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検索対象: 総理の夫 = First Gentleman
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1. 総理の夫 = First Gentleman

176 「このまえ、ちょっと言いかけた話。もしよかったら、相談に乗っていただけないかな、 なんて思ったんです」 家庭の事情で研究所を辞めざるをえないかもしれない、というあの話。自分の今後に ついて、「相馬さん以外に相談できる人がいなくて : : : 」ということだった。 その言葉に私の心はぐらりと大きく傾いた。 やはり伊藤さんの苦悩は本物らしかった。何しろ涙を流すくらいなのだ、きっとよっ ほど追い詰められているに違いない。 「そ、ついうことなら、なんとかしましよう」と私は、うかつにも、ぐらりと傾いてしま った気持ちのままに言ってしまった。 「スケジュールをよく確認してからじゃないと、ちゃんと決められないけど : : : 」 「ほんとですか」伊藤さんは、私に飛びつきそうになりながら、勢い込んで言った。 「うれしい。相馬さんに相談できたらって、ずっと思ってたんです。ありがとう ) 」ざい ます」 「いや、あの : : : まだ、わかんないんだけど : : : 」 「私、待ってます。お会いできるまで、ずっと待ってますから。時間は何時くらい ? 一時とか ? 昜所はどこがいいですか ? ご自宅がいいなら、私、行きますんで。門の 前で待ってたらいいですか ? 」

2. 総理の夫 = First Gentleman

きょ 隣りの席のまほちゃんだった。ファーストキスは、ト学校一二年のとき、同じクラスの清 か 香ちゃん。初めてのデートは中一のとき、隣りのクラスのはるかちゃん。そして、初め ての女性体験は、高二のとき、東大生だった家庭教師の先生 ( 四歳年上 ) だった。その 全部が、私が望んだというよりは、相手からの熱心なお誘いがあって、気がついたらそ うなっていたという感じではあるが こんなことを自分で書くのはられるが、まあいいや、どうせもうこの世にいない身 として書かせてもらえば、私はけっこうモテる男子だった。いや、私も自分でよくわか ってはいる。女子たちは、私そのものに魅力を感じていたというよりは、やはり私のバ ックグラウンドに興味を持っていたに違いない 兄などは、「持って生まれた身の上なんだから、この際、利用しなくちゃ損だ」とば かりに、十代、二十代の頃は、とっかえひっかえ女の子と付き合っていたものだ。それ でいて、誰とも真剣に付き合ってはいなかった。僕の彼女です、と実家に連れてきて正 夫式に母に紹介した人はひとりもいない。美人でスタイルがいいというだけでは、当然母 総が納得するはずもないからだ。相馬家の長男として、兄は、結婚相手は両親が決めるとい うことで、真剣に女性と付き合う気持ちは、十代の頃から持ち合わせていなかったようだ。 私はといえば、そりゃあ女性に興味がなかったわけではないが、気がつくといつも誰 盟かに熱視線を送られ、女子にちやほやされて、自分から告白したことなど一度もないの

3. 総理の夫 = First Gentleman

引 4 も勝る励みになるに違いない 富士宮さんの場合、予定日の一ヶ月まえまで勤務し、出産を経て、三ヶ月後に職場復 帰する、というスケジュールになっていた。実家の両親とも話し合い、母親が育児のサ ポートのために上京し、とりあえず一年間、富士宮さんと同居することも決まったとい う。その間に託児所を探すということだった。 我が妻、凛子の場合はどうか 誰あろう、相馬凛子は日本の内閣総理大臣なのである。 妊娠中は体調が崩れやすいこともあるだろう。国会で答弁中に具合が悪くなれば、全 国放送で国民に目撃されることになる。 考えたくはないが、 万が一にも流産などの危機に瀕する、なんてことになった場合は、 緊急入院ということもありうる。その間の政治の空白をどう埋めればよいのか 順調にいったとして、「じゃあ産休に入りま 5 す。あとよろしく」と、あっさり退場 ・ A 」い、つわけ - に、もいノ \ 6 い 子供が生まれたあとだって大変だ。凛子が、たとえば総理大臣の座に復帰したとして、 いったい、誰が、どうやって、赤ん坊のケアをしたらいいのか し、刀、ない 富士宮さんのようなわけにはゝ 、凛子の母親は他界してしまっているのだから。 じゃあ、私の母に、その役を ? : 自分の息子 ( つまり私 ) すら、乳母に任せたよ

