とするので、ばくは止めた。 「やめろ。血を流すんだ」 ダリウスが、ロに持っていきかけた手をさげた。ばくは歯を食いしばり、自分の右手のつめを自分の 左手の指先につき刺し、左手のつめも右手の指先につき刺した。ばくの十本の指の先から、血があふれ でる。その指先を、ダリウスの指先におしつけた。ばくの血がダリウスの体に、ダリウスの血がばくの 体に、それぞれ流れてい そのまま、ばくもダリウスも動かなかった。二十秒 : : : 三十秒 : : 。ばくの体にバンパニーズの血が あっ 流れこんできたのが、すぐにわかった。むずむずしたかと思うと、熱くなってきた。焼けそうに熱し いた へんか ばくは、痛みにたえた。、 タリウスがは タリウスも、変化を感じているらしい。ばくより、つらそうだ。、 なれていかないよう、ダリウスの指に自分の指先を強くおしつけた。 かんさっ げんすい ハンチャ元帥がそばで注意深く観察しながら、時間を計る。やがてばくの両うでをつかみ、いきおい わら ゆかにたおれ、 よくひつばっこ。ばくは、はげしくあえいだ。立ちあがり、顔を引きつらせて笑い げきつうみ さいぼう はんのう きゅうげき 激痛に身もだえした。バンパニーズの細胞が、あばれだす。こんなに急激に体が反応するとは 激痛とたたかいながら、ダリウスを見た。ダリウスも、すわったまま、もがき苦しんでいた。目をか っと見ひらき、首をしめられたような声をあげ、うでと足をばたっかせている。アニーが走りよろうと
じゃあく やりかけたことはとことんやりぬく意志の強さがある。こうと決めたら、て えられないほど邪悪だが、 こでも動かない。タリウスもそうだ。 ばくはいすにすわったダリウスの前に腰をおろし、ダリウスの指の先につめをつきたてようとした。 そのとき、アニーがためいきをついてなげいた。 「信じられないわ。ついさっきまで、明日なにを買おうとか、ダリウスが学校から帰るまでにもどらな 。とっぜん、死んだはずのお兄ちゃんがもどって くちゃとか、そんなことしか考えてなかったのに : きて、しかもバンパイアだなんて言いだした。やっとなっとくできたと思ったら、すぐにまた死ぬかも むすこ しれないなんて。息子まで、死んでしまうかもしれないなんて : : : 」 いまにも、やめて、と言いだしそうだ。アリスが背後から歩みより、アニーにそっとっげた。 さつじんき それとも、父親とおなし殺人鬼として死なせるほう 「息子さんを、人間のまま死なせるほうがいいフ 力いいのかしら ? 」 ぎんこく こと・は 残酷な言葉だ。でもそのおかげでアニーは、ダリウスがどうなってしまうか考えて、あきらめがつい たらしい。体をはげしくふるわせ、声を出さずに泣きながらはなれていき、ようすを見守った。 りさって ばくはなにも言わず、ダリウスと両手の指先を合わせ、ダリウスのやわらかい指の先に、つめをぜん第 ひめい タリウスが悲鳴をあげ、すわったままのけぞった。血の出る指をくわえよう ぶ、いっきにつきたてた。。 こし
と、ダリウスがまたにくくなってきた。指が、。 ひくっと動く。この指で、、 タリウスの首をひつつかみ、 ひと思いに だがすぐに、ばくがおじさんだとわかったときのダリウスの顔が、うかんできた。ショックを受け、 こんらん こうかい おそれおののき、混乱して、苦しみ、はげしく後悔する顔ーーー。ダリウスへのにくしみが、すっと消え ないしん ダリウスが板をわたりきり、まっすぐ近づいてきた。内心ではびくびくしているのだろうが、そんな 気配はおくびにも出さない。ダリウスが、立ちどまった。バンチャ元帥を、アリスを、そして最後にば ばくはある くを見る。あらためてしげしげとながめたら、たしかにばくと似ている。似ているーーー ? ことを思いだし、ダリウスに声をかけた。 「アニーの家で見かけた子と、ちがうな」 せつめい ダリウスが首をかしげたので、説明してやった。 「この町に来てから、自分が生まれ育った家をのぞきに行ったんだ。そのとき、フェンスごしにアニー むすこかえ を見た。せんたくものをとりいれているところだった。そこへ息子が帰ってきて、手伝った。でも、そ きんばっ のときに見た息子は、おまえじゃない。金髪のきれいな、太った子だった」 そのときのことを、ダリウスはすぐに思いだした。 25 ー第 1 章ア = ーの子
