返済日に利息だけ払って同じ額の借り人れを行って、借人期間の延長を行うことを「ジ 、ハー」と呼ぶ。日本的な倫理観に従えば、借りた金は期日までに ャンプ」や「ロールオー 返すのが常識だが、私は他人資本は絶えずジャンプが正解だと考えている。貸し主には儲 かった分から「利息」以上の配当を渡して返済日を延ばせるだけ延ばして、どれだけ長く 自分の手元に他人資本を残せるかが、投資にとっては重要な鍵になる。 この考え方を「ズルい」「汚い」と思う人もいるが、これは金融の本質的な考え方だ。 銀行は「預金」という他人資本を元手にして、投資を行い、利息を支払う。「預金」を解 約させないために、あの手この手を使うことは、個人事業主であればご存じだろう。株式 会社は、株式を発行することで資金を調達して、それは返さずに配当を与えている。 自己資本ではなく「他人資本ーの獲得こそが、「マネタイズ」である。そして、「他人資 本」の継続的な保持と、運用こそ実はファイナンスの核だ。「資金調達」とは単に金を集 めることではなく、いかに返さなくても大丈夫な金を集めるのかということである。 祖母はお金の使い道がそれほどなく、少なくとも私よりは早く亡くなる。あの世に金は 持っていけないし、孫は可愛くて仕方がない。配当金よりも小さな贈り物を持って遊びに 行けば、それで満足なのだ。株主配当どころか、法定利息よりはるかに少額でジャンプす ることができる。こうして私は資金調達と投資を同時に行うようになった。 100
したものを、自国に持って帰って初めて本当の意味での国際化が成立する。 この意味では私自身は「真の国際人ーとはなっていない。石油で得た金はアメリカに没 収され、海外の口座残高はあっても、資金移転の規制が強すぎて日本国内に持ってくるこ とができていないからだ。 借金できる能力こそが、人の評価だ 多くの日本人が持つ「借金ーについての罪悪感も、中小企業文化の海外進出への障害 だ。そもそも自己資本を中心にビジネスを行おうとする発想が私には理解できない。日本 界でも海外でもビジネスに自己資本を投下するのはナンセンスの極みだ。 新 ビジネスは他人資本で行うべきなのだ。失敗したら、次の他人資本を探せばいいだけの す み話だ。その繰り返しの中に落ちている成功を拾うことにこそ、ビジネスの面白さとうまみ 生 が凝縮されると言えるだろう。 日本には「自分のお金でこんないいものを作りました」という価値観が蔓延している テ ン が、海外の場合は、「他人のお金を集めていいものを作りました」という価値観が基準 フ だ。海外の価値観がすべて正しいわけではないが、ビジネスの国際化という意味では価値 章 第観の転換は必要と言えるだろう。自己資本を投下するリスクを負うくらいならば、海外の 215
あえずこんなもんだろう」という判断だった。。 ケインは 5 万円で自己資本は万円となっ ねがさ た。再び資金を得た私だが、万円では株価の高い値嵩株を買うことはできず、株価の低 い低位株だけを買うことになる。低位株には、経営状態が悪いなどの理由があって、短期 間で株価が大きく上下するので損失リスクが高い。だから、火傷もした。 三流の商事会社の低位株に手を出し、損失を出す結果となったのだ。 この最初の失敗の時につくづく思い知らされたのは「自己資本量」の問題だった。資金 のポリュームさえあれば、もっと多くの種類の株を買うことができる。多くの種類の株が 大量にあれば、リスクも減らせるしリターンももっと取りにいける。「株価が下がる」事 態でさえ、資金量さえあればもっと安く大量に買えるチャンスになるのだ。こうして私 は、ファイナンスにとって資金調達がいかに重要なのかを知ることになった。 もはや時給 400 円で働く気持ちはまったく起こらなかった。アルバイトに時間を割く 史くらいならば、一刻も早く次の投資に向かうべきだと判断したからだ。 経 い 黒 他人資本 の そこで選んだ資金調達先は、祖母だった。祖母に借金をして、「他人資本」で株式投資 章 第を行うことにしたのだ。