4. 総理の夫 = First Gentleman

282 向かい合った。 「いいよ。話、聞かせて」 私は、ほっと胸を撫で下ろした。 というのには理由かある、と やはり、凛子は勘がいいのだ。私が「いま。話したい、 気づいたに違いなかった。そして、パソコンで作業をしながら聞き流したりせずに、相 手が誰であれ、話を聞くときにはちゃんと聞く、という態度は、やはり彼女が貫いてい るスタイルなのだった。 こぶし 私は、膝の上の拳をぐっと握ると、再三意を決して話し始めた。 「実は : : : その : : : なんていうか、大変なんだ。コロンポ阿部 : : : 刑事コロンボ似のカ メラマンに、おかしな写真を撮られちゃって : : : 」 凛子は、またもや、私の顔を穴が開くほどじいいっとみつめている。思い切って話し 始めたものの、あまりにもちんぶんかんぶんな導入部になってしまった。緊張して話を すると「てにをはーもおばっかなくなるのが、私のスタイルなのだった。 「 : : : ちゃんと説明してくれるかな」 こりゃあいよいよマジで聞かにゃあならんぞ、と動揺する私を見てかえって気持ちを 固めたらしく、ちっとも動じずに凛子は言った。 しっそうあわあわとなってしまった。ことの経緯が複雑過ぎて、何から 私のほうは、 )

5. 総理の夫 = First Gentleman

382 気味よく笑ったのだった。それにつられて、凛子も、そして私も、思わず笑顔になった。 「ほんとうに、お義母さまのご支援がなければ、私、経済界全部を敵に回して、当選が かなわなかったかもしれません」 正直に凛子が一一一口、つと、 「あら、そんなことはなくってよ」 平然と母が応えた。 いったい 「私はちょっと意見しただけ。相馬凛子ではなく、原久郎が総理になったら、 この国がどうなるか、想像してごらんなさいましな、ってね。経済界のお偉方は、さす がに頭がいい方ばかり。この国が沈んでしまったら、自分の会社も経済も何も、一緒に 沈んでしまうんですからね。そのくらいの想像力は、皆さん、お持ちだったようよ それから、につこりとして、 「まあ、ただしうちのもうひとりのどら息子だけには、きっちり意見しておきましたけ どね。あなた、弟のお嫁さんを突き放したければ、そうなさい。その代わり、あの方が 総理にならなかったら、あなたを解任して、日和をソウマグローバルのにするわ。 そのくらいのことは、わたくしには雑作もないことよ : : : ってね」 いままで一度もない。よって、兄とソウマ 母の「意見、に兄が従わなかったことは、 グローバル傘下の社員もまた、きっと凛子一派に投票してくれたに違いなかった。

6. 総理の夫 = First Gentleman

186 よれたコート : : コロンボですね」と言うと、 「いや、阿部という日本人です」原氏が落ち着いて答えた。 ひさし 阿部久志。かって、時の首相の政治献金問題を暴いて、退陣に追い込むきっかけを作 ジャーナリストだそうだ。売れそうなネタはしつこ ったとも言われる、やり手のフリ く追い回す。富士宮さんが言っていた通り、凛子と原久郎の連立政権を誰よりも早くす つば抜いたのも彼だったという。 「彼のことは昔からよく知ってるんですよ。政治家とジャーナリストというのは、にら 。いいように利用し合ってるんです。私も沈め み合ってちゃお互い仕事にならんからね たい政敵がいれば、彼に頼むこともある : / ハ↓よ、ヾ こくりとのどを鳴らした。何やら、話がぶっそうになってきた。 「今回は、誰の依頼でもなく、独自に総理やあなたの周辺を張っていたところ、偶然こ の写真を撮ったらしいんですよ。それで、どこへ売り込もうかと考えた。週刊誌にでも 売ればそりゃあ喜ぶだろうけど、総理本人の浮気現場じゃないし、たいした金にもなら んだろう。売るなら相手を選ばなくちゃな、ということでね」 私は、もう一度つばをのみ込んだ。 「それでは、原先生が、彼にお金を :

7. 総理の夫 = First Gentleman

200 ろ、つ , か いま、私は、この日記をしたためながら、思う。あなたがこれを読んでいる時代が、 どうかいまよりもいい時代でありますよう。日本という国に、明るい展望が開けていま す・よ、つに。 そして、できれば、我が妻、相馬凛子の政策が功を奏して、暮らしやすく、人々が幸 福を感じられる世の中でありますように。すべては後の世のため、日本の未来のために とがむしやらに突き進んだ、彼女の努力が実を結んでいますように。 そう祈ることくらいしか、私にはできない。この日記をしたためているいま現在の私 は、泣きたいほど無策で、無力だ。・総理の夫となってしまった我が身を、くやしく、じ れったく田 5 、つばかりで。 現実逃避であると重々承知なのだが、ひとつ、あなたに読んでいただきたい物語があ る。凛子と私の、出会いの物語だ。 この日記を書き始めた当初は、凛子も私も天国へいってしまった後の世に、政治史家 か大学教授か、はたまた政治家をめざして近代政治史を学んでいる学生か、それとも筋 違いだけれど鳥類学者か、とにかく誰かが偶然これを発見して、相馬凛子と相馬日和に はこんなことがあったのか、相馬内閣にはこんな秘話があったのかと、研究に役立てて くれればよいと思っていた。しからば、凛子が総理になってからの日々に起こった事実

