ルムンパは生きている 「何も想定してはいません。法律なんです」黒人娘はどきなさいとばかりに手を振る。「次のか 後ろで待っているのは、意外なことに黒人た。 「動いてくたさい。次のかた ! 」 時間稼ぎをするあいだに二十ドル札をはさんでおいた申請書を、娘のほうへ押しやりながら、ロ のききかたに気をつけるようにと言ってやる。娘は最初その口調に対して、次にはお金に対して眉 を吊り上げ、上司を呼ぼうとでもするようによそを向いて、紙幣を引っ込めるチャンスをこちらに 与える。後ろの黒人にウインクしながら、さっと紙幣を引っ込め、今度は、アメリカ人であるとい う証明がほんとうに必要なのかときいてみる。このわたしが、アメリカ人に見えないというのか ? 娘が手の甲で押し返した申請書が、ひらびらと床に落ちる。 「逮捕されないたけでも、ありがたいと思いなさい」 彼女は早くも次の申請書を処理している。 「誰たって、アメリカ人には見えるんです。あたしだって、アメリカ人に見える。言っておきます けどね」顔を上げて、「あたしはアメリカ人よ。あなた以上にねーこちらの手にある不完全な書類 を指差す。「一生の半分をアフリカで過ごしたりはしてませんから」 《どうか、きみのアフリカでの活動を、国務省の仕事と混同しないでほしい。あれは祖国に対する 真の務めとは程遠いものだし、わが一族にふさわしい誉れある履歴とも言いがたい》 239
あなたにとっては、それも仕事なんでしようけど。 した。親切に聞いてもらえたもんで、つい ここの職員には、とつつきの悪い人が多くて」 「そうふるまわないと、務まらないのよ。親切心が欠けてるわけではないの」 「ええ、そうなんでしようね。あの重度障害者病棟を受け持ってる人が、いい例た。たいした人で すよ。おれ、最初にあそこへ入れられたんです。あのねじのはずれた連中のとこにね。あなたはた ぶん、行ったことがないでしよう。頭の変なやっ、それも危険なのばかりが、十五人ほど入ってま す。といっても、年がら年じゅう危険たってやつは、まずいないけど。その先生は、まあ、上玉ば つかりかかえてるってわけです。 最初の日、先生は司祭かなんかみたいにおれの腕を取って、『さあ、アーネスト、みんなに紹介 さや しよう』って言いました。みんなは、ひとつのテープルの周りに坐って、豆の莢を剥いてた。びと りたけ、さばってるのがいる。『あれはフィルた』って、先生が教えてくれて、『いいやつなんたが、 噛みつくことがある。フィルに歯を立てられたら、たいへんた。引き離すのにびと苦労でね。フィ ルと話すときは、少し離れるようにしたほうがいい』って言うんです。そのフィルは、隅っこにい て、どなったり、うめいたり、鼻を鳴らしたりしてる。そのときも、そのあとも、おれはあんまり じつを一一 = ロ 話しかける気にはなれなかったけど、一回たけ、やってみたことがある。びどい会話ー 夜 うと、やつに会話ができるかどうかも、おれはしいもんたと思ってます。フィルは、すごく悪い の 墨状態でね。いや、見た目の話ですよ。映画かなんかに出てくるいかればんちみたいでした。ここへ 薄 、その監督官ってい 来る前は、みんながそんな感じなんじゃないかと思ってたけど : 785
ランス語と都会的な身ごなしで、ごく自然にわれらが小集団のリーダーに収まった。なにせ、ポル ープランスなど観光するほどの街にあらずと豪語できる人物が、この不敵なク異教徒クのほかに ーニュア・ラ・モンターニュ いるたろうか。さあ、さあ、乗り物を調達して、海辺を離れ、内陸部へ、山の中へ ! 奥地の旅へ の期待感に胸はずませるあまり、正統ガリア人式の放縦の身ぶりで両腕を振り回したものたから、 通りに集うハイチ人失業者たちをヒステリーじみた興奮状態に駆りたててしまい、あらゆる雑用を 引き受けようと申し出る人の群れにどっと取り囲まれる仕儀となった。 