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検索対象: 資本主義が生んだ格差大国
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1. 資本主義が生んだ格差大国

ちがアル・ダンラップに乾杯していた。ある身なりのよい夫婦は、 ( いまや一〇〇万ドルをゆうに超える ) サンビームの二万五〇〇〇株で「すばらしい思いをした、と私にいった。同社の株価はダンラップが 一九九六年五月に着任してから三倍になっていた。ダンラップ自身も、当時でおよそ一億六〇〇〇万 ドルに相当する四〇〇万株を持っていた すべての解雇が必要たったのかと私がたずねると、ダンラップは気色ばんた。「戦場の司令官のよ うなものた」と反論した。「兵士は一人も失いたくないが、戦いに突入したら犠牲は免れない・ の仕事は結局、企業とできるたけ多くの雇用を救うことた。じっさい六〇〇〇人以上の雇用を救った」。 「解雇は無駄ー しかし、ダンラップの競争相手が何人も異を唱えている。ィリノイ州スターリングで似たようなパ リカンを製造していたウォール・クリツ。ハ ・コーポレーションの所有者は、「アメリカでパリカン を作ってもたいした利益は出ない というダンラップの主張に異を唱えた。ウォールは二五年間一人 も従業員を解雇していなかった。「なぜ解雇を ? 必要ない。まったく無駄た」。白髪の、ジャ ック・ウォールはきつばりいった。「ダンラップは優秀な人材を解雇している。彼らは不可欠な人材 た。そもそも : : : 従業員の二五。ハーセント、三〇パーセントがいなくなったら、衝撃的な変化が起き る : : : 彼らはすぐれた人材だ。解雇すべきではないー。 遠く離れたフロリダの本社から工場を経営しているアル・ダンラップとは違い、ウォールとその息 子で後継者のグレッグは、社員たちとおなじ町に住んでいる。ウォールは非公開の家族経営の企業で、

2. 資本主義が生んだ格差大国

長期の市場出来高にもとづく妥当な成長率は、株式と債券の組入比が一対一のもので、年間五パ セントたとボーグルは断言した。長いあいた着実に根気よく投資すれば、年間五パーセントは驚くべ き利益を生むとポーグルはいった。一ドルは四〇年で七・〇四ドルになる。一〇万ドルなら七〇万四 〇〇〇ドルた。引退資金では、期間がきわめて重要になる。二五年間では、おなじ一ドルでも、七・ 〇四ドルではなく三・三九ドルにしかならない。当初の伸びよ屯 : 、、 こ金し力あとになって急増するとポー グルはいった。「ホッケー・スティックの形とおなじです」。 リスクを負わず利益をかすめ取る しかし、一般的な 401 (=) とミューチュアルファンドの投資家たちは、そうした長期的な成果 の恩恵を十分に受けていないと、ポーグルはいう。なぜなら、金融業界・・・、ー・ 401 (=) 口座を管理 するミューチュアルファンドと銀行 が、 401 (=) の利益の大半をかすめ取っているからた。 ボーグルによれば、彼らの手数料や取引コストは平均して年間二パーセントである。平均五パーセン トの利益からそれを引くと、個々の投資家の純益は三。ハーセントになる。長期の場合、ミューチュア ルファンドの取り分は複利効果がある。たから、四〇年で一ドルから七・〇四ドルになると予想され るものが、三 ・二六ドルへと大幅に減ってしまう、という。 「四ドル近い差額はどこへ行ったのか ? 」とボーグルは問いかけた。「〔手数料として〕ウォール街へ行 った。つまり、投資家は資本の一〇〇。ハーセントを投入します。リスクも一〇〇。ハーセント負う。し かし、収益の四亠 ) / ハーセント程度しかもらえない。ウォ 1 ル街は資本をまったく投入せず、なんのリ 148

