田 - みる会図書館


検索対象: 王とサーカス
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1. 王とサーカス

「タチアライさん。何をしているんですが」 再び訊かれた。確証のない推測を人に話すことは好きではない。確証があったらあったで、 得意げに田 5 われるような気がして、やはりあまり話したくないけれど。だからつい、短く答え てしま、つ。 「暗いように田 5 、つので」 「暗い、ですか、 「ええ : 軽自動車は、オフィスビルから二メートルほどの位置に、壁に前を向けて停められている。 ラジェスワルが倒れていたのは空き地の反対側、民家の近くだ。 「どういうことですか」 三度問われて、わたしも覚悟を決めた。バランに向き直る。 「この空き地には照明がありません。いまは日が長い時期ですが、この街は周囲を山に囲まれ ていますから日没は早くなります。夜になってしまえばビルから漏れる照明と、月明かりぐら いしか明かりがなかったはずです。 「照明 : 「民家は空き家ということですからなおさらです。七時ならまだ早い時間ですから、オフィス ビルには明かりがあったかもしれませんが」 ハランはかぶりを振った。 316

2. 王とサーカス

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3. 王とサーカス

「そうですー 「タチアライ・マチ ? 「はい。あの : : : 」 何か言いかけた途端、男が怒声を上げる。 彼はわたしの二の腕を掴もうとしてきた。咄嗟のことで、わたしは反射的に身を捩り、体を 引いてしまう。しまった、と田 5 った時には遅かった。 「抵抗するか ! 」 後ろの三人が警棒を手にする。わたしは両手を挙げ、何もするつもりはないという意志を表 示する。それが通じたかどうかは微妙なところだった。彼らは殺気立っている。 「お待ちなさいー 丿 = = ロオ警官たち 八津田がすっくと立ち上がり、静かな顔つきで、何事かを続ける。ネパーレ吾ご。 は八津田が目に入っていなかったのか、驚いたようだったが、八津田が一言葉を進めるに従い、 話 神妙に頷き、構えた警棒を下ろした。 ネパール語の会話が終わるのを見計らい、わたしは八聿田に向けて口を開く。日本語が出か茶 けたけれど、警官たちの前で彼らの理解できない言葉を使うのは危険だ。英語で言い直す。 「なんて言ったんですか」 八津田はわたしを安心させるように微笑んだ。 241

4. 王とサーカス

年前にサガルの兄が亡くなった時、放心するサガルに菓子をあげたとも聞いている。トーキョ ーロッジにはよほど長逗留して、この味にも馴染んでいるのだろう。 につけいちょ、つじ 甘さが去ると、紅茶の香りに加えて肉桂や丁字や、他にもかぎ分けられないいくつもの香辛 料の名残がふうわりと口に残った。もう一口飲むと、甘さに心構えができたためか、その味の 奥行きもわかってくる。 「これは、チャイですね」 インドのチャイによく似ている。あるいは、同じものだろ、つ。八聿田は頷いこ。 一口ごとに甘さが体に染みていく。いまは、気を抜くべき時ではない。けれど、このひとと きの休息は、これから始まる困難な仕事への気力を整えてくれるような気がした。 「警察では」 と、わたしの方からロを開いた 「市内で起きた殺人事件について、いくつか質問を受けました。被害者はわたしが取材した人 物だったので、彼の足取りを確かめたかったようです」 「ふむ」 「取り調べの警官には英語が通じましたので、意思疎通の問題はありませんでした。簡単な検 査で疑いも晴れたらしく、あっさりと解放されました」 被害者の写真をわたしが撮っていたことは、警察に連行された件とは関係がないので触れず においた。八聿田は深く頷いた。 286

5. 王とサーカス

る。本書はこのような時代に、どのように向き合うべきかも問い掛けているのである。本書は ミステリとしてはスロースタートで、殺人事件が発生するのは中盤となる。ただ謎解きが始ま貯 ると、事件解決につながるとは思えない冒頭部から周到に伏線が配置されていることが分かる。 この手掛かりの隠し方や、伏線を意外な形でリンクさせる万智の推理そのものが、与えられた 情報を鵜呑みにするのではなく、主体的かっ批判的に読み解くメディアリテラシーの重要性を 一小しているよ、つに田 5 えた。 秀逸な探偵論を通して、ジャーナリズムの本質に迫るテーマは、短編集『真実の一〇メート あわ ル手前』でさらに深められているので、本書と併せて読んで欲しい。

6. 王とサーカス

「いけない : : と言いますと、出国できなくなったのですか ? 」 確かロプが、王宮事件の余波のせいか国外に出るチケットが取れないと嘆いていた。しかし 2 吉田の帰国は前から決まっていて、当然航空券も取っていたはずなのに。 八津田は首を横に振った。 「いえ」 「では ? 」 「吉田さん、体調を崩しまして」 一日に八津田に連れられて「よし田」に行った時のことを思い出す。にしそうでも愛想よく 笑ってくれる、気持ちのいい人だった。 「お加減は、だいぶ悪いのですか」 「いや、それが : なぜか八津田は歯切れが悪い。 「なにしろこの情勢ですから、生涯を賭けるつもりで店を開いた吉田さんとしてはだいぶ気を 揉んだのでしよう。それで : : : い え、だから仕方がないとは言いませんが : : : 」 「どうしたんですか」 もう一度頭を撫で、ペちりと叩き、それで思いきったようだ。顔を上げ、 「大麻を吸って、寝込んでしまったのですー 「ああー

