経営陣 - みる会図書館


検索対象: 資本主義が生んだ格差大国
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1. 資本主義が生んだ格差大国

全体で見ると、昔ながらの生涯年金を支給する中規模以上のアメリカ企業の割合は、一九八〇年に 八三パーセントたったが、二〇一一年には二八パーセントに減った。 破産を利用する経営陣 破産は、経営不振企業が生涯年金支給義務を逃れるための、ありきたりの手口になった。二〇〇八 ワシントン・ 年の金融崩壊で、リーマン・プラザーズ、 ( ゼネラル・モーターズ ) 、クライスラー ミューチュアルなど、多数の有名企業が次々と破綻した。それ以前の二〇〇〇年代初頭にも、エンロ ン、ワールドコム、グロ ーヾル・クロッシング〔光ファイバーの構築運営会社〕、テキサコ、 ハシフィッ ク・ガス・アンド・エレクトリック・カンパニーといった大企業の破綻が相次いた。 ( リング・ テムコ・ポート ) 、ベスレヘム・スチールなどの鉄鋼会社や、パンアメリカン航空、イースタン航空、 ユナイテッド航空、デルタ航空、ェアウェイズ三度 ) などの航空会社が破綻した。 一部の企業は清算されることになり、わずかな資産が分配された。しかし、破産は、再建戦略とし て経営陣に利用されることのほうがずっと多かった。過去の労働契約を破棄して、新しい契約を作成 し、債権者と仕入先への過去の負債を捨て去って、負債まみれの会社を、過去の義務から解放された 競争力のある効率的で無駄のない企業に再生させる道具として、経営陣が破産を利用した。仕事も給 付も賃金も少ない手足をもがれた企業でも、死体よりはましたという戦略理論がそこにある。 破産は「アメリカ資本主義の効率的な仕組み」たと、ジェームズ・スプレイレゲンは断言する。 スプレイレゲンは国内でも有数の成功した破産弁護士で、ユナイテッド航空の首席破産弁護士をつ 111

2. 資本主義が生んだ格差大国

を受けなかったからでもある。経営陣とミドルクラスの従業員が繁栄を分かち合っていた時代、それ はタブーたった。 「経営陣が野放図に自分に褒美をあたえることはない。健全な経営陣は、節度を守ることを期待され ている」とガルプレイスはいう。企業の最高幹部は内部情報に通じているので、自社株を売買すれば 当然大儲けできる。しかし、不文律がそれをよしとしなかった。「たれもがそうしたいと願ったら : 」とガルプレイスは書いた。「企業は強欲を競い合うカオス ( 混沌 ) となるたろう」。 力が、り - び たが、一九八〇年代には、強欲の競い合いがはじまっていた。トム・ウルフは著書『虚栄の篝火』 ・ストーンが一九八七 ( 中野圭二訳、文藝春秋 ) で、勝者がすべてを得るという原則を描いた。オリバー 年に製作した映画『ウォール街』もおなじたった。「強欲は、ほかにい、 ( 言葉が見つからないが、よ 、、強欲は役 いことた」と『ウォール街』の大物投資家ゴードン・ゲッコーは説いた。「強欲は正しし に立っ : : : 強欲は、そのもろもろすべてが : : : 人類を高みに導く」。たしかに、強欲は O O の報酬 を高みに導 いた。一九八〇年、の報酬は平均的会社員の給与の四〇倍たったが、二〇〇〇年に は四〇〇倍近くに急増していた。 利害関係者資本主義 パッカードの ・パッカードの一アービッド 一九八〇年代と九〇年代には間違いなく、ヒューレット ステークホルダ 、利害関係者資本主義を実践して、企業のさまざまな利害関係者ーー株主と経営者たけではな く従業員、顧客、納入業者ーー・のニーズの均衡を保つ 0 O がいた。ジョンソン・エンド・ジョンソ 161

