あ、僕は苦にしないほうですけど。声楽科って、カラオケがダメな人、多いんです よ。他の科のほうがずっとうまいです。別分野なんですよね。とか、声を 思いっきり出さなかったりとか、話し声のようだったりするじゃないですか。ああい う歌い方、声楽ではしないんで」 「じゃあ、声楽科の人がーを歌ったら : : : 」 「声だけは凄くいいんですけどね、妙に硬いというか、やつばり変です。面白いです
とで、質の高いものが作れます。例えば音楽だったら作曲科の人、演奏が必要なら器 いいところを 楽科の人、声なら声楽科、イラストなら絵画科 : : : そんなふうにして、 集めて仕事が進められるんですね。作曲科の小野君とも、何度か仕事しましたよ」 デザイン科の中田みのりさんが笑うと、唇の下で銀のピアスが輝いた。 別々の科が協力して、何かを作り上げることは多いという。 藝「僕は最近、考えが変わってきたんです」 京 東以前、ロ笛で食べていく気はないと言っていた音楽環境創造科の青柳さんが、僕に 境 伝えた。 の 「ずっと安定志向だったんです。変化してきたのはここ一年ほどですかね。この大学 最 でいろんな人が自分の道を突き詰める姿を見て、各子、 オ女しいなと思って。他大学の学生 にも、強みを生かしなよと応援されて。演奏会で喜んでもらえて、仕事を頂けること が増えて : そういったことが積み重なり、今は夢を追いたい、そんな思いが安定 を求める思いに勝りました」 藝大での時間は、青柳さんの心にも刺激を与え、百八十度の転換を起こしたのだ。 「これからまた、考えは変わるかもしれません。でも、今はロ笛で進んでいくと決め 334
「基本、放任なんです。もちろん油絵も描きますけれど、彫刻をやってもいいし、映 像をやってもいいし : : : 何をやってもなんですー 油画専攻の守備範囲は広い。授業では油絵の技法にとどまらず、壁画や版画、果て は現代アートや写真、、彫刻にまで触れることができる。 そうして一、二年で様々な表現方法に触れ、三年からは専門課程となり、自由に自 分だけの世界を作り上げていくのだ。 藝「でも自由とはいえ、みんな深掘りはしますね。自分のテーマに沿って、徹底的に追 京 東求します。例えばラピスラズリに拘っている人がいまして、その人はラピスラズリを 秘削って、練って、ゼロから絵の具を作ってます」 の 後何をやってもということは、やりたいことがなければ途方に暮れてしまうとい : そんな人たちばかりな うこと。やりたいことがあり、それをせずにはいられない・ のだろう。 「あと、シャイな人が多いです。不器用だったりもしますー 「それは恋愛とかでも ? 「ピュアですね。『愛するって何だろう』とか考えながら付き合ってますねー 重い 216 こだわ
198 「低音の : : : どんなところがいいんですかね 「 : : : 低いところ、かな : 僕の質問も下手なのだが、 確かにつかみどころかないかもしれない 「下に響いて : : : オケを支えていて。ソロも弾けるし。奥が深いです。そして、やっ ばり低くて。それがいいです」 藝「オルガンは、真面目で静かな感じの人が多いかもしれませんー 京 東ォルガン専攻の本田ひまわりさんが、ゆっくり考えながら答えてくれる。 秘「オルガン専攻の学生って、ミッションスクール出身の人が多いんですよ。ミッショ 後ンスクールでは讃美歌を歌いますから、そこでオルガンと出会うんです」 「確かに、キリスト教系の学校でもないと、なかなか触れる機会がありませんね」 そういうところってだいたい女子校なんですね。そのせいか恋愛に抵抗があ 「よい。 とか」 るような人が多いです。恋愛よりも練習に時間を使いたい、 本田さんはそう言って、上品な仕草でカップを口元に運んだ。 最終兵器「響声破笛丸」
今は芸術学科で美術の研究をしている真子さんも、もともとは制作をしていたとい 「高校まではずっとそうでした。油絵が好きで、たくさん描いてましたね。でもある 時、気づいたんです。同じ作品でも、展覧会でどう展示されるかによって全然見え方 が違ってくるんですよ。場所が良くなければ、せつかくの作品も微妙に見えてしまっ 判たり」 造 「置き場一つで、そんなに違うものなんですね」 製 「はい、だいぶ違いますよ。それから、だんだん考えが変わっていったんです。私に ダ とって美術は、自分を売り込んでいく感じじゃないな : : って。私、あまり絵描くの 得意じゃないし。それよりも、展示する側のことを学びたくなってきて。私にとって 美術は『みんなに好きになってほしいもの』で、そのために働けたらいいなって」 みんなにもっと展覧会に来てほしい、 という真子さん。 ばあ 「美術の展覧会って、来るのがお爺ちゃんお婆ちゃんばっかりなんですよ。もっと若 い人も、映画館に行くくらいの気軽さで来てくれたらいいのにと思います。来たら絶 対面白いんでー 289
徹底的に自分を掘り下げようとする衝動の根っこには、立花さん自身が自分を知り たいという思いがあるのだろう。その結果、作品が生まれる。もっと一言えば、自分の 知らない自分を、自分の中から取り出しているのかもしれない 「絵って、まるで鏡みたいだって思いますー 立花さんがしみじみと言、つ。 藝「見たくない内面も含めて、自分が全部現れるんですよ。気持ちでひるんだらタッチ 京 東に出ますし、一度絵の具を乗せたら戻れないから勇気もいります。自分と向き合わな 秘くちゃならないんです。戦わなきゃならないんです」 の 立花さんが戦っているのは、自分自身なのだ。 最 「このドローイングで作る作品も、今から布いですよ 「ヴェールをテーマにした絵ですよね。どんな絵になるんですか ? 」 ししゅう 「油絵で人の顔を描いて、その上に刺繍でヴェールを載せようと思ってます」 「え、針を入れる、ということですか ? 「はい おび 立花さんは、少し怯えたように震えた。 214