を導入したナショナル・セミコンダクターを訪ねた。同社は従業員の福利厚生で業界トップであるこ とを誇りにしていた。そして、従業員に 401 (=) プランへの加入を強く促した。 テキサス州アーリントンにある同社のチップ製造工場で、経営幹部は加入率が九〇パーセントとき ひけっ わめて高いことを自慢した。その秘訣は、従業員の一ドルに対して会社が一・五ドルと、通常よりも 会社の負担割合を高くすることたった。従業員が給与の四。ハーセント、会社が六パ ーセントを拠出す るのた。「従業員の一ドルに対して、会社が五〇セント上乗せして拠出できれば : 加入率が上がる とわかった」と、福利厚生担当マネジャーのプライアン・コナーはいう。「自分の引退にほんとうの 意味で責任を持たせることができた」。従業員がいったん加入すれば、会社の責任はなくなった。「資 金を運用する」のは従業員の仕事になった。 最後の点が肝心たった。それが得意な人間もいる。まったく下手な人間もいる。 401 (æ) は、ギル・チボーにはびったりたった。経営幹部のように楽に貯蓄できる稼ぎがあり、 投資の才があった。長身で落ち着いた口調のチボーは、ニューイングランド地方からテキサスへやっ てきて、生産技術者として訓練を受けた。さらに経営学の修士号を持っていた。ナショナル・セミコ ンダクターでは、大手法人顧客向けの技術修理を担当していた。 ーセントをきち チボ 1 の仕事は高給で、年収は九万ドルないし一〇万ドルたった。彼は給与の六。 んと 4 1 ( ) に振り込んたたけではなく、さらに五。ハーセントから一〇パーセントを従業員向け のストックオプション制度に注ぎ込んた。チボーはインターネットで株価を調べるのが大好きたった。 選んたのは優良株で、タイミングもよかった。八ドルに下がったときに買ったナショナル・セミコン ダクター株は、三〇ドル以上に値上がりした。入社から一四年で、チボーは十分な老後の蓄えを築い 136
ついても、一〇万六八〇〇ドルを超える分は非課税になる。その結果、大金持ちが支払う給与税は勤 労所得の一ないし二パーセントで、ミドルクラスのアメリカ人の七・六五。ハーセントをはるかに下回 っている。 レーガンとブッシュの減税 一九七八年に開始された一連の包括的減税、とりわけロナルド・レーガン大統領が一九八一年に ジョージ・・ブッシュ大統領が二〇〇一年に制定した大規模減税は、超富裕層には宝の山も同然た った。偶然の出来事ではない。一九七〇年代以降、がっちりと組織化された企業ロビー団体と小さな しつよ、つ 政府を要求する減税運動家たちが、富裕層に対する税率引き下げを要求する運動を執拗に展開してい た。そうやって財政の金鉱を手に入れたのた。 レーガンとブッシュの減税によって、アメリカの超富裕層の富に、数兆ドルが上積みされた。レー ガンは、一九八一年を皮切りに、個人所得の最高税率を七〇パ 1 セントから二八パーセントへ、キャ ピタルゲイン税率を二八パーセントから二〇パーセントへ、法人税率を四六 / 。ハーセントから三五。ハ セントへ引き下げた。レーガンはいくつか小規模な増税も実施したが、アメリカのもっとも裕福な一 層 裕 ーセントの人々が彼の減税で得た宝の山は莫大たったーーー一九八〇年代はおよそ一兆ドル、その後 新は一〇年ごとにさらに一兆ドルである。《フォーブズ》の長者番付上位四〇〇人は、レーガンの減税 章でいっそう裕福になり、一九七八年から一九九〇年にかけて純資産を三倍に増やした。 第 二〇〇一年、二〇〇二年、二〇〇三年のブッシュ減税も、富裕層に有利なように、びどくゆがめら 159
長期の市場出来高にもとづく妥当な成長率は、株式と債券の組入比が一対一のもので、年間五パ セントたとボーグルは断言した。長いあいた着実に根気よく投資すれば、年間五パーセントは驚くべ き利益を生むとポーグルはいった。一ドルは四〇年で七・〇四ドルになる。一〇万ドルなら七〇万四 〇〇〇ドルた。引退資金では、期間がきわめて重要になる。二五年間では、おなじ一ドルでも、七・ 〇四ドルではなく三・三九ドルにしかならない。当初の伸びよ屯 : 、、 こ金し力あとになって急増するとポー グルはいった。「ホッケー・スティックの形とおなじです」。 リスクを負わず利益をかすめ取る しかし、一般的な 401 (=) とミューチュアルファンドの投資家たちは、そうした長期的な成果 の恩恵を十分に受けていないと、ポーグルはいう。