3. 資本主義が生んだ格差大国

のアメリカ企業は、社員を解雇するいつばうで、自社株の買い戻しに合計四四五〇億ドルの現金を割 り当てていた。こうして投資家に利益をもたらすいつばう、失業を増やしていたのた。 減税と成長に直接のつながりがないことを示す証拠物件一号は、ンヨージ・・ブッシュ政権下で 二〇〇一年、二〇〇二年、二〇〇三年に実施された大規模減税のあとの悲惨なアメリカ経済の実績た。 ブッシュ減税後の一〇年は、デービット・レオンハートが《ニューヨーク・タイムズ》に書いたよう 「第二次世界大戦以降、平均年間成長がもっとも鈍かった一〇年たった。驚くべきことに、大不 況を度外視して二〇〇一年から二〇〇七年までたけを見ても、それが当てはまる」。 さらに、スタートアップ企業が雇用を創出して労働力が回復するという約束についても、ブッシュ は間違っていた。じっさいは正反対たった。スタートアップ企業の雇用創出率と労働力率は低下した。 エコノミストのアラン・クルーガーが述べているように、「二〇〇〇年代はこの五〇年間でもっとも 雇用創出が少なかった。二〇〇七年に不況がはじまる前からそうたった」。それとは対照的に、ビ ル・クリントン大統領の時代、クリントンがかなりの増税を断行したにもかかわらず、アメリカ経済 は大きく成長した。さらにさかのばると、所得税率が今日の倍以上たったアイゼンハワーとケネディ の政権下でも大きな成長が見られた。 要するに、富裕層に対する減税の経済的論拠は、まったく間違っている。 オバマの減税廃止案 しかし、二〇一二年一二月、オパマ大統領が景気回復を後押しするため、全納税者の九八パーセン 194

4. 資本主義が生んだ格差大国

一九五〇ー七〇年代ーーー好循環の時代 自動車製造の先駆者へンリー・フォードは、アメリカが成長してミドルクラスが繁栄した偉大な時 けんいん 代、一九五〇年代、六〇年代、七〇年代を牽引した重要な経済的概念の名づけ親たった。ニューエコ ノミーが数百万人のふつうの人々のアメリカンドリームを討ち滅ばしていく前のことた。フォードの 着想は、エコノミストのいう「成長の好循環」たった。 ヘンリー・フォードは、一九一四年に有名な型フォードを売り出し、社員に当時としては破格の 一日五ドルという賃金を支払うと発表して、この着想をびろめた。フォードはのちに、社会的正義た けではなく、事業の繁栄という理由もあったと書いている。賃金が低いと、企業と経済がリスクにさ らされる。しかし、賃金が高ければ、労働者はよい消費者になり、型フォードを買えるようになる から、商売は安定する、とフォードは合理的な考え方をした。 現代のエコノミストは、フォードのこの単純明快な公式を取り上げて、ミドルクラスのアメリカ人 数百万人に戦後支払われた高賃金が、経済成長の原動力たったとしている。安定したよい収入と雇用 の確保が強い消費者需要を生み、それが経済成長を促した。企業は生産拡大と設備投資を行う。すべ ての拡大があらたな消費者需要を生む。たれかが連鎖反応を止めないかぎり、この好循環は成長を生 みつづける。 この仕組みが機能していたおかげで、戦後の時代は「これ以上いい時代はなかったといえるような 好景気」に恵まれたと、エコノミストのポール ・クルーグマンはいう。「一見して、国民全員に仕事

5. 資本主義が生んだ格差大国

401 (=) の実績がこれまで不振たった結果、個人に残された選択肢は三つしかないと、ポスト ン・カレッジのアリシア・マネルはいった。つまり、もっと貯金するか、長く働くか、生活費を減ら すかだ。「どれも気が進まないでしようが、一番ましなのは、長く働くことです」。 それはすでに現実となっている。アメリカのソーシャル・セキュリティーが定義する公式な引退年 齢は、六五歳から六七歳へじわじわと上がっている。当然ながら、寿命の延びを反映してさらに引き 上げられるたろう。複数の調査から、「老後も働きつづける必要があるという厳しい現実に気づく 人が増えていることがわかっている。二〇一〇年後半、アメリカ人のほば四人に三人は、退職後も当 分は働くつもりたと答えた。老後のための資金がまったく足りないとわかっているからた。 高齢の労働者 ( 五五歳以上 ) が総労働人口に占める割合はすでに増えている。一九九九年には一二パ ーセントたったが、二〇〇九年には一九パーセントになり、今後一〇年で二五パーセントになりそう た。七五歳以上でも、仕事を持つ人の数は増えている。二〇一一年には七五歳以上の約七・五パーセ ントが働いていたが、二〇一八年には一〇パーセント以上になると予想されている。 「ベビー ・プーマーは、自分たちの親とはまったく異なる引退生活に直面するでしよう : : : 」と、ニ 罠 ・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチの上級年金エコノミスト、テレサ・ギラードウッチ の はいう。「彼らは働かないとやっていけません。引退者にとって、それが唯一の収入源です。これか らいうことは皮肉だとわかっていますが、引退者が収入を増やすには、働くしかないのです : : : 」。 「では、引退生活を送る唯一の方法が働くことたとしたら、″引退〃という言葉の意味はどうなりま 章 ニすか ? 」と、ギラードウッチは問いかける。「答えは、引退にはもはやなんの意味もないということ しゅうえん 第です。私たちはいま、生涯年金から生涯労働へ移転しつつあります。引退の終焉です」。 155

