私 - みる会図書館


検索対象: 総理の夫 = First Gentleman
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1. 総理の夫 = First Gentleman

340 くために、決してひるまず、この海に立ち向かいます。 ともに、荒波を乗り越えましよう。この新しい年を、私たちの、子供たちの未来を、 幸せで彩り、輝かせましよう。 皆さんの生活を、私が守ります。大丈夫。あなたを、私が、必ず守ります。 いまこそ、船出のとき。暗い夜更けです。けれど、明けない夜はありません。 国民の皆さん。私は、あなたを、信じています。この難局をきっと乗り切ってくれる だから、私を、信じてください。政治生命を賭して、私は、あなたの未来をあきらめ ません。 私たちは、ひとつ。どこまでも、一緒です。

2. 総理の夫 = First Gentleman

120 まるで憧れのべイエリアの高層マンションにでも移り住むかのように、富士宮さんは 妙にうきうきしている。私は、ついにきたか、とこっそり嘆した。 我が妻か総理大臣になったからには、いっかこの日がくるとは思っていた。しかし、 凛子も私も、公邸入りについては、なんとなく話題にせずに避けてきた感がある。いま 住んでいる家への私の執着を、凛子も重々わかっているはずだった。 私たちの結婚後の新居となったこの家は、私の祖父が隠居後に住んでいた洋館だ。戦 後すぐに著名な建築家に依頼して作ったもので、二十年まえに祖父が他界したときに相 としが 続税対策の一環で売却されかけたのだが、どうしても残してほしいと年甲斐もなくゴネ たのが私だった。私は自ら申し出て、祖父が遺した膨大な資産の中から、研究費として 少しばかりの「ソウマ」の株と、研究場所としてこの邸宅を相続したのだった。 護国寺という都心であるにもかかわらず、こんもりとした小さな森を有する敷地内に 建てられたこの家は、私が野鳥研究に目覚めたきっかけを与えてくれた場所だった。音 羽にある実家から車で五分、自転車で十五分のこの家に、私は子供の頃から入りびたっ ていた。両親同様、祖父もまた、長男たる兄には厳しく接したが、 次男坊である私をそ れはかわいがってくれた。幼い頃から野鳥の声を聞き分けるのが得意だった私に、双眼 鏡を買ってくれ、野鳥事典を与えてくれた。そういえば、私の座右の書、コンラート・

3. 総理の夫 = First Gentleman

、つなあの人に ? 「 : : : 日和さんは、どうお考えなんですか 富士宮さんが、いきなり私にふってきた。私は、ちょうど、自分の母が何か役に立っ だろうかと考えていたところだったので、「いや、ムリでしよう」と、つい口走ってし まった。 「ムリ ? 富士宮さんが、目をきっとさせて私をにらんだ。 「いやいやいや、ムリじゃありません」私は、あわてて訂正した。 「もちろん、私は : ・ : 私は、正直、手放しでうれしかったです。結婚して十年以上、ま さかいまになって子供ができようなんて、もう夢にも思わなかったくらいですから 無責任なようだが、私自身の気持ちは、ただただうれしい。それに尽きた。 もちろん、あれこれ困ったことは起きるに違いない。戸惑いも、大いにある。けれど、 夫何かひと言、いまの気持ちを表現するとしたら、この言葉しかない 理 「ーーーありがとう」と、私は一一一一口った。 「ありがとう、です。凛子から妊娠したと伝えられて、私の心にも、その言葉ひとつが、 真っ先に浮かびました」 ありがとう、凛子さん。お母さんになると、決心してくれて。 415

4. 総理の夫 = First Gentleman

たのか、確信を持てないほど動揺していた。あまりにも阿部氏がみつめるので、私はい たたまれない気持ちになった。コロンボに追い詰められた容疑者も、こんな気分になる のだろうか 「そんなことを言うために、あなたは私をわざわざご自宅へ呼び出したのですか ? 」 エラそうなことすんな、と言っているように聞こえた。私は「はいつ。すみません とあっさり詫びてしまった。ああやつばり、私は絶対に罪を犯せない。刑事さんでも奥 さんでも、誰かに追及されたらすぐに白状してしまいそうだ。という以前に、盗撮され てカネを要求されて謝ってる私っていったい : 気を取り直して、私は、阿部氏をまっすぐに見て言った。 「私は、あなたの写真の中に写っていた女性と、断じておかしな関係ではありません。 しかし、写真にうつかりと写ってしまったことは私の責任です。だから、私は、本件を 誰にも話すつもりはありませんし、自分だけでなんとか解決しようと決心しました。私 は、このことで、妻をーー・相馬凛子を煩わせたくはないのです」 私は無力な夫ですが、妻を、凛子を守りたいのです。 消費税率引き上げについて、矢面に立ち、苦しみ抜いている凛子。脱原発政策に舵を 切ったことで、経済界や原発族から激しく突き上げを食っている凛子。 凛子をいま、支えているのは、世論。国民の支持だけなんです。しかし彼女は、国民

