裁判官 - みる会図書館


検索対象: 石と笛 第1部
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1. 石と笛 第1部

弭に見くだされたことを思いだして、あらためて怒りがこみあげてきた。・ キザの家来たちは、 きいろめ こういう連中のあっかい方をこころえているんだ。しばらくすると、馬丁が黄色目の男とと もに城をでていくのが見えた。夕方になって、聞き耳が馬を見にゆくと、傷はかなりよくな っていて、数日後には、また乗れるまでになった。 聞き耳は、城番の居どころをたずねたときの、ギザのはけしい反応を忘れなかったので、 もうこの問題をむしかえすことはしなかった。それからは、ギザの家来が夜になるといなく なるのを、自明のこととうけとり、それについて考えるのはやめにした。あいかわらず聞き 耳は、この黄色目の男たちといるのがいやだった。いつまでたっても、やはりこの連中は気 味が悪かった。それでも聞き耳は、必要とあれば、かれらを使った。まもなく気づいたこと ど ; 、くルレポーグでは、かれらこ 冫しいつければ、なんでもできたのだから。ギザが家来た ちを信頼している以上、そうしないことに、なんの納得できる理由も見いだせなかった。そ れに、ここで命令する側に立ちたければ、そうするほかはなかった。命令をくだすすべを、 しひょ , つじ きゅ、つきゅう 聞き耳は日に日に習得してゆき、召使が自分のかすかな意思表示にも汲々としてしたがう まんえっかん たびに、満悦感にみたされるのだった。聞き耳はまた、・ - キザがそのようすを満足してながめ ているのに気づき、ギザとまったく同じように 、バルレポーグの谷のものは、すべて自分の ものとみなすことに慣れていった。 「今日は裁判の日だよ」ある朝、ギザがいった。「おまえは、あんなに有名な裁判官を父親 しゅ , っとく なっとく

2. 石と笛 第1部

に持っているんだから、これからは、、 ( ルレポーグで裁きをとりしきればいい」 この提案を、聞き耳は大きな名誉だと思った。「父はわたしをしこんで、自分のあとつぎ にするつもりだったんだ」聞き耳はいった。「でも、それはうまくいかなかったと父は思っ ている。ところが、わたしは自分のカで、ここまでこぎつけたんだ」 「じゃあ、おまえカ / ノ : くレレポーグの法を守れるところを見せて」ギザはいった。「わたしは おまえのそばにいる。そうすれば、今日からおまえがここの裁判官だってことが、だれの目 にもわかるから」 下の広間のまんなかに、裁判官の椅子がしつらえてあった。その横の机の上に、法廷の権 だんろ 威をしめすひと振りの抜き身の剣がおいてあった。ギザは暖炉のそばのいつもの席にひかえ、 げんこくしゆってい 聞き耳は裁判官席にすわって、家来に原告を出廷させるよう命令した。 りんじんこくそ ぬす にわとり 最初に進みでた男は、夜中に自分の家の庭から鶏を三羽盗んだといって、隣人を告訴し た。事件を目したうえ、翌日、盗人が鶏を焼いて、家族で食うところも見たという、二人 しよ、つにん の証人もそろえていた。 「その盗人は、ここにいるか ? 」聞き耳はたすねた。 「はい、殿様ー原告はいった。「あそこにおります」二人の仲間にとりおさえられている男 ゅび を指さした。 ひこく 「被告は前にでよー聞き耳はいった。「そのものをはなせー とのさま ぬすびと す

