「今後の軍事関与の性質と地域を予測するという点に関して、ベトナム以来、私たちの記録には一点 しんらっ の曇りもないー。陸軍士官学校の士官候補生を前にして、ゲ 1 ツは辛辣な皮肉を口にした。「一度とし て予測が正しかったことはなかった。マヤゲス、グラナダ、。ハナマ、ソマリア、パルカン半島、ハイ チ、クウェート、イラク、その他もろもろでー・ー・それらの任務の一年前には、それほど深く関与する ことになるとは、知る由もなかったのた」。 つづいてゲーツは、米軍の大部隊をゲリラ戦や国家建設に投入するのには甚大なリスクが伴うこと を強調した。「私の見解では、この先、アジア、中東、アフリカに大規模な地上軍を派遣するよう大 統領に進言する国防長官がいたなら、″頭のなかを診察すべきた〃。マッカーサー将軍が、やんわりと そう表現している」。 基地の帝国 アフガニスタンとイラクでの戦争は、世界中の米軍の占有空間の縮図た。私たちアメリカ人は、自 分の国を帝国たとは思いたくないが、国防総省の統計が証明しているように、米軍は地球を囲い込む 帝国の版図を有している。一八世紀と一九世紀のイギリス、フランス、スペインとは異なり、アメリ 力はフィリビンやプエルトリコのような特別な例外はべっとして、海外植民地を持っ帝国を築きはし なかった。 マニフェスト・デスティニー しかし、アメリカは明白な運命という哲学につき動かされて、自由と民主主義の概念を世界中に ひろめ、行動の自由ーーあるいは交易路ーーを脅かされたときには戦う。本質的に、領土をほしがり 100
国生まれだった。そういう学生が市民権を申請しているあいた、アメリカで就労するのに必要なグリ ーンカードの承認を、政府がすみやかに行っていないというのた。 ゲイツたちは一九八〇年代後半から二〇〇〇年代にかけて、議会に圧力をかけ、外国の人材を雇い やすい対策をとるよう求めた。「アメリカの納税者のお金で補助している場合が多いアメリカの大学 で、外国人に教育を受けさせておきながら、母国へ帰すというのは、理屈に合いません」と、ゲイツ * 5 は証言した。「こういうトップクラスの人材は、いずれ雇用される。問題は、どこで雇われるかです , , ビザの抜け穴 ハイテク産業の激しいロビー活動に対して、議会は一時しのぎの対策として、特別なビザ・プログ ラムを法制化した。新設の・ビザ ( 専門職職業ビザ ) ・プログラムは、年間六万五〇〇〇件の三 年限定就労ビザを大卒者にあたえ、アメリカの「専門職種」で働けるようにするためのものたった。 この法案作成に携わった、コネティカット州選出の元民主党下院議員プルース・モリソンは、臨時 措置たと見なしていたーーー・政府が移民の流れの詰まりを解消するまで、才能のある外国人学生をハイ テク・アメリカに導き入れる、つなぎの手段たと。アメリカ市民として雇用できるようになるまで、 貴重な人材をつなぎ止めるために、ビザは三年間の延長が認められていた。「頭のいい外国人がアメ リカ人になるのを促すには、ビザの割り当て件数が少なすぎた」と、モリソンはいう。 当然ながら、確実な高給のハイテク職から追い出され、賃金の安い若い外国人にとって代わられる アメリカ人をどうやって守るのかという議論があった。議員たちはどの演説でも、アメリカ人の雇用 108
カ人の賃金水準と雇用確保を脅かしているという非難の声が高まった。労働省の報告書は、・ ビザを利用している企業が、アメリカの一般的な賃金を下回る賃金しか払わず、しばしば詐欺的なビ ート・一フィシ ノ ザ申請を行うなど法律に違反していると、何度となく告発している。一九九四年、ロ ュ元労働長官は、がアメリカ人労働者二五〇人を解雇し、インド人を雇えるようにしたと、シ ンテルを名指しした。ライシュはいう。「調査によって、シンテルが、インド人コンピューター・プ ログラマーに、 法律で定められた賃金よりも二〇。ハーセント近く低い賃金を故意に支払っていたこと が判明した」。不当な低賃金しか支払われていなかった・ 1 労働者の事例を、ライシュはほかに 一八件挙げた。一年後、労働省の監察官が、アメリカ企業が標準以下の賃金しか払わない詐欺的行為 が蔓延していると報告した。 一九九五年、ライシュは議会で、「深刻な欠陥がある」・プログラムを是正するよう求めた。 