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ちに、ユナイテッド航空の四大組合は三三億ドルの「既得権返還」に同意した。その大半は賃金引き 下げやヘルスケア補助削減によるものたった。それでも不十分たと、ユナイテッド航空の経営陣はい いはった。もっと減らす必要がある。ユナイテッドの弁護士ジェームズ・スプレイレゲンはこう断一言 した。「この破産から抜け出すには、″部屋のなかの沈黙の象〃と私が呼んでいたものに手をつける以 外なかった。すなわち、年金問題の扱いです」。 ユナイテッドの生涯年金は大問題になっていた。なぜなら、ユナイテッドは数年間、他の多くの企 業同様、年金の原資を積む義務をほとんど怠っていたからた。パイロット、整備士、客室乗務員、事 務職員の年金基金に、経営陣は現金をほとんど、いやまったく投じていなかった。過去の拠出金を株 価上昇で増やせば年金債務〔将来の年金支給をまかなうのに現在必要とされる額〕を補えると、経営陣はあさ はかに想定していた。 四五〇〇億ドルが不足する年金 市場が高騰していた一九九〇年代にはその戦略もうまくいったが、二〇〇一年から二〇〇二年にか けて、そうした楽観的想定は当てがはずれた。二〇〇二年に株式市場が急落すると、ユナイテッド航 空の年金基金は一〇〇億ドルを超える赤字になった。 破産を申し立てたことで、ユナイテッド航空は一〇〇億ドルの年金負債を、ほとんど知られていな い連邦機関、年金支給保証公庫へ法的に移転できた。は破綻した年金制度を引き 受ける最後のセーフティーネット ( 安全網 ) として、年金を支給する。ユナイテッドの破綻は最大級 靆 6

4. 資本主義が生んだ格差大国

があるという考え方を「破壊的」たと否定した。「株主利益の最大化以外の社会的責任をビジネスリ と、フリードマ ーダーが引き受けるのは、自由社会の土台を根底から揺るがす現象にほかならない ンは断言した。 ゴシャールは反論した。従業員も株主のように価値を生むのだから、企業利益をもっと平等に分か ち合うべきたと説いた。しかし、結果的には、ゴシャールよりもフリードマンの考え方のほうが、 るかに大きな影響を及ばした。シカゴ学派のこの攻撃的な経営哲学は、東海岸の名たたるビジネスス ルに定着した。その後、エンロン・ワ 1 ルドコム事件〔両社の粉飾決算や会計操作が発覚して破綻〕が 起きたとき、ゴシャールは「近年のあまりに行き過ぎた経営プラクティスの多くは、ここ三〇年のビ * 8 ジネススクールの研究活動で生まれた一連の思考が原因だった」と嘆いた。 ウォール街の教祖 ニューエコノミーのモデルは、アル・ダンラップにうってつけたった。彼はウォール街の教祖にな った。経営不振の企業に外部からの経営者として入り込み、徹底的な規模縮小をやって株価を急上昇 させ、マイケル・プライスのようなウォール街のファンドマネジャーに莫大な利益をもたらすと出て いく、というのがダンラップの手口たった。 陸軍士官学校出身の美男子ダンラップは、馬に乗って現れ、焼き畑式戦略で経営不振企業の救済に 乗り出すという、タフガイのイメージを演じるのを好んた。 ( ゼネラル・エレクトリック ) 、— 22 、 ( ゼネラル・モーターズ ) 、 <<f* & ()* といった大企業にも、おなじような容赦ない措置を講じた

5. 資本主義が生んだ格差大国

とめた。二〇〇〇年代半ばには、破産がごく一般的な企業戦略になっていたため、全米の大手法律事 務所が破産専門業務に乗り出し、それで何億ドルも稼いでいた。 「企業は財政危機から経営陣を救い出す法的手段として破産を必要としている、と、スプレイレゲン は説明する。「〔企業の〕破産の要諦は、破綻した企業がどんな約束をしていても、そのすべてを果た すのは無理だということと、果たせない約束をしたという事実にどう対処するかを見出さなければな 、ら、 . ない AJ い、フこ AJ し J い、つ。 当時のハ ード・ロースクール破産専門教授エリザベス・ウォーレンはこう反論する。「破産と は、法的な約束をしておきながら、それをほごにする手段です」。 「破産は従業員にとってつらい」。客室乗務員組合ユナイテッド航空支部長、グレッグ・ダビドウィ ッチもおなじ意見たった。「会社の発展のために必死で働いた人たちにとっては、とんでもなく恐ろ しい事態た : : : 頭に銃を突きつけられた状態で、労働環境と雇用条件の変更の交渉に応じざるをえな くなる」。 意図的にそうなっているのた。一九七八年制定の倒産法にそう書かれているし、破産裁判所もそう 適用してきた。法律を厳密に解釈するなら、ユナイテッド航空のような破産企業は、負債を返済でき たたし、 綻ないことを破産裁判官に告げ、資産への請求を延期して債権者に損害を課すことを求める 破 金銀行は特別扱いを受ける。 年 法と裁判所は、包囲された企業ーーこの場合はユナイテッド航空と同社経営陣ーーー・に融資する銀行 一を最優先し、その融資で銀行が損失を出さないよう配慮する。さらに、一九七八年の倒産法は、破産 ョ 1 ロッパや中南米の一部の 第手続きを旧経営陣にゆたねていて、従業員の優先度はきわめて低い 113