3. 石と笛 第1部

どせい いっしゅんぼうぜん ョスは一瞬、茫然として立ちすくんでいた。それから、怒声を発すると、短刀をぬいて、ラ ウディスにとびかかった。人びとが割って入るまもなく、ラウディスはふりかえって、ルョ こうちよく スの顔をきっと見すえた。ルョスが硬直したように動きをとめると、ラウディスは声をおさ おそ えていった。「まさに、こんなふうに、あなたは自分の主人を殺したのよ。うしろから襲う のが、あなたのやり方なんだから」 ただちにバルロは廷吏に命じて、ルョスをとりおさえて縛りあげた。それから、バルロは ルョスにたすねた。「犯行をみとめるか、ルョスよ ? 」 ルョスは、ふてくされて裁判官の顔をにらんだ。「いまさら、そんな必要があるのかい ? 」 それでも、がつくりと首をたれた。 そこで、バルロは立ちあがって、みんなに聞こえるように声を高めていった。「これから、 ついほ、つ ぶき はんけっ ぜんざいさんぼっしゅう 判決をいいわたす。ルョスなる男の全財産を没収し、身柄は、武器を持たさず森へ追放する。 ひとつぼ ルョスは一塊の。ハンと一壺の水以外に、たずさえてはならぬ。一日間の期限以降にバルレポ さっしト 6 ・つ ーグの谷でルョスを見かけたものは、これを殺傷しても罪に問われぬ。ルョスは法の保護を はくだっ 剥奪されたのである」いつ。ほうテルロスは、その晩、残りの金をうつろ木にかくしにきた男 あ とをつかまえたとき、現場に立ち会った。 いや、ごめん、ごめん、ながながと、この殺人事件の話にひっかかってしまって。大バル 口自身がわしに、このできごとをくわしく聞かせてくれたんだ。どうも裁判のこととなると、 いっ力い みがら つみと きげんいこ、つ たんと・つ

4. 石と笛 第1部

しよう 」、つき せいで、まるで高貴な王子様みたいに見えたものだ。フレデバルはかわいくて、ほっそりと じようだん わかしゅう きやしゃな若衆で、みんなに好かれていたよ。冗談が大好きで、しよっちゅう笑っていたか らね。 た あ じゅんこう フレデバルが成長すると 、。ハルロは息子をしばしば巡行にともなって、裁判にも立ち会わ きょ , ついく 、バルロはフレデバルを、自分のあとつぎとして教育したかったから せた。それというのも けんん だ。フレデ。ハルは、そこで見聞したことをたちまち理解して、やがて、父親と同じぐらいた くみに話せるようになった。だが、いま考えてみると、あれはフレデバルにとっては一種の ちょうしゅう かんじん 勝負ごとで、肝心のなかみよりも、勝負のやり方をこころえているところを、聴衆に見せ たかっただけなんだな。父親の。ハルロがそのことを、すでにあのころから見ぬいていたかど しんけん うかは、わしにはわからん。あるいは、とりあえす規則をおぼえて、それから真剣勝負にと しつもん りかか。れ。はいし 、と、思っていたのかもしれない。 : しすれにしても、フレデバルが父親の質問 こた いけんの 、。、ルロはにこにこ笑って聞いていて、 に答えて、事件にかんする自分の意見を述べるたびに ろんう ときには息子のたくみな論法を、ほめてやることもあったね。 そのころだったよ 、。ハルロのところに、クラトスという友人の使いがたすねてきたのは。 さんち ししやげん クラトスは山地で裁判官職をつかさどっていた。使者の言によれば、クラトスはいま、やっ というのだ。バルロは翌朝、 かいな事件をかかえていて、それをバルロの我きにゆだねたい、 しゆっぱっ まだ明けそめぬうちに馬の用意をさせて、フレデバルとともに出発した。一日じゅう駒を進 ようい ゅうじん こま いっしゅ よくあさ

5. 石と笛 第1部

。 7 ー一石と笛第部 のそぶりにもあらわさなかった。 ていあん 「この提案は、おまえには、それほど気に入ってはおらんようだな、聞き耳」和らぎの笛匠 きよ、っせい は話をつづけた。「もちろん、わたしは、それをおまえに強制することはできんーーおまえ は自分のやりたいことを、自分できめなければならん。おまえは家に帰ってもいいのだよ。 むじようけん もっとも、わたしとしては、それを無条件にすすめるわけではないがね。おまえの父親はこ かん ちんみよう の間に、バルレ。ホーグでおまえのやらかした珍妙な裁判のことを聞いているはずだ。そうな ると、あの大声が低くなるとは、とても思えないがね。なんといっても、あれは公正な男だ からな。わたしの好みからすると、いささか声が大きすぎるにしてもだ」 だいおんじよう 聞き耳は、大音声が自分をどんなふうにむかえるか、考えただけでもおそろしかった。あ さいばんかんめいよ あ、どうしよう。父が裁判官の名誉をなによりも大切にしていることは、まぎれもないこと だった。聞き耳は草のなかにすわりこむと、垣根の柱に背をもたせて考えこんだ。そのとき、 石を入れた袋を胸に感じた。聞き耳は石をとりだし、日ざしにあてて色をたわむれさせた。 ひとみわ 一長いあいだ聞き耳は、ひんやりとなめらかな表面の奥の、瞳の環をながめていた。いつもの ように、きらきら光る色の美しさを楽しんでいるうちに、将来への不安が消えていくような 感じをおぼえた。とはいえ、いかに決断すればよいのか、あいかわらず聞き耳にはわからな かったけれど。 「だれも、おまえの決断をひきうけてはくれないよ」祖父がにつこり笑っていった。「おま けつだん たいせつ