7. 王とサーカス

王宮前は静かだった。どよめきは重い霧のように立ちこめているけれど、それらは怒りやかな ささや しみといった明確な方向性を持たず、ただ個々の囁きが響き合っているようだ。 見える範囲の人々には共通点があるように田 5 えた。戸惑いだ。およそ信じられないニュース に接してとにかく王宮に駆けつけたものの、何をすればいいのかわからない、茫然自失した人 の群れがそこにあった。 間近に、小綺麗なシャツを身につけた若い男性がいた。メモを取り出し、英語で話しかけて みる。 「すみません」 「えつ。ああ、僕ですか」 「日本の雑誌、月刊深層の記者で、太刀洗といいます。お話を聞かせていただけますか」 男は目を丸くして言った。 「日本の記者 ! では、もうご存じなのですね」 「何をでしよう」 「我々の国王が亡くなったんだ。こんな悲劇はないよ」 「お察しします」 わたしは深く頷いてみせた。 「皇太子が撃っただなんて、信じられない。バイ・ティカをしてくれた妹を殺すだなんて、考 えられないことだ」 118

8. 王とサーカス

「お守り代わりって、お守りが必要な事態があったんですか」 吉田は曖昧な苦笑いをした。 「そういうわけじゃないんですがね。店を開ける時に飾ったら、外すタイミングがなくって」 八津田が唸った。 「いや、お恥ずかしい。なまじ置れているだけに見えていなかった」 、、ヾールでは、ああいう写真はよく掲げるんですか」 「さあ、どうですか。見かけることはありますが、どこにでもあるという風ではないようです」 わたしは、深い考えもなしに一一 = ロ、つ。 「この国は王制だというイメ 1 ジがありませんでした」 八聿田は頁、こ。 「無理もない。私もこの国に来るまで、、イノ 、ヾールに持っていたイメージはお釈迦さまとヒマラ ヤ、それに : : : カレーぐらいのものでしたから」 「カレー ? 「インドと区別がついていなかったんですな」 思わず頬が緩んだ。八津田はそんなわたしを優しい目で見ていたが、湯呑みに口をつけると、 長く息を吐いた。 「来てみれば、いろいろとわかります。たった十一年前まで、この国は国王が親政を行ってい ました。民主化されてからも、王様が重要人物であることは変わりません」

9. 王とサーカス

コップに手を添える。八津田の一言うとおり、熱くて持てない。コップの上の方をつまむよう に持って、そっと口に運ぶ。 深い溜め息が出た。 「いいですね。嬉しいです」 八干田は、にこにこと頷いている。 茶を飲むうちに、一つ気になってきた。 「八津田さん。その袈裟は、いつもと同じものですか」 袈裟の色は褪せた黄で変わらないが、どことは一一一一口えないけれど上等なものになっているよう に見えた。八津田は自分の着ているものを見下ろし、 「ああ」 と呟いた。 「何かと思いましたが、 さすがに記者さんの目は鋭い。違、つとわかりましたか」 「なんとなく、ですが」 話 八津田は袈裟の裾を軽く振った。 「いつもの袈裟です。違、つのは着方です。体に巻き付けるだけなのは同じですが、こちらの方茶 が少しだけ複雑になります。久しぶりでしたが、昔取った杵柄ですか、体が覚えていました」 「本式ということですか」 「そうです」

10. 王とサーカス

一昨日、わたしはここで覚悟を決めて階段を下りた。あの時は周囲を見まわす余裕がなかっ た。今日、警官たちは懐中電灯で四囲を照らす。 廊下の突き当たりには、エレベーターがあった。一昨日はその存在にさえ気づかなかったの だから、わたしもよほど視野が狭くなっていた。階数ランプの「 1 」が点灯している。警官た が、、パール語で囁き合う。電気が来ていることを不審に田 5 ったのだろうか やがてバランが振り返った。 「タチアライさん。あなたがラジェスワル准尉に会った時、このエレベーターのカーゴは何階 にありましたか」 わたしは首を横に振った。 「すみません。わかりません」 「そうですか」 そして、彼は足元を照らした。 「何かを引きずった跡があります」 言われなければ、わからなかったかもしれない。それほど微妙な痕跡だった。しかし照らさ れた廊下に目を凝らせば、なるほど確かに、それらしい跡が延びている。どこから来ているの か辿っていくと、エレベーターの前で途絶えていた。 「これは : 「誰かがエレベーターを使って何かを運んだ、ということですね