でんせつ 石があれば、ゝ しつか復活できる : 伝説では、そう言われてるんだよな」 エバンナがうなずき、竜の頭から手をはなした。竜の頭からかがやきがうせ、もとの色にもどってい へんか かん めいれい く。その変化を、竜はまったく感じていないようだ。ばくから目をはなさす、じっと命令を待っている。 ひら エバンナが、またロを開いた。 こんらん えいえん 「父上は、なによりも混乱がお好きでねえ。安定した世の中は、飽きちまう。おなし生きものが永遠に しはい この世を支配するのは、まっぴらごめんというわけさ。父上は、しばらくのあいだ人間にこの世をあす らん・ほ、つ せいき け、楽しんでいた。なにせ人間は乱暴だし、つねにいがみあってるからねえ。でも二十世紀の後半に、 じんるい しさつじき 人類が平和に向かっていると感じるようになった。そんなこと、あたしは正直思わないんだけどねえ。 それで父上は、世の中をひっかきまわすことにした。人間にかわってだれがこの世を支配することにな っても、父上はいずれひっかきまわすに決まってるさ。 きず ものりきか いちそく ハンパニーズが傷ある者の戦に勝って、バンパイア一族をほろばし、この世を支配するようになった ら、父上は血の石を利用するだろうねえ。人間たちに血の石を見つけさせ、血の石からバンパイアの血 さいぼう ぐんだん の細胞を取りださせて、バンパイアのクローン軍団を作らせるのさ。バンパイアといっても、おまえが 知ってるバンパイアとはちがう。父上はクローンを作る段階からかかわって、バンパイアの血の細胞に さしく けつか 細工をし、ゆがめてちがう形にするだろうよ。その結果生まれたバンパイアたちは、もともとのバンパ ふつかっ だんかい 198
たりされ、杭のあなの上で宙づりになった。クレプスリーは、スティープを引きずりおとすこともでき た。だが、スティープを助ければばくらの命を助けると、ガネンが約束したので、クレプスリーはステ イ 1 プを道づれにするのをあきらめ、ひとりで死んでいった。ところがそのあとになって、スティープ しさったい が自分の正体を明かした。クレプスリーをうしなっただけでもつらいのに、クレプスリーの死はむだだ くつう ったと知って、ばくらは耐えがたい苦痛を味わった。 しさったい かん その後、スティープとはしばらく会わなかった。その間、ばくはハーキャットの正体をつきとめるた ぶきみ かいぶつ 1 キャットとともに旅をした。あとでわかっ め、不気味な生きものや怪物がうごめく荒れた世界で、 みらい たのだが、その世界は、なんと未来の地球だった。元の世界にもどってきてからは、二年ほどシルク・ うんめい ド・フリークとともに旅をして、運命が ( あるいは、「運命」という名のミスター・タイニーが ) 最後 の決戦のために、ばくとスティープを引きあわせる日を待った。 こきさっ スティープとばくの運命の道は、ばくらの故郷でようやくぶつかった。ばくはシルク・ド・フリーク とともに、故郷にもどってきた。なっかしの故郷にもどり、生まれ育った町の通りを歩くのは、みよう せいちさっ な気分だった。ばくは、妹のアニーをこっそり見に行った。アニーは、りつばなおとなに成長していた。 当一し力し むすこ ジョーンズとも再会した。トミーは、プロのサッカー 自 5 子までいる。さらに、おさななじみのトミー・ しあい せんしゅ にさそわれ、トミーが出場するサッカーの大きな試合を見に行っこ。 選手になっていた。ばくはトミー けっせん やくそく たび さい」
