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検索対象: 資本主義が生んだ格差大国
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1. 資本主義が生んだ格差大国

ミドルクラスの敗」 ところが、一九七〇年代末から、アメリカでは逆のことが起きている。超富裕層の急増する富は、 ミドルクラスのアメリカンドリームを徐々に討ち滅ばしていった。まっとうな給料と医療保険などの 手当て付きの安定した仕事、生活水準の向上、持ち家、不安のない引退生活、そして、子供たちがよ りよい未来を満喫できるという希望が消えた。 アメリカは、一九四〇年代から一九七〇年代にかけてのミドルクラスの繁栄とカの時代から、莫大 な富と不安定な大規模経済の時代へと、衰えていった。経済繁栄をもっともびろい範囲で分かち合い 世界一豊かなミドルクラスを擁している国として世界各国にうらやましがられていたのに、落ちぶれ て、「機会の国」という肩書きを失った。それどころか、現在ではアメリカよりも西欧のいくつかの 国のほうが、経済と社会のはしごを昇るのが簡単になっている。 もちろん、グロー パリゼーションによって私たちは打撃を受けたが、それに「ニューエコノミー びつばく で対応したために、アメリカのミドルクラスはこれまでになく経済的に逼迫し、左右両陣営から抗議 の声が沸き起こった。 「ミドルクラスはこの国の偉大さにとって重要た」と、右翼のラジオコメンテーター、ラッシュ・リ ンポ 1 は二〇一一年一〇月、数百万人のリスナーに向けていった。「アメリカには世界最大のミドル クラスがいたが、それがほとんど全方位からの攻撃を受けている。住宅価格の崩壊を見るがいい ドルクラスの人々が持っている最大の資産は、たいがいの場合、自宅た。それが破壊されている。何

2. 資本主義が生んだ格差大国

あるデュポンの工場で化学技師を三五年っとめたのち、サークルビルの共和党市長になった。「生活 、こーーー地元の工場はどこも。高卒 水準はどんどん上がっていました。みんなが成長し、拡大して ( ナ 者は引く手あまたたった。 サークルビル ( 人口一万二〇〇〇 ) は、自称「世界のカボチャの首都 , た。有史以前の氷河に滑らか にならされた、オハイオ州中南部の豊かな農地、ピッカウェイ平原の中心に位置する。たが、見た目 は小さな町たが、交通の大動脈に近接しているために、サークルビルはアメリカの有名企業を引き寄 せた。 O < 、デュポン、、オーウエンズ・イリノイ〔ガラス器メーカー〕はみな、同市に工場を 持った。ペットフード会社のピュリナは、地元の穀物を加工した。 つまり、サークルビルのような町は、一九七〇年代から二〇〇〇年代まで、アメリカの経済成長の エスカレーターに乗っていた。そしてバム・ショールやマイク・ヒューズのようなミドルクラスの 人々は、アメリカンドリームを満喫していた。どちらも家を買い、子供を育て、で出世の階段 を昇り、安定した給与、充実した手当、年間五週間の有給休暇、会社が負担する年金を受け取った。 秘書からはじめたバムは、年給四万七〇〇〇ドルの商品倉庫主任になった。マイクも十分な技術研修 を受けて昇進し、二〇〇〇年には上級品質管理検査官となって、年に五万ドルから六万ドルを稼いで 「あそこで働くのが好きでした」。二人の意見を代弁して。ハム・ショールはいった。「最高でした。み んなが知り合いで。すばらしかったわ」。 すばらしかったが、長くはつづかなかった。 110

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般的な子供たちは、フランス、ドイツ、北欧で生まれた同様の子供たちとくらべ、中流以上に上昇す る機会がずっと少ないというのが、不愉快ながらも真実た。それどころか、ある研究では、アメリカ の貧困カーストの子供がミドルクラスのなかごろまで上昇するには、五、六世代っまり一二五年ない し一五〇年かかるとしている。 「アメリカで上流階級に生まれると、世界でも例を見ないほどの数々の特権がある、と、カリフォル レバインはい、つ。「いつば、つ、貧しい家庭 ニア大学パークリー校のエコノミスト、デービッド・—・ に生まれると、西欧や日本やカナダではありえないような不利益がある」。 なんの進歩もなかった三〇年 ミドルクラスの地位をずっと維持してきた人々も、現状からはい上がれずにいる。アメリカ経済が 一九八〇年代、一九九〇年代、一一〇〇〇年代に成長をくり返したのに対し、平均的なミドルクラス世 帯はほとんど先へ進めなかった。上げ潮はすべての船を押し上げたわけではなかったのた。いや、む しろ大半の船を押し上げなかった。国家の成長とミドルクラスの所得停滞のあいたにある溝が、以下 の統計にまざまざと示されている。 層 困 貧 新 ・一九四八年から一九七三年にかけて、農業をのぞくアメリカの全労働者の生産性は九六・八。ハーセ 章ント上昇し、平均的労働者の一時間当たりの報酬は九三・七パ 1 セント増加した。すなわち、戦後に 第アメリカが急激な経済成長をとげたとき、ミドルクラスの労働者たちは、生産性向上が国にもたらし 117