なぜなら、金融業界・・・、ー・ 401 (=) 口座を管理 するミューチュアルファンドと銀行 が、 401 (=) の利益の大半をかすめ取っているからた。 ボーグルによれば、彼らの手数料や取引コストは平均して年間二パーセントである。平均五パーセン トの利益からそれを引くと、個々の投資家の純益は三。ハーセントになる。長期の場合、ミューチュア ルファンドの取り分は複利効果がある。たから、四〇年で一ドルから七・〇四ドルになると予想され るものが、三 ・二六ドルへと大幅に減ってしまう、という。 「四ドル近い差額はどこへ行ったのか ? 」とボーグルは問いかけた。「〔手数料として〕ウォール街へ行 った。つまり、投資家は資本の一〇〇。ハーセントを投入します。リスクも一〇〇。ハーセント負う。し かし、収益の四亠 ) / ハーセント程度しかもらえない。ウォ 1 ル街は資本をまったく投入せず、なんのリ 148
401 (=) の実績がこれまで不振たった結果、個人に残された選択肢は三つしかないと、ポスト ン・カレッジのアリシア・マネルはいった。つまり、もっと貯金するか、長く働くか、生活費を減ら すかだ。「どれも気が進まないでしようが、一番ましなのは、長く働くことです」。 それはすでに現実となっている。アメリカのソーシャル・セキュリティーが定義する公式な引退年 齢は、六五歳から六七歳へじわじわと上がっている。当然ながら、寿命の延びを反映してさらに引き 上げられるたろう。複数の調査から、「老後も働きつづける必要があるという厳しい現実に気づく 人が増えていることがわかっている。二〇一〇年後半、アメリカ人のほば四人に三人は、退職後も当 分は働くつもりたと答えた。老後のための資金がまったく足りないとわかっているからた。 高齢の労働者 ( 五五歳以上 ) が総労働人口に占める割合はすでに増えている。一九九九年には一二パ ーセントたったが、二〇〇九年には一九パーセントになり、今後一〇年で二五パーセントになりそう た。七五歳以上でも、仕事を持つ人の数は増えている。二〇一一年には七五歳以上の約七・五パーセ ントが働いていたが、二〇一八年には一〇パーセント以上になると予想されている。 「ベビー ・プーマーは、自分たちの親とはまったく異なる引退生活に直面するでしよう : : : 」と、ニ 罠 ・スクール・フォー・ソーシャル・リサーチの上級年金エコノミスト、テレサ・ギラードウッチ の はいう。「彼らは働かないとやっていけません。引退者にとって、それが唯一の収入源です。これか らいうことは皮肉だとわかっていますが、引退者が収入を増やすには、働くしかないのです : : : 」。 「では、引退生活を送る唯一の方法が働くことたとしたら、″引退〃という言葉の意味はどうなりま 章 ニすか ? 」と、ギラードウッチは問いかける。「答えは、引退にはもはやなんの意味もないということ しゅうえん 第です。私たちはいま、生涯年金から生涯労働へ移転しつつあります。引退の終焉です」。 155
をもたらしている大きな要因は、キャピタルゲイン ( 売却益 ) 税の大幅な減税ーー一九七八年には四 八パーセントたったが、今日では一五パーセントーーーである。キャピタルゲインは、主に経済ピラミ ッドの頂点にいる人々のもとへ行く。最上位〇・一 。ハーセントの人々ーー約三一万五〇〇〇人ーーが アメリカのキャピタルゲイン総額のおよそ半分を獲得している。アメリカでもっとも裕福な四〇〇人、 キャピタルゲイン税率が一五。ハーセントたと、現在の富裕層の莫大な投資収益に対する税率が、給 料をもらっている多くのミドルクラスの専門職や中間管理職の人々の源泉徴収税率ーー三五。ハーセン より低くなる。年に数億ドルを稼ぎ出すヘッジファンド・マネジャーへの税率は同様に一五パ ーセントと低く、その秘書や運転手や使用人に対する税率をはるかに下回る。 「お金でお金を稼ぐと、税率は非常に低くなります」と、億万長者の投資家ウォーレン・パフェット は説明する。「カ仕事や重労働で額に汗してお金を稼ぐと、税率はどんどん上がります : : : 大金持ち が支払っている税金が、彼らのオフィスを掃除する人たちより少ないということが、きわめて高い確 率で起こりうるのです」。 ハフェットはみずから、二〇一〇年の所得税率がオフィスの社員三〇人 ) のたれよりも低かった ことを認めた。大半がキャピタルゲインたった課税所得三九八〇万ドルに対する税率は一七・四パ セントで、秘書やその他のアシスタントが給与から天引きされる率よりもずっと低かった。 なお悪いことに、一般従業員はふつう、企業のや大金持ちの投資家よりも高い給与税「給料 から天引きされる社会保険料や源泉徴収税〕 ソーシャル・セキュリティーとメデイケアの資金として、 七・六五パーセントーーーを支払っている。と投資家の投資収益は、給与税の対象外た。報酬に 《フォーブズ》四〇〇の極富裕層では、キャピタルゲインが所得の六〇。ハーセントを占めている。 158