かぞく ゝじゃねえか、なあ ? 」 「家族のつどいか。いし そして、ばくに向かって言った。 「アニーとダリウスも、つれてくりゃあよかったのによ。おれたち六人そろったら、見ものだぜ ばくは、言ってやった。 「アニーとダリウスは、いまごろはるか遠くに逃げのびている」 いますぐスティープに飛びかかり、のどに食らいついて、手で肉をさいてやりたい。でも飛びかかっ きんもっ たら、スティープをおそう前にバンパニーズたちにやられてしまう。あせりは禁物だ。チャンスを待っ しかない ひら スティ 1 プが、またロを開いた。 むすこ 「おれの息子は、どうしてる ? やっちまったか ? 」 ひつよう 「そんなわけないだろ。その必要もない。おまえがシャンカスにしたことを見て、ダリウスはおまえの し」らたい タリウスには、おまえのかずかずの手がらを、話してやったよ。アニーも、お響 正体を思い知ったんだ。。 攻 はな まえとのことを話した。ダリウスはもう、おまえの言うことなど聞かない。おまえのものじゃない。息章 第 子とは思うな」 きず スティ 1 プを傷つけるつもりで言ったのだが、スティープは笑いとばした。 わら
きだしていた ( マスクなしでも、半日ぐらいなら生きられる ) 。 ばくは、わびるように、エプラとマーラを見た。続いて、シャンカスに視線をうっした。首つり台に つりさげられた、あわれなシャンカス 。芸人のまわりにいるバンペットたちがばくを警戒している が、おそってはこない。 「行くぞ、ダレン ハンチャ元帥が、ばくのひじをひつばった。 でも、エプラとマーラになにもいわすにとおりすぎることはできない まさか : 「もうしわけない。 : こ一つなるとは : : : できることなら : : : 」 ロごもった。なんと言ったらいいか、わからない。 かなきごえ エプラもマ 1 ラも、しばらくなにも言わなかった。と、とっぜん、マーラが金切り声をはりあげた。 ハンペットたちをおしのけて、ばくに飛びかかってくる。 「あんたのせいよ ! 」 ぜっきさっ マーラが絶叫し、ばくの顔をひっかき、ばくにつばをはきかけた。 「あんたがあの子をころしたのよ ! 」 なにも言えなかった。自分がなさけなくて、たまらない はんにち マ 1 ラが、ばくを地面に引きたおした。は ばくは、声をしばりだした。 しせん 99 ー第 7 章仲間
「ああ、オジー ・ハスだよ。ばくの友だちの。あの日のことは、おばえてる。 いっしょに帰ってきて、 ばくがくつをぬぐあいだに、ママの手伝いに行かせたんだ。オジーは、ばくの子分だから」 そしてくちびるをせわしなくなめ、ばくらをまたながめまわしてから、ばそりとっげた。 「ばく、知らなかったんだ」 あやまっているわけではない。事実をのべただけ、という感じだ。 じゃあく 「パパが言ったんだ。バンパイアは、悪いやつらだって。あんたがいちばん悪いって。邪悪なダレン、 いかれたダレン、赤んばうの血を飲みほすダレンって。でもあんたの名字は、一度も教えてくれなかっ エバンナも板をわたり、ばくらのまわりを歩きながら、チェスの駒でも見るようにばくらを観察して いる。でもばくは、声をかけなかった。エバンナとはあとで話をすればいい。 ばくは、ダリウスにまた話しかけた。 「バンパニーズのことは、どう教わったんだ ? 」 「人間をころしまくるバンパイアを止めようとしてるんだって 、。、パは言ってた。バンパニーズは何百 どくりつ ぎせい たたか 年も前にバンパイアから独立して、人間が犠牲にならないよう、 バンパイアとずっと戦ってきた。バン ひつよう ハニーズも人間の血を飲むけど、ほんのちょっと : : : 生きるのに必要なぶんをもらうだけだって言って おそ じじっ こま こん かんさっ
せいれいみつみと 書きたしてくれた。また、ばくが長いこと精霊の湖に閉しこめられて、頭かおかしくなりそうになり、 湖からエバンナに助けられ、リトル・ピープルに作りかえられることや、さらにそのあとおこることま よそう で、予想して書いていた。ば くがこの時代にもどってきて、少年の「ばくをおどかして追いはらうこ とや、さらに エバンナが最後の数ベージになんと書いたのか、ばくは知らない。そこまで、読まなかった。自分が じぶんじしん 最後の最後になにをするか、なにを思うか。それは先に読むのではなく、自分自身でたしかめたい。 あいよう げきじさっ スティープが劇場を飛びだし、クレプスリーが地下にある愛用のひつぎに向かうのを待って、ばくは でん中っせいり ミスター・トールをさがしにいった。ミスター・トールはトレーラーの中で、伝票の整理をしていた。 たんじゅんさきっ につか でんびさっせいり ショーのある日はそうするのが、ミスター・トールの日課なのだ。伝票整理のように単純な作業を、ミ スター・ト 1 ルはけっこう楽しみながらこなしている気がする。ばくはトレ 1 ラーのドアをノックして、 まった。 「なんの用だ ? リトル・ピープルのばくを、ミスタ 1 ・トールはうさんくさそうに見た。ミスタ 1 ・トールのトレ ラーをとっぜんたずねてくる人など、めったにいない。相手がリトル・ピープルとなれば、なおさらだ。 あいて 270