6. 資本主義が生んだ格差大国

高収益なのに雇用を圧縮するそうした流れが、最近の不況でも加速した。二〇一一年初頭、《ウォ ールストリート・ジャーナル》が、高失業率のさなかで遊んでいる資金を貯め込む企業国家アメリカ のことを、トップ記事で報じた。「収益が高まっても雇用を急がない」という見出したった。企業は 一兆ドルを上回るーー前年度の二八。ハ 1 セント増のーー年度末利益を申告し、裕福な株主たちに配当 の増加を約束していた。ダウ・ジョーンズエ業平均株価は一万二〇〇〇ドル以上に上昇した。たが、 そのいつばうで約二九〇〇万人のアメリカ人が失業し、やむをえず。ハートタイムで働き、絶望して労 働市場から落ちこばれてい。金持ちは不況を脱し、ミドルクラスは傷つき苦しみ、企業国家アメリ 力は一兆九〇〇〇億ドルの現金を貯め込んで、海外事業を拡大していた。それがアメリカの復活を妨 数字が過去三〇年の図式を裏付けているーー・・平均的なミドルクラスは深刻な打撃を受け、いつばう 企業国家アメリカは高収益を享受していた。かっての社会契約は、しばんで消滅していた。 116

7. 資本主義が生んだ格差大国

ノミーの規範ではなかった。ウォール街は、 O 0 に会社をうまく経営させるのにストックオプショ ンは不要たというメルローズの主張にきく耳を持たなかった。それどころか、まったく逆の展開にな った。ウォール街は企業の株を、経営を成功に導く秘訣と見なした。 一九八〇年代、ストックオプションは企業国家アメリカの金の卵を産むガチョウになり、企業エリ ートが巨万の富を築く道筋になった。取締役会は毎年、を含む幹部に大量の自社株やストック オプションーーー無料の株か、割引価格の株のどちらかーーーの付与を認めていた。一般株主と違い、企 業のお偉方は下落のリスクにさらされない。彼らがストックオプションを行使するのは、株価が上が ったときたけたった。さらに、アル・ダンラップが実証したように、言葉巧みな (OCX-IO は、しばしば 市場を短期間で上昇させることができる。 この莫大な利益の山分けは、もともと裕福な企業幹部を超富裕層へ押し上げるのに十分たった。以 前、アメリカの超富裕層はほとんどが、富を世襲した人間たった。しかし現在は、アメリカの最富裕 層ーー上位〇・一。 ーセントーーの六〇。ハーセントが、企業とウォール街の最上層に属している。そ してストックオプションは、企業幹部が大金持ちになる第一の手段た。 ソフトウェア大手オラクルのラリー・エリソン O O は、企業国家アメリカの″新・超富裕層〃の 典型。エリソンは取締役会から、オラクルの株を毎年七〇〇万株も付与されていた。二〇〇一年に は、株の付与、オプション、現金、賞与を合わせて七億六一〇万ドルを手にして、《ウォールストリ ート・ジャーナル》がまとめた「一九九五年から二〇〇五年までの年間報酬上位一〇人」の首 位になった。次がディズニーの元 0 O マイケル・アイズナーで、一九九八年に五億七五六〇万ドル、 一九九三年に二億三〇〇万ドルを得ていた。三位はシティ・グループの元 O O サンディ・ワイルで、 164

