地主と借地人の複雑な関係 「底地権」と「借地権」 本章は土地と建物の名義が異なっている場合の共有名義不動産トラブルについて紹介し 士ましよ、つ。 つまり、土地の所有者である地主と、その土地を借りて建物を建てるなどして利用して いる借地人とのいざこざになります。 まず前提として知っておいていただきたいのが「底地権」と「借地権」です。 地主が借地人に土地を貸して、借地人がマイホ 1 ムを建てていたとしましよう。このと き地主は底地権、そして借地人は借地権を有していることになります。 底地権と借地権が合わさって初めて所有権になります。所有権がないと、その土地を好 きなよ、つに利用することができません。 ですから地主がいきなり「ここにお店を建てるから出て行って」と借地人に強要するこ とはできませんし、逆に借地人が「今月引っ越すので来月からの地代 ( 貸借料 ) は払いま せん」と一方的に提案することもできません。 1 92
子どもの代になったら突然地代を上げてきた、といったパターンはよくある話です。基 本的には土地を貸している地主の方が上の立場ですから、反対しようものなら「なら出て 行け」と言われかねません。 特にトラブルとなりやすいのが、相続に伴い土地が共有名義不動産となった場合です。 こよっては共有関係を解消する 1 つの土地で、地主が複数いることになり、遺産分割協議し ため、借地人に「土地を売却するので契約を解除したい」と持ち掛けてくるかもしれない のです。これでは借りている側も堪ったものではありません。 少ないからこそ難しい いずれにしろ、地主と借地人のトラブルというのは幾種ものパターンが考えられ、また 土地にしろ建物にしろ共有名義不動産となると事態はさらに複雑となってしまいます。 、 , いご丁 / \ 工よ ノイー 土地と建物の権利者が別というのは、不動産全体から見てもほんの少し。都 , どこのケースは少なくなっていきます。 しかし、だからこそ、いざトラブルが癶无生したとに「こ、つい、つトラブルのとさはこ、つ いう解決法がある」という回答例が少ないため、問題は迷宮入りしがちなのです。 ここからは借地人サイドの相談者によるトラブル事例を紹介します。解決方法も明示し 1 94
図表 14 地主と借地人の複雑な関係 土地の借主 建物の所有者 ロロ ロロ建物 借地権 聖底地権 土地の貸主 借地人 多くは、貸している地主に優位性はありますが、 契約書を交わし一定期間の貸借関係を取り決めてい る以上は、それに背いた行為は行えないのです。 確かな所有権が存在しない分、扱いが難しいのが この底地権と借地権の関係といえるでしよう。 ん 共有不動産との関係性 ま さて、この地主と借地人の関係が共有名義不動産 で 避 にど、つ影響を与えるのでしよ、つか 回 例えば借地権付きの建物を共有していた場合、共 有者間での合意があっても、全体や一部持分の他者ラ の への売却は安易には行えません。地主の許可や契約 AJ 主 関係解消など、手続きが各種必要になってくるから 地 章 です。 また、地主が代を移したときにトラブルとなる可第 能生もあります。
地主の立場からいえば地代を払ってくれる対象がいきなり変わるのですから、きちんと した許可が必要になります。もし購入した他者が地代を払ってくれないようないい加減な 人であったら一大事だからです。 このようなケースにおいて、地主が借地権付き建物の売却を断固拒否することは珍しい ことではありません。 「私の土地なのだから、私の意見に従うべきだ」と主張し、さらには事例のように借地 権の返却を要求してくることもあります。 地主が「ダメ」と主張したら、借地人は売却を諦めるしかないのでしようか。 借地非訟事件 相談者さんは「全体売却」を想定していました。しかし、お姉さんはこれに反対でした。 そこでまず相談者さんの持分だけを売却することを提案したところ、「自分の持分だけ 売れるんですね」と驚かれていました。 借地権付きであっても、持分売却は可能です。地主に相談者さんの持分を他者へ売却し たい旨を伝えたところ、難色を示され、「借地権を戻してほしい」の一点張り。地主の意 見が変わる気配はありませんでした。 203 第 6 章地主とのトラブル、回避できませんか
深刻化する空き家間題 所有者不明土地は九州サイズに 誰が所有しているのか分からない土地、いわゆる所有者不明土地。 国土交通省の発表によると、所有者不明土地の総面積は 2017 年時点で九州の面積に 匹敵するといわれています。 きちんと登記を完了させていなかった土地は、相続人たちの共有名義不動産になります。 代を重ねるごとに共有者は増えていき、いざその土地を何かに利用したくても、共有者は 何十人という状況になってしまっています。 全ての共有者からの承諾を得ないといけないのですが、所在を追うだけでも一苦労です。 ほば不可能ということも多いのです。 「うして所有者の分からない土地は放置され、時代とともに延々とその領域を広げてい ます。 このまま拡大すれば、年ごろには所有者不明土地の総面積は北海道に及ぶこと になるのだそうです。これは由々しき事態でしよう。 138