ひつう あふれだした。。 タリウスよりも悲痛な声で、むせび泣く もっとつらいことが、待っている。 ばくは、泣かなかった。いまは、まだ泣けない。 ー第 2 章家、
だから・をわざと逃がし、シャンカスとともにスティープのもとへ送りこんでしまった。まさかシ ャンカスが、ばくを血のつながったほんとうの叔父のようにしたってくれるシャンカスが、ころされる とはゆめにも思わずに しかしスティープは、またしてもばくをさんざんもてあそんだあげく、シャンカスの命をうばってし いしき まった。ばくも、死んでしまいたい。死ねば、苦しまない。おのれを恥じすにすむ。罪の意識にさいな かんけい まれることもない。なんの関係もないシャンカスをむごたらしく死なせてしまったと自分を責めながら、 エプラの目をのぞきこまなくていし ダリウスのことは、わすれていた。ばくは、ダリウスを手にかけなかった。血のつながったおいっ子 じじっ しゅんかん を、ころせるわけがない。スティープが勝ちほこって「事実」をつげた瞬間、ばくの心の中で燃えてい ほのお さつい たにくしみと怒りの炎は、すっと消えた。ばくは、、 タリウスをはなしてやった。もう、殺意はない。ダ リウスをおきざりにして、板をわたった。 ダリウスのそばには、エバンナがいた。体にまきつけたロ 1 プを指でいじくっている ( エバンナは、 ふつうの服を着るより口 1 プを体にまきつけるほうが好きなのだ ) 。そのようすからすると、ダリウス が逃げだしても止める気はないようだ。いまなら、ゆうゆうと逃げだせる。しかし、ダリウスは動かな かった。その場に立ちつくし、ふるえながら、ばくらによばれるのを待っている。 つみ
どくが るのだろう。マダム・オクタがヤギを毒牙でしとめてから、クレプスリーの体や顔にのばったり、クレ きよう プスリーの口から出たり入ったり、小さなグラスと皿を器用に使ったり、クレプスリ 1 といっしょにい ひろう かんきナ、せき ろいろな芸を披露した。い まごろ観客席では少年の「ばくがマダム・オクタに目を見はり、すっかり のばせあがっているはずだ。かたやおとなのばくは舞台のそでで、マダムを悲しげに見つめていた。マ ダム・オクタをにくんだこともある。ばくがこんなことになつだのは、もとをただせばマダムのせいだ うんめい さいしょ でも、いまはにくんでいない。マダムが悪いわけではない。すべて運命だ。ばくは最初からデス・タイ ニーにあやつられ、こういう道をたどる運命だったのだ クレプスリーが芸を終え、舞台をおりてきた。このまま、ばくのそばを通りすぎるはすだ。クレプス リーが近づいてくる。やはりなんとかして、クレプスリーと話をしてみるか ? ロはきけないが、字な ますぐこ ら書ける。クレプスリーをつかまえて、わきにひつばっていって、メッセージを書くのだ。い げきっ こを出ろ、劇場からはなれろと 日 クレプスリーが、そばを通りすぎた。 の あ ばくは、なにもしなかった。 章 一つま / 、いくはすかない リトル・ピープルとなったばくの一言うことなど、クレプスリーが信しるはす第 がない。メッセ 1 ジを書いて説明しても、クレプスリ 1 は字が読めないから、だれかに読んでもらわな せつめい
アニーがばくに問いかけ、身をふるわせた。 いや、とばくは答えた。 「それでは、すまされない。失敗したら、ばくは死ぬ : : : ダリウスもだ」 そう答えて、ばくはぐったりといすにすわりこんだ。あとは、アニーの決断を待っしかない み けつだん 6 ろー第 3 章最悪の話