かぞく ゝじゃねえか、なあ ? 」 「家族のつどいか。いし そして、ばくに向かって言った。 「アニーとダリウスも、つれてくりゃあよかったのによ。おれたち六人そろったら、見ものだぜ ばくは、言ってやった。 「アニーとダリウスは、いまごろはるか遠くに逃げのびている」 いますぐスティープに飛びかかり、のどに食らいついて、手で肉をさいてやりたい。でも飛びかかっ きんもっ たら、スティープをおそう前にバンパニーズたちにやられてしまう。あせりは禁物だ。チャンスを待っ しかない ひら スティ 1 プが、またロを開いた。 むすこ 「おれの息子は、どうしてる ? やっちまったか ? 」 ひつよう 「そんなわけないだろ。その必要もない。おまえがシャンカスにしたことを見て、ダリウスはおまえの し」らたい タリウスには、おまえのかずかずの手がらを、話してやったよ。アニーも、お響 正体を思い知ったんだ。。 攻 はな まえとのことを話した。ダリウスはもう、おまえの言うことなど聞かない。おまえのものじゃない。息章 第 子とは思うな」 きず スティ 1 プを傷つけるつもりで言ったのだが、スティープは笑いとばした。 わら
な げんすい とたんに、ヾ ノンチャ元帥が鼻を鳴らした。 「けつ、おまえ、信じたのか ? タリウスがうなすく。 。。、パはいつも、ばくにやさしくしてくれた。あんなおそろしい 「ハバが、そう言ったから ノをうたがったことなんてなかった」 うがはじめてだ。パ。、 アリスが、けわしい顔でロをはさむ。 「でも、 いまはうたがってるのね」 「うん 。。、。、は、悪い人た」 な そう一一一口うと、ダリウスはとっせん、わっと泣きだした。強がっていたが、ついにがまんできなくなっ わるもの たのだ。子どもにとって、父親が悪者だとみとめるのは、つらいに決まっている。ばくは悲しみと怒り で胸がいつばいだったが、ダリウスがふびんになった。 ダリウスが話せるようになるのを待って、ばくはまた声をかけた。 「アニーは ? スティープはアニーにも、そんなうそをふきこんだのか ? ノとママは会ってないんだ。パ。、 「ママは知らないよ。ばくが生まれる前から むね ノと会ってるなんて、 きょ 27 ー第 1 章ア = ーの子
だから・をわざと逃がし、シャンカスとともにスティープのもとへ送りこんでしまった。まさかシ ャンカスが、ばくを血のつながったほんとうの叔父のようにしたってくれるシャンカスが、ころされる とはゆめにも思わずに しかしスティープは、またしてもばくをさんざんもてあそんだあげく、シャンカスの命をうばってし いしき まった。ばくも、死んでしまいたい。死ねば、苦しまない。おのれを恥じすにすむ。罪の意識にさいな かんけい まれることもない。なんの関係もないシャンカスをむごたらしく死なせてしまったと自分を責めながら、 エプラの目をのぞきこまなくていし ダリウスのことは、わすれていた。ばくは、ダリウスを手にかけなかった。血のつながったおいっ子 じじっ しゅんかん を、ころせるわけがない。スティープが勝ちほこって「事実」をつげた瞬間、ばくの心の中で燃えてい ほのお さつい たにくしみと怒りの炎は、すっと消えた。ばくは、、 タリウスをはなしてやった。もう、殺意はない。ダ リウスをおきざりにして、板をわたった。 ダリウスのそばには、エバンナがいた。体にまきつけたロ 1 プを指でいじくっている ( エバンナは、 ふつうの服を着るより口 1 プを体にまきつけるほうが好きなのだ ) 。そのようすからすると、ダリウス が逃げだしても止める気はないようだ。いまなら、ゆうゆうと逃げだせる。しかし、ダリウスは動かな かった。その場に立ちつくし、ふるえながら、ばくらによばれるのを待っている。 つみ
