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検索対象: 運命の息子
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1. 運命の息子

そしてその十数年前に、ばくがクレプスリーとはじめて出会った場所だ。 きっと そのとき、 なせ、ここに送りかえされたのだろう ? そうだ、まちがいない、 ・ほ、つと - っ いうものすごい音がした。ウルフマンがうなりをあげる。ショーの冒頭でくりひろげられる、お決まり しゅうとうけいさん のパターン。ウルフマンがあばれだすのはとっぜんでもなんでもなく、周到に計算された演出なのだ。 ひめい ウルフマンが悲鳴をあげるひとりの女性におそいかかり、女性がっきだした手をがぶりと食いちぎった。 しゅんかん つぎの瞬間、ミスター・トールがばくのとなりから消え、ウルフマンのそばにあらわれた。泣きさけぶ おり きや、せき 女性からウルフマンを引きはがし、おとなしくさせ、檻につれていく。客席ではダビナとシャーリーが、 かんきやく 観客たちをけんめいになだめている。 かなきごえ ミスター・トールが、金切り声をはりあげる女性のところにもどった。食いちぎられた手をひろい あいず ヒューツとロ笛をふく。ばくともうひとりのリトル・ピープルに、来いと合図したのだ。ばくはあいば 一つのリトル・ピープルとともに、フードがぬげないように気をつけながら、ミスター・トールにかけよ った。ミスター・トールが女性をすわらせ、なにか耳うちして、静かにさせた。そして血のふきだす手 首にきらきら光るピンクのこなをふりかけて、もげた手をぐいとおしつけ、ばくとあいばうのリトル・ ピープルにうなずく。ばくらは針と糸を取りだし、ちぎれた手を手首にぬいつけだした。 むかし ばくは針を動かしているうちに、めまいがしてきた。ああ、この女性も、なにもかもーーーその昔、ば くちぶえ じよせい えんしゆっ 2 う 4

2. 運命の息子

かいてん きとばして立ちあがり、ぐるぐると回転する。フックでナイフの柄をつかもうとするが、つかめない そのまま、がくんとひざまずいた。地面にすわりこみ、首をそらす。 ぎん ・は、しばらくふらふらしていた。と、両うでをゆっくりと目の前に持ってきた。金と銀のフッ クを見つめ、うれしそうに顔をかがやかせる。 「手た : : : 」 ことば ・が、つぶやいた。血で声がくぐもっているが、言葉は聞きとれる。 「見える : : : おれの手だ : ・・ : 手が、もどってきた。ああ、もう、だいじようぶだ。おれは、もとどおり とっぜん、うでがだらんとたれた。笑みをうかべたまま、あわい赤色の目が動かなくなり・・ーーー・ たびだ の魂は、静かにあの世へ旅立っていった。 つか 142

3. 運命の息子

はや ミスター・トールが目にもとまらぬ速さで手を動かした。気がついたら、日記帳のたばは消えていた。 きじゅく じき 「機が熟すまで、わたしがあずかっておこう。そして、時期が来たら : : : だれに送ればいいのだ ? 作 みらい 家か ? 出版社か ? 未来のおまえか ? 」 未来のおまえーーーばくはうんうんと、すばやくうなずいた。 「うむ、よかろう。未来のおまえがどうするかは、わからない。たたのいたすらと見なし、まともに読 まないかもしれない。おまえの意図が伝わらないおそれもある。それでもきちんとわたすことだけは、 やくそく 約束しよう」 と言って、ミスタ 1 ・トールはドアをしめかけたが、ふと手を止めた。 あゆ 「いま、この時点で、わたしはおまえを知らない。おまえが元の人生を歩まなくなる以上、二度と会う こともない。だが、わたしとおまえは友だった : : : そうだな ? 」 ミスター・トールがさしだしてきた手を、ばくはにぎりかえした。ミスター・ト 1 ルがあくしゅをす 祈 るなんて、かなりめずらしいことだ。 章 こううんいの 第 「わが友よ、幸運を祈る。おまえもわたしもみんなも幸せになるよう、祈ろうではないか」 ミスター・トールはそうつぶやくと、さっと手をはなし、ドアをしめた。さあ、あとは、どこか静か ない」 しゆっぱんしゃ

