本当の意味での銀行の仕事 ここまで銀行の黒い側面を紹介してきたが、誤解してはならないのは「黒いファイナン ス」を「悪」と決めつけることだ。「白いファイナンス」では得ることのできない大きな 利益を「黒いファイナンス」が生み出すということは、「限りなく黒に近い白」の領域こ そ合法的に収益を上げる限界点ということだ。 この世界には拠点を置いた国から何度も行政指導を受けながら、しぶとく生き残ってい る銀行も多くある。そうした銀行は、あえてルール違反をするリスクを取りながら、血道 を上げて収益を確保しているのだ。 では、そうした手段で誰が喜ぶのか・ー・それは銀行の株主だけではない、顧客も含まれ る。そして限界に近い「グレーゾーン」での収益確保こそが、銀行の本来の業務だと私は 考えている。 日本経済の中心を担う中小企業について考えるところから始めたい。 中小企業基本法によって定められた中小企業 ( 図 8 参照 ) は、中小企業庁調査室『 20 17 年版中小企業白書概要』によれば、大企業 0 ・ 3 % に対して実に四・ 7 % を占め る。これらのデータから考えれば、中小企業こそ日本経済のダイナモだ。ところが中小企 210
世界最古のコインは紀元前 6 世紀頃にトルコで鋳造されたと言われている。同時期にア ケメネス朝ベルシアがエジプトからイラン高原、インドのインダス川流域を支配し、史上 初の大帝国となったことと、その王朝でコインが発明されたことは無関係ではない。帝国 はコインを発行し、暴力を背景にその支配域にコインの使用を強要することで、徴税や軍 費を容易に調達することが可能になった。 通貨誕生の裏には、すでに暴力があったことを見落としてはならない。 四世紀には大英帝国と「ポンド」が世界の覇権を握った。ポンドが世界最強の通貨とな った土台にあるのは、イギリスによるインド帝国の軍事征服だ。これによってイギリスは インドー清 ( 中国 ) を舞台にした「アジアの三角貿易」を作り上げ莫大な利益を得た結 果、ポンドが世界の基軸となった。 近代に人ってなお暴力と通貨の発展は一体なのである。 第二次世界大戦末期に「ドル」が基軸通貨になったが、ドルを支えるものこそ「米軍」 という世界最強の暴力装置に他ならない。年にブッシュ大統領が引き起こしたイラク戦 争の要因の一つは、当時のフセイン大統領が石油の決済をドルではなくューロで行おうと 考えたため、とされている。石油決済はドルでしか行えないが、それを許せばドルとエネ ルギーの関係は崩壊し、ドルの価値が失墜することになる。それを食い止めるために、ア
現在、世界経済はアメリカと中国の大国に二分されているが、こと「ソブリン・クリプ ト・カレンシー」においてはアメリカとロシアが激しく争っている。 Ⅱ年のクリミア危機以来の金融制裁が続く口シアは、自国の銀行で— < や Ⅱ後の世界で、アメリカが金融システ Mastercard を扱えないほど苦しい状況にある。 9 ・ ムを監視し、支配するようになったことはここまで述べた通りだ。ロシアにとって「仮想 通貨」は、アメリカによるシステムから脱出する最強のツ 1 ルとなる。 実はロシアは「仮想通貨」の根幹技術であるプロックチェーン技術大国だ。 1 年に 4 億 8000 万ドル ( 約 480 億円 ) が流出した「 M (. Gox 事件」と、 270 万ドル 界 ( 約 2 億 7 5 0 0 万円 ) が流出した「シルクロード 2 ・ 0 事件」などは、「ロシア人ハッカ 1 新の犯行によるもの」というのが地下経済界では定説となっている。ロシア国内の「プロッ みクチェーン技術」がいかに高いレベルにあるのかは、これらの仮想通貨流出事件が未解決 生 であることで証明されていると言えるだろう。この技術的アドバンテージをフル活用し て、ロシアはドルに対抗できる「仮想通貨 2 ・ 0 」を開発しようとしている。 ン はたしてロシアはアメリカに対抗する通貨を作り出すことができるのか。その鍵は「暴 力」にあると私は考えている。 章 第 通貨の歴史がそれを証明している。 207
想通貨は「通貨・法貨」「有価証券」に該当しないとされており、インサイダーは存在し ない。 また、。 フロックチェ 1 ンを土台にした仮想通貨には資金移転機能が備わっている。加え て、資本力さえあれば「投機用仮想通貨」は自身で発行できる。 「通貨発行による資金調達」 (—oo) 「投機市場でのインサイダー」そして「資金移転」 と、「その筋の経済人」にとっての悩みの種をすべて解決できることが、「仮想通貨」が地 下経済を潤わせていた最大の理由だった。 仮想通貨ビジネスには銀行口座が必要なのだが、暴排条例によって暴力団員の口座開設 は極めて困難になっているため、主に関西圏で匿名の銀行口座の販売価格が高騰している ありさまだった。 仮想通貨の最大の問題こそ「黒い経済」の最大の旨みなのだが、それこそが資金移転の 能力に他ならない。 仮想通貨のべースとなる「プロックチェーン」は「分散型台帳」と訳される。技術的な 解説は割愛するが、複数の場所に同じ情報を保管するという仕組みで、一般のインターネ かいざん ット回線を使い、高い匿名性を維持しながら事実上改竄が不可能な、極めて高速な資金移 動を可能にするものである。
