アニーは、なおもばくの気を変えさせようとねばった。ばくはアニーやダリウスといっしょにいるべ あに きだ。バンパイアになる前は兄だったではないか。妹の自分のことをいちばんに考えるべきではないか、 げんすい と言いはった。しかし、それはちがう。ばくはバンパイア元帥になった時点で、人間の世界をすてた。 いちそく あい おも アニーのことは、ゝ しまでもたいせつに思っている。愛してもいる。でもいまのばくは、バンパイア一族 のことをいちばんに考えなければならない。 なにを言ってもむだだとさとると、アニーはダリウスを自分の車のうしろに乗せた。ダリウスは、ぐ っすり眠ったままだ。つづいてアニーは、涙ぐみながらにもつをまとめた。できるだけたくさん持って いけ、もうもどってこないつもりでな、とばくはアニーに声をかけた。ばくとバンチャ元帥がスティー プをたおせば、アニーもダリウスももどってこられる。しかしたおせなかったら、だれかに残りのにも ひとめ つを取りに行かせ、この家は売りはらう。アニーとダリウスは、バンパイア一族にかくまわれ、人目を さけて生きるしかない。ただしそれも、バンパイア一族がアニーたちをかくまっていられるあいだの話 だ ( 「バンパイア一族がほろびるまでのあいだ」とは、言いたくない。でも、はっきり言えば、そうい うことになる ) 。バラ色の人生とは言えないが、スティープにつかまるよりはましだろう。 だごえ アニ 1 は車に乗る前、ばくを力いつばいだきしめ、涙声でうったえた。 「あんまりだわ。聞きたいことが、まだたくさんあるのに。知りたいことも、聞いてもらいたいことも、 ねむ 77 ー第 5 章別れ
りまノて いすにすわっていた。ホットココアを入れなおし、カップを両手でつつみこんでいる。ば タリウスは、テレビのそば くは部屋の向こうがわからいすを持ってきて、アニーの向かいにすわった。。 しき に立っている。テレビは、アニーがたおれた直後にダリウスが消した。アニーは意識をとりもどしてか ら、ほとんど口をきいていなし ) 。いすにふかくすわりなおし、ばくをひたと見すえた。恐布と喜びが、 心の中でせめぎあっているようた。そして、ばそりと言った。 へ 家 「どうなってるの ? 」 章 ばくは落ちついて、手早く、これまでのことをアニーにうちあけた。クレプスリーとマダム・オクタ第 せつめい のことを説明し、スティープの命を救うためにクレプスリーと取り引きをして半バンパイアになったこ らな。でも、ママやパパにはひとことも : : : 」 「お兄ちゃん : : : ダレンなの ? アニーが、声をしばりだした。うろたえて、目に涙をうかべている。 「やあ、アニー。ひさしぶりだな」 しろめ ビーきゅうえいが アニーはがくぜんとして目を見ひらき、級映画でしかおこりそうのないことをしたーーーー白目をむ き、ふらついて、きぜっしてしまった ! すく
アニーが、またばくを見た。ばくをおそれ、うたがうようなまなざしだが、さっきまでの、さげすみは 「スティープなの ? 」 アニーが、うめいた。暗い顔でうなすくばくを見て、顔をこわばらせーーーダリウスに向かって金切り ごえ 声をはりあげた。 「だから言ったじゃないの ! 」 ダリウスをつかみ、くるったようにゆさぶる。 「スティープに近づいちゃだめ ! 見かけたら、すぐに逃げなさい ! だから ! そう一言ったじゃないの ! 」 たみだごえ ダリウスが、涙声でさけびかえした。 「うそだと思ったんだよ , パパに逃げられたから、ママがうらんで、うそをついたと思ったんだ , 0 、 0 、 0 ? 」 だって、だって : オから ! ダリウスはアニーからはなれ、泣きながらゆかにつつぶした。 「パパだから : : : 愛してたんだ : アニーが、泣きしやくるダリウスを見つめた。続いて、ばくに視線をうっす。アニーの目から、涙が しせん きけん ママに言いなさい ! 危険な人 かなき