4 「私の黒い経済史 宿病ファイナンスとの出会いファーストロスト他人資本不動産 神話とバブル突入 00 伝説の相場師崩壊黒い経済界への旅立ち 00 暴力経 済黒い液体石油と証券資金監視と没収 与マネ 1 のブラッノホ 1 ッ 資金洗浄という秘術最初の洗浄はコインランドリー私のロンダリン グ翡中東の金融ハプセンターから「金融の聖地、ヘ 3 億円を 2 億ドルにす るカストディアン・ロンダリング金融危機の爆心地「オフショア自 由な金融からの転換神の銀行と暗黒街教皇の死神の金庫の中身は翡
会も多い。そうして知り合った元在京組織所属の知人の一人が、偶然同時期に「バレル 5 ドルで毎月 2500 万 ( 円 ) の儲けや」と私に耳打ちしてきた。 たる バレルとは原油の取引単位で、四世紀のアメリカで輸送用に使っていた樽を指してい 15 9 リットレ。「ヾレル 5 ドル」とは、「 1 ヾレルに寸き 5 ドルがコミ て、 1 バレルⅡ約 ッション ( 手数料 ) として支払われる」という意味だ。疑う私に対して、彼はその場でシ ティバンクのステートメント ( 人出金明細 ) を見せてくれた。ごく少数ではあるが、暴力経 済の世界で他にも石油で儲けた人間を何人か見た私は、石油取引を徹底的に研究。翌年か ら原油の先物取引を始めて、やがて現物取引をすることを目指したのだ。 世界的に原油の需要が高まっていたものの、日本国内では一般の人は原油の商いができ ないことがわかったのも決断の追い風になった。暴力団の経済学とは規制などでしばられ ている場所に、非合法スレスレのいわば「高速道路」を作ることだ。普通の人がルールに 史よって硬直している市場でこそ、最も有効に機能する。石油は地面から湧いてきて無限に 経 金を生むのだから、「地球資本。とでも呼ぶべき究極の他人資本でもある。 い 黒 の 最初の難問はまさに資金だった。契約にこぎ着けたとして、個人で莫大な代金を支払う この問題の解決を模索していた私は、後に証券の世界にたど ことができるのだろうか 章 第り着くことになる。 121
「やったぞ、これでまた勝負ができる。ヤクザだから審査もない。巨大な他人資本を捕ま えた」 こうして私は裏社会の住人になった。親分自身、大きな株の取引をやっていたのだが、 株で大失敗した私を見ながらこう言うのだ。 「よくも知らん会社の株買うのお。君はそこの社長とおうたことあるんか ? 」 「いや会ったことなんてないですよ」 こう答えると、親分は意外だという表情で、こう言った。 「素人さんは怖いもの知らないのお。わしはそこの社長と話してからやないと、株買わん ぞ。最後はそこに責任取らすからの」 インサイダーでなければ株なんて儲かるはずがないということだ。今まで私がしてきた ことを全部ひっくり返された気分だった。それまで暴力団は「企業を脅して、せいぜい無 史理矢理強請り取る程度だろう」と軽く見ていたのだ。まさか、これほどの人脈や影響力を 経 持っているとはーーこうしてカシラ ( 若頭 ) のフロントとして暴力団員のキャリアをスタ い 黒 の ートさせた私は、暴力と経済が癒着した凄まじい。ハワーを思い知り、経験することになっ こ 0 章 第 115
定。顧客は「おまかせーということで、何十億円もの他人資本を使って取引ができる場所 にたどり着くこととなった。 最年長が歳の 4 人からなる小さな組織だが、最大 120 億 S130 億円を運用するほ とに どだった。上昇していく相場では売りから入ることはほとんどなく、買いオンリー かく足らないのは資金という状況だった。山手線内の土地でアメリカ全土が買えるほど地 価は暴騰。年貶月四日の大納会で日経平均は史上最高値 3 万 8957 円料銭を付ける。 市場がどこまでも資金を吸収する中、ポリュームアドバンテージで資金量が多ければ多い ほど有利な状況だったのだ。 伝説の相場師 バブル期には許永中氏らによる戦後最大の不正経理事件「イトマン事件」や、稲川会一一 たかまさ 史代目・石井隆匡会長らによる「東急電鉄株買い占め事件」なども起こった。私の勤める投 い資顧問会社が 100 億円以上の投資をしていたと聞けば、「悪い人との繋がりもあったの のですか ? ーと尋ねたくなると思うが、実際はまったくない。許永中氏についても、石井会 長にしても事件後の報道で知るのみで、私の住む場所と、黒い経済界はまったく別世界だ 章 第った。 0 105
