しいや、とエバンナがにやりとする。 ノンパニーズが勝つだけの話さ。それにねん 「変わらないよ。さっき言ったように、ヾ と、エバンナが顔をいっそうほころばせた。 「おまえたち、逃げる気なんてないんだろ ? 」 「おう、だれが逃げるもんか , ハンチャ元帥がいせいよく答え、これ見よがしにかべにつばをはきかけて、続けた。 まずは、スタジアムのようすを見よう。スティープのやっ 「だがな、むちやをするほどばかじゃない。 が中にいるようなら、なんとしても中に人って、やつの首をはねる。やつがいないようならほかをさが さい。こ けっせん なかま して、シルク・ド・フリークの仲間には自力で切りぬけてもらうしかない。最後の決戦をひかえたいま、 み 仲間のために命を落とすんじゃ、意味がない。なあ、ダレン ? 」 ハンス・ハンズや、ほ ばくは、シルク・ド・フリークの仲間の顔を思いうかべた。エプラ、マーラ、 ガいにん ーキャットやデビ 1 もいる。みんな、どんな目にあっているのたろ かの芸人たち。スタジアムには、、 いちぞく う ? ふと、べつの仲間のことも頭にうかんできた。バンパイア一族だ。ハンハイアではない仲間のた めに命をすてたら、ハンパイア一族はいったいどうなる ? 「ああ、そうだな」 じりき 8 ろー第 5 章別れ
かぞく ゝじゃねえか、なあ ? 」 「家族のつどいか。いし そして、ばくに向かって言った。 「アニーとダリウスも、つれてくりゃあよかったのによ。おれたち六人そろったら、見ものだぜ ばくは、言ってやった。 「アニーとダリウスは、いまごろはるか遠くに逃げのびている」 いますぐスティープに飛びかかり、のどに食らいついて、手で肉をさいてやりたい。でも飛びかかっ きんもっ たら、スティープをおそう前にバンパニーズたちにやられてしまう。あせりは禁物だ。チャンスを待っ しかない ひら スティ 1 プが、またロを開いた。 むすこ 「おれの息子は、どうしてる ? やっちまったか ? 」 ひつよう 「そんなわけないだろ。その必要もない。おまえがシャンカスにしたことを見て、ダリウスはおまえの し」らたい タリウスには、おまえのかずかずの手がらを、話してやったよ。アニーも、お響 正体を思い知ったんだ。。 攻 はな まえとのことを話した。ダリウスはもう、おまえの言うことなど聞かない。おまえのものじゃない。息章 第 子とは思うな」 きず スティ 1 プを傷つけるつもりで言ったのだが、スティープは笑いとばした。 わら
そんな・を、スティ 1 プはどなりつけた。 「おれは、やらなきゃならねえことをしたまでだ。さあ、おまえも、早くやれ , 「でも、この女は、バンパイアじゃないし : てきいちみ 「敵の一味だろうが ! 」 「それはそうだけど、なんで命をうばわなきゃならないんだ ? なんで、あの子にあんなことを ? お あいて れたちがねらう相手は、ダレンだろ。敵は、ダレンだけだ。おれの手をうばったのは、ダレンだ」 「いまさら、つべこべ言うな ! 」 スティープがどなり、・にせまった。 「おまえだって、やっただろうが。悪いやつも、 わら うなことを言うな ! 笑わせるんじゃねえ , 「ぐすぐず言わずに、女をころせー れつ ぜっき スティープが絶叫して、さらに一歩、・にせまり うつかりハンパニーズたちの列の外に出 いっしゅん げんすい た ! チャンスだ ! ばくは、スティープに飛びかかろうとした。だが、バンチャ元帥のほうが一瞬早 かった。 てき しいやつも、ころしてきたくせに。 いまさら、えらそ 116
とっぜん、はくしゆが聞こえてきた。ばくははっとして、顔をあげた。スティープも目玉を動かし、 み かんどう 後ろを見る。はくしゅしているのは、ミスター・タイニーだった。感動のあまり、ほおに赤い涙を流し ゅうき さい′」 じさつねっ 最後まであきらめない、ねばりづよさ ! ダレン、わ 「おお、なんという情熱 ! なんという勇気 , きたい か さいしょ たしは最初から、おまえに期待していたぞ。どちらが勝ってもおかしくなかったのだが、どちらかに賭 けろと言われたら、ぜったいおまえだと思っていた。前にもそう言っただろう、なあ、エバンナ ? 」 「ええ、父上」 エバンナが静かに答え、ばくをあわれむように見つめて、くちびるを動かした。