アメリカ人従業員が並み以下の給与を支払われているという詐欺的行為に加え、アメリカ人労働者が 脅不当に解雇されていると、ライシュは述べた。「外国人労働者のほうが安く雇えるというたけの理由 の グで、アメリカ企業がアメリカ人熟練労働者を解雇して外国人熟練労働者に入れ替えるという例は、枚 ン 挙にいとまがありません」と、ライシュは述べた。 , 1 プログラムは、「アメリカ人熟練労働者 の給与支払いコストと訓練コストを回避する主な手段になっています」。 シ ン ふたんは企業寄りの自由市場エコノミストのミルトン・フリードマンまでもが、 , 1 プログラ オ ムは企業国家アメリカに対する不適切な補助金たと批判している。マイクロソフトや—やインテ 章 七 ルのような大企業が、外国の才能を育成するシステムに政府の助けを必要としていることを、フリー やゅ 第ドマンは揶揄した。「このプログラムは雇用主にとっての特典で、より安い賃金で労働者を雇えるわ Ⅱ 3
クル、シスコ、アップルなど、・ 1 ビザ・プログラムを目的どおりに使用している企業を称揚す るいつばうで、「インチキ人材派遣会社」を運営して法律の意図をないがしろにしている企業を、激 しく攻撃した。シューマーは、「インド企業を攻撃しているわけではない、が、・ 1 労働者の輸 入をビジネスモデルの中心にしている会社は罰するべきたと主張した。インド企業の大部分と、その ビジネスモデルを真似た一部のアメリカ企業が、それに該当する。 議会がシューマー法を成立させると、インドの産業はそれを自分たちへの一斉射撃と見なし、 アメリカは国際貿易の慣習に違反していると抗議した。インドの最大手企業のジェヤ・ク さや マールは、ビザ手数料の値上げは「コストの鞘取りを台無し」にして、インドのオフショアリング供 給会社の営業を無理やり変えるものたと述べた。 シューマーは反論した。「まさに、それが私たちの狙いた」。 たが、ビザ手数料の値上げは、わずかな影響しか及ばさなかった。また、・プログラムを解 体し、低賃金その他の不法行為の取り締まりを強化して、アメリカ人労働者の保護を改善するという こ - っちゃく 根本的改革案は、議会の膠着状態のために進展しなかった。その法案はハイテク産業に強く反対され、 三年も棚上げされた。 * 鬨 二〇一一年末に、議会はひとったけ有効な方策を講じた。アメリカで働いて永住することを望む外 国人向けのグリーンカードの年間制限を撤廃したのた。彼らはアメリカ人の給料を奪って税金を外国 で払うのではなく、アメリカ市民として納税することになる。この方策によって、・ビザに対 するハイテク・アメリカの需要は、時がたつにつれて減るかもしれない。 しかし、外国人「人材派遣 会社」がアメリカのミドルクラスの専門職を奪うのを阻止し、外国人に奪われた雇用一〇〇万人分を 111
さえあればよかった」。 たが、モリソンや議会の改革派をもっとも困惑させたのは、経済が厳しい時期に , ビザが優 良なハイテク雇用からアメリカ人数十万人を追い出すのに悪用されてきたことたった。「海外企業が いまのように , プログラムを使って外国人労働者を輸入するということが、一九九〇年にわか っていれば、私はそういう使い方ができるように法案を起草しなかったたろう」。モリソンは私にそ 、フいった。「グロ ハリゼーションのせいで一部の仕事が海外へ行ってしまうのは仕方がないが、政 府がずるをしてそれをやりやすくするべきではなかった」。 インドの産業の指導者たちは、アメリカの批判に憤慨する。インドは「アメリカ人の雇用を奪 っていると見られている、と、 , 1 人材派遣会社も加入しているインドの全国ソフトウェア・サ 1 ビス企業協会 (z 0 0 ) のソム・ミッタル会長は書いている。二〇一〇年一二月、サンノゼ ・ニューズ》の署名入り記事で、インドは「アメリカで雇用を創出している国」た の《マーキュリー 威 脅と見られるべきたと論じている。 の グ インドの会社はアメリカ企業のコストを年間二〇億ドルないし二五億ドル節減していると、 Z ン は主張する。貿易組合と学者は、そのお金はアメリカ人の雇用のために使われるべきたとい い切った。 ン オ ファイザーの人員入れ替え 章 七 第 インド企業の業務がこれほど問題視されるのは、たいがいの場合、アメリカ企業が、法をす 115