4. 資本主義が生んだ格差大国

に乗せる、偉大な新リンカーンはどこにいるのか ? これまで、マーティン・ルーサー・キング牧師 のような市民運動指導者は、下から、つまり大衆運動から現れた。ポピュリストの市民的活動が起点 たった。イ 固人的な関わりが、重要な要素たった。 トインビーが指摘しているように、成熟した文明社会に暮らすおおせいの人々が、社会にもう帰属 していないと感じるとき、深刻な危機が浮上する。自分たちは国の運命を決めるような役割と意見と は、ほとんど無縁になってしまったと人々が思うようになると、大衆の疎外感が強まり、深刻な不和 が生まれる。 「アメリカ人がネガテイプな態度をとるのにはわけがある」と、市民組織コモン・コーズ代表たった 故ジョン・ガードナーは、数年前に述べている。「たが、この重大事においてはアメリカ国民も問題 の一部であるというのが、嘆かわしく厳しい真実なのだ。シニシズム、疎外感、不満は、私たちを前 進させない。私たちの前方には大きな課題がある」。 ティー ーティーのやり方は、中央政界で政治目標を推し進めるびとつの方法たとわかっている。 しかし、議会のティー ーティーの新人議員たちは、ミドルクラスの政治目標を推進するどころか、 減税と企業や金融機関の既得権を守るような政策を推し進めている。ミドルクラスの子女の大学教育 への援助、ミドルクラスの高齢者への年金や医療、ミドルクラスの家族が持ち家を維持するためのプ ログラムを削減するというのが、これまでの彼らの戦略たった。 ティー ーティーの政治目標は、ミドルクラスの政治目標とはまったく違う。下院のティーパ ィー議員六〇人の半数以上が、資産平均一八〇〇億ドルの百万長者なのたから、驚くには当たらない

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、こ。「以たような 雇された人たちに出くわした。。ハムとおなじく、彼らも依然として定職を探してしナ 人たちが二〇〇人いて。全員がおなじ仕事の試験を受けているんです。私がまっさきに受けたのは、 チリコシー市の水道メーター検針係の試験です。二〇〇九年六月でした。時給一四ドルで、応募者は 二五〇人でした。結局、一人も雇われませんでした。内部で補充されて。 一年後、また失業中たったバムは、なにをしたらよいのか、どこを頼ったらよいのかがわからない 「ほんとうに恐ろしいことです」と、。ハムは私にいった。「一年も失業している のが悪夢たといった。 なんて、夢にも思いませんでした。もう沈んでしまいそうです」。不安と眠れぬ夜を何度も過ごした とわかる、神経質な笑い声を上げた。「クレジットカードと失業手当で、かろうじてやりくりしてい ます。貯金はもう底をついて、生きていくので精いつばい : : : 怖くてたまりません」。 ミドルクラスの落ちこぼれ ハム・ショ 1 ルとマイク・ヒューズは、アメリカの新しい現象、新貧困層の実例た。彼らはいわば、 アメリカンドリームとはまったく逆に低所得層へと滑り落ちるミ 「ミドルクラスの落ちこばれ」 ドルクラスのアメリカ人、人生後半で後退した人々た。わずか六年間で、二人はアメリカのミドルク 困ラスの中位、全所得層の中位二〇。ハーセントから、下位二〇パーセントかそれよりわずか上へと転落 新した。そして彼らの物語は、アメリカ社会にびろく見られる傾向を反映している。 章 私たちの国は、まさに過去七〇年間で最悪の一〇年を経験している。二〇一一年末は一〇年前より * 9 ・ 第も雇用が少なく、典型的なミドルクラス世帯の収入は一九九〇年代後半よりも減った。しかし、物語 * 8 113

6. 資本主義が生んだ格差大国

第四章ミドルクラスの繁栄 第四章ミドルクラスの繁栄 ニューエコノミー以前にあった「好循環」の仕組み アメリカ合衆国は、階級なき社会てあらゆる人々が繁栄するという理想に、もっと も近づいている。 リチャード・ニクソン副大統領 ( 一九五九年 ) 「大圧縮」政策は三〇年以上の長期にわた「て収入の格差を縮小するのに成功して いる。そして、格差が縮小した時代は、アメリカがそれ以降取リ戻すことができない 史上最大の繁栄の時代てもあった。 ポール・クルーグマン 『格差はつくられたーー保守派がアメリカを支配し続けるための呆れた戦珞』