い。「富」を担保するものは存在せず「価値があるかも知れない」という幻想が価格を高 騰させてきたということである。ビットコイン・バブルによって「億」を儲けた人たちは Tw 一 ( ( er などでその成功談を自ら発信し、マスコミから「億り人」ともてはやされた。し かし「億り人」たちが群れ集まっているのは、実は「子供銀行券」となんら変わらない通 貨もどきの何かだったのだ。 それは私が暴力団員として暗躍した「新規発行株」と同じ構造だ。なんの実績もない企 業ーー私はそれを空つぼの「ハコ」と揶揄していたがーーに黒い金を融資して、その見返 りとして新たに株を発行させ、市場価格より安く譲渡させる。「ハコ」は予定通りに市場 界に「企業合併」や「新規事業参人」などのネタを投入、そのネタによって株価が上がった 新時に売り抜けるという手口だ。この舞台となったのは新興株・バブルだが、両方とも 出 短い時間で崩壊している。 生 暴力団と仮想通貨 テ ン 予想通りというか、案の定というか、ブームのまっただ中で仮想通貨を笑いの止まらな フ いビジネスにしていたのは、感度の高い一部暴力団員だった。 章 第 私が得意としていた新規発行株の手口はインサイダーなのだが、当時の政府見解では仮 203
だ。 15 0 万— 16 0 万円で売ることが「投資」、 2 4 0 万円で売ることは「投機」であ 3 り「ギャンブル」だからである。 この判断の根拠になったのが二つのバブルを通じて得た経験だ。 株、土地に限らずあらゆるバブルの最終局面には共通の特徴がある。驚くべき速度で売 買される合計金額が上がっていくのだ。その理由は、それまで見ていただけの一般投資家 が参加してくるという単純な理由である。部年代バブルの最終局面がまさにこれで、不動 産、株が競うように最高値を更新して収拾が付かない状態になっていた。 敏感な人はいち早くそこから抜け出したが、それを続伸のサインと見た人はバブルの崩 壊とともに沈んでいった。私の場合は「黒い世界」にまで沈んだが、ビットコインを手放 したのは、取引量やメディアの取り上げ方から終末期を確信したからである。 もう一つは「仮想通貨 1 ・ 0 」の性質にある。 ビットコインなど投機性の高い仮想通貨は、「誰が使ったのか」や発行主体が何を担保 にしているのかが明確ではない。そこで過去の取引履歴のデータとの整合性を取りながら 取引の承認・確認作業を行う。この作業は採掘を意味する「マイニング」 (mining) と呼ば れている。 すなわち投機対象としての仮想通貨は、出所不明で、発行主体もなく、裏付け資産もな
投機としての「仮想通貨」 2017 年に「投機対象」として話題になったのが仮想通貨だ。相場の下落によってブ ームが終わったと思っている人も多いが、「仮想通貨」の時代はこれからだ。「仮想通貨は 終わった」と誤解される原因は、投機目的のいわば「仮想通貨 1 ・ 0 」と、各国の中央銀 行が開発を進めている決済用の「仮想通貨 2 ・ 0 」を同一視していることによる。 両者は似て非なる別物だ。この「仮想通貨 2 ・ 0 」が本格的に運用されれば、世界の金 融環境は激変することになるだろう。また基軸通貨の座を「ドル」から奪うことになるか も知れない。 仮想通貨の代表となっているのが「ビットコイン」で、ビットコインが今日のように投 機対象になった大きな要因の一つが中国だ。年ごろ、ビットコイン売買の 9 割が中国人 で占められていたが、その原動力となったのが中国当局の資本規制である。年夏、中国 で株式バブルが崩壊し、それに伴い中国国内からの資金逃避が進んで、人民元が大きく売 られる事態に陥った。危機感を覚えた中国の金融当局は為替に限度額を定める資本規制を かける。 日本で爆買いが収束したのもこの影響だが、中国人が投機と海外への資産逃避の抜け道 200
イン一るノが生み出サ 新世界 に第 ~. ふ . メ工
うことに私は反対だ。そうした認識は、既存の商習慣というレガシ 1 と、国際化というモ ダンを混在させていかなければならない次代の日本型金融モデル構築にとってはマイナス にしか働かない。 現実的に、間もなく仮想通貨の時代が訪れようとしているのだから。 198
バン」が行われ、銀行法が改正。銀行業とは無関係の一般事業会社が参入できるようにな る。こうしてセブン銀行や、イオン銀行、楽天銀行などが作られた。 新規の銀行業者の多くが使ったのはメイドインジャパンの銀行システムではなく、海外 で広く利用されているシステムだった。システム自体は軽くて高性能という評価だが、海 外と同じということで偽造カードを受け人れる仕組みも同時に導人することとなった。旧 来の日本の銀行システム上にあるでは、海外のカードに対応できていないものもあ る。今回の犯行に旧来の日本の銀行が設置したが利用されなかったのは、犯行グル ープがセキュリティを嫌がったからではなく、システムの問題だったのだ。 マ ク ガラパゴスな金融環境が被害に遭わなかった原因だったことは、パリバ・ショックやリ 1 マン・ショックなどの金融ショックの影響が世界に比べれば比較的に少なく、実質的に 出は逃れた構造と同じということになる。 脱 を 一方で、今回の被害額が大きくなった理由の一つが、現金の流通量にあると私は考えて 島 いる。世界と比べても日本は現金の流通量が多い国だ。で一回に万円も引き出せ 融る国はそれほど多くない印象で、買い物などで現金をこれだけ流通させている国も珍し 章 こうした諸問題を「金融環境」の問題としてではなく「暴力集団」の問題と捉えてしま 第