5. 総理の夫 = First Gentleman

あなたがいなかったら、私、総理大臣になれただろうか、って。 あなたをはじめ、お義母さまや、直進党のスタッフーー・多くの人に支えられて、私、 ここまで来た。 周りの人たちの支援や激励がなかったら、きっと途中で挫折していた。 らつわん 原先生のような辣腕の政治家、宿命のライバルの存在も、私を奮い立たせてくれた。 感謝してるよ。ひとりじゃなかったことに。 私と一緒にいてくれたことに。 これからも、ずっと、一緒にいてね。 日相クン。 凛子は、少し照れくさそうに微笑した。総理大臣ではなく、相馬凛子というひとりの 女性ーーー私の愛する妻が、そこにいた。 私は、例によって、うれしさのあまり、涙がこみ上げてしまった。 が、私もいちおう男。こんな場面で泣いてばかりもいられない。 夫あのさ。と自分のべッドこ し腰掛けていた私は、少々居住まいを正して、思い切って言 総ってみた。 ちょっとだけ : : : そっちにいっても、 今夜は、もっと近くにいたいから。 凛子は、 いっそう微笑んで、小さくうなずいた。私も微笑んで、彼女のべッドへと移 397

6. 総理の夫 = First Gentleman

で、兄は是非もなく受け入れたのだった。 母がまったく凛子を気に入らなかったのは、当然と言えば当然のことだろう。 できあい 自分で一一一口うのも情けないのだが、母は私を溺愛している。二十二歳で結婚して早々に 兄を産み、十五年経って私が生まれたので、私を愛玩動物のようにかわいがった。時代 錯誤もはなはだしいが、私には「乳母」が存在した。母は私に母乳を与えることで乳房 が変形するのをいやがり、若い乳母を雇ってその人の母乳を飲ませたのだ。そのほかに も、私のおむつを替えたり夜泣きに付き合ったりする保育士が複数いたらしい。母は私 を産むには産んだが、 面倒くさいことは全部彼女たち任せにして、自分はミニチュアプ ードルをかわいがる要領で私をかわいがったのだ。 そんな母が私に嫁を取るのに人一倍腐心したのは言うまでもない。家柄も学歴も趣味 も容姿も、これ以上ないだろうというお嬢さんを探し出してきては見合いを勧めた ( そ してそういう高級魚のごとき女性たちは、驚くべきことに母の漁場の中には吉冓いた ) 。 母にとっていちばん重要だったのは、自分こそが日和の嫁を釣り上げる、ということだ った。兄の場合は、いまは亡き父が勝手に相手を連れてきてさっさと決めてしまったか ら、それに対抗する気持ちもあったのだろう。 私は私で、そ、ついう母に対抗した。自分の妻となる人くらい、自分で決めたかった。 だから、凛子に出会ったとき、雷に打たれて感電死するくらいの衝撃だった。いま田し

7. 総理の夫 = First Gentleman

しったい、。 と、つい、つ・ : : ・」 「それは、、 、つる 伊藤さんは、潤んだ目を私に向けた。 : 私に、一言わせるんですかー 「そんなこと : 私の胸が、またもや、どきりと鳴った。今度は特大の音が、体中に響いた こんな状況で、こんな胸の高鳴り。いけない。でも、伊藤さんの大きな潤んだ瞳は、 あらが どうにも抗えないほど、ぞくっとするような色つほさだったのだ。 「相馬さん。私 : : : わたし : : : 」 泉のような瞳を私に向けたままで、伊藤さんは、私のほうへ、一歩、また一歩と近づ いた。私は、メドウーサに魔法をかけられた石の化身よろしく、その場にまったく固ま ってしまった。 : ーハよ、 / ハよ . ) 亠丿よゝ しオし・ : 私は : : : わ、わ、わ : : : つ。 : いけないよ、この状况は : そのとき、上着の内ポケットでスマートフォンが震え始めた。 夫すわっとばかりに私はそれを取り出し、通話キーを押すと、「はいはい、はいつ。 理 ま家を出るところですっ」と叫んですぐに切った。伊藤さんは、きよとんと目を見開い て、「 : : : 誰 ? 」と訊いた。 「直進党の広報担当者だよ。私を送り迎えしてくれている : : : 」 「ああ」伊藤さんは、急に声のトーンを落として言った。「あの女性ですか。 169

