よってとけだし、土壌に閉じこめられているメタンガス ( 温室効果は二酸化炭素の二五 倍 ) が大量に噴出する恐れがある。二〇五〇年までにロシアの大気には、そうしたメタン ガスの二〇 5 三〇 % が放出されると予測されている。 よって二〇三〇年ごろ、海面は少なくとも一五センチメ 1 トル上昇すると思われる。地 中海の海面が二〇センチメートルから五〇センチメートル上昇すると、最悪の場合では一 八〇万人のモロッコ人が洪水の犠牲になる。極端なケ 1 スとしてエジプトのアレクサンド リアの堤防が決壊すれば、人類の遺産が破壊され、五〇〇億ドル以上の被害が生じるだろ 東南アジアの海面は、二〇三〇年ごろには七五センチメートル、二〇八〇年ごろには 一一〇センチメートル上昇し、二一〇〇年ごろにはバンコクの三分の二は水没するかもし れない。 二〇一六年の時点では、サンゴ礁には海洋生物種の三〇 % 以上が生息するといわれてい る。海水温の上昇も悪影響をもたらす。ほばすべてのサンゴ礁が白化ないし絶滅してしま うのだ。そうなれば五億人の人々の食糧事情は、深刻な事態に陥る。不死を夢見る時代に 人間の生命そのものが危機にさらされるのだ こうした推移は経済と政治に破壊的な影響をおよばす。この流れを食い止めるには、法 制度を抜本的に改革するしかないだろう。 138

類の均衡にとって破滅的な事態になるだろう。水不足によっても人類のサバイバルの条件 が再検討される。水不足の影響については後ほど述べる。 悪化する食糧事情 気候変動は、ロシア、カナダ、ウクライナにはプラスの影響をもたらすだろう。これら の国では農業生産性が向上する。「気候変動に関する政府間パネル (—æoo) 」によると、 二一世紀、これらの国々とは反対に世界全体では、気候変動によって農産物の収穫量は一 〇年ごとに二 % 減るという。国によっては、気候変動と水資源の枯渇により、多くの水を 必要とする作物の収穫量は五〇 % 近くも急減する。 アリカでは一八五〇年に存在した植物種の数は絶滅し、トウ、 0 「、キビ、、 0 コシなどの耕作地の半分がなくなる恐れがある ラテンアメリカでは、春にアンデス山脈の雪解けによる水量が減り、五〇〇〇万人の農 民に影響が生じる。最貧層はミルクを購入できなくなる。 魚に関しては、二〇三〇年ごろに、フィリピン南部の漁獲量は三〇 % 減る。 一方、土壌汚染が進む。そして土壌の質とは関係なく、農産物の質は著しく低下する。 140

ー第三章一九九 % が激怒する 労働市場における女性の数は、一〇億人以上になるだろう。 日本、ロシア 逆に、ヨ 1 ロッパにおける生産年齢人口は減る。アメリカ、ヨ 1 ロッパ、 では、有能な人材が大量に不足する。 人口学的な観点から移民が必要かっ したがって、政治や気候変動などの理由とは別に、 不可欠になる。移民も経済成長にプラスの影響をもたらす。二〇二五年、途上国から高所 得の国へ移民する労働者の数が三 % 増えると、世界の Q は〇・ , ハ % 増加するという。 中産階級の増加 中産階級が急増する。二〇一六年に一八億人の中産階級は、二〇三〇年には四九億人に なるだろう。彼らのうち、六 , ハ % はアジア人だ。二〇三〇年、インドは中産階級の急増に よって世界最大の消費市場になる。アフリカの中産階級は、二〇一六年の三億七五〇〇万 人から二〇三〇年には五億人以上になる。 中産階級の増加により、所有権、人権、労働者の権利、民主主義の尊重など、法の安定 した支配が強く求められる。中産階級の増加は、地政学上、きわめて大きな影響をもたら す。 1 1 3

