詳しいことはすでに紹介しているのでここでは省くとして、この方法はメリットとデメ リットが明確に見えています。 メリットは、最終的に必ず何かしらの方法で分割できることです。そしてデメリットは、 裁判所に判断を委ねるため、必ずしも自分の希望の分割方法になるとは限らないことです。 競売になることが多いのですが、相場よりも減価されて売られるケースが多いことは覚 しておくべきでしよう。また訴訟しイ こ半う費用がかかりますし、それなりの時間も要する ことになり・ます % まさに最終手段といえる方法です。できればこれまでの 5 つの方法のどれかで決着させ たいところです。 人間関係で決まる解決方法 どの方法にも、際立った特長と懸念すべき点が存在することは踏まえておきましよう。 その上で、自分のケースではどの解消方法が望ましいかをよく吟味したいところです。 多くは他の共有者との関係性に左右されるのではないでしようか。 話しやすい間柄なら全体売却を提案検討したいですし、あまり仲の良い間柄とはいえな いなら自分の判断で行える一部売却が良いでしよう。資金に余裕のある共有者がいれば持 87 第 2 章相続トラブル回避のために覚えておきたいこと
何も見返りを求めずに手放すことになるので、共有関係解消方法の中では最も選ばれに くい方法といえるでしよう。そもそもこの方法を選べるのであれば、トラブルにはなりま せん。よって本書でも、放棄して解決する事例は登場していません。 5 土地を分筆する 分割方法の中にあった現物分割です。 1 つのものを共有者の数の分だけきっちり区分け し登記することになります。建物でこのように分割するケースは極めて少なく、土地の分 筆が大部分を占めます。 現物分割のところでも触れましたが、この方法の難しさは「どう分割するか」にありま す。共有者の持分比率通りに面積を分けたとして、必ずしも各土地の価値も比率通りにな るとは限らないのです。 不動産鑑定士ら専門家の力を借りる必要があるでしよう。 6 共有物分割請求訴訟をする これまで紹介した方法での解決が困難なとき、裁判所に共有物分割請求訴訟を申し立て ることで共有関係を解消することができます。
困ったらプロに聞く ですから、たくさんの共有トラブルに関わり、解決までをサポートしてきた立場として 提案したいことはただ 1 つです。 「少しでも共有関係によるトラブルが発生したら、大ごとになる前に、然るべき専門家 に目火秋しましよ、つ」 当たり前といえば当たり前かもしれませんが、これに尽きると思います。 税金などお金のことでモメそうだったら税理士、不動産の評価額を知りたいなら不動産 鑑定士、取り交わしを正式な書面で残したいなら司法書士、そして法律の力が必要になっ たら弁護士といった具合です。 第三者の視点から、客観的に状況を見渡し、専門的な知識を持って正当な判断を提示し てくれる彼らの力を借りるべきです。 専門家の意見を聞き、専門的な手続きを依頼することで、トラブルに伴う労力を最も低 く抑、んられることでしよ、つ。 「正しい方法を知らなかったために、余計な税金を負担することになってしまった」 「評価額より安値で共有者に不動産を売却してしまった」 209 第 7 章いざというときのために知っておきたい大切なこと
また、いずれの分割方法もそうですが、相続人全員の同意が必要であることを忘れては いけません。「相続した不動産を売るなんて」と反対されてしまったら、この方法は成立 しないことになり - ます % 共有するなら決めておきたいこと 十分に話し合った結果、分割せずに「共有関係でいこう」と決着することは決して珍し いことではありません。 今紹介したように、分割方法にはそれぞれネックがあり、協議が調わなかったら、分割 ではなく共有の道を選ぶことも 1 つの解決策になります。 共有関係を継続することになった場合、今後のトラブル回避のために遺産分割協議では さらに次のことを決めておきましよう。ここからは共有名義不動産の持分を有している人 たちを、相続人から共有者へと呼び替えて説明しますが、意味合いとしては同じです。 不動産の管理方法 不動産を誰が管理するのかを決めましよう。共有者の誰かが住むのであれば、その人が 管理するのが自然です。 43 第 2 章相続トラブル回避のために覚えておきたいこと
続人に当たります。信託財産から得られる利益を受け取る人たちになり、これも委託者が 指名することになります。 委託者の役割をより詳しく説明します。 例えば受託者の判断によって、委託者から管理を任された信託財産を売却したとします。 と 売却金は当然受託者のものではありません。受益者たちに分配されるのです。分配方法 は受託者が決めることになりますが、不公平があれば受益者たちが異議を唱えることもで お きます。このように受益者には受託者を監査する権限があります。 て え 信託契約自体は委託者と受託者との間で契約書を交わせば成立となるので、基本は費用覚 のかかるものではありません。ただし登記では形式上、委託者から受託者に名義を移転す の ることになるので、その際の費用はかかるでしよう。また信託に伴う税金発生の可能性も 避 回 ル 考えられます。 プ 他にも留意点はいくつかあるので、家族信託を利用する際は、司法書士や弁護士や税理防 続 士といった専門家と連携しながら進めていくのかいいでしよう。家族信託に強い専門家を 相 章 探すことがポイントです。 ワ」 第 9 一