こうしてひも解いていけば、ゴーン氏が行ったことが単なる「特別背任」でないことが 理解できるだろう。ジュファリ氏が額面よりはるかに安い金額で人手した / o をゴ ーン氏に差し入れ、ゴーン氏が日産の「名前と資金」を利用できるだけ利用し、最終的に は決裁権を持っ予算から 1470 万ドル ( 現在のレートで約億円 ) を振り込むーーこれは 「マネーロンダリング」の構造そのものだと私は考えている。 「資金洗浄」と直訳されるマネーロンダリングだが、具体的には「資本移転」と「自己資 本還流」で構成される。ここには二つの「資金移転」と「自己資本還流」が存在してお 、実際にマネーロンダリングを行った経験のある私の観点からすれば、「マネーロンダ リング」にしか見えない。 一つ目の「資金移転」「自己資本還流」は、ゴーン氏が自己損失である億 5000 万 円の信用保証を「日産」に移転させて埋め合わせたことだ。 そもそも私は、ゴーン氏の金融派生商品が、単なる為替スワップ取引であることを疑っ ている。リーマン・ショック後の相場下落を考えて、ゴーン氏が約億円ともされる年収 の全額を通常のスワップ取引に投資してもマージンコールの額はせいぜい 1 億円か 2 億円 「マネーロンダリング」
している。そうした世界にあっては、自己防衛のために親しい人間にも自分の「ビジネ ス」を明かさない。シビアな暴力経済の中に生きながら、株式、不動産、国際金融も含め たほぼ全部のファイナンスを、横断的に行えるスキルを私は身に付けた。 現役時代の手段が合法、非合法の両面であることは言うまでもない。引退した今でも、 資金量さえ同じであれば、どんな銀行員よりも優位にファイナンスを実行することができ る・目信 g もある。 そのような背景に加えて、「ファイナンス」の世界は個人の感情が入り込む余地を持た ない。投資とは資本からゲイン ( 儲け ) を得なければならないのだから、「投資とはゲイン を得る可能性の合理的追求」と言い換えることもできる。「儲かるかも知れない」という レベルで資本を投下するのは投資ではなく投機、いやギャンブルである。「ほぼ儲かる」 というレベル以上でなければ、投資とは言えない。 史客観的な事実を基にした、合理的な分析と判断は、「ファイナンス」の世界に生きる私 経 の宿病だ。そしてそれは、私を悩ませるものではない。想像力が創造力に繋がる生活は、 い 考えているよりはるかに豊かな時間に満ちている。 章 第
投機としての「仮想通貨」 2017 年に「投機対象」として話題になったのが仮想通貨だ。相場の下落によってブ ームが終わったと思っている人も多いが、「仮想通貨」の時代はこれからだ。「仮想通貨は 終わった」と誤解される原因は、投機目的のいわば「仮想通貨 1 ・ 0 」と、各国の中央銀 行が開発を進めている決済用の「仮想通貨 2 ・ 0 」を同一視していることによる。 両者は似て非なる別物だ。この「仮想通貨 2 ・ 0 」が本格的に運用されれば、世界の金 融環境は激変することになるだろう。また基軸通貨の座を「ドル」から奪うことになるか も知れない。 仮想通貨の代表となっているのが「ビットコイン」で、ビットコインが今日のように投 機対象になった大きな要因の一つが中国だ。年ごろ、ビットコイン売買の 9 割が中国人 で占められていたが、その原動力となったのが中国当局の資本規制である。年夏、中国 で株式バブルが崩壊し、それに伴い中国国内からの資金逃避が進んで、人民元が大きく売 られる事態に陥った。危機感を覚えた中国の金融当局は為替に限度額を定める資本規制を かける。 日本で爆買いが収束したのもこの影響だが、中国人が投機と海外への資産逃避の抜け道 200