ハルレポーグ - みる会図書館


検索対象: 石と笛 第1部
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1. 石と笛 第1部

191 さちやす 幸安かれと見まもった 龍はかなたに目をこらし 。ハルレポーグの森を見て はらから かの同胞を待ちうける 待てど暮らせどあらわれぬ くまどの バルレポーグの熊殿を すみかたかどの 熊の住処は高殿の 、、ハルレポーグの城のなか しゆくえん 飲めや歌えの祝宴に 五十と一人の客がきて 。ハルレポーグの熊を訪う 客は宴の席につき 、、ハルレポーグの熊殿は かり、フど 五十のあらぶる狩人の と

2. 石と笛 第1部

聞き耳にいった。「。 ( ルレポーグの森をずっと西に進みなさい。途中でとどまってはいけま せん。あそこの藪のなかからもどってこなかった人たちも、たくさんいるのです。笛の音に 耳をすましなさい。歌が聞こえてきて、それに涙をさそわれるようなら、もう和らぎの笛匠 のいるところは遠くありません。おじいさんに、娘からよろしくと伝えておくれ」それから、 せつぶん 、バルレポーグの森へと馬を進ませた。 母親は息子に接吻し、聞き耳はまっすぐ西へ その日のうちに、聞き耳は森のはずれまでやってきた。馬を木につなぎ、火をおこして、 たくわえの一部を食べた。それから瞳石を袋からとりだして、沈む夕日をうけてたわむれる、 石の色を楽しんだ。頭上の木につぐみがとまり、タベの歌をかなでた。それはとても甘美に 響くので、聞き耳は、もう和らぎの笛匠が近くにいるのではないかと思ったほどだ。でも、 そんなことがあるはずはなかった。聞き耳と祖父とのあいだには、まだ広大な。ハルレポーグ の森がひろがっていたし、それに涙もでなかったから。聞き耳が木を見あげると、つぐみは 頭のすぐ上の枝にとまっていた。いま、つぐみは歌をやめ、聞き耳が手にしている石を、じ っと見つめていた。 「この光りものが気に入ったのかい ? 」聞き耳はいった。そのことばがわかったかのように、 つぐみは木の枝から聞き耳の肩に舞いおりた。聞き耳はもう一方の手で。ハンをちぎると、つ ぐみにパンくずをさしだした。つぐみはその手にびよんととびうつって、餌をついばんだ。 「わたしは、さっそく友たちを見つけたようだね」聞き耳はいった。つぐみは黒くかがやく

3. 石と笛 第1部

せきゅび の席を指さすと、人ごみをかきわけていった。ほかの三人もバルロにつづいた。隅の食卓に は、歌い手のラウリとメルヘン語りのグルロのほかに、キャベッ樽と石採り師のラウロもさ きにきていた。 ぐんりやく 「やあ、きたね . ラウリがいった。「これで、軍略を立てられる。まあ、すわって、旅のほ さかずき こりを喉から流しな」ラウリは赤ぶどう酒を用意してあった杯につぎ、聞き耳は、みんな にラゴシュをひきあわせた。 りよ、つし さっ 「匂いから察するに、漁師だね」ラウリがいった。「これは、ちょうどよかった。わしらの 大部分は、川に沿ってバルレポーグにむかうことになるからね。そうなると、舟をあっかえ ひつよう 、バルレポーグ征服の手はずをすっかり考えてあ るものが必要になりそうだ」ラウリはもう びん るらしく、ほかのものにはロをはさませなかった。「いいかね」そういって、ぶどう酒の瓶 じよう を食卓のまんなかにおいた。「これが・ハルレポーグ城だ」それから、人さし指をぶどう酒に さかずき ゅびせん ひたすと、ひびの入った食卓の上に、瓶から自分の杯まで、ぬれた指で線をひいた。「こ んなふうに、 Ⅱは。ハルレポーグから、この杯のあるドラグロープまで流れていて、ここで、 ごうりゅう ほかの川と合流している」っぎにラウリは、瓶のうしろにパン籠をおいて、これを山になそ らえた。「第一隊はラウロが指揮して、川の左側の森を通って山に入る。。ハルレポーグの谷 ろうえきふ は迂回して、山にのぼったら、あそこでギザのために金や宝石を掘らされている労役夫たち に、ちょいと笑いの火をつけるんだ」 せいふく か′」 だるいしと し

4. 石と笛 第1部

192 かしら 頭だちたる麗人を バルレポーグの城に請う やがてタベの陽が沈む 、、ハルレポーグの城のなか 五十の狼えたてて 夜も明けぬまに食いつくす 、、ハルレポーグの熊殿を 一頭の龍が谷にいた ドラグロープの護り龍 はらからぜっきよう 聞け同胞の絶叫を ! 狼どもに気をつけろ ドラグロープの国民よ ! 第三節に入ったころから、はやくも聴衆は笛の音にあわせて詩句を口ずさみはじめ、聞き 耳が声をあげてうたいだすと、たちまち大合唱となって、おわりに最後の二行をもう一度く れいじん くにたみ