声は出なかったが、 やみていおう ばくはなんと言われたか、 はっきりわかった , ーーおまえが闇の帝王さ。 ミスタ 1 ・タイニーが、またばくに話しかけてきた。 きず 医 ) ゝ。命にかかわる傷ではないが、 「さあ、ダレン。さっさとナイフを引きぬけ。傷を手当てするとし 座 しゃ なかま 者にみせたほうがよさそうだな。スタジアムにいるおまえの仲間たちは、ほば敵を負かした。もうすぐ、王 帝 かけつけてくるはすだ。その者たちに、病院につれていってもらうといし 章 第 ミスタ 1 ・タイ ばくは、首をふった。ナイフを引きぬけと言われても、左手を負傷して動かせない。 ニーは、ばくがスティープをしまっしたくないから首をふったとかんちがいして、声をあらげた。 てき
りそう いごこちのいし 理想の世界にひたるのだ。 、一一クのチケットを手に人れた日から先のことは、考えない むすこ ) 一撃新 ( 一 ~ ドばぐは ( ~ ~ ダレン・シャン。かわいい息子で、やさしい兄。世界一行儀のいい子とは言わないが、手のつ ー、だい 、、けられない悪ガキでもない。ママやパパの手伝いをして、ひいひい言いながら宿題をして、テレビを見 ~ ( ~ ・ ~ 【て、友だちと遊ぶ。あるときは、六歳か七歳。あるときは、十歳か十一歳。半バンパイア時代の自分に - かんぜんに背を向け、昔の自分しか見ない。見たくないものには、すべて目をつぶる。スティープは、 えいカ 、だいしんゅう ばくの大親友。いっしょにマンガを読んで、ホラー映画をみて、じようだんを言いあう。妹のアニーは、 でんせつかい むすこ ハンパイアなんて、伝説の怪 ~ ~ 、玉っ【おおかみと 〉さ物。狼男や、ゾビや、ミイラとおなじ。本気にするほうがおかし〔 しき 子どものころのばくに、もどるのだ。すっと子どものままでいるのだ。罪の意識など、感じたくない いままでも正気をうしないかけたが、そのたびに現実に引きもどされてしまった。こんどこそ、おかし こんどこそ、もどりたくない 、「くなってしまいたい。 、さあ、過去の世界へ、子どものころの世界へ、かんぜんに行ってしまうのた。あのころのことは、な せいれいろみ おも , 、 = 靆にもかもおばえている。思いだすたびに、細かいところまで、どんどんはっきりしてくる。精霊の湖の章 たまレい 、。 ~ 一ことも「その中にいる魂たちのことも、バンパイアのことも、バンパニーズのことも、頭から消えてい しゅんかん ゞ第 ~ ~ ( ~ く。ときどき、ふっとわれに返る瞬間かあるか、むりやりわすれる。子どもの目で見て、子どもの頭で つみ
よそう 「もしあなたの予想がはずれたら、あたしたち、につちもさっちもいかなくなるわよ げんすい そんなアリスを、バンチャ元帥がはねつけた。 「につちもさっちもいかなくなる ? そんなもん、いまに始まったことじゃない」 そして、エバンナに向かってまゆをつりあげた。 「なんかひとこと、ないのかよ ? くちひら とうぜん、ない と思いきや、なんとエバンナは大まじめにうなずいて、ロを開いた。 「ダレンの一一一口うとおりだよ。おまえたちのとるべき道は、ふたつにひとつ。いますぐスタジアムに行っ うんめい しさつり て運命の時をむかえるか、さっさと逃げだしてバンパニーズに勝利をゆずるか、どちらかだねえ」 、ンチャ元帥も、おどろきをかくせないようだ。 「おう、そんなこと、言っていいのか ? しゅうばんせんまく 「終盤戦の幕は、もうあがったからねえ」 と、エバンナはなぞめいた返事をよこし、続けた。 「いまならもう、あるていど明かせるのさ。未来が変わっちまうおそれは、なくなったからねえ」 ハンチャ元帥が、むっとしてエバンナに言った。 「おれたちがしつほをまいて逃げだしたら、未来は変わっちまうだろうが とき みらい