6. 資本主義が生んだ格差大国

ード・ビジネススクールでは、ストックオプションに反対する研究者たちが、こうした報酬 に対する考え方はと企業の視野を狭くし、社会全体に高いコストを払わせていると非難した。 「いま優勢な理念は、つねに市場の最大化を求める人間には株主の価値のみに集中するために文字ど おりの賄賂が必要た、という途方もない考えを正当化し、従業員、顧客、地域、環境や人権のような、 ード・ビジネススクールのジ 国や世界の大きな問題へ経営者が取り組むのを阻んでいる」と、 ェイ・ローシュ教授とラケッシュ・クラナ教授は断言する。「ストックオプションは、株をたえず売 買する短期の株主たちへの責任をのぞくすべての重要な責任を、企業組織から取り除いている」。 二〇〇二年には、マイケル・ジェンセンまでもが失望していた。ジェンセンは《エコノミスト》に 語った。企業幹部へのストックオプションは、長期にわたる破壊的な結果をもたらす短期的な株価の 上昇に O O を集中させる、「経営者のヘロインーと化している。同誌はジェンセンの考えをこう要 約している。「企業の株がいったん過大評価されると、そうした状態を維持するか、過大評価をさら に助長させることが、経営陣の利益につながる。パプルがはじける前に株を現金化できることを願う。 それをやれば、たた株主に対して不誠実であるとか、会社の財務報告書を楽観的に粉飾するというよ うなことではすまない。株主に対して、企業価値をじっさいに下落させる行為をそそのかすことにな 不正を是正する しかし、ストックオプションに対してじっさい政治的抗議を引き起こしたのは、中央政界の隠語で 171

7. 資本主義が生んだ格差大国

「運がよいことに」、日付を遡及したオプションを受け取っていたからた。 取得したらすみやかに″売却〃 ストックオプション・ゲームへのもっとも厳しい批判の声は、学界やリべラルの政治家ではなく、 筋金入りの資本主義者から上がった。その一人が、ミューチュアルファンドの大手パンガードの創業 者で長年会長をつとめたジョン・ 0 ・ポーグルたった。 : ホーグルは、 O O への大量の株の付与によ って、一般株主は詐取されていると訴えた。なぜなら、幹部エリートに無料あるいは低価格で株があ たえられることによって、他の全員の株の価値が薄まるからた。 : ホーグルは著書『米国はどこで道を ; ったかーーー資本主義の魂を取り戻すための戦い』 ( 瑞穂のりこ訳、東洋経済新報社 ) で、ストックオプシ ョンという概念そのものが、一般投資家から「〔企業の〕インサイダーへの莫大な富の移動」のための 煙幕たとあざ笑った。 ポーグルは、ストックオプションが株主の利益と経営陣の利益を結びつけるという発想もあざ笑っ な「何度もくり返され、ひろく受け入れられてきたこの決まり文句は、間違「ていることがわか「 ている」とボーグルは断じた。「経営者は取得した株を〔株主とは違い〕″保有〃しよ、、 オし力、ら。・伐、らは 層 裕取得したら、〃売却〃する。それもすみやかに ・私たちは、長期的な経済価値を創出するという実 富 新質的な働きに対してではなく、短期的な株価を異様なまでに気にするようにしたことに対して、経営 章者に褒美をあたえている。 八 第大不況に見舞われる前から、批判の声は高まっていた。成功報酬という概念の発祥地のびとつであ 171

8. 資本主義が生んだ格差大国

一九九〇年代ーーー侵略的資本主義 一九九〇年代後半、ニューエコノミ 1 の波に乗っていたアル・ダンラップは、スコット・ペー 〔世界最大手のティッシュペー ー製造会社〕やサンビーム〔総合電気・家庭用品メーカー〕など、経営不振に陥 った数々の企業の再建で築いた財を誇っていた。ダンラップは、一九八〇年代に現れ、一九九〇年代 に企業世界を牛耳るようになったニューエコノミー型 OQO ( 最高経営責任者 ) の典型たった。 かってのは、経営陣、従業員、投資家らの相反する利益を均衡させ、富の共有を図っていた。 たが、これらの新しいビジネスリーダーたちは、利害関係者資本主義というその古い哲学を捨て去っ 新しい種族の彼らは、株主へのリタ 1 ンを最大限にすることに集中した。従業員の利益よりも、 一裕福な投資家に利益をもたらすという目標が優先された。 シリアル・ダウンサイザ・ー 一九九〇年代後半には、ダンラップはウォール街で連続解雇犯として名を馳せた。ダンラップが経 工営不振企業のに就くたけで、その会社の株価は急騰した。過激な人員削減による経費削減を投 、資家が当て込むからた。そして、ウォール街は、ダンラップにたつぶりと報酬をあたえた。 の ダンラップが実践したのは、一部のエコノミストが「侵略的資本主義」と呼ぶものたった。一九九 代 年〇年代と二〇〇〇年代のニューエコノミーでアメリカの多くの 0 O がやったように、ダンラップは、 九企業の定石である三つの削減ーー・コスト削減、工場削減、雇用削減ーーで、数億ドルの私財を築いた。 章 もっと伝統を守る O O 、たとえば一九五九年から一九九〇年にかけてモトローラの O 0 と会長 第を歴任したポプ・ガルビンなどは、侵略的な戦略をはねつけた。ガルビンは、効率と市場独占を達成