ルマートの要求に屈して、同社はアメリカの工場を閉鎖し、中国に工場を開設した。 ウォルマート・モデルの衝撃 ウォルマートにラバーメイドを打ち負かす力があったことは、一九八〇年代と九〇年代のアメリカ のビジネスでカの移転があったことを物語っている。その移転によって、世界中に延びている ヾ、レレ」 ノノ′ィー とに中国からアメリカへのー、ーサプライチェーン ( 供給網 ) ができ上がった。こうしてグロー した経済は、古いやり方を崩壊させ、アメリカが三五〇万人の雇用を失うという代償を払わせたのた。 ウォルマートのような大型小売店が勃興する前には、メーカーはお山の大将たった。なにを製造す るか、小売店が消費者になにを勧めるかは、メーカ 1 が決めていた。ウォルマートが、それをすべて 変えた。すぐにではない。ウォルマートが力をつけるまで、時間はかかった。たが、創業者のサム・ 悲ウォルトンとウォルマートは、攻撃的な経営をして、急成長した。ウォルマートは一九七〇年の三八 グ店舗から一九八〇年には二七六店舗になり、一九九〇年には一四〇〇店舗に達していた。一九九一年 ン には、ウォルトンが最初の安売り店をひらいたときからわずか三〇年で、ウォルマートはシアーズや マートを追い抜き、アメリカ最大の小売店になった。二〇一一年、ウォルマートは年間売り上げ二 ハ六〇〇億ドルの巨大小売店となり、アメリカ国内の三八〇〇店舗で毎週一億四〇〇〇万人の客が買い オ 物をしている。 章 五 社員一二〇万人というアメリカ最大の雇用主でもあり、アメリカ経済全体に力と影響力を及ばして いる。カートを押してレジを抜けるたびに、消費者はコスト削減の恩恵を受けている。一九九〇年代
のコンピューター企業がアメリカの半導体メーカーを脅かしたとき、レーガン政権は日本政府に政治 的圧力をかけて前例のない貿易協定を結び、アメリカ製半導体が日本市場でシェア二〇パーセントを 維持するよう強要した。レーガンが議会を説得して、コンピューター企業十数社と政府の官民。ハ ナーシップ、セマテックに一〇億ドルを投資させた。アメリカのハイテク産業が先駆者でありつづけ、 軍の兵器システムの部品を、国防総省が危険なまでに外国の供給に依存するのを防ぐために、「先制 競争」テクノロジーを創出する、という触れ込みたった。 またレーガンは、アメリカの自動車メーカーを強力に保護した。トヨタやホンダがアメリカの自動 車市場を深く侵食すると、レーガンはドルの四〇パーセント切り下げを強行し、日本からの輸入製品 の価格を割高にした。そして、日本政府に圧力をかけ、日本のアメリカ向け自動車の輸出割当量を定 め、日本の自動車メーカーがアメリカ国内に組み立て工場を設置して、アメリカ人労働者の雇用が生 ↓ 6 れるよ、つにしこ。 ン つまり、二〇〇八年の経済崩壊時に、オパマ大統領がウォール街の銀行救済のために、ジョージ・ プ ・ブッシュ大統領が議会の承認を得た資金のうち八〇〇億ドルを使って ( ゼネラル・モーターズ ) ヤとクライスラーを救済したのは、まったく前例のないことではなかった。 一要するに、現代の右派政治の論理とは裏腹に、両党の大統領は公的資金や権限を使ってアメリカの マ 内産業を保護し、なおかつ国の交通・通信・金融システムに数千億ドルを注ぎ込んできた。アメリカ建 国 国以来ずっと、大統領たちは新テクノロジーの進化を育成してきた。しかし、民間セクターのイノベ 章 ーションとして市場に出されたものに政府が一役買っていたことに、アメリカ人は往々にして気づい 第ていない 119
アップルは 0 ( アイフォーン ) や ( アイ。ハッド ) を中国で製造し、ヒューレットパッ カードやシスコはノート・ ハソコン、プリンター、携帯電話、インターネット接続機器の部品を輸入 している。 アップルの O 0 を長年っとめたスティープ・ジョブズは、アメリカの雇用を増やしたとして、イ ンディアナ州知事ミッチ・ダニエルズのような共和党指導者に称賛されたが、実情はまったく違い いつば ジョブズの経営でアップルがアメリカ国内で雇ったのは、わずか四万三〇〇〇人にすぎない。 う、中国を主とする海外サプライヤーは七〇万人を雇っている。《ニューヨーク・タイムズ》が報じ たように、アップルが中国での搾取労働や中国工場で起きた死亡事故に目をつぶっているのは、中国 の賃金が安いからたけではなく、半官の中国サプライヤーがアップルの厳しい納期に間に合わせるた めに労働者を真夜中に叩き起こし、一日一五時間働かせるからた。