細胞膜 - みる会図書館


検索対象: 生物と無生物のあいだ
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1. 生物と無生物のあいだ

を行うことは到底不可能てある。 ならば出発点に遡るしかない それは受精卵てある。もし受精卵の遺伝子に対して、あ るデータを消去することがぞきればどうだろうか。受精卵から出発したすべての細胞は同 じゲノムのコピーを受ナ 。ぐから、全身の細胞から特定のタン。ハク質の存在を消すことが 可能となる。少なくとも理論的には。 ここても自然が行った偶然の実験例がある。遺伝性の先天性欠損疾患てある。受精卵上 の遺伝子異常が、全身の細胞に反映された結果、障害が発生する。これを偶然てはなく、 意図的に、しかも遺伝子のみを標的として引き起こすなどとい - フことが可能だろ - フ 、刀 単細胞生物の場合、ある特定の遺伝子をノックアウトする実験が実現てきるのは、それ が意図的に、自由自在に行えるからてはない。「数」がこなせるからてある。特定の遺伝 子がたまたまノックアウトされた細胞を、大量の細胞の中から選抜てきるからてある。シ ャーレの上にある数十万、数百万 し」い - フ細んの・中か、ら。 高等動物の受精卵てはこのようなことはぞきない。受精卵を数十万の規模て大量に集め ることは不可能てある。 そしてもうひとつの要素は、受精卵は決して実験者のために〃立ち止まってはくれな 2 4 4

2. 生物と無生物のあいだ

/ ということてある。受精卵がシャーレの上て生育てきるのは受精直後のほんのわずか な時期てあり、このあとは母胎環境てのみ正常な細胞分裂と分化が進行する。受精した瞬 そして決して逆戻りすること 間、発生と分化の時計は時を刻み始め、止まることのない、 のないプログラムが進行する。ここて無理に実験的な介入を行えば、受精卵は発生を止め る つまり単細胞生物に対して行えたような操作の余地ーーー低い確率ながら遺伝子に変異を といったことが成り立 引き起こさせ、それが成功した細胞を多数の中から選抜する っタイミングが存在しえないのてある。数とタイミングの間題。 しかし、曙光は不思議な地点から射し込んてきた。 12 9 系マウス ボストンはニューヨークから約二百キロ北上したところに位置する。ボストンからイン ターステイト高速道ルートをさらに北へ上がるとまもなくマサチューセッツ州は終わ ハンプシャー ー , に一人る。 ルートはゆるい起伏を繰り返しながら広大な森林地帯を進む。黄色いカエデを中心と した落葉広葉樹林と細い針葉樹林がモザイク状に帯を織り成して現れる。川を渡る細い橋 しょこう 245 第 14 章数・タイミング・ノックアウト

3. 生物と無生物のあいだ

色の顆粒はまさに、 , ) 一に隹木つご、中冂レ」 酵素タンパク質を蓄えたこの球体群だっ は化終 z 消経 たのぞある。 ついてこの場所て劇的なことが起こ 必本敷 い「像年ジ刺 る。球体を包む膜の一部と、細胞全体を 包む膜の一部が接近し、接吻を交わした 顕るは分 次の瞬間、膜同士が融合を果たすのだ こ体矢 状胞 筆すると球体の内部と外界に絡路が開き、 細いに管 臓黒る 空間がつながる。つまり細胞の内部にあ 膵※じ った外部が、 本当の外部へと開口するの てある。こうして消化酵素は細胞外へと、すなわち消化管に向けて放出される。 私が、読者諸兄の食傷を承知て、ここてあえてこまごまと細胞の内部プロセスを繰り返 したのは、細胞内部ぞ作られた消化酵素が細胞外に出るまてに いかに多段階の膜動態が 関ケしているかをあらためて知っていただきたかったからてある。膜の出芽と離脱、球体 の形成、細胞内移動、特定の細胞膜領域への移動、細胞膜への接近、接触、膜融合、そし て開口。もしこの小さな球体を覆う膜が単にリン脂質からなる薄い膜だとすれば、決して 2 1 2

4. 生物と無生物のあいだ

この風船をたくさん試験管に入れ、かき回す。温度を上げて熱運動をさかんにして接触 いに敷しくぶつかり合っても、決し や衝突する頻度を上げてやる。しかし風船はたとえ互 て融合して大きな風船になることはない まして一部がくびれて内部に外部を作り出すこ し J O わない 個々の風船は風船のままている。つまり細胞膜はそれ自体、きわめて安定な構 造体なのてある。これはバリアーとして当然の特性てもある。 ところが、この薄い皮膜は生物の内部にあっては、あるときには内向きに陥入して細胞 の内立ロ ににト胞体という区画を作る。すなわち細胞の内部に外部を作り出す。また別のとき ト胞体皮膜は細胞の外側を包む皮膜と融合する。これら細胞膜の運動は、早い場合 には秒単位て、しかも自山自在に起こり - フる。 私たちのメンター、ジョージ・ ハラーディが私たちに遺した宿題はこうてある。 物理化学的にはきわめて安定て不活性てすらある細胞膜が、生物学的にはなぜかく もダイナミックかつ高速に変化変形しうるのだろうか この引いに対して、〃観念論的に〃答えるのは簡単てある。細胞膜の内や外、あるいは その周縁には、目に見えない徴細な精霊たちが常に飛び交っており、彼ら彼女らが、ある 2 0 8