かまびすしい人声や強烈な体臭、港町特有の淫らな彩りの隅々に見出される底深い貧しさと不潔 あんけっ さの闇穴に、ホーラスがたまりかねて、この美しく不幸な国を窮状に陥れたのはローマ・カトリッ ク教会たと ハシッドに苦々しい視線を向けながらーーー難じた。そらとばける作戦に出てこれを 黙殺したハシッドは、すでにびとりの地味な服装の現地人と交渉を始めていた。その男は、目交せ とささやき声で粘りに粘って、ついにわれらがク異教徒クの注意を引くことに成功したのたった。 今しも、この新しいハイチの知人が、国家独立の父トウーサン・ルヴェルチュール将軍以来のハイ レ・ジャンティゾム チ通たという友人の存在を打ち明ける。幸いなことに、その友人は旦那がたのどんなご用向きにも びったりの上等な車を所有しているという。お望みならすぐにでも呼び出せます、と売り込むそば から、論より証拠、一台のおんぼろフォードが警笛とパックファイアの音もけたたましく、縁石伝 いに近づいてきた。ハンドルを握る遠目早耳の運転手こそが、くたんのハイチに関する国際的権威 であるチャーリーで ( 「アメリカのお客さんはみんなシャルリと呼びますがね」 ) 、その該博なる専 門知識を、笑ってしまうほど安い特別料金で提供してくれるらしい。本人みずから笑いながら、車 ザメリケン 762
二〇一四年四月五日、本書の著者ビーター・マシーセンは八十六年の生涯を閉じた。作家にして ナチュラリスト、探検家であり、漁師であり、禅僧であり、俳 人でもあった。作家としては、史上 たたひとり、フィクションとノンフィクションの両方で全米図書賞を受賞したことで名高い 九九年にクワトソン三部作。の掉尾を飾る BonebyBone を発表したあとは、二〇〇八年にその三 部作を厚い一巻本 ad 。 C 。 u ミにまとめた以外、新作の刊行が途絶え、旺盛な執筆活動から撤 退したかと思われていたが、二〇一三年秋、「ホロコーストをテーマにした小説を書く。おそらく これが生涯最後の作品になるたろう」と宣言した。 その十五年ぶりの新作 pa d. オ e は、逝去の三日後、四月八日に刊行された。宣言どおりの絶 筆となったわけた。ホロコーストから五十年経った一九九〇年代半ば、アウシュヴィッツで大きな 黙想の会が催され、ホロコーストを生き延びたユダヤ人、犠牲者の遺族、ユダヤ教のラビ、学者や 研究者、カトリックの修道団、プロテスタント、イスラム教徒、禅僧、加害者の子孫、非ユダヤの ポーランド人、善意と悪意の傍観者など、じつにさまざまな人々が世界じゅうから集結する、とい う魅惑的な設定。真摯で、熾烈で、ときに破壊的な、それでいてどこか滑稽で流動的な議論や人間 訳者あとがき
流れ人
薄墨色の夜明け 違って ( ナ 、こ。ほかの患者たちは、髪から始まって、ロ、目と、したいに生気を失い、ついに両手以 外のあらゆる部分が死んでしまうのだが、この男はまだ生きていた。ライムロックでは、手が生に 執着する。幼子の固く握ったこぶしであろうと、ふたりのかたわらの椅子に麻痺した体を据えた老 いけないんたろうな」眉をびそめながら、 「そう、 人の、宙をまさぐるてのひらであろうと : アーネストが言い、話題を替える。 「あの人たち、自分がなんでここにいるのか、たいていはわかってるんですか ? 」 「わかる力のある人はね。でも、みんな、そのことを信じようとしないの」アンはそう答え、相手 の反応を待った。 「おれは信じてますよ」アーネストが勢い込んで言う。「おれの問題点は、はっきりしてる。爆弾 の破片がひとつ、頭んなかに埋まってて、摘出できないんです。脳みそに近すぎて、手術ができな いや、精神 いらしくてね。ときどきその破片が暴れたすかなんかして、おれ、痛みで頭が変に に変調をきたすんです」自分で用語を訂正した。「そうなるともう、自分のしてることさえわから ない。むちやをやらかしてしまう。危険人物になるんです。何をしでかすか、自分でわからないわ けたから : 。そいで、退役軍人病院じゃ、破片を取り出すのをあきらめて、おれを精神病扱い ( したものの、そういう人間を治療する医者も施設もないもんたから、ここへ送り込んた。故郷に帰 って、家族や工場の仲間に会うことさえ許されなかった。うちじゃおふくろと妹たちが待ってるし、 共同で経営してる機械工場もあるのに : 。おれ、機械工なんです」ふたたび自分の両手に目をや る。所在なげに膝の上に置かれた大きくて器用そうな手。「腕にも自信がある」っぷやく声に、怒 ノ 83