ー第ニ章ー解説 ったりする国という存在がない中で、グロ 1 ヾレ化したのである ・経済学の一般理論に照らし合わせると、そのような市場は、不完全雇用、資産格差、 低成長、一次産品の価格低迷、性的な高失業率を引き起こすだけである。それはわれわ れが目の当たりにしてきたことであり、先ほど述べたことだ。 ( ・法の支配のない市場では、消費者と株主が労働者と選挙民に対して勝利する。互い の権利が相互に行使されることはない。社会的権利や人権は尊重されなくなる。 ・法の支配のない市場では、イノベ 1 ションの先駆者には、コビ 1 が解禁になるか新 たなイノベーションが登場するまでの間、莫大な富がもたらされる。こうした傾向は社会 的不平等を拡大し、人々の不満を高め、憤懣に満ちた社会構造へと導く。 Ⅳ・国内に閉じこもる民主主義はますます空虚になり、 民主主義が現実に対しておよぼす影響力は減る一方である ・民主主義が企業におよばす影響力は減る一方であり、企業は、国の統治権や株主の 国籍に配慮する必要がなくなった。 ・各国の民主主義は生き残るために、互いに競争しなければならなくなった。民主主 105

よ、この危機により、少なくとも一〇年間は不況やデフレに見舞われる。世界人口の大部 分は生活レベルの停滞ないし低下を余儀なくされる。とくに、 中産階級の生活レベルの低 下は、政治と軍事に壊滅的な影響をおよばす。民主主義はそうした影響に耐えられない。 世界大戦を勃発させる六つの起爆剤 軍拡の推進、軍事力の拡散、非国家的武装集団の軍備増強、そしてアメリカなどの巨大 勢力の不条理かっ無謀な行動、一触即発の地域の出現 ( サヘル地域、東・南シナ海、中東 の湾岸地域 ) 、紛争を回避させられる国際機関の不在など、世界大戦が起きる可能性は日 増しに高まる。世界大戦は、多くの地域的な危機によって勃発する。それらの危機が連鎖 反応を引き起こすのだ。次に、発生確率の高い順にそれらのシナリオを記す。 東・南シナ海の危機 この地域に位置する国々からさまざまな危機が発生する恐れがある。 中国の現体制 ( 一党制支配の世界最長記録になるかもしれない ) は、二〇二二年に人口 規模で追い抜かれるインドとの競争に脅威を感じる。中国の隣国 ( ベトナム、マレーシア、 166

移したと推測している。アップル社は、アメリカで利益を計上して納税するよりも借入の 状態のほうが節税できると判断し、二〇〇〇億ドル以上の現金をアメリカ国外にもち出し、 本国アメリカに資金を送還することを拒んでいる。 企業は安全保障についても国と衝突するようになった。たとえば、アップル社はテロリ ストの•- o のデータ解析を求める連邦捜査局 ( — ) に反発している。アップ ル社は、顧客のデ 1 タ保護を名目にこうした要求を常に拒否している。 一方、企業は自社の株主の国籍が多様化していることを背景に、国に忠誠心を示さなく よっ、」 0 十 / ノ 企業の外国人の持ち株比率は、イギリスのが五〇 % 以上、フラン スの 0<0 が四五 % 以上、ドイツの Q<>< が五〇 % 以上、日本の日経平均株価が三二 % である。世界で最も流動性が高く奥行きの深い金融市場をもつアメリカでも、この比率は co & 5 の一六 % 以上だ。 そして巨大企業は、民主主義の下す決定にさらなる影響力をもつようになった。二〇一 五年、アメリカでは政府の意思決定に働きかけるために、二〇の企業および団体のロビ 1 活動だけで、四億二〇〇〇万ドル以上のマネーが動いた。ブリュッセル〔本部〕には 三万人以上のロビイストが活動しており、彼らは法案の七五 % に影響力を行使してき