な程度ではなく、スタンダード & プアーズ五〇〇種のは当時、平均で年給一四〇〇万ドルを得 てい こんなふうに、大半が富の格差を見くびっていたが、大半のアメリカ人は所得不平等がびどすぎる と見ている。一九八四年から二〇〇七年にかけて行われた世論調査一一件によれば、共和党員多数と 高額所得者も含めた三〇パーセントないし六〇パーセントものアメリカ人が、アメリカの金と富はも っと平等に分配されるべきたと考えていた。 アメリカのあらたな経済寡頭制があっという間に爆発的に拡大したのは、一九七〇年代後半、中央 政界で権力が移転し、企業国家アメリカが人員削減をはじめたのとおなじ時期たった。前述のとおり、 経済寡頭制は、莫大な私有財産を築く第三の波をアメリカに引き起こした。 第一の波は、悪徳資本家が鉄道と石油と鉱業で富を築いた「金びか時代」に訪れ、一八八〇年代と 一八九〇年代に平均的アメリカ人を歴史学者がいう「大不況に陥れた。第二の波が来たのは、きわ めて強気で節操のない「狂騒の二〇年代」たった。これは一九二九年の株式市場暴落「プラック・マ ンデー」と大恐慌という惨事で幕を閉じた。あらたな「金びか時代」が出現したのは、レーガン政権 時代の一九八〇年代たった。一九八四年のロサンゼルス・オリンピックの公式スローガン「金メダル を勝ち取れ。は、ウォール街と企業国家アメリカにおける経済弱肉強食主義の非公式な標語でもあっ た。それは二〇〇八年の金融崩壊で終わった。 過去二〇年間、アメリカ人の九〇パーセントの所得がほとんど上昇しないいつばうで、最上位一。 ーセントの大金持ちたちは、途方もない利益を得た。カリフォルニア大学パークレー校のエコノミス ト、エマニュエル・サ工ズが行ったアメリカの税記録の詳細な調査「大儲けする人々」によると、こ 150
の少数のエリートは一九九三年から二〇〇八年にかけて、国家全体の経済成長の半分を手に入れてい る。サ工ズとフランスのエコノミスト、トマ・ピケティは、この流れが二〇〇〇年代にあらたなピー クに達したと述べた。富のピラミッドが高くなるほど、所得格差も大きくなる。 ピケティとサ工ズによるアメリカの所得税申告に関する調査から、以下のようなことが判明した。 ーリッチ ・年間所得三五〇〇万ドル以上の上位一。ハーセントの超富裕層は、二〇〇七年に一兆三五〇〇億ドル を稼いた。これはフランス、イタリア、カナダなどの総国民所得を上回る。前述のとおり、上位一。ノ ーセントが二〇〇二年から二〇〇七年にかけて、アメリカの国民所得の伸びによる利益の三分の二を 獲得した。これは残り九九。ハーセントのアメリカ人全体の倍た。そしてこの少数集団は、二〇一〇年、 二〇〇八年の金融崩壊後に景気が回復してから丸一年後、国全体の利益の九三パーセントを獲得した。 1 セントの「平均、所得は、二〇〇七年に九 ・わずか一万五四一一六世帯で構成される上位〇・〇一。、 ーセントを荒稼ぎしていた。数字の上での彼らの 一〇万ドルたった。全体額では、国の総所得の六パ 取り分は六〇〇倍た。 裕・頂点にいる七四人は、アメリカの数百万世帯が不況にあえいでいた二〇〇九年、それぞれが五〇〇 新〇億ドル以上を稼いた。この経済の最上層では、平均所得が五億一八八〇万ドルーー週一〇〇〇万ド レ 章 たった。 八 第 151