真の意味での平等な分割を目指すには十分な協議が必要になります。不動産鑑定士や弁 護士などの詳しい専門家に頼るケースも少なくありません。 2 代償分割 ( 価格賠償 ) 不動産を特定の相続人が取得して、その分の代償金を他の相続人に支払う分割法です。 例えば万円の土地をきようだい 2 人で相続していて、兄が弟の持分を代償分割 で取得するとしたら、兄は弟へ万円を支払うことが基本になります。 買い取ることになりますから、それなりの資金が必要です。資金に余裕のある相続人が いないと、この方法は成立しないでしよ、つ。 3 代金分割 ( 換価分割 ) 不動産を売却し、その代金を持分に応じて各相続人に分ける分割方法です。 きようだい 2 人で共有していた土地を万円で売却したら、万円ずつ分け 合、つとい、つことです。 非常にオーソドックスな方法で、最も決着の早い分割方法ですが、売却金額をいくらに するかで協議が難航することもあります。 41 第 2 章相続トラブル回避のために覚えておきたいこと
3 持分を移転する 共有者間で持分の売買を行い、単独所有によって共有関係を解消する方法です。 自分 1 人の名義とするために他の共有者たちの持分を買い取ったり、もしくは他の共有 者 1 人の名義にするため自分たちの持分を買い取ってもらう、ということです。 この方法は買い取る資金がないとまず成立しません。また双方が納得できる金額にしな お て いといけません。 え 「知った仲だから」と安い価格で売買するのはご法度です。税務署に贈与と見なされ、 め 買い受けた側が贈与税を負担することになってしまうかもしれないのです。取引金額の設 の 定には気を付けましよう。 回 珍しいケースとして、売買ではなく交換による持分移転もあります。ただこれにも条件 プ があり、持分を有する財産が複数ないと成立しません。 章 4 持分を放棄する 持分を放棄し他の共有者に譲る方法です。 3 人で共有していた共有名義不動産が、 1 人第 放棄して 2 人の共有になる、といったかたちです。
ここまでの総括として、共有関係を解消するための 6 つの方法を復習しておきましよう。 全体を売却する 共有者全員が合意の上で行う、不動産全体の売却です。売却後、持分比率に応じて、売 却金が共有者に分配されます。 最も不公平のない理想的な共有関係解消方法といえるでしよう。逆にいえば、全体が売 却できるのならそもそもトラブルなんて起こりません。 「売りたくない」「金額に納得いかない」と反対する共有者がいたり、音信不通の共有者 がいたりすれば、「全体売却」は難しくなります。 2 一部を売却する 自分の持分だけを、共有者以外の第三者に売却する方法です。 他の共有者の合意が必要なく、自分の意思で売却できる点が最大のメリットでしよう。 ただし、全体売却による分配金よりも、一部売却は減価されるのが一般的です。 また、第三者に持分が移ったことで、他の共有者とモメるケースもあります。トラブル 発生を避けるためにも、買い手を事前に吟味してから売却しましよう。
空き家、第 5 章は収益不動産、第 6 章は地主が別にいる建物について、それぞれのテーマ に沿った事例とその解決方法を紹介しています。あなたがもし、今まさにトラブルを抱え ているのなら、ここに解決のヒントがあります。 第 7 章は付録として、いざトラブルを解決しようと思ったとき、実際にどこへ相談すれ はいいのか、各手続きはどのようにするのかを、簡潔にまとめています。あくまで要点の みなので、参考程度でお読みいただければと思います。 本書で紹介している事例は、実際のものに少しアレンジを加えています。例えば「 5 人 きようだいを 2 人きようだいに変更している」などです。 これは人間関係や状況をシンプルかつ一般的にして、より把握しやすくするためです。 問題の本質部分をゆがめることなく、また、解決方法に違いが出ないよう配慮しながら手 を加えているので、この点はご了承ください。 また法律や制度といったルールについて紹介している部分は、 2018 年 2 月時点のも のに基づいています。今後ルールの見直しが行われた場合、本書で紹介する解決方法が必 ずしも当てはまるとは限らないので、この点もご了承ください。
や「遺言書」についてこれ以上の具体的な内容を述べることは避けます。基礎知識として 押さえておいてください。 これら生前の対策は、共有関係をつくらないために必須、いわば最強の予防策なので、 専門家に相談したり専門書を読んで、いざというときのために準備を始めておくようにし 亠ましよ、つ。 お て 「家族信託」で丸ごと解決 え 覚 め いま最も注目される相続トラブル回避術 の ま注目を集め始めている 共有にしないための方法として生前対策を紹介しましたが、い 回 レ 新しい解決方法があります。 プ それは「家族信託」です。名前の通り、家族に信託することで、財産を「共有」ではな 相 く「信託」という状態にするのがこの方法の核になります。 章 自分 ( 被相続人 ) が将来認知症になってしまったり、病気や怪我によって、財産運用の 判断を下すことが困難になってしまうときに備え、指名した家族の誰かに自身の財産管理第 を任せます。任された家族は財産を継承し、財産に関わる人全てが不利益や不満を持っこ