答え - みる会図書館


検索対象: QED : 鬼の城伝説
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1. QED : 鬼の城伝説

ろくしよ、つ 小屋ーーが見えた。そして、これもまた瓦解寸前 かり緑青に覆われてしまっている。殆ど野ざらし状 態なのだから、仕方ないだろう・ : 。入り口の扉は壊れ、狐狸たちの住み処になって 一一人は鐘楼の周りを一回りする。 いそうだった。壊れた戸の隙間から、地蔵が見え る。忍田は物好きにも、やっと人一人分ほど空いて 忍田の腰のあたりの高さまでの台座を覆っている 木の板も、やはり所々朽ちていた。そして朽ちてい いる小さな空間に、大きな体を滑り込ませた。 ない場所は、苔にびっしりと覆われている。 見れば地蔵自体も、石でできた粗末な物だった。 「その昔には。ーー・」片岡が言う。「ここで除夜の鐘その前には何の供え物もなく、ただ朽ちていくのを も撞いてたんですがね。私が小学生の時代くらいで待っているだけのように見えた。頭が半分ほど欠け すかねえ」 てしまっている物や、風雨にさらされて顔の凹凸が きちんと判別できなくなってしまっている物まであ 「へえ、この鐘でね : 。今、撞いたら五十ももた どうじようじ すに砕け散ってしまいそうだがな。道成寺にはなりる。そんな物を何体も目の前にすると、別に何の信 そうもないな」 心もないけれど、何となく背中がひやりとする。そ そんなこともないだろうが、しかしポロポロと緑れとも実際に、地蔵の体が辺りに禦う冷気を蓄えて z いるのだろ、つか : 青が剥げ落ちてきそうだった。忍田は何度か振り返 って眺めながら、鐘楼を後にする。 「どうして地蔵は六つあるのか知っているか ? 」 振り返って尋ねる忍田に片岡は、 「あれが六地蔵です」 さつばっ 「さあ : ・ 片岡の指差す方を見ると、昼なお暗い殺伐とした と首を捻った。「どうしてでしよう」 ちくしよう ろくどうりんね がき 「六道輪廻ってやつだ。人が死ぬと、餓鬼とか畜生 草むらの中に小さなお堂ーーというよりも、木製の そな

2. QED : 鬼の城伝説

きゅ、つきょ 葉もありませんが : とにかく今、鑑識が詳しく話で呼ばれて、急遽駆けつけて来た。 調べておりますから、詳しいことは後ほど連絡があ「遠童さん」忍田は医師に尋ねる。「笙子さんに、 ると思いま、丁 : そこでその前に、少し皆さんに いくつか質問をしてもよろしいですかね ? お訊きしたいことがありましてーー・」 「はい」と遠童は忍田を見つめたまま頷いた。 「短 い時間でしたら。ただやはり、血圧が少々高くなら 誰一人