5. 生物と無生物のあいだ

となるのかを知るフロセスてもあった。それゆえにこそ、今日、私たちがタ、ハコに含まれ る変異原性物質を忌避し、チェル / プイリの臨界事故を悲惨な記憶としてとどめることが てきるのてある ) 。 このように遺伝子を人為的に破壊して、その波及効果を調べる方法を、「ノックアウト / ックアウト 実験」という。遺伝子を叩き潰すという、アメリカ人ならてはの乱暴な言い回してある。 私たちが行おうとしていたのはまさにノックアウト実験てある。それも大腸菌が マウスのような多細胞生物に対して。は大腸菌のような単細胞生物 相手ぞはなく、 には存在せす、高等動物て機能しているタンパク質だから。 ノックアウト実験の障壁 生物学の歴史は、方法の歴史てもある。ノックアウト実験を、単細胞生物てはなく、多 細胞生物に対して適用するには大きな技術的障壁が立ちはだかっていた 多細胞生物には、ひとつひとつの細胞にひとつずつゲノムがある。だから全身から、あ るタンパク質の存在を消すためには、すべての細胞の、すべてのゲノムに対してデータ消 ヒトては、あるいはマウスのような実験動物ても、ひとつの 去を施さなくてはならない 個体は数十兆個の細胞からなっている。したがって個々の細胞に対してノックアウト実験 243 第 14 章数・タイミング・ / ックアウト

6. 生物と無生物のあいだ

ときは膜を押しあるときは引き、また別のときは手に手をとってそれを東ね、くびれさ せ、さらにはくつつけ合わせているのてある、と。 てはこのド 日円、に↓リし、第 ~ 夫亠仕ム刪的に / 大口、んるにはど - フ亠 9 れ、はよい・ごろ - フかみ、れはこ - フ てある。 細胞膜の内や外、あるいはその周縁には、徴細なタンパク質が多数存在し、常に細胞莫 と相互作用を起こしている。タンパク質はそれぞれ固有の構造に由来する相補性を有して いる。その相補性によって、あるタンパク質がリング状の環を形成すれば、柔らかな細胞 膜はくびれ取られるだろう。月 、胞体膜に結合したタンハク質 < が、細胞膜に結合したタン ト胞体膜のその部分は、細 ハク質との間に、 鍵と鍵穴に似た特異的な結合を起こせば、 胞膜の特定の部分に引き寄せられるだろう。また別の、膜結合型のタンパク質群が細胞膜 の内側に沿って、その相補的関係に基づくカゴ状のネットワーク構造を形成すれば、細胞 莫は、カゴに要所要所を糸て結ばれてかぶさる薄い布のごとく、あるときは球面に、ある ときはアミーバ様の不定形に、ときには赤血球のような特徴的なくばみを持っ曲面をとる 一 ) し」に」た 6 っ Q ・、」っつ - フ つまり精霊たちが結びあう手とは、すなわちタンパク質の形なのてあり、生命現象が示 す秩序の美は、ここてもまた形の相補性に依拠しているのてある。 209 第 12 章細胞膜のダイナミズム

7. 生物と無生物のあいだ

かになるタイミングを待っている細胞が多数存在していたのた , ) の ( ト , 細胞は これが坏性幹細胞 (embryonic stem 〔 ES 〕 cell) 樹立の瞬間だった。 引由に対する待った 数とタイミングに関して、本来、生命のプログラムが持っている、時 なしの一方向性から免れた稀有の性質を有していた。細胞をもともとの胚から切り離 して、シャーレの上て栄養をえて育ててやると分化プログラムが停止する。しかし細胞 分裂は止まらない。無個生のまま無限に増殖することがてきる。つまりタイミングが止ま ったまま数だけが増えるのだ。 増えた細胞を、別に作ったマウスの胚の中に細いピペット み、して敬馬ノ、べ当」こし J に、 て流し込んてやると、細胞はそのマウスの胚の細胞群とうまく折り合いをつけて胚の 一部となりかわり、分化のプログラムを再開させて、やがてまったく健康な一匹のマウス となるのてある。つまり細胞は、腫瘍のような混沌をもたらすのてはなく、秩序だっ たふるまいをする正常な始原細胞なのてある。 このとき、マウスの身体のある部分は細胞山来の、そしてまた別の部分は細胞 を受け入れた胚由来の細胞から形成されていることになる。つまり細胞は、あらゆる 細胞に分化するポテンシャルをその内部に秘めていることになる ( ただし、細胞は、 神経や筋肉や歯や毛といったさまざまな分化細胞になることはてきるが、細胞だけ。 249 第 14 章数・タイミング・ノックアウト