6. 石と笛 第1部

めしつかい ラトスは立ったままで、召使の一人にいった。「わたしの息子のテルロスを裁判官の前に連 ちょうしゅう 行せよ ! 」それから、聴衆にむかって呼びかけた。「ルョス、殺害されたワルゴスの召使 しゆってい おう し」つにん 力しら 頭よ、証人として出廷せよ ! 」それに応じて、背が高く、がっしりした三十歳前後の男が進 さんじよ、つ みでて、こういった。「ここにおります。丁のルロスをつれて参上しました。ルロスは、 しょ , つめい いいながらルョスは、ごま塩頭のやせほそった男を、 わたしの申し立てを証明できます」そう 裁判官机の前におしやった。 「では、そのルロスも、ここにとどまるように」クラトスはいった。「さらに、ワーリヤ、 しようかん ワルゴスの娘も召喚してある」 はばひろのマント 「ここにおります」一人の娘がいった。頭をおおう黒い喪のスカーフが、 のように肩までつつんでいた。このかぶりもののせいで、ワーリヤのみめかたちは、わすか なすきまからのそく、泣きはらした顔しか見えなかった。ワーリヤの視線が、・ハルロを越え て戸口にむけられた。そこから、いまテルロスが、ひきたされてくるところだった。テルロ スもワーリヤに気づくと、軽くほほえみかけた。召使が法廷机のうしろをまわって、テルロ スを裁判官の前につれてきた。クラトスは息子をうしろ手に縛らせていた。テルロスが法廷 ・けんかく と、っそ、つ から逃走するなどとは思ってもいなかったはずだが、自分が本件をとくに厳格にあっかって いることを、しめしておきたかったのだろう。テルロスが前にひきだされると、すぐさま。ハ と ルロは召使にいった。「いましめを解け ! 」召使が、この命令にいそいそとしたがっている な かる も ほんけん しせん ほ - ってい れん

7. 石と笛 第1部

むかし、フラグルンドで一人の男の子が生まれた。この子の数奇な運命について、これか だいおんじよう ふう らお話しすることになる。父親は威風堂々たる人物で、大音声とよばれていた。背が高くて、 じまん ふとっていて、ふさふさした胸毛が自慢たった。性格ははげしく、雷のようにがみがみどな ひび るかと思えば、われ鐘のような高笑いを響かせる。それでも公正な人物だという評判なので、 えんぼう フラグルンドの人びとは、大音声を遠方からよびよせて、土地の住民の争いごとをとりしき さいばんかん る裁判官になってもらった。 大音声が裁判官の職につくため、フラグルンドにやってきたとき、一人のものしずかな女 をともなっていた。とてもひかえめなので、はじめのうちは、この女が大音声の妻であると は、とても思えなかった。聞くところでは、和らぎの笛匠の娘だという。和らぎの笛匠は、 わざ 遠くバルレポーグの深い森のかなたに住んでいたのだが、笛の技についてはフラグルンドに ねかんび も聞こえていた。その笛の音の甘美なことといったら、鳥もだまって聞きほれるほどで、人 がね やわ ふえしよう すうき