5. 石と笛 第1部

といわんばかりのようすだった。 亭主は耳をかたむけて聞いていた。和らぎの笛匠とのつきあいで、このような伝達方法か ら意味を汲みとることには慣れていた。 じゅうぶん 「すると、あんたは。ハルレポーグからきたんだな」亭主はいった。「それは充分に考えられ ることだ。あそこじゃあ、そんなふうなやり方で、人間をあっかっているんだ。人間だけじ じゅなんしゃ ゃない。あんたはね、わたしのろばと、いわば受難者同士なんだよ」 「あんたのろばに 、。ハルレポーグでなにがあったんですか ? 」聞き耳はたずねた。「わたし が、あそこで見たろばときたら、みんなやせほそって、つかれはてていて、ほとんど一歩も 歩けないありさまなのに、しよっちゅう殴られていました」 「まさに、そのとおりだ」祖父はいった。「これに、話してやってくれないか、ろば屋のご 亭主、これにとっても、かかわりのある話だから」 あくぎやくおんなりようしゅ 「あんたたちだけではないのだよ 、。ハルロとあんた、。ハルレポーグの悪虐な女領主のもと から逃げてきたのは」ろば屋の亭主はいった。「いまの、あんたのことばで、あんたもあそ 」にいたことが、わかったよー亭主はもうひとロ飲んで、自分は数年前までバルレポーグ城 のうえん の農園で、ろば飼いをやっていたと話しはじめた。「わたしは、十二頭のろばのめんどうを おも こくもっくら 見ていたんだ」亭主は語った。「ろばたちの主な仕事は、穀物を倉から粉ひき場に運んで、 ちょぞうこ 粉袋を貯蔵庫にもどすことたった。こういう仕事なら、ろばたちは慣れたもんで、きちんと なぐ こな でんたっ

6. 石と笛 第1部

29 ー一石と笛 った。「なぜ笑わんのだ、聞き耳よ ? 」魔女は歯を鳴らしていった。「この旅に、おじけづ いたのかワ・それなら、おまえは、あの道化どもよりは、かしこいってもんだ ! 」 、よ , っそう 奇怪な仮面のおそろしい形相に、聞き耳は思わずたじろいだが、気をとりなおすよりもは やく、白い仮面に鏡衣装の一人がとびこんできて、魔女の耳もとで杖の鈴をうち鳴らした。 こま 同時に人波のあいだにすきまができたので、聞き耳はふたたび駒を進めた。。ハルロは、この じゅうたい 渋滞のいっときにも、笛を吹くのをやめなかった。バルロのまなざしは仮面の人々の頭を越 えて、はるか遠くにむけられ、すでにむここにあらずという風情だった。 一行が、ドラグロープの最後の家並みをあとにすると、仮面の人びとの大部分は、その場 あくぎよう にとどまった。でも、そのまま行列についていって、。ハルレポーグで悪行にとどめが刺され るのを、この目で見たいと思っている人びともいた。 バルロはためらうことなく、川岸に沿ってバルレポーグにむかう道にまがった。町をはな わだち ねんどしつ れるにつれて、粘土質の地面に残る古い轍は、生い茂る草におおわれていった。この方向に 「むかう車は、めったにないのだろう。ここかしこで出会う農夫は、いずれも道ばたに立ちど まっては、首をふって、不思議な行列をあきれ顔でながめていた。騎馬のものはすこししか と、っちゃく いないので、一行はゆっくりと進んでいった。三日めの夕方、ある村に到着した。ここで、 いっとき 夜をすごすことにした。というのは、村はずれから一刻ほども歩けば、もう。ハルレポーグの 暗い森が、川の両岸にせまるところまできていたからだ。 かがみいしよう は っえ さ

7. 石と笛 第1部

きおく しいあらわすこともできなかったけ 解した。もちろん、それを記憶にとどめておくことも、 れど、たしかにそれはあり、笛の音がやんでからも、しばらくは心に感していた。 しゆだい ふえしよう 「あんたが見つけた主題は、なかなか よ、、、ハルロ」和らぎの笛匠はいった。「この冬の しゅうれん あいだに、ずいぶん修練したね。あんたがたの旅だっときが、きたようだな」 聞き耳はびつくりして祖父を見やった。旅だっといったって、、つこ しオい、なんの旅を ? 祖父はそれを、ごく当然の、とっくにきまっていることのようにロにした。「もっと、あな たのそばにいられるものと思っていたのに」聞き耳はがっかりしていった。「ほかのどこへ ゆけば、ここよりもっと聞くことを学べるところがあるんですか ? 」 いくらでもあるのだよ。おまえ 「やれやれ」祖父はいった。「もっと効果のあがる方法は、 、、 : ハルレポーグにとどまっていなければ、そんなこともいえたかもしれないが、それにした って、わたしはおまえを、ここにそれほど長くは、とどめておかなかっただろうね。わたし らのような年寄り二人っきりのところで、なにを学べるというのかね ? そのうえ、おまえ せお 。はバルレポーグで背負った責任から、まぬがれることはできないのだよ」 のが 「どんな責任ですか ? 」聞き耳はたずねた。「わたしは、あの魔女から逃れて、よろこんで いるのに」 「そうだろうな」和らぎの笛匠はいった。「たとえ、まだ決着はついていなくてもな。でも、 自分があそこでやらかしたことからは、おまえは逃れられないのだよ」