4. 運命の息子

のうしんぞうかんぞうじんぞう しく。そしてそのまわりをべたっく灰色のひふでお ると、こんどは中に脳や心臓、肝臓や腎臓を人れてゝ ないぞうほね おい、内臓と骨がくずれないよう、ひふを縫ってい 内臓やひふは、どこから持ってきたのだろう ? 自分で育てているのか ? いや、きっとどこかからーーーーそう、人間の死体から持ってきたのだろう。 く。ミスター・タイニーの ミスター・タイニーが、新しい体に目玉をつけた。目玉と脳をつなげてい せいかく はや ゅうのうげか 手が、世界一有能な外科医のように正確に、しかもおどろくほどの速さで動き、目玉と脳をつなげてい ぎじゅっひつよう くのを感しる。かなりの技術を必要とする技だ。フランケンシュタイン博士でも、こうはいかないので はないだろうか。 ミスター・タイニーは体を作りおえると、手を液体にーー・ばくの中に つつこんだ。つめたい手、 いた つめたい指だ。どんどん、つめたくなってい 池の液体がーーーばくが , ーー濃くなっていく。痛みはな あっしゆく い。ただ、ぎゅっと圧縮されるような、みような感じがする。 液体がほんの少しになった。バニラシェークのようにどろどろだ。ミスター・タイニーが液体から手 いっしゅんま をぬき、かわりに管をつつこんた。一瞬間をおいて、管が液体をーーーぼくをーーーすいこみはじめた。管 の中を流れていくのを感じる。池からすいあげられーー・なんだろう、この管は ? さっき池につつこま れた管とはちがう。でも似ている けつかん わかった ! 血管だ ! 「この緑の液体は、おまえの血となり、おまえの新しい体を動かすエネルギー わざ えきたい はかせ

5. 運命の息子

ムの魂の一部も、いま、この世をはなれようとしている。液体の中に、サムの顔が見えたような気がし えがお た。おさなくて、いきいきとしたサム。熱くてつらいだろうに、笑顔でオニオンピクルスをひとつ、ロ にほうりこむ。サムがばくにウインクし、手をふってー・・・ー消えた。とうとうばくは、ひとりばっちにな しんけい ようやく痛みが消えた。体がかんぜんにとけてしまったのだ。痛みを伝える神経も、それにこたえる ふしぎかんかく げんし 脳みそもない。なにも感じない、不思議な感覚だ。ばくは、液体とひとつになった。ばくの原子が液体 / 、、つ′第っ とまざりあい、ひとつになっている。ばくは液体、液体はばくだ。 骨髄がとけ、空洞になったばくの骨 が、池の底にしずんでいくのがわかる。 しばらくして、池の中に ばくの中にーーー一一本の手がつつこまれた。ミスター・タイニ 1 の手だ。 さむ ミスター・タイニーが指を動かした。いまのばくには背すしなどないが、背すじが寒くなるような感じ がする。ミスター・タイニ 1 が、池の底から骨をひろいあげた。一本一本、ていねいにすくいあげてい ぶんし く。その骨を池の外においた。骨には、液体の分子がついている。液体の分子ーーーばくの分子だ。ミスの お ター・タイニーが骨をそろえるのを感じた。さらに骨を小さく折っていき、手の熱でとかしたり曲げた章 」っか′、 第 りねじったりして、ばくの一兀の体とはまったくちがう骨格を作りあげてい その骨格を、ミスター・タイニーはたんねんに何時間もいじくりつづけた。すべての骨をつなぎおえ そ」 せ くち

6. 運命の息子

よし、起きてみよう。頭を持ちあげたとたん、はげしいめまいにおそわれたが、すぐにおさまった。 目が回ったり、気もち悪くなるたびに止まりながら、のろのろと体を起こした。ようやく、ちゃんとす しせい かんさっ われた。この姿勢たと、自分の体を観察できる。大きな手、大きな足、太いうで、太いもも、灰色のひ ふ。 ーキャットが言っていたとおり、 いまのばくは男でも女でもない。 というか、男でもあり、女で もあり リトル・ピ 1 プルの顔でなかったら、恥ずかしくて赤くなったところだ。 「立て」 りさって ミスタ 1 ・タイニ 1 が、 ばくに命じた。手につばをはき、両手を合わせ、緑の液体をこすり落として 「歩きまわれ。体を動かしてみろ。新しい体にすぐ直れるはすだ。リトル・ピープルは、すぐ動けるよ うにしてあるからな」 さいしょ エバンナの手をかりて立ってみた。最初はよろめいたが、すぐにバランスをとれた。元の体よりもが っしりとしていて、体が重い。さっき寝そべっていたときも感じたのだが、元の体ほど手足が速く動かの しんけい ない。指を曲げたり、足を前に出したりするのにも、神経をつかう。 章 から 第 向きを変えようとして、池に落ちそうになった。いまは空つほの池だ。 「ゆっくりおやりよ はや