8. 総理の夫 = First Gentleman

384 れたのか、定かではない。手厳しい意見のひとつやふたっ、食らったかもしれない。し かし、政治家としての手腕は原氏が政界随一であると、凛子が一目置いていることには 変わりなかった。原氏に何を言われようと、しつかりと受け止めたに違いない と、ここまで凛子が勝ち抜いたことばかり書き連ねてしまったが、きっとあなたが気 にしているだろう、我らが島崎君のことも書き記しておかねばなるまい 島崎君は、見事、当選した。その喜びようと言ったらなかった。喜ぶあまり、必勝だ るまの目玉を真っ黒に塗りつぶしてしまったほどだ ( 混乱してどう目を入れたらいいか わからなかった、と本人の後日談 ) 。島崎君の選挙事務所の必勝だるまは、そんなわけ まさむね で、独眼竜政宗になってしまった。 新人国会議員にして、総理の信任が厚い彼は、首相補佐官に就任した。彼の活躍の場 しっそ、つ広がることとなった。 そして、「相馬日和付き」広報担当だった富士宮あやかさん。彼女は、その能力が買 われて、直進党の広報部長に抜擢された。 もはや総理の夫も二期目、あらぬ行動に出ることはないだろう、ということで、私付 きの広報担当者はいなくなり、代わりにの男性が研究所の行き帰りを警護してくれ ることになった。少々さびしく思ったが、富士宮さんのためにはそのほうがよかろうと、 私も、もちろん、彼女の昇進を喜んだ。

9. 総理の夫 = First Gentleman

ということだったのだろう。そし に何人もの家政婦を雇うような贅沢もする気はない、 とい、つ宣一一一一口でもあったに違いない て私の母親のようにはならない、 おとわ たかこ 私の母、相馬崇子は、「音羽の奥さま。と呼ばれて、何人もの使用人にかしずかれて いる。そしてそれが当然のことだと思っている。凛子が、当初、私との結婚を渋ったの は、ほかでもない 、この母の存在があってのことだ。それから、我が実家の資産や「相 馬一族」の名前を邪魔がった。お金はないよりあったほうがそりゃあいいけど、あり過 ぎると面倒くさい、と一一一一口、つのだ。 いままで私が見合いを勧められたお嬢さんがたや、私に対して無駄に色目を使ってく る女性たちと、そ、ついう点でも凛子は一線を画していた。 たより 金に興味のない女がこの世にいるはずがない、 とは、兄の多和の言だ。そうだろう、 さきこねえ 兄の奥さんの紗己子義姉さんなどは、言っちゃなんだが、兄と一緒に死ぬのはいやがる だろうけど、お金となら心中できる女性だ。だからかどうか知らないが、兄は凛子が相 夫馬家に入ることを警戒した。金なんか面倒くさいなんて一一一一口う女ほど金に執着するに決ま 理ってるんだ、と決めつけていた。そのくせ、初めて凛子に会ったとき、こっちがぎよっ とするくらい前のめりになって、夢中で彼女に話しかけていた。わかってはいたが、凛 子は兄の好みのタイプの顔立ちなのだ。紗己子義姉さんはまったく兄のタイプじゃなか ったが、 まあ言ってみれば非上場のオーナー企業同士の政略結婚のようなものだったの ぜいたく

10. 総理の夫 = First Gentleman

引 8 いたので、託児所に預けることも考えたんですが、やつばり子供は母親にそばにいても ら、つのがいちばんじゃないかって : : : 」 「ちょっと ! 」富士宮さんが目を吊り上げて、大声を出した。 「何それ退職『してもらった』って、どういうことですか奥さんは働きたがっ てたのに、島崎さんが辞めさせたんですか ? 何それ、あり得ない ! 『子供は母親に そばにいてもらうのがいちばん』って、そんなのあたりまえじゃないですか ! それが できて仕事も辞めずにすめば、世の中の働くお母さんは皆ハッピーですよ ! それがで きないから苦しんでるんでしょ ? それができないから、そうするために、相馬内閣が 必死に動いてるんじゃないですかっ ! 」 ものっすごい勢いである。島崎君は、強烈な一撃を食らって、カメのように首をすっ 込めてしまった。 「まあまあ、落ち着いてよあやかちゃん」 凛子は、苦笑しながら富士宮さんをなだめた。そして、 「でもまあ、一言葉は選んだほうがよさそうね、島崎君 ? 妊娠中の女性は、何かとデリ ケートですから ちくりと刺した。島崎君は、すみません、と恐縮しながら、 「 : : : つまり、ですね。普通の女性でさえそんな感じなのですから、総理大臣ともなる っ