ハンパイアの細胞がいつもより活発に動いている。ならば、バンパニーズの細胞を破壊する力が、ふだ んより強いかもしれないではないか。 ばくらは、エバンナにさぐりを入れてみた。エバンナは、未来を見通す力がある。ダリウスに血を流 きち しいれるのが吉と出るか凶と出るか、わかるはすだ。でも、エバンナはいっさいおうじなかった。 「あたしには、関係ない話さ。知らないよ」 ばくは安心したくて、食いさがった。 たたかうんめい 「でも、ぜったいうまくいくよな。ばくとバンチャ元帥は、スティープと戦う運命なんだろ。死んだら、 もう戦えない。そうだよな ? しかし、エバンナはそっけなかった。 さいしゅうけっせん 「スティ 1 プとの最終決戦は、ぜったいにおこると決まったことじゃあない。その前におまえが死んだ ものい′きか きず やみていおう ら、スティープが戦わすして闇の帝王になり、バンパニーズが傷ある者の戦に勝つだけさ。運命のおか断 きけん げで危険からのがれられるなんて、思うんじゃないよ。ダリウスに血を流しいれたら、おまえは死んで一 もおかしくない。あーあ、死にかねないさ ダリウスは、ばくのおいっ子だ。ダリウスをどうするか話しあったとき、バンチャ元帥はスティープ第 をたおすことだけを考え、ダリウスのことはあとまわしにしたいと言った。でも、ばくはダリウスをこ かんけい かつばっ みらい はかい
「さあ、早く ! 早くしまつを ! スティープがつぶやく。 「そう、せかすな」 ガネンかいらいらとわめく。 きず よげん 「わたしの傷でバンチャが死んだら、ミスター・タイニ 1 の予言にさからってしまう ! 」 スティープが顔をしかめた。 「予言 ? ふん、それがなんだ。わざと死なせて、どうなるかたしかめるか、えっ ? タイニーなんて、 どうだって : : : 」 と言いかけて、とっぜん目を見ひらき、続けた。 「おっと、そうだ , それな かんたんだぜ。おまえの傷で死なす前に、おれがとどめをさせばいい ! いた ら、ばかげた予一言どおりだろ。ダレンは、すぐにはやらねえぜ。あとでじわじわと、痛めつけてやる」 「かしこいな」 ミスタ 1 ・タイニーのつぶやく声がした。 ガネンが、がなりたてる。 「なんでもいし とにかく、とどめをさすなら、早く ! さあ : 140
「ルー美術館じゃなくて、ループル美術館だよ」 エバンナがばくのまちがいをなおして、続けた。 げいじゅっかたよしいやど 「ループルの絵はにせものなんだよ。父上のリトル・ピープルのなかには、芸術家の魂を宿した者がい かいが てねえ。その者たちが、父上の大のお気にいりの絵画をほんものそっくりにえがく。その複製を父上が 過去に持っていって、原画ととりかえてくるのさ。原画をかいた本人でさえ気づかないぐらい、それは みごとな複製なんだよ」 「パリの『モナ・リザ』が、にせものだっていうわけ ? ゝくらなんでも まさ力し ばくの顔を見て、エバンナがふきたした。 「ああ、そうさ。父上はわがままだからねえ。手もとには、ほんものしかおかないんだよ。ほしいもので ゆいいつれいがい さいヤ」、つ はとってくる。しかもなんであれ、最高のものじゃないと気がすまない。唯一の例外が、本だね」 本ーーーと、エバンナは強調するように言った。そういえばさっきも、ミスター・タイニーは文学にな ど目もくれないと言っていた。 がんをう 「父上は、本なんてぜったいに読まない。書物は集めないし、作家なんて眼中にない。ホメロス、チョ物 1 サー、シェークスピア、デイケンズ、トルストイ、トウェイン : : : だれひとり知らないんたよ。作家 ふくせい
けるたくらみだとしたら ? ミスター・タイニーとぐるになっているとしたら ? ミスタ 1 ・タイニー に命じられてやっているのだとしたら ? なにもかもが、あやしい ちゅうこくむし しかし、ほかにどうすればいい ? エバンナの忠告を無視し、池に入るのをこばんで立ちさるか ? かいぶつ たとえミスター・タイニ 1 がすなおに逃がしてくれ、トンネルのかべにいた怪物たちにつかまらずにす せいれいみつみ んだとしても、その先どうなる ? 竜がひしめく世界でくらしたあげく、死んだら精霊の湖にもどるだ いちばち こうなったら、一か八かで飛びこんで、うまくいくよう祈るしか なんて、考えただけでぞっとする ! ばくは、しぶしぶうなずいた じさつけん 「わかったよ。でもひとつだけ、条件がある ミスタ 1 ・タイニーがすごんだ。 たちば と の 「条件など言える立場かー わかってますよ、とばくは続けた。 イ タ きおく ーキャットのよ一つ 「一言うだけ言わせてください。記憶を残しておいてくれるなら、飛びこみますよ。 章 いし 第 にはなりたくない。自分がほんとうはだれかわすれてしまって、自分の意志がなく、あんたの言いなり きおく になるのはごめんだ。ばくをリトル・ピ 1 プルにして、なにをさせたいのかわかりませんが、記億のなお のこ