8. 総理の夫 = First Gentleman

総理の夫 269 ら」 阿部氏は、落ち着き払って一言った。色々とよからぬこと、とい、つひと一三口に、「まさか : 」と私は声に出してつぶやいた。 「まさか、彼女 : : : 伊藤るいさんも ? 」 阿立口氏は、、つなすいた。 「原久郎が直接抱き込んでいるわけじゃないでしようが : ・ : たぶん」 再び、私は絶句した。 そ、ついえば、伊藤さんは、ここのところおかしかった。やたら私をランチに誘ったり、 お弁当を作ってきたり、急にこの家に来たいと言ったり : この家に来たとき、実家の窮状を私に告白していた。嘘だとはとても思えなかったが、 ひょっとして、原氏の一味にお金をもらって、決定的な場面を盗撮されるべく、私を誘 い出したのか : ひんし 私は、衝撃のあまり、瀕死の金魚のように、ロをばくばくさせた。何か言いたかった のだが、 とても一言葉にならなかったのだ。 「あなたと私のあいだで、今日話し合われたことは、一切なかったことにしましよう」 私がばくばくするのをみつめながら、ごく冷静に阿部氏が言った。 「私は、あなたの秘密口座からカネを送金してもらったことにする。その上で、約東通

9. 総理の夫 = First Gentleman

412 私に妊娠していることを告げた朝、凛子は、顔を輝かせて言った。 の , り叔かと、つ。 : そのひと言が、まっさきに、ふっと浮かんだんだ。 私の中に宿った命は、私を選んできてくれたような気がしたの。 私、こんな立場よね。難しいよね。ふつうのお母さんみたいに、家族みんなで喜んで、 し。 ( し力ない。産むとすれば、考えなくち 出産の日を指折り数えて待つ、っていうわナこよ、、 ゃいけないこと、説得しなくちゃいけない人、もっといえば、この国の行く末までも考 えて、全部クリアにして、それから出産の日を迎えなくちゃいけない でも、だからこそ、この命は、私を選んで宿ってくれたのかな、って思ったの。 ねえ、きっと乗り越えられるよね。乗り越えてくれるよね ? って、言われているよ うな気がして。 難しい、難しい問題。いまこそ、私自身が自分で解かなくちゃ。 だからね、日和クン。私、この子を産むことにした。 私、お母さんになるよ。あなたの子供のお母さんに 「もちろん、喜ばしいことですよーと、島崎君は、こわばった笑顔で言った。が、めち やくちゃ戸惑っている。男というのは、女性から妊娠を聞かされたとき、とにかく戸惑 うものなのかもしれないと、私はつくづく思った。 「第二次相馬内閣は、少子化改善内閣の旗印を掲げているくらいですから : : : それを、

10. 総理の夫 = First Gentleman

「あなたを知る人には、あのホームページは驚きだったんじゃないでしようか」 さすがに笑いながら私が聞くと、 「ええ。しかし、むしろいい結果になりました。かっては私と同世代の男性が主な閲覧 者だったのですが、いまは女子高生が面白がって読んでくれているらしい。アクセス数 も飛躍的に伸びました」 阿部氏も、笑いながら答えた。そして、 「面白い仕事も入るようになったしね。 ・ : 今回のような」 抜かりなく本題に移行した。私は、笑いがびたりと口元に凍りつくのを感じた。 「写真の件で話がある、ということでしたね。どういったお話でしようか」 私は、ちらりと腕時計を見た。十二時三十五分。あと十分しかない。これは相当すば やく畳み掛けなければならないぞ。 「率直に申し上げます。私があなたに要求している一千万円を、現金でいただけません 夫でしようか」 理 : いやいやいやいや、じゃなくて。 総 「もとい。私があなたに要求されている一千万円を、現金で払わせていただけませんで しよ、つか」 阿部氏は、じいっと私の顔を見据えている。私は自分で自分の言ったことが正しかっ 263