7. 資本主義が生んだ格差大国

てきわめて重大な細字条項を押し込んだ。 401 (*) ( 確定拠出型年金 ) という無味乾燥な見出しがっ いたその補足項目は、やがて、多くの大企業が数十億ドルの従業員年金支出をまぬがれる道具に使わ れた。それは、企業の収益とのポーナスを増やし、ミドルクラスのほとんどの人々に引退資金 を自己調達させる大きな一歩たった。 4 01 ( ) 条項は、もともと、ゼロックスやコダックやニュ 1 ヨークの多くの銀行が採用してい ・コナプ た収益分配型制度における繰延給与への税優遇措置として、ニューヨーク州選出のバ ル下院議員によって提唱されたものた。租税策定を行う歳入委員会委員をつとめる共和党重鎮のコナ プルの選挙区には、コダックとゼロックスの両社があった。その後の一九八一年、レーガン時代の財 しつよ - っ 務省が、企業の税務コンサルタントの執拗な働きかけによって、 401 (=) 条項の適用範囲を全従 業員の基本給与に拡大する決定をした。にわかに、将来的な巨大市場がミューチュアルファンド ( 投 資信託 ) ・マネジャーたちを引きつけた。彼らは企業の 401 (æ) を大々的に歓迎し、何百万ものミ ドルクラスのアメリカ人に新しい税制優遇措置の利点を説いた その結果、一般従業員に生涯年金を支払うという旧来の企業制度の大半が改められ、財政上の大変 動が起きた。ミドルクラスと下層ミドルクラスの人々は、いわゆる老後のために十分な蓄えを工面す のる苦労がたえなくなってしまった。旧来の生涯年金制度では、従業員が生きているかぎり、企業は 軍月々の退職年金支払いを保証していた。新しい 401 (*) 制度では、これら月々の支給がなくなっ 企た。退職後の蓄えの用意も、資金を長期にわたって安定的に運用するのも、従業員自身にゆたねられ 章たのだ。今日の実績が示すとおり、それは大多数の能力を超える仕事たった。 第

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一九七一年ーールイス・パウエル ノイス・ハウエレま、ポーレ 第一章企業軍団の謀反 アメリカの歴史を変えた権力の移転 危険は一気に高まリました。あの議会が企業側を丸めてゴミ箱に捨てるのを阻止す る必要があリました。 ーロー ( ビジネス戦略家 ) ワーキングクラスとミドルクラスの人々の : : : 力が著しく衰退している。それと同 * 2 時に、経済エリト の力が急激に高まっている : トマス・ ン・エドソール 『 The New politics of lnequality 』 ・リビア〔独立戦争で英軍の動きを伝えた愛国者〕とは違い、警鐘を鳴らし フライス・

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のうち一一〇年政権を握った共和党は組合を敵視し、共和党政権時代に最高裁判決はどんどん企業寄り になっていった。 こうした流れにより、組合加入者たけではなくミドルクラス全体が、企業国家アメリカが即断で削 減を行うのを食い止め、テクノロジーとグロー バリゼーションに徐々に穏やかに適応するよう交渉す る、有力な後ろ盾を失ってしまった。 ウォール街で一番恐ろしい悪党 一九八〇年代以降、ビジネスリーダーは、ウォ 1 ル街の意見に耳を傾け、それに配慮してきた。 《フォーチュン》のいいまわしを借りれば、一九九〇年代、大物投資家や、アル・ダンラップにサン ビームをまかせたマイケル・プライスのようなマネーマネジャーが、取締役会の″脅威〃となって現 れた。《フォーチュン》はマネーマネジャーの力を特集した記事に、「ウォール街で一番恐ろしい悪 党」という見出しつきでプライスのクローズアップ写真を載せた。 ウォール街から圧力がかかるようになると、企業経営者たちは、手堅く着実な戦略で長期の価値を 高めるのをやめて、短期で業績を改善することへと照準を移すよう迫られた。ウォール街の渦中です ら、それがミドルクラスにあたえる長期の影響を心配する声がある。 投資銀行モルガン・スタンレーのスティープン・ローチによると、アメリカでは一九九〇年代後半 に、国内の大企業で働くミドルクラスの従業員から富裕層や超富裕層の株主への莫大な富の移転が、 認識されないままに進んたという 106

10. 資本主義が生んだ格差大国

第一三章住宅強盗 攻撃目標は堅実なミドルクラス 一一〇〇六年ーー貸付業務違反 / 勝手に書き換えられたローン / 「イエス ! の力」〈 / マイノ リティー〈の貸し付け / 新卒で年収二〇万ドル / 住宅ローンプローカー / 収入も、仕事も、 / 借り換え地獄 / サププライムにひっかかる / 嘘つきのローン / 詐欺 資産もなくていい の見返り / だまされたミドルクラス通 / オプションのおとり商法通 / 「」ボーナス / 最後の罠圏 原注 ◎下巻目次 第部富と職の大移動 第一四章嘘つきローン—銀行との無責任な金融システム 第一五章オフショアリングの悲劇—ウォルマ 1 ト、中国へ行く 311