8. 石と笛 第1部

馬をつれていることも、ギザは知っています」 召使の話を聞いて、ルロは怒りのあまり、外に駆けだすと、馬にとび乗って、まっすぐ に、、ハルレポーグに走ろうとした。わしはあとを追いかけて、手綱にぶらさがるようにして、 死に急ぐのはやめてくれと、かきくどいた。とうとうバルロも、自分一人ではどうにもなら ないことをさとって、とりあえず、わしの家にとどまって、今後のようすをうかがうことに した。だが、耳に入ってくることといったら、前に聞いたことよりも、ますます悪くなるば かりだった。ギザは家来どもを使って谷じゅうを支配下におさめ、さからおうとするものは、 いのちうば かこつばしから命を奪われた。 しゅうかん こうして二、三週間すぎた、ある朝、。 ( ルロがいった。「これ以上、ここで手をこまぬい しんらい ふるぎ ていることはできない。古着をいくつか、わけてくれないか。わたしの信頼している農夫が やと 谷にいるのだ。その家に召使として雇ってもらう。そこで、狼どもをやつつける手だてをさ せっとく きけんナ、、 ぐるつもりだ」わしは、そんな危険な計画は思いとどまるようにと説得した。だが、バルロ ようい の意は変わらなかった。そこで、わしは古着ゃなにやかやを用意して、その晩、バルロは かんどう しゆっぱっ 出発して、間道を通ってバルレポーグの谷にもどっていった。わしが。 ( ルロを見たのは、そ さい′」 れが最後だったよ。今日、おかしな軍勢をひきつれて、この村にやってくるまではな。 たづな こん′」 のうふ

9. 石と笛 第1部

すると、老人は腰をかがめて、こういった。「ようこそ、バルロよ。ひさしく待っておりま せんし したそ。もっとも、わしらとしては、ある日、あんたが戦士の一団をひきつれて、ギザを毛 深い家来もろとも追いはらうために、もどってくるものと思っておったのだが。いま、ギザ じようだん の支配の下にあって、楽師の芸に耳をかたむけたり、道化の冗談に笑うような気には、なれ ませぬわし 、。。ハルレポーグでは、あらゆるよろこびは死にたえた。あんたは、それを知らん のかね ? 」 答えるかわりに 、。ハルロは、ふたたび笛を唇にあて、調べをかなでた。聞き耳は、このた つうやく きんちょ・つ びも、通訳をつとめることになると思ったので、緊張して耳をかたむけた。「ごきげんよう、 ダゲロルよ」バルロは笛で語った。「ここにいる人びとを、みくびってはならぬ。さきほど あんたは、バルレポーグでは、あらゆるよろこびは死にたえたと、いわなかったかね ? 血 みどろの戦さをおこすよりは、住民に、ふたたび笑いをもたらすべきではないか。そのため に、わたしは、国じゅうからよりすぐった道化師や、語り手や、楽師をつれてきたのだ。わ たしらを客として、あんたの村に迎えてくれないか ? 」 聞き耳カ / ノ 、、 : 、、、レロのことばを通訳しようとしたら、ダゲロルは手を横にふって、こういっ ひつよう た。「その必要はない。あんたがことばを奪われたという話は聞いているよ、 いま、あんたは、はっきりとしゃべったね。あんたのことばは、ただ意味がわかるだけでな しゅう く、心で聞きとれる。ようこそ、おいでくださった。また、おつれの衆も、わが村の客とし むか しら

10. 石と笛 第1部

「いや」聞き耳はいった。「でも聞きたいな。わたしはギザの城にいて、あの女が人をもて あそぶのを、身をもって体験したんだから」 「聞きかじりなんで、うまく話せるかどうかわからんが」羊飼いがそういって、話しはじめ たのは、 ギザと狼たちの物語 バルレポーグを流れる川の上流の山地に、一人の石採り師が住んでいて、ギザという名の きんごうき , ごい 一人娘がいたんだよ。この娘は、近郷近在では、一番の美人とされていた。若い男たちが大 きぐらい きゅうこん こつばしからはねつけた。ギ 勢やってきて、ギザに求婚したけれど、気位の高いギザは、かオ ザはこういったもんだ。わたしがうけいれるのは、わたしの父が持っているサファイアと、 同じくらい大きくて、同じくらい立派なサファイアを持ってきた男だけだとね。この石を、 ギザの父親は自分の一番高価な宝物として大切にしていて、娘のほかにはだれにも見せなか かぎ った。父親はそれを小箱にしまって、自分の寝室の寝台の横においていた。箱の鍵はいつも まくら 身につけていて、夜は枕の下において寝た。若い男がギザのもとにやってきて、長年かかっ て手に入れた石を見せるたびに、ギザはこういったもんだ。「値打ちもないがらくたよ ! 父の石はこんなもんじゃない」豊かな。ハルレポーグの谷からも、ギザの美しさを聞きつけて、 たからもの