9. 資本主義が生んだ格差大国

今日のアメリカに富の一方的な集中をもたらしたべつの強い力は、アメリカのビジネスリーダーの 主たった意識と道徳観の変化である。一九四〇年代から一九七〇年代までは、国の利益をミドルクラ スとひろく共有するという、全体をくるみ込んた経営手法たったが、一九八〇年代以降は、経済利益 の大半を自分たち企業幹部が握るという、もっと自己中心的な経営手法へと変わった。 アーノルド・トインビーの言葉を借りると、そうした変化が文明において見られるのは、産業界と マイノリティ 政界の指導階級が文明の出現と繁栄をもたらし導く「創造的少数者」から、主として自己の富と権力 の維持と拡大に集中して「搾取」する「支配的少数者 , に変わるときである。そうなると、成熟した 社会に危険な亀裂が生じると、トインビーはいう。エリートの意識と動機の変化は、国家が分裂して 文明が解体する大きな原因であるというのが、トインビーの考え方た。 強欲を競い合う 現在のアメリカでは、 OQO 個人が財を築くことが成功のあかしと見なされるが、一九六〇年代後 半には、報酬を抑えることが企業倫理の金科玉条たった。ハー ード大学のエコノミスト、ジョン・ ケネス・ガルプレイスは一九六七年に、 0 O の報酬は企業規模と連動していると述べた。現在のよ 裕うに株価が基準ではない。報酬は高かったが、法外ではなかった。一九五〇年代、のチャールズ 富 新 ・ウイルソン o 0 が報酬ピラミッドの頂点にいたのは、アメリカ最大の企業を経営していたからた。 章ウイルソンの一九五〇年の年俸は六二万六三〇〇ドル、今日ではおよそ五〇〇万ドルに相当する 第今日の企業幹部の年俸の端数みたいなものた。これは、ウイルソンがストックオプションの大量付与 161

10. 資本主義が生んだ格差大国

O はいたが、ふつうのアメリカ人の怒りを買いたくないので、大虐殺があまり目につかないよう気を 配っていた。ダンラップ一人が目立っていたのは、注目を浴びながら栄え、ニューエコノミーの苛酷 な戦略をわかりやすい言葉で説いたからた。 ダンラップの経営指南書の題は、『 Mean Business 〔「本気でやれ」と「汚いビジネス」のダブルミー一 グ〕』たった。本の宣伝のために、ダンラップはランポーよろしくへッドバンドを頭に巻き、弾薬べ ルトをぶっちカ ( 、こして胸にかけ、腰に二丁拳銃を構えるポーズをとった。彼の専売特許は企業のあ らゆる部門を切り落とすことで、そこから「チェーンソー・アル」というあた名がついた スコット・。ヘー ーの大量解雇 私が一九九七年に会ったとき、ダンラップはスコット・ ーを残忍なやり方で再建したばかり ーとトイレットペ たった。スコットはペ パーのメーカ ーパータオルを発明した、ティッシュペー 工 ーで、設立一〇〇年の家庭的な社風の企業たった。しかし、経営不振に陥り、ウォール街の投資家か 、ら圧力を受けた役員会が、ダンラップを招き入れた。ダンラップはすぐさま従業員一万一〇〇〇人を のチェーンソーで首切りし、シニアマネジャー多数を解雇した。さらに、研究開発費を大幅に減らし、 年慈善事業への寄付をやめ、短期的な利益に的をしばった。一年もたたないうちに、スコットの株価は 九倍になった。 章 スコットの経営幹部多数が、ダンラップのエスカレ 1 ターに乗って私財を増やしたーー彼とおなじ 第ように、自社株の付与によって。「スコットでは、一年半で六二人を億万長者にした」とダンラップ