ュエル・マクロンを抜擢して政界にデビュ 1 させ、二〇一七年五月には政治基盤のないマ クロンをフランス大統領にまで押し上げる役割を果たした。アタリは現在でも、政治、経 済、文化に対して大きな影響力をもつ。 本書は、イギリスの作家ジョ 1 ジ・オ 1 ウエルが一九四九年に出版した小説『一九八四 年』を想起させる。近未来像を描くこの小説は全体主義の危険性に警鐘を鳴らす一方、ア タリは自己の未来予測に基づき、本書において身勝手な強欲や次世代の暮らしを無視した 経済活動を糾弾する。アタリ流の未来予測のテクニックについては、『アタリ文明論講義』 ちなみに、アタリのいう 「未来を ( ちくま学芸文庫、二〇一六年刊 ) を参照してほしい。 予測する」は、「未来を知る . あるいは「未来を予言する」こと、つまり、あらかじめ定 められた未来を甘受するのではなく、自身の行動によって、予想とは異なる道筋を未来に 歩ませるのは可能だと考えることだ。すなわち、本書で述べられている予測は、われわれ の現在の歩む方向と速度を改めなければ、必然的にたどり着く場所を意味する。 アタリは、「集団の活動に大きな変化が必要な際には、すべては必ず個人が変わること から始まる。個人の内面が変わらなければならないのだ」と指摘する。 実際に、われわれ人類はこうした例を近代史において経験している。「過去一万年間の 人口増加を基に補外計算すると、世界人口は二〇二六年ごろに無限大になって爆発すると 208
[ 著者紹介 ] シャック・アタリ (Jacques Attali) 1943 年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学院 (ENA) 卒 業、 81 年フランソワ・ミッテラン仏大統領顧問、 91 年欧州復興銀 行の初代総裁などの要職を歴任。政治・経済・文化に精通し、ソ 連の崩壊、金融危機、テロの脅威、ドナルド・トランプ米大統領の 誕生などを的中させた。著書は『、 21 世紀の歴史』、『金融危機 後の世界』、『国家債務危機ーソブリン・クライシスに、いかに対 処すべきか ? 』、『危機とサバイバルー 21 世紀を生き抜くための く 7 つの原則〉』 ( いずれも作品社 ) 、『アタリの文明論講義 : 未来 は予測できるか』 ( 筑摩書房 ) などが多数ある。 [ 訳者紹介 ] 本木昌宏 ( はやし・まさひろ ) 1965 年名古屋市生まれ。翻訳家。立命館大学経済学部卒業。 訳書にジャック・アタリ『 21 世紀の歴史』、ダニエル・コーエン 『経済と人類の 1 万年史から、 21 世紀世界を考える』、ポリス・シ リュルニク『憎むのでもなく、許すのでもなぐ他多数。
ー訳者あとがき一 本書はフランスで出版された Jacques AttaIi, Vivement aprés-demain (Fayrad. 2016) の 全訳である。タイトルを直訳すると、「明後日を生き生きとーである。本書の意味する明 後日は二〇三〇年だ。本書は、執筆時の世界状況を分析し、そこから見えてくる一五年後 の二〇三〇年の世界像を複眼的に予測し、最悪を避け、最善を目指すための道筋を克明に 述べている。 アタリの略歴を紹介する。一九四三年アルジェリア生まれでフランスのエリート校であ る国立行政学院 &ÄZ<) を卒業した。一九八一年にフランス大統領特別顧問、一九九一 年に欧州復興開発銀行初代総裁を歴任した。一九九八年には非政府組織「プラネット・フ アイナンス」を創設し、現在も途上国支援に尽力している。二〇〇七年にはサルコジ大統 領の諮問委員会「アタリ政策委員会」の委員長になり、また二〇一五年にはオランド大統 領に対して政策提言を行なった。最近では、先述の「アタリ政策委員会」の委員にエマニ 訳者あとがき 207
ジャックアタリの 3 未来予測 を 0 IIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII 1920054018002 シャック・アタリ著 年 林昌宏訳 不確実な世の中をウヾイプせよ ! 不シ 実ヤ Jacques AttaIi な、、 ナ世ノ Vivement aprés-demain! の プリ ょの 来 予 「起きるわけがない」と 決めつけても、 どんなことだって 起こりうる そうした最悪の事態を 予測することこそが、 最悪を回避する 最善の手段なのだ。 [ 著者 ] ジャック・アタリ 」 acques Attali 1943 年アルジェリア生まれ。フランス国立行政学 院 ( ENA ) 卒業、 81 年フランソワ・ミッテラン仏大統 領特別補佐官、 91 年欧州復興開発銀行の初代 総裁など要職を歴任。政治・経済・文化に精通し、 ソ連の崩壊、金融危機、テロの脅威、ドナルド・トラ ンプ米大統領の誕生などを的中させた。著書は、 『 21 世紀の歴史』、『金融危機後の世界』、『国家 債務危機ーーソブリン・クライシスに、いかに対処す べきか ? 』、『危機とサバイバルーー 21 世紀を生き抜 くためのく 7 つの原則〉』 ( いずれも作品社 ) 、『アタリ 文明論講義 : 未来は予測できるか』 ( 筑摩書房 ) な ど多数ある。 旧 BN978-4-8334-2240-6 C0034 \ 1800E 定価 ( 本体 1800 円十税 ) プレジデント社 0 [ 訳者 ] 本木昌宏はやし・まさひろ 1965 年名古屋市生まれ。翻訳家。立命館大学 経済学部卒業。訳書にジャック・アタリ『 21 世紀 の歴史』、ダニエル・コーエン『経済と人類の 1 万 年史から、 21 世紀世界を考える』、ポリス・シリュル ニク『憎むのでもなく、許すのでもなぐ他多数。 プレジデント社 プレジデント社