中国におけるアップルの と o の最大のサプライヤ 1 、フォックスコン・テクノロジー・グループは、外部の監査で 悲判明したこの手の違法労働により、競争優位をものにし、価格を下げてアメリカの競合する会社を叩 の グきのめした。「速度と柔軟性は驚異的た」と、あるアップル幹部はいう。「あれに匹敵するアメリカの ン 工場はない」。 中国の低コスト、中程度のスキルの労働力、国が支援する産業群に惹かれるアメリカ企業は、ほか フ にも多数ある。中国を海外生産基地にしてアメリカの消費者向けの製品を輸入することで、アメリカ オ の多国籍企業は、アメリカの対中国赤字を二七三〇億ドル増やしている。これは一〇年前のレベルの 五三倍に当たる。政府が中国との貿易を承認した二〇〇一年から二〇一〇年にかけて、赤字は圧倒的に 第増えた。私たちアメリカ人は、中国に売る商品よりも一兆九二八〇億ドルも多く、中国から商品を買
は守られると誓った。しかし、結局、一九九〇年の法律ではアメリカ人を確実に守る条項は書きくわ えられなかった、とモリソンはいう。 , 1 ビザを持っている者に、現在の給与を割り引いた額で はなく、一般的な額を払うことを、法律は雇用主に求めていた。たが、高スキルのアメリカ人が現在 の仕事を維持することを雇用主に求める条項も、ハイテク職務があるときに労働市場を探して、外国 人よりも先にアメリカ人を雇うことを義務付ける条項もなかった。「・はそれを要求していな 要求したことは一度もない」とモリソンはいう。 「この法律にはいくつも抜け穴があって、会社がそれを利用するのは簡単たった」と、モリソンは私 にいった。アメリカ企業は、法律を回避する方法を編み出した。合法的にアメリカ人社員をクビにし、 下請け会社を介して外国人を働かせるという、すり替えをやったのた。法律によれば、「社員を解雇 してその代わりに・労働者を雇うことはできないが、アメリカ人社員を派遣している下請け会 社との契約をやめ、 , 労働者を派遣する下請け会社と契約すればいいたけた」。 威 グオンショアリングの拡大 ン こういう抜け穴のある , プログラムは、たちまちハイテク世界の経済情勢を一変させ、アメ シ ン リカ人の優良雇用を数十万人分消滅させた。マイクロソフト、インテル、オラクル、シスコ、 オ など、 , 法制化を推進した巨大企業が、真っ先にそれにつけ込んた。たが、他の企業もそ 七のさまざまな利点に、すぐさま気づいた。そのうちの一社が巨大保険会社で、マンハッタン、 ハンプシャー州の主要情報部門の人員を入れ替えることで、コストを削 109
の競争相手と前例のないやりかたで共有している」と、ガーテンは断言する。「彼らは外国の科学者 やエンジニアを育成し、そういった連中と、あらゆるところにはびこっている中国政府関係者に、独 占的な研究プログラムへのアクセスを許している」。 企業の利益北国の利益 ここで作用しているのは、中国側の誘因ばかりではない。アメリカの一流企業経営者の物の見方も、 一部で急激に変化している。アメリカ国民の大多数は、アメリカ経済の成功とアメリカ企業の成功を 同一視する。たが、そういうふうに考えない企業 o;-@O も多い。彼らにしてみれば、アメリカはもは や活動の中心ではないのた。アメリカはグロー パル市場のびとつにすぎず、アメリカで売ることが、 かならずしもアメリカで作ることと一致するとは限らない ヘンリー・フォードが設立した由緒ある会社の o =.a 0 アレックス・トロットマンは、その考え方を 一九九〇年代にはじめておおっぴらにロにした一人たった。「フォードは厳密にいうならアメリカ企 業ですらない。私たちはグローノノ ヾレ企業た」と、トロットマンは述べた。アメリカに本社がある最大 手—サービス会社 ( エレクトロニック・データ・システムズ ) のロン・リッテンメイヤー 0 は、 自分の会社は「具体的にどこで業務をやるかということについて、偏見にとらわれていない」と説明 元インテル O O のクレイグ・パ ーレットは、インテルがグロ ーヾルに展開して業務を行っている ことにかなり強気たった。《ニューヨーク・タイムズ》のコラムニスト、トーマス・フリードマンは、