穴だらけのスポンジ化 所有者不明土地は世の中にどんな問題を引き起こすのでしようか。 「土地を利用して公共の道路を通したいが、所有者が分からないため計画が一向に進ま ない」 こういった公共事業への支障が深刻となっています。地方に行くほど所有者不明土地が 山や森林規模で点在するため、より一層、公共事業の用地取得が難しくなっているのです。 早急に対応しなければいけないときにも、思わぬ所有者不明土地のわなに掛かることが あります。 「台風によって崩れた急傾斜地を整備したいが、相続人の特定に手間取り着手できない でいる」 これも深刻な事態といえるでしよう。「緊急事態なのだから自治体の判断で決行しても よいのでは ? 」と感じるかもしれませんが、法律上はそうもいかないのです。 所有者不明土地が増えれば増えるほど、使用のできない「土地の穴」がばこばこと増え ていきます。 都市部を中心に「スポンジ化」は激しく、このままだと無駄に遊ばせたままの土地が地 1 39 第 4 章放置したままの空き家や空き地、どうにかしたい
「親から相続した建物と土地があります。相続したのは私と弟で、建物には私が住み、 土地の一部は空き地の状態で使用していませんでした。 相続時に登記は行っていません。 先日、知り合いの方から『空いている土地を購入したい』という申し出を受けました。 私としても土地を遊ばせているのはもったいないと感じていましたし、相続した家がだい ぶ古くなり、大規模な修繕費が必要だったこともあり、二つ返事で承諾しました。 近辺の相場から換算した土地の価値は万円。交渉を何回か重ねた結果、知り合 いで何かとお世話になった経緯もあり、 Q-OOC 万円で売却することになりました。 その後しばらくして弟と会った際に、土地を売却した旨を伝えました。すると弟から、 『売るなんて聞いていない』 『自分にも相続権があるのだから、売却金を受け取る権利がある』 『相場は万円なのだから、半分の万円は欲しい』 相談なく勝手に売ったことに弟は貭既していて、『 L-occ 万円でないと納得しない』と かたくなに言い張り、揚げ句には『よこさないと訴える』とまで言われてしまい、大変弱 っています。 売却金はすでに家の修繕費としてほとんど使ってしまい、弟に万円を払う余裕は
図表 5 忘れちゃいけない「相続登記」 土地 父 ( 1000 万円相当 ) 600 万円で 兄が勝手に売却 兄 弟 ありません。 私としては、親から相続した建物と土地を = 一長く管理してきましたし、きようだい間の暗 黙の了解ではありますが、建物と土地の所有 第 権は私にあるという認識があり、売却のタイ ミングも私だけで決められるものと思い込ん お て でおりました。 え 覚 私は弟に売却金の一部を渡さないといけな いでしようか。渡すとしたらどのくらいの額 の 避 が適切なのでしようかー 回 プ これまで述べてきた通り、相続した瞬間に 続 共有関係は発生します。相続時にきようだい 章 間で遺産分割協議は行っていなかった様子で 第 すから、事例の建物と土地はきようだいの共 有物であり、持分は半分半分です。
はじめに いきなりですが質問です。 あなたはご両親から相続した家や土地をお持ちですか ? もしくは、将来相続することになりそうな家や土地をご両親がお持ちでしようか ? もし「はい」と答えたなら、次の質問です。 ご両親やごきようだいと話し合い、不動産を将来どのように利用または処分するか決め ていますか ? え」と答えた方に大変役立つ一冊になります。 本書は、この質問に対して「いい 「親が遺した不動産があるけど、誰がどのように相続したのか分からない」 「自分は相続の手続きに関与していない」 「取りあえず親から相続したけど、空き家にしたまま放置している」 そのようなかたちで相続したのだとしたら、その家や土地は「共有名義不動産」の状態
図表 7 知っておこう「共有」のルール 単独でできること ・保存行為→雨漏りの修繕、ドアの立て付けの修理など ・自己持分の売却 ※誰も不利益にならないことがポイント 過半数の同意でできること ・管理行為→土地の地ならし、キッチンの改装といった部分的なリ フォーム ・賃貸契約の締結および解除 ( 建物 3 年、土地 5 年以内 ) 全員の同意でできること ・変更行為→山林の伐採、田を畑に変更する、土地に建物を建てる といった大規模なリフォーム ・全体の売却 つでも独断で売却できます。 共有関係のいざこざに巻き込まれたとき、最 も迅速に解決する方法がこの持分の売却で、オ ーソドックスなトラブル解決策です。 A 」 「不動産の共有持分を買ってくれる人なんて いるの ? 」 お という疑問を持たれることでしよう。 て え 建物や土地全体の不動産取引であれば買い手覚 め はたくさんいるでしようが、共有名義不動産の 場合買い手は限られていて、主に投資家と買取避 回 業者になります。 プ いずれにしろ、資産運用を目的として投資家 は持分を購入します。 収益不動産であれば共有した瞬間から持分相 ワ」 第 応の家賃収入を獲得できるので、投資商品とし ての価値があります。