本書の原稿を丹念に読み、私と本書の内容について討論し、本書の註や統計を点検して ジェレ くれた、べサべ・アタリ、アクセルⅡオリアンヌ・ガルニエ、ロリ 1 ヌ・モロー ミ 1 ・アタリ、エリオ・バラ 1 ニュⅡビゴ、ルイ・カマラ 1 夕、バスチャン・カーニエル、 フロ 1 リアン・ド 1 ティル、クレモン・ラミ 1 、 ェニス・マンス 1 ルに感謝申し上げる。 本書を推敲する際にタイプ打ちを手伝ってくれたマリ 1 Ⅱジョ・ディニスに感謝申し上 ける ソフィ 1 ・デ・クロセッツ、ディアンヌ・フェイエ 1 ル、マリ ロ 1 ル・デフレタン、 そしてダヴィッド・ストレベンヌをはじめとするファイア 1 ル社の皆様に感謝申し上げる。 本書に間違いがあるとすれば、それは私の責任だ。読者からコメントを受けとることは、 私にとってこの上もない喜びだ (」@attali.com/0 謝辞 206
2030 年 ジャック・アタリの未来予測 不確実な世の中をサバイブせよ ! 2017 年 8 月 15 日第 1 刷発行 http://str.president ℃ 0. jp/str/ http://president.jp 平河町森タワー 13F 〒 102-8641 東京都千代田区平河町 2-16-1 株式会社プレジデント社 長坂嘉昭 訳者林昌宏 シャック・アタリ 著者 発行者 発行所 編集 販売 装丁 制作 印刷・製本 電話編集 ( 03 ) 3237-3732 販売 ( 03 ) 3237-3731 渡邉崇 桂木栄一高橋徹川井田美景 遠藤真知子末吉秀樹 秦浩司 (hatagram) 関結香 中央精版印刷株式会社 森田巌 ◎ 2017 Masahiro Hayashi 旧 BN978-4-8334-2240-6 Printed in Japan 落丁・乱丁本はおとりかえいたします。
2030 年 ジャックアタリの 未来予測 不確実な世の中をウヾイプせよ ! Jacques AttaIi Vivement aprés-demain! ジャック・アタリ著 林昌宏訳 プレジデント社
問題を直視せず先送りする態度や、そんなことなど起きるわけがないという決めつけ、 ようするに、アタリのいう未来予測を怠る怠甯こそが、最悪の事態を自ら招き入れる漿境 をつくり出すのだ 最後に、本書の編集を担当していただいたプレジデント社書籍編集部の渡邉崇氏には大 変お世話になった。感謝申し上げる。本書が読者、そして日本、さらには人類のサバイバ ルの一助になれば幸いである。 二〇一七年六月 林昌宏 210
だ。最悪の事態が訪れても立ち向かう気力がなく、尽力しなければそこから逃れられない のに、そのことを布くて認めようとしない。すなわち、予測するという行為の最大の敵は 怠漫なのだ。怠であるがために、すべては予定調和で終わり、最悪の事態は訪れないと いうように、未来を自分に都合よく考えるのだ。 とはいっても、最悪の事態は誰にでも訪れる。われわれは、自身の歩みを予測するため の条件を整えながら、そうした事態に備えなければならない。 国家の場合、サバイバル手段をもち合わせていれば、最悪の事態は回避できるだろう。 日本人は、自国が数多くの脅威にさらされていることを充分に自覚している。たとえば、 急速に進行する少子高齢化、中国や北朝鮮との戦争、大地震や津波などの自然災害、また 現在でも脆弱な状態にある福島地域などの脅威である。 「起きるわけがない と決めつけても、どんなことだって起こりうる。そうした最悪の事 態を予測することこそが、最悪を回避する最善の手段なのだ。 だからこそ本書で開示する数々の予測は、われわれ個人、家族、国家、人類のサバイバ ルに必要不可欠なものなのである。 二〇一七年六月 ジャック・アタリ
ー訳者あとがき一 幸いなことに、われわれは人口爆発から逃れたが、その理由は、当時は誰も予見し なかった人口転換、つまり人口の自然増加の形態が多産多死型から多産少死型、さらには 少産少死型へ移行するという奇跡によるものだった。 最初に先進国、次に世界中で、人々は出生率を急減させたのである。このようにして、 予想外の人口転換が予定されていた崩壊から人類を救ったのである」 ( 出典〕『経済成長と タニエル・コーエン著、東洋経済新報社、近刊 ) 。 いう呪い ( 仮題 ) 』 : 人口転換が起きた理由は諸説あるが、少なくとも権力が集団に押しつけたのではなく、 個人の内面が変化したからである。公共の乗り物の積極的な利用やカーシェアリングなど の共有志向、ゴミの仕分けやマイバッグ運動などのエコロジ 1 も、啓発活動の成果もあっ てわれわれの日常生活にすでに組み込まれている。よって、環境問題も人口問題のように、 つまり、物質的な経済成長に変わる利他 思わぬきっかけによるわれわれの暮らしの変化、 主義などの浸透によって解決されるのかもしれない。 したがって、アタリが本書で指摘する解決策をユートビアだと一笑に付すのは、一八世 紀末に、農業の課す制約がなければ、人類は指数関数的に増加する傾向があり、農業生産 の限界に達すると、人類は自壊すると説いたマルサスの呪いを、絶対不可避なものとして 頭から信じ込む態度と等しいのではないか。 209