8. 生物と無生物のあいだ

私たちははやる心を抑えて一歩一歩、慎重に進んていった。この特別な細胞を十分 な数、増殖させてから、その半数を凍結保存した。貴重な細胞は徴小なプラスチックチュ ープに入れられてマイナス 195C の液体窒素ドラムの中に沈められた。今後、実験が何 らかの間題によって失敗したとしても、この冷凍保存細胞を解凍して、もう一度この 地点から実験を再開することがてきる。 この胚に細胞を 一方て、私たちはマウスを妊娠させ、そこから胚を採取してきた。 入れる時期が重要となる。フリーズされていた分化のプログラムを再開させるタイミング がここてはクリティカルとなる。 受精五日ほどて胚盤胞と呼ばれ 受精卵は次々と細胞分裂を繰り返し胚を形作ってい る中空のボール状の細胞群塊となる。このとききわめて細いガラスピペットを使って、 細胞を中空の胚内部に導入する。こうしててきた胚盤胞を、あらかじめ疑似妊娠状態に しておいた代理母マウスの子宮に入れて、胎児が育っていくのを見守る。すべてのステッ プに最高度の熟練と実験設備が要求される。実際、各ステップごとに七桁規模の研究費が 費やされていった。 代理母マウスから生まれた子供の毛並みは黒地に褐色の、〃ぶち〃模様を呈している。 子供は、ひとつの個体として統合されているものの、細胞と胚盤胞細胞の混在から成 251 第 14 章数・タイミング・ノックアウト

9. 生物と無生物のあいだ

ズルのピースのよ - フ は互いにその表面の徴細な凹凸を組み合わせて寄り添う。ジグソーハ に、その結合は特異的てある。しかし、特異性を担う要素は、ジグソーピースよりすっと 複雑。て多様てある。特別なアミノ酸配列が作り出す立体構造のアンジュレーション ( 起伏 ) プラスとマイナス電荷の結合、親水性と親水性、疎水性と疎水性など似たもの同士の 親和性など化学的な諸条件を総合した相補匪てある。 筋肉の構成単位は、アクチンとミオシンと呼ばれるタン。ハク質が組み合わさった相補的 な構造てある。そこにさまざまな別の制御タン。ハク質が参画して機械的な運動を生み出 す。複数のタンパク質の相補的結合から構成された分子装置は細胞のあらゆる局面に位置 し、生命活動を営む。 メッセンジャー Z の配列をアミノ酸配列に変換するリボソームは、数十種のタンパ ク質複合体てある。細胞内タンパク質分解を担うプロテアソーム、タンパク質の細胞膜通 過を制御するトランスロコンなども巨大な分子装置てある。それらはすべてタンパク質ー タンパク質の相補的結合から組み上げられている。 相補生はまた、必ずしも常時、近接したタンパク質間に見出せるとは限らない。血糖値 の上昇に反応して膵臓ランゲルハンス島から血液中に放出されたインシュリンは、身体を めぐった末に、脂肪細胞の表面に存在するインシュリンレセプターと特異的かっ相補的に 1 7 6

10. 生物と無生物のあいだ

ンシュリンやグルカゴン ) を血液中に送り出す作業 ( 内分泌 ) てある。いずれも、細胞の内部 て作られた消化酵素やホルモンが、細胞の外 ( 消化管や血管 ) へ送り出されるという現象 これは実際、このよ - フにさらりと説明てきるほど簡単なことてはない。 なせなら細胞 は、細胞膜というしなやかてきわめて薄く、しかしとても丈夫なバリアーて覆われた球体 てあり、これによって細胞内部の生命環境は、外部環境から厳重に隔離されている。細胞 膜は一種のシールド ( 防御壁 ) として存在するのぞ、外部の物質は容易に細胞内部へ侵入 ごし J 、ん。は、 , 細胞膜 することがてきない そのかわり、細胞内部の物質もそう簡単には もし、そんなことが起これ を突き破るような様式てはーー、外部に出ることがてきない。 ば、外部環境から一挙に雑多な物質が流入し、内部環境からは重要な物質がどんどん流出 することになり、生命の秩序は一瞬にして崩壊する。 それゆえ、細胞の内部から外部へ物質が〃分泌みされるためにはきわめて精妙なメカニ ズムか仙いているに違いない これは細胞の動的なありようを理解するうえてとても重要なことだった。万一、この分 泌メカニズムか円滑に進まないと、 栄養素を分解するための消化酵素が不足したり、ある いはインシュリンが十分、血液中を循環しなくなることが予想される。そのような事態が 19 0