7. 運命の息子

こと。は ばくはエバンナをちらちらと見ながら、言葉を選ぶようにして話した。 「なんとなくだけど、スティープがいるような気がする。スタジアムで、ばくらを待っている気がする ほ、つほう けいさつりよう こ , っ′リき んだ。警察を利用して攻撃する方法なら、あいつ、もう使っただろ。アリスが、まだ警察にいたころに。 おも あいつが、おなじ手を二度も使うとは思えないんだ。おなじ手のくりかえしじゃ、つまらないだろ。あ ままでとはちがうスリルを味わいたがる。だから、スタジアムの外にい いつは新しいことが好きだ。い る警官隊は、カムフラージュじゃないかと思うんだ」 ひら ハンチャ元帥がばくの言葉をかみしめながら、ロを開いた。 げきじさっ 「あのやろうは、おれたちを劇場でわなにはめることもできた。でもあそこは、前に戦った場所ほど手 ほ、つふく がこんでない。報復の間ほど、しかけがこってない そうなんだ、と、ばくはうなすいた 「あいつにとっても、ばくらにとっても、大づめの一大決戦だろ。スティ 1 プなら、ぎよっとするよう げいにん なしかけで、はでに幕を引きたがるんじゃないかな。あいつは、シルク・ド・フリークの芸人に負けな こだい ぶたい えんしゆっ やくしゃ いくらい役者だし、はでな演出も大好きだろ。スタジアムという舞台は、もってこいじゃないか。古代 ひら のコロセウムで開かれた、戦いの見せものみたいで : アリスは、なっとくしきれないようだ。 いちだいけっせん あじ たたか 81 ー第 5 章別れ

8. 運命の息子

てるのはまちがいないわ」 げんすい しつもん ハンチャ元帥が、アリスに質問した。 「中に入れてくれとは、たのめなかったのか ? 」 アリスが、答える。 「たのむまでもないわ。勝手に人れるようになってるんだもの。うら手の入り口がひとつだけ、かんぜ けいさっ んにあけてある。入っていけるように、道もあけてある。そこから入ろうとする者がいても、警察はい っさい手を出さないんですって」 しきかん 「ええつ、その指揮官、そこまでしゃべったのか ? 」 ばくは、おどろいた。 めいれい 「聞かれたらだれにでもそう答えろって、命令されてるのよ」 どく アリスが答え、いまいましげにつばをはいて、毒づいた。 「ふん、こしぬけめ ! 」 ハンチャ元帥が、ロのはしをゆがめてばくに笑いかけた。 「おう、やつは中にいるな」 ぶたい 「ああ、あいつなら、これだけの舞台に かって 、いないはずがない」 わら 0 0 ノ

9. 運命の息子

よち 橋の下はせまく、入れかわる余地がない。だから向きあったまま、たがいにナイフでつき、刺し、切 ふじゅう っ先をよけあうしかない。不自由だが、ばくにはかえってありがたかった。広い場所だと、互角に戦う いまのばくは、すぐにカつきてしまう。でもここはせま には、すばやく動きまわらなければならない いので、動きまわらなくてすむ。どんどんなくなっていく体力を、ナイフを持つ手に集中させればいい。 むごん ばくもスティープも無一言で、すばやく、はげしく、がむしやらに戦った。うでを切られた。やりかえ はらむね した。腹と胸をあさく切られた。また、やりかえす。敵のナイフが、鼻先をかすめた。ばくのナイフが、 スティープの左耳をわすかにそれる。 こう、げき ふいにスティープが、ばくの左がわを攻撃してきた。けがで左うでが動かないのを、見こしてだ。ス ティープがばくのシャツをつかみ、 ぐいっとひつばった。同時に、もういつほうの手のナイフを、ばく いた きず の腹に向ける。ばくは、スティープにたおれかかった。ナイフで腹を刺された。深い傷だ。痛い。はす お みで、さらにつつこんでい スティープと折りかさなって、たおれた。スティープが地面にたた ひら ナイフが、ほちゃんと川に落ちた。あ きつけられ、思わす右手を開いた。ナイフが、飛んでい っという間に、流されて見えなくなる。 スティープが右手をつきだし、ばくをおしのけようとする。その手をめがけて、ばくは自分のナイフ ひめい をつきだし、右ひじと手首のあいだをつき刺した。スティープが、悲鳴をあげる。ばくは、ナイフをう はら てき はら ごかくたたか 148

10. 運命の息子

と一一一口って、エバンナがばくをふりかえり、にやりとした。 じゅうようそんざい 「自分がそんなに重要な存在だなんて、ゆめにも思ってなかったんじゃないのかい」 ばくは、うんざりした。 「ああ。そんなもの、なりたくもない しんばい 「心配しなさんな」 と、エバンナが、こんどはやさしくほほえんだ。 「おまえさんは、スティープに自分をころさせた時点で、その運命からぬけだした。ハイバーニアスや あたしが思いっかないようなことをしてのけた。どうあがいても変えられないと思ってた未来を、その 手でみごとに変えたんだよ」 こと・は という言葉に、ばくは飛びついた。 未来を変えた やみていおうしゆっげん 「じゃあ、ばくは闇の帝王の出現をふせげたんだ。そうなんだろ、な ? そのために、ばくはスティー ほ、つほ、つ プに命を投げだしたんだ。それしか方法が思いっかなかった。ばくは、闇の帝王になどなりたくない はかい この手で世の中を破壊するなんて、考えただけでぞっとする。ミスター・タイニーは言ったよな。ばく か、スティープか、どちらかが闇の帝王になるって。でも、ばくもスティープもいなくなったら : : : 」 エバンナが、うなずく。 21 ろー第 15 章エバンナの子