8. 石と笛 第1部

キサよ、真実がいずれにあるか、知っているくせに」 「なぜ、わたしを嘘つきと呼ぶのだ、・。 馬丁が怒りをこめてつめよった。 かって 「おまえをなんと呼・ほうと、わたしの勝手だ」ギザはいった。「おまえは、わたしのものな んだからねー 「そうだ」馬丁はいった。「わたしは、おまえのものだ。ここで目のとどくかぎり、すべて のものが、そうであるように。そこの裁判官席にすわっている男も、おまえのものであり、 おまえの意志以外のなにごとをもなしえない。おまえは、その男が持っていた唯一のものを とりあげ、かわりに贈り物をふりそそいだ。それによって、その男が持っているものは、す ほどこ べて、おまえからの施しものになってしまったのだ。おまえは、その男を買ったのだ。その 男を思うままにあやつり、おまえの遊び道具にするために」馬丁はギザからむきをかえて、 聞き耳を見つめた。「わからないのか、聞き耳よ、おまえとて、ここでは、われわれ支配さ どれい れているものと、なんの変わりもないことが ? それとも、おまえは、奴隷であることに満 足しているのか ? 」 聞き耳はとびあがった。はずみで、裁判官席がうしろに倒れた。怒りに目がくらんでさけ んだ。「こいつの舌を切りとって、森に追放しろ ! 」 しろばん 城番が配下のものに指図して、罪人を広間からひきずりだした。ギザが聞き耳に歩みよっ ていった。「それでこそ、、、ハルレポーグの裁きというもの」そうして聞き耳を腕に抱くと、 した

9. 石と笛 第1部

「おまえが盗まれたのか ? 」 原告の男は一瞬、思案した。それから、こういった。「いし え、殿様」そのまま仲間のと ころへもどっていった。 たんか 服装 つぎに、一人の男が担架で裁判官席の前に運ばれてきた。かついできた男たちは から、木こり仲間と思われたーーべつに一人の縛られた男を裁判官の前にひきすえた。 「このものは、なにをしたのか ? 」聞き耳はたずねた。 けんか 「こいつは、この担架にのっている、わたしのいとこと喧嘩して、脚に斧で切りつけたんで すー男たちの一人がいった。 「それでは、おまえはわたしに、つぐないをせねばならぬ」聞き耳は縛られた男にいった。 「あんたに ? ー被告はたずねた。「わたしがあんたに、なにをしたんです ? 」 「わからないのか ? 」聞き耳はいった。「おまえは、わたしの財産を傷つけたのだ」 聞き耳は木こりの代表にむきなおり、たずねた。「どれほどのあいだ、おまえのいとこは、 わたしのためにはたらけなくなるのか ? 」 はものきず 「傷は深そうです」原告の男はいった。「刃物傷が骨にとどいています。運がよけりや、三 か月で、また歩けるようになるでしよう 「おまえたちは、一日にどれほど、はたらくのか ? 」聞き耳はたずねた。 「十時間」男はいっこ。 あしおの

10. 石と笛 第1部

3 ー一石と笛第一部 それを聞いて、ラウディスはいった。「そうしたほうがいいわね、たぶん」 息子がこの娘を気に入ったのを見て、。ハルロはよろこんだ。というのは、すでに審理の過 ゅうき 程で、ラウディスのかしこさや、ルョスと対決したときの勇気に感じ入っていたからだ。そ れからも。ハルロは、あいかわらずフレデ、、ハルとともに山地を旅する用があったし、そのおり 、。、ルロの妻が亡 にはクラトスの家をたすねることもあった。じつはあの裁判の数週間あと きばぎようれつ きかざ まね くなった。妻はそのときも、町の優雅な友人たちを狩りに招いていて、着飾った騎馬行列が しかやぶ 一頭の鹿を藪に追いこんだときに、妻は運悪く落して、頸の骨を折ってしまったんだ。そ ようき んなわけで、しばらくはバルレポーグの陽気な生活はおあずけになった。ルロは長いあい 、バルロは妻のことを、その軽薄さもひっくる だ、妻の死を悲しんでいた。なんといっても はたしろ めて、とても愛していたからね】でも、一年後には、フ」デバルとラウデ→スの婚礼が祝わ きやくじん れることになった。客人たちを歓迎して、色とりどりの旗が城にひるがえり、ふたたび紳士 いろど しゆくじよ かれい 淑女たちの華麗な行列が、一年前には悲しみにくれて立ちさった谷を彩った。 よめ ぎり バルロは義理の娘ととても気があった。裁判官の心がまえについては、嫁のほうが自分の 息子よりも、ずっとよく理解していることを知っていたからね。フレデバルの遊び好きの性 と 、、、、ルロは望んでいたようだ。フ 格が、ラウディスがいることで釣りあいがとれればいし ぶと、つきよくし レデバルが狩りにでかけたり、旅芸人からはやりの舞踏曲を仕入れたりしているときも、ラ そしよ、つ ウディスのほうは。 ( ルロのそばにすわって、訴訟事件について話しあっていたものだ。そう っ ゅうが たいけっ さんち か こんれい しんり しんし な