さいあく 第三章最悪の話 アニーが泣きゃんだあと、ばくらはそれぞれ腰をおろした。アニーは、とりあえずショックから立ち げんすい あっ なおり、ココアを入れてくれた。三人で、熱いココアをすすった。ばくはまだ、外のバンチャ元帥たち さいあくじさっきさっ タリウスがおかれた最悪の状況を知らせる前に、アニーとゆっくり話をしたい。 に声をかけなかった。。 ひとびと ′、にん、に : くがたすねた国々や、会った人々、 アニーにせがまれて、ばくはいままでのことをくわしく語った。ま たいけん しし言たけおもしろお めすらしい体験の話を、アニ 1 は聞きたがった。そこで暗い話ははぶき、かっこゝ かしく聞かせた。アニーは、ばくの話に目をかがやかせた。お兄ちゃんがほんとうに目の前にいるのか、 えら とたしかめるように、なんどもばくにさわる。バンパイア元帥に選ばれた話をしたら、アニーはうれし わら そうに声をあげて笑った。 「あら、じゃああたしは、元帥の妹としてあがめられるのかしら ? 」 「それはどうかな」 ばくは、くすくす笑いながら答えてやった。
「前にどこかでお会いしたかしら ? ま 。くがだれだかわからず、アニーが顔をしかめる。 「まあ、いちおうね」 ばくは、うわずった声で笑った。 「ママ、あのね : : : 」 せつめい と、ダリウスが説明しかけたが、ばくは止めた。 「しい。たしかめてもらおう。なにも一一一一口うな」 「一一一口うなって、なにを ? けいかい アニーが、声をとがらせた。目を細め、ばくを警戒して見つめる。 「アニー、よく見てくれないか ぼくはささやくよ一つに一一一口ゝ し、部屋を横ぎって、アニ 1 から一メートルほどのところに立った。 か 「ばくの目を、見てくれ。すがたかたちは変わっても、目たけは変わらないって言うだろ 「あなたの声 : ・ どこかで聞いたおばえが : アニ 1 がつぶやいて、立ちあがり、ばくの目をのぞきこんだ。い んどいっしょだ。ばくは、アニーにほほえみかけた。 わら まのアニーは、ばくと背たけがほと せ
しさつらい こい スティープとの将来を夢見るようになった。こうしてアニーはスティープに恋をし、身も心もささげた。鉐 やがてアニーは、身ごもっていることを知る。 「子どもができたって言ったら、あの人、ばっと顔をかがやかせたわ : そのときのことを思いだしたのか、アニーが身ぶるいした。アニーのとなりではダリウスが、まじめ こ、だまって、耳をかたむけている。 けっこん 「ああ、この人は、喜んでくれてる。結婚して、子どもをたくさんつくろうと考えてくれてる : : : あた せいしきけっこん しにそう思わせようとしたのね。子どものことはだれにも言うなって、口止めされたわ。正式に結婚す けっこんしきひょう るまで、秘密にしておきたいって。で、スティープはまた町を出ていった。結婚式の費用と子どもを育 ばん てるお金をかせいでくると、言いのこして。そのまま、長いこと帰ってこなかった。と、ある晩、家に ね お しのびこんできた。夜おそく、寝ていたあたしを起こしたの。そして、あたしがなにか言う前に、あた しのロを手でふさいで、笑ったのよ。もう引きかえせねえぞ ! って、あたしをあざわらった。いろい ろ一一一一口われたわ。おぞましいことを、いろいろと : 一三ロうだけ一言うと、スティープはさっていった。そ れ以来、会ってないわー げきど 、 0 、 0 、 アニーは子どもができたことを ノとママにうちあけざるをえなくなった。ふたりとも、激怒した。 アニーにではなく、スティ 1 プにだ。パパにいたっては、スティープを見つけしだいころしかねないい ひみつ ゅめ わら み
かぞく ひび みうえ くが「死んだ」あと、家族にはつらい日々が続いたが、少しす アニーも、身の上話をしてくれた。ば ヾ。、は、ばくの「死」 つもとにもどっていった。アニーは子どもだったので立ちなおれた。でもママとノ 、 0 、 0 、 ノとママにつげたほ をかんぜんに乗りこえることはできなかったらしい。ばくが生きていることを ひら ほくが口を開く前に、自分で答えた。 アニーはふと言ったが、。 、つ力しし、刀 「ううん。ふたりとも、いまはおだやかにくらしてるわ。いまさら言っても、始まらない。むしかえさ ないほうがいいわよね」 アニーが、スティープとのことにふれた。ばくは、ひとことも聞きもらすまいと身がまえた。 