ー第三章一九九 % が激怒する 〇〇〇年と比較して四倍になっているだろう ( 二〇三〇年、一〇〇万人当たりの犠牲者の 数は世界で三〇人、アジアで八八人 ) 。同時期に、微少粒子状物質が原因で早死にする人 の数は二倍になる ( 二〇三〇年には三六〇万人 ) 。 個人、地域、国、さらには世界レベルで、現時点では想像もできない大規模な行動を起 こさなければ、今から二〇三〇年までに地球の二酸化炭素排出量は二五 % 増える。排出量 が増えるおもな地域はアジアだ。気候変動を抑制するには、二〇一六年の第二一回気候変 動枠組条約締約国会議 (OOA*FG) のパリ協定締結だけでは不充分だろう。 気候変動による影響は深刻化 したがって、世界中で地球温暖化による影響が深刻化する。二〇三五年ごろ、平均気温 は〇・五度上昇し、乾燥地域では降水量が減って熱波が頻繁に訪れ、高緯度地方では豪雨 が増える。世界銀行によると、何の対策も講じなければ今から二〇三五年までに、平均気 髓は二度も上昇するだろうという。 アフリカのサブサハラ地域の平均気温は、今から二〇三五年までに一・五度上昇すると 予測されている。中央アジアと東ョ 1 ロッパの永久凍土層は、こうした平均気温の上昇に 137

5 ・サヘル地域とアフリカの角〔ソマリア全域とエチオピアの一部〕における危機 二〇三〇年、サヘル地域の国々とアフリカの九つの破綻国家 ( アフリカの角、アフリカ 大湖地域、マリ、ニジェ 1 ル ) の混乱は先ほど述べた。それらの混乱は世界中に影響をお よばす。コ 1 トジボワ 1 ルからケニア、そしてニジェ 1 ルからエチオビアと、アフリカ全 土でテロ組織の活動が活発化する。 また、北アフリカとヨ 1 ロッパに向かう移民が大量に発生する。それらの地域から数千 万人が移民となるのだ。一部の先進国は、自分たちの領土に足を踏み入れさせないために 彼ら難民を射殺する。そうなれば、新たな種類の戦争が勃発する。 6 ・イスラーム国 イスラーム国の戦略は、自分たちの影響力を拡大するために、一度は占領したが失った イラクとシリアの領土の一部を、おもに非組織的な戦闘員を使って再び占領することと同 時に、民主主義を動揺させ、民主主義国家が外国人を締め出すように仕向けることだ。彼 らの目的はイスラ 1 ム教徒と非イスラ 1 ム教徒を敵対させることであり、またヨ 1 ロッパ とアメリカで深刻な内戦が勃発する環境をつくり出すことだ。イスラ 1 ム国は自分たちの 172

ー第三章一九九 % が激怒する 価は急上昇する。とくに日本が抱えるリスクは著しく高い。その理由は、日本はすでにマ ネタイゼーション〔日銀の国債買い入れ〕を積極的に行なっているからであり、また、人 口に占める退職者の割合が増えるため ( 彼らは生活のために預金を取り崩す ) 、今後五年の 財政収支は赤字で推移するからだ。日本の危機により、日本円の価値は大幅に下落する。円 暴落は、すべての政府の資産クラス〔同じようなリタ 1 ンやリスク特性をもっ投資対象に なる資産の種類および分類〕に影響をおよばし、現金やゴ 1 ルドへの逃避が加速し、世界 経済は崩壊する。 5 ・アメリカの金融危機は、アメリカ企業を含む企業に対してきわめて投機的なポジショ ハンキング・システムの主要プレ 1 ャ 1 の破綻によって引き起こ ンで投資するシャド 1 される。この破綻によってアメリカの金融システムは崩壊し、未曽有の世界的な危機が発 生する。 6 ・原油価格に絡む危機は、テロ集団や海賊、さらには原油価格を一バレル当たり一〇〇 ドル以上で推移させようと企む国が、ホルムズ海峡やマラッカ海峡を閉鎖することによっ て勃発する。この危機も世界経済に壊滅的な影響をおよばす。 それら , ハつの火種のどれかが危機を引き起こす可能性は日増しに高まるが、こうした地 しすれにせ 球規模の危機が一体どのくらいの被害をおよばすのかは、誰にもわからなし 、 0 、ヾ 165

このままでは、世界は大混乱へと向かう 人口学的観点からみたマイナス傾向 / ますます悪化する公害 / 気候変動による影響は深刻化 / 水資源の枯渇 / 悪化する食糧事情 / 移民の増加 / イノベーションが労働市場に衝撃をもたらす / 富は集中し続ける 激怒の社会構造 不均衡の増幅 / 怒りを表す手段が増える 世界中で怒りが爆発 経済と金融の世界的危機を引き起こす六つの火種 / 世界大戦を勃発させる六つの起爆剤 / 異常事態 162 131 145