「あんたがいやなら、おれが漕ぐからさ」 ジョーがじろっとにらむ。漂う小舟の上で、ふたりの顔は気詰まりなほど接近し、ディヴの目は 相手のロの動きをはっきりととらえた。「なあ、坊や、もう四日間も、のんびりやろうやと言い続 けてきた末に、きようはこうして、釣り糸とビールまで用意してやったってのに、またごちやごち や抜かすのかー 「岸で待ってる人たちは、どうなるんたい ? まるまる一週間、待たせとくつもり ? 」 「おれがどんな気でいようと、連中は待っことになるんた。たから、のんびり構えろって」 ディヴは、引き綱の周りに音もなく渦を巻く水を見つめた。棧橋にいるレジャーウェア姿の人た ちの沈鬱な面持ちを頭に浮かべる。二本の鉤は今、内反足の巨人のように海底を歩いて、岩をこす 転がり、海草をこそげ取り、湾のはらわたに埋もれた溺死体を探していた。この瞬間にも、ふ やけた紙を爪で掻くようにして、腐りかけた男の服を引っかけているかもしれない。 ジョーは白いつば付きの帽子を目深にかぶり、釣り糸を一本ずつ持った両手を左右に広げて、後 ろにもたれかかっていた。 「ちょっと漕いでみるよ、暇つぶしにディヴは言った。 つなど ジョーが肩をすくめ、オールから足を離すと、釣り糸の一本を索止めに結わえつけて、空いた手 で帽子のつばを持ち上げ、あきれた表情をのぞかせる。 「いったい、なんの手柄を立てようってんた、。 ティヴィー坊や ? 「べつに : : 」ディヴは唇を舐めた。「ただ、岸にいる人たちに悪いような気がしてさ」
五日目 「溺れた人間は必ず五日目に浮いてくるって、言ってたじゃないか」 「そうさ。きようかあした。遅くとも、あさってにや必ず浮いてくる 枕にしていた小さな布袋を引き寄せ、「ほれ、律儀者のジョーも、やっと利口になりました、つ てな」と言うと、中から二本の手釣り糸と箱入りの生き餌をつかみ出して、見せびらかすように艫 に並べる。「どうた、。 ティヴ ? 缶ビールも六本持ってきた。本格的な釣りパ 1 ティーと行こう」 むくろ 「きようはきっと、骸が見つかるって、あんたが言ったんた」 リポン・ビーレこ 「焦るな、坊や。肩の力を抜け。ほれ、パプスト・プルー 「ああ、四日目までなら、それも、 いたろうけど、もうそろそろ見つかるんたぜ。今たって、この 真下にいるかもしれない」 「何もせずにじっとしてるのが、おれたちの仕事た。楽しく時間をつぶしたって、罰は当たらねえ よ。上がるときになりや、やつは上がってくる。たた待ってるのもなんたから、餌にするべーコン をくすねて、灯台の連中からビール六本せしめてきたってわけさ そう言って釣り針にべーコンの皮を刺すのを、ディヴはじっと見ていた。視線を返したジョーが 片目をつぶり、物憂い声で歌いたす。「われら三人ーー孤独な三人 と、ク三人クの部分をこと さら強調して、ふたたび片目をつぶった。ディヴは顔に出たいらたちを隠そうと、オールのほうへ 上体を傾けた。ジョ 1 の片方の足首が、オールを舟の横腹へ押しやっている。「どうしたんだい、 ジョー ? 」 「どうした、。 ティヴ ? 」眉間にしわを寄せて、ジョーは餌をつけた針を子細に点検した。
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黄泉の河にて 流れ人 五日目 セイディー センターピース 季節はずれ アギラの狼 7 よみ ノ 71