8. 資本主義が生んだ格差大国

限が抑えられていることに阻害されている。賃金の伸びがないことは、個人ばかりではなく経済全体 に悪影響がある。賃金上昇が弱気たと、消費者需要が弱気になる。企業は拡大や雇用を控え、国は長 期の痛みをともなう「雇用なき回復」の泥沼にはまる。この二〇年のあいたに、それが何度か起きて 要するに、ダウンサイジング ( 小規模化 ) 、オフショアリング ( 業務の海外委託 ) 、ウェッジ・エコノミ クスが、逆効果を引き起こしたのた。それらは、経済のためにも国のためもにならなかった。個々の 企業は儲かったかもしれない。 ことに、海外に生産を移した多国籍企業は得をした。しかし、その利 益をアメリカ人従業員にはろくに分けなかったため、ミドルクラスの支出は抑えられ、消費者需要が 大きくないので、国の経済は順調に進むことができない。 政府の機能不全 連邦政府も進めずにいるーーー党派主義でにつちもさっちもいかず、機能不全に陥って凍りついてい るか、らた。 たしかに、ほんとうの違いのせいで、私たちは分裂することもある。それはどんなときでも事実た。 アメリカの政治は、党が政策をめぐって戦うのにつれて、振り子のように揺れてきた。たが、それに は認められていた重心があった。仕事はきちんとなされた。民主党のリンドン・ジョンソンと共和党 のリチャード・ニクソンのような政敵には大きな違いがあったが、合意する部分もあった。どちらも ソーシャル・セキュリティー〔連邦政府の公的年金制度〕を拡充し、どちらもそれを民営化しなかった。

9. 資本主義が生んだ格差大国

収七万五〇〇〇ドルなら七五万ドルが必要たということた。 ポストン・カレッジ退職研究センターが定める目標額は、い くらか低い。年収五万ドルなら三〇万 ドルの貯蓄、七万五〇〇〇ドルなら五五万ドル、一〇万ドルならば約八〇万ドルた。しかし、 と違い、これらの数字には医療費が含まれていない。六五歳以上の夫婦なら、さらに二〇万ドルか かる。いずれにしても、これらの専門家がはじき出した目標額は、退職を控えた中所得アメリカ人の 401 (*) 残高よりも五倍から一〇倍多い ほとんどのプランは「必要額の半分」 リッチ・キドナーの例をあげよう。皮肉屋で気さくなコンビューター・マニアの彼は、テキサス州 の億万長者ロス・ペローが設立したソフトウェア会社ペロー ・システムズで、顧客のヘルプ・コール を担当している。 一九九二年の入社以来、キドナーはきちんと 401 (x) プランに拠出してきた。最近では、年間 給与の七万五〇〇〇ドルから年に五〇〇〇ドルほど拠出している。二〇〇七年後半には、残高が一四 万九〇〇〇ドルに達したが、その後、「他のみんなとおなじように損を出して、一一万一〇〇〇ドル に減った」という。 それでもかなりの額に思える。本人も、ペローがデルに売却されても解雇されなかったことや、心 臓弁の大手術と回復にかかった一七万五〇〇〇ドルが会社の医療保険で支払われたのは、とても運が よかったと思っていた。六〇歳で復職したキドナーは、ゴルフに熱中していて、六五歳で引退して世 150

10. 資本主義が生んだ格差大国

第一章 401 ( k ) の罠 していなかった。金をそのままにして、増えるにまかせた。最高の成果を得て、高くつく落とし穴を 避けるすべを知っていたのだ。 「私はこれを″利回り格差〃と呼んでいる」とハミルトンはいう。「利回り格差は、この、われわれ の偉大で美しい 401 (*) の動きのなかの金融のガンたと思った。これまで一度も目にしなかった のに、よく見ると至るところにあった」。 「どういう意味ですか、金融のガンというのは」と、私はたずねた。 、、ミルトンは明一一一口した。そ 「それが、ふつうの労働者が尊厳ある引退生活を送る機会を損なう」と 「この状態で引退するのは無理た」。 して、びどくゆっくり、 一語一語を強調しながらいった。 退職後の深刻なリスク ハミルトンの結論を、他の退職専門家たちが裏付けている。そしてそれは、引退が近づいているミ ・プーマーとその後の世代にとって、きわめて重大な問題を示唆している。 ドルクラスのベビー アメリカの労働者の半数は、雇用主の退職後プランを受けていない。約四〇パーセントの人々が、 4 01 ( ) プラン、アカウント・ ハランス制度、それらと同様の制度に加入している。つまり、従 業員が定期的に拠出し、一部を雇用主が負担して、従業員は雇用主が提示する複数のミューチュアル ファンドから投資先を選んでいる。一〇パーセントの人々は、生涯年金や 4 01 ( ) や 4 01 ( ) ニの変種タイプを組み合わせている。 一三〇〇万人の 401 (*) の実績を調べている従業員福利厚生 401 (=) の実績は芳しくない。 ユ 41