「あのころのあたしは、ティーンエイジャーでね : : : 」 と、アニーがけわしい顔で語りはじめた。 「気分にすごくむらがあって、自分に自信がもてなかった。友だちはいたけれど、そんなに多くはなか いなかった。そんなとき、スティープが帰ってきた。あたしとそんなに った。つきあってる男の子も、 年がちがわないのに、見た目もふるまいもおとなびてた。あたしに気があるそぶりを見せて、よく話し 最 かけてきた。一人前の女性として、あっかってくれた : 章 こうしてアニ 1 とスティープは、つきあうようになった。スティ 1 プはたくみに自分をよそおい、や第 じさつねってき さしくて、思いやりがあって、情熱的な青年になりすました。アニーはたいせつにされていると思い 0 じよせい み
アニーが、かっと目を見ひらく。 「ま、まさか ! 「そうなんだ」 「うそよ ! 」 「うそじゃない。 ばくだ」 「で : : : でも : : : ちがうわ ! 」 アニーが大声でさけび、きつばりとばくをはねつけた。 「だれにそそのかされたのか、なにをたくらんでるのか知らないけど、 ことば ばくは、アニーの言葉をさえぎった。 「マダム・オクタのことは、だれにも言ってないよな」 マダム・オクターーーばくがぬすんだクモの名前に、アニーがびくっとする。ばくは、さらにたたみか どく かんけい 「いままでずっと、胸にしまいこんできたんだろ。あの毒グモと、ばくが死んだことに、なにか関係が あるとうたがったんだろうな。スティープに、聞いてみたか ? じっさいにかまれたのは、あいつだか むね いますぐ出ていって。じゃない
つほをまいて、そそくさと逃げだすところだ。でも、ダリウスがバンパニーズになってしまったことを、 きけんたちば っげないわすこまゝ、 。。。し力ない。ダリウスの危険な立場を伝えるまでは、ここをさることはできない いか 怒りのあまり顔をゆがませ、ふるえる指でドアをさし、その場に立ちつくしたアニーに、ダリウスが 静かに声をかけた。テレビからはなれて、よっていく。 くかどんなふうに、ヾ 「ママ、ば ノンパニーズと出会ったか、なんで手伝うようになったか、知りたくな かなきごえ アニーが、金切り声をはりあげる。 「バンパニーズなんて、いないわ ! どうせこの人に、おかしなことをふきこまれて : : : 」 「スティープ・レバードが、バンパニーズ大王なんだ」 ついに、ダリウスがっげた。アニーが、息をのむ。 ちか 「何年か前に、ばくに近づいてきたんだ : : : 」 あゆ つづ ダリウスがアニ 1 にゆっくりと歩みよりながら、続けた。 さいしょ さんぼ えいが 「最初は、ゝ しっしょに散歩したり、映画や食事につれていってもらったりするだけだった。ママにはな にも一言うなって、口止めされたんだ。ママにいやがられて、会えなくなるからって : : : 」 ダリウスが、アニーの前で立ちどまった。手をのばし、ドアに向けられたアニーの手を取り、下にお
けいさっ みんなで、しばらく雑談をした。アリスは警察での仕事を、バンチャ元帥はバンパイア元帥としての そだ ひけっ 仕事を、アニーに語った。エバンナはカエルの育てかたの秘訣を教えた ( アニーには、どうでもいし とだが ! ) 。やがて、ダリウスがあくびをした。バンチャ元帥が、うながすようにばくを見る。そろそ ろ、切りださねばならない。 ばくは、アニーにおずおずと声をかけた。 なかま 「なあアニー、ダリウスがバンパニーズの仲間になったことは、さっき話したよな。でも、それがどう いうことか、まだぜんぶ話してないんだ : : : 」 ロごもったばくを、アニ 1 かうながした。 「それで ? 」 ばくは、続けた。 「スティープが、ダリウスの体に自分の血を流しこんだんだ。バンパニーズの血を、ダリウスに : ダリウスの中のバンパニ 1 ズの血は、まだそんなに濃くない。でも、いずれ濃くなる。バンパニーズの ま さいぼう 最 細胞がふえて、人間の細胞を負かしてしまう」 章 ち 第 アニーの顔から、血の気が引いた 「ダリウスがお兄ちゃんみたいになるっていうの ? 年をとるのがおくれるってこと ? 人間の血を飲 ぎつだん はな こ 0 の 一三ロ