でくたさい。申請書を変えずに通してもらえたら、たつぶり払いますよ』」。 これは社内のうわさ話にとどまらなかった。二〇〇七年一二月、司法省は、住宅ローン・プローカ ーから一〇万ドルの見返りを受け取ったとして、コシュが働いていたロング・ビーチのカリフォルニ ア州ダブリンにある事務所の上級ローン担当者、ジョン・ニョを起訴したのた。ニョは罪を認めた。 多くが不正行為たと知りながら、ロング・ビーチの一部の販売員からも金を受け取り、ローン申請を 強引に承認させたことを認めた。自分は偽造文書を作成したり虚偽の情報をくわえたりして、ローン 申請書を「整えて」いたと、ニョはいった。 だまされたミドルクラス サププライム・ロ 1 ンがもつばらクレジットヒストリー ( クレジットカード返済履歴 ) の悪い低所得者 に売られたというのは、よくある大きな誤解た。じつのところ、住宅プームの絶頂期にサププライ ム・ローンを売りつけられた人々の大半が、堅実なミドルクラスの借り手たった。彼らは経済的にプ ライム・ローンを組む資格があったのに、たまされていることに九割がた気づいていなかった。《ウ 盗オールストリ 1 ト・ジャーナル》は二〇〇五年、サププライムの借り手の五五パーセントには、プラ 強 宅イム・ローンが認められるべきたったことを探り出した。 ; 調査会社のファースト・アメリカン・ロー 住 ーセントは、プライム・ ハフォーマンスによると、二〇〇六年、サププライムの借り手の六一。 章 ローンを組む資格があった。 第 いいかえれば、数百万人のミドルクラスの住宅購入者は、プローカーと銀行とウォール街を潤し、 281
第一二章 401 ( k ) の罠 じた : : : そういうふうに売られたと、べテランの年金コンサルタント、プルックス・ノノ 回想する。 401 (=) プランは金融大衆主義の波に乗り、一九八四年には加入者が七〇〇万人で資産が九二 〇億ドルたったが、一九九四年には加入者二五〇〇万人で資産六七五〇億ドルとなり、二〇〇四年に は加入者が四四〇〇万人を突破して、資産は二兆二〇〇〇億ドル近くにまで膨らんた。もはや 401 ( ) は、企業幹部エリートの補完的な貯蓄制度ではなかった。ソーシャル・セキュリティーとともに、 アメリカの退職制度を支える二本柱になっていた。 アメリカのミドルクラスにとって、これはとてつもない変化たった。「 4 01 ( ) が導入されると 大きな変化があった。退職資金をたれが払っているかという点が大きく変わったとハミルトンはい う。「古い制度では、資金の大半ーー八九。ハーセントーーを雇用主が拠出していた。従業員の拠出は ーセントたった。これらは労働省が出している数字た。その後の 4 01 ( ) 制度と現在に目 を向けると、過半数ーー五一。 ハーセントーーーを従業員が支払い、企業は四九パーセントしか払ってい つまり、雇用主から従業員への莫大なコスト , ー・ー数千億ドルーーの移動があった」。 ギル・チボーの場合 六五〇〇万人もの平均的アメリカ人が 401 (=) 制度に大きく依存している現在、重要な問題は、 ミドルクラス世帯の 4 01 (* ) がどれほど利益を出しているのかということた。 私はその実態を探るため、アメリカ最先端の半導体企業で、早くから退職制度として 401 (=) 135
一一〇〇五年ーープルートノミー・ マシーンへようこそ 二〇〇五年秋、シティ・グループは「プル 1 トノミー 〔一部の富裕層が富を独占する経済状態〕・マシー ンへようこそ」という太字の見出しがついた光沢紙の投資。ハンフレットを出した。それが顧客にこう 助言していた。「プルートノミーに ″平均的消費者〃は存在しません : : : 経済成長の原動力の供給と 大部分の消費は、少数の富裕層によって行われます。 シティ・グループは経験豊富な投資家に対し、アメリカの拡大する経済格差に乗じて、世界最大の プルートノミー、すなわちアメリカの大金持ちの贅沢な消費に応じるビジネスに投資するよう手引き していた。シティ・グループの別の金融パンフレットに書かれているとおり、アメリカでは「いまや * 6 金持ちが所得、富、支出を独占している、。それどころか、シティ・グループの宣伝文句は、これほ どの驚くべき富の集中は、一六世紀のスペインと一七世紀のオランダ以降、世界にも例がないとして プルートクラシー 雑誌《アドバタイジング・エイジ》は、アメリカの富裕層による寡頭支配こそ最高のビジネスチャ ンスたと指摘した。広告代理店とマーケティング専門家に対し、ミドルクラス向けや、余裕のあるア ハーミドルクラス向けの大量マーケティングをやめ、超富裕層に的をしばることを勧めた。「最上 ーセントの人々たけで、富のほぼ四〇パーセントを支配しています」とプログで助言した。 「この不平等が社会と政治に及ばす影響を懸念されるかもしれませんが、ごく少数の人々のあいだで 富が蓄積されることは、市場で売買する企業にとって非常に重要です。なぜなら : : : 裕福なエリート 148