げきじ ) - して、・を追跡し、古い劇場にたどりついた。その劇場は、昔ばくとスティープがはじめてクレプ ぶたい スリーを見た場所だった。劇場の舞台で、スティープがばくらを待ちかまえていた。舞台とばくらのあ いだにはあながほってあり、その中に杭がびっしりとならんでいる。スティ 1 プはひとしきりばくらを こうかん じさっ - けん あざわらってから、シャンカスとダリウスを交換するという条件にうなずいた。でも、それはうそだっ た。スティープはシャンカスを解放するどころか、ばくらの目の前でむざんにも首の骨をへし折ったの いか ひとじち だ。その時点で、ばくはまだダリウスを人質にとっていた。ばくは怒りに身をまかせ、ようしゃなくダ ふくしゅう リウスを刺し、復讐しようとした。ところがダリウスをナイフで刺そうとしたそのとき、スティーフが ぎんこく じじっ タリウス あまりにも残酷な事実を明かした。なんとダリウスの母親は、ばくの妹のアニ 1 だったのだ。。 を刺したら、ばくはおいっ子を手にかけることになる。 あくま スティープはそれだけ一言うと、悪魔のようにけたたましく笑いながら逃げていった。そしてばくは、 じごくやみ 血ぬられたおぞましい地獄の闇に、とり残された ついせき かいほう のこ わら ほね 17 ー序章悪魔との戦い
一一十分後 ダリウスが家のうらぐちをあけ、ドアに手をかけてばくらを待った。ばくは立ちどま げんすい り、家を見つめた。不安で、胸が苦しくなる。ばくの後ろにバンチャ元帥とアリスが、その後ろにはエ ハンナかいた。ばくはふりかえり、バンチャ元帥とアリスに向かって、声をしばりだした。 「どうしても、やらなきやだめか ? 」 おう、とバンチャ元帥がうなずく。 きけん 。。 ( し力ないタリウスのことは、母 「母親にきちんと知らせずに、ダリウスの命を危険にさらすわナこよゝ、 親に決めてもらわないとな」 わかったよ、とばくはためいきをついた。 「じゃあ、声をかけるまで、ここにいてくれないか ? 「おう、しし ゝぜ」 ばくはごくりと息をのみ、子どものころ住んでいた家に足をふみいれた。十八年もの長い旅をへて、 ばくはよ一つやく宀豕にもどってきた。 まあんない ダリウスが、居間に案内してくれた。ばくは目かくしをされても、手さぐりで居間にたどりつく自信 んと言えばいいのだろう ? むね たび
びき 「むだだ。人間の病気じゃない。医者にみてもらって、ダリウスが飲む血の量を調節してもらうことな むすこ ら、できるかもしれない。でも、あんた、自分の息子がどこかに一生閉じこめられることになっても、 ししの、刀フ・ それに、とばくもつけくわえた。 「いくら医者でも、ダリウスが大きくなったら止められない。かんぜんなバンパニ 1 ズになったら、と ほうもない力を出すようになる。そうなったら、薬で眠らせでもしないかぎり、おさえられない いか アニーはあきらめきれず、怒りをあらわにさけんだ。 ぜったい、助ける方法がある ! あるわよ ! 「じようだんじゃないわ ! そんなこと、ゆるさないー 「あるさ」 と、ばくが口をはさんだら、アニーはわずかだがほっとした顔をした。 ただし、とばくは続けた。 きけん タリウスを人間にもどせるわけしゃない。ただ、闇の世界のもうひとつの生きものに、の 「危険な方法だ。、 最 変えるだけだ」 章 第 アニーが、いらいらとわめいた。 どうすればいゝ 「わけのわからないこと、言わないでよ ! くち ねむ やみせかい 1 三ロ
「ママ、ほんとうだってば ! 見ればわかるよ。ダレンおじさんは、どんな人間よりカがある。足も速 いんだ。おじさんは : そんなダリウスを、 「おだまりー はくり、ナ、 と、アニーがどなりつけた。あまりの迫力に、さすがのダリウスも口をつぐむ。アニーが、 ろりとにらみつけた。 「この家から、出ていって。うちの息子に、近づかないで。二度と、来ないで 「でも : : : 」 ぜっきさっ ばくは言いかけたが、アニーに絶叫された。 「うそよ ! あなた、ダレンじゃない ! ダレンだとしても、あたしはみとめない ! 十八年前に、お はか まさら、生きかえってほしくない。あなたがダレンだろう 墓にうめたんだから。ダレンは、死んだ。い しますぐ、あたしから : : : あたしたちから、はなれてちょうだい ! 」 がなんだろうが、どうでもしし へ 家 立ちあがり、ドアを指さす。 章 第 「さあ、出ていって ! 」 タリウスのことがなければ、犬のようにし ばくは、動かなかった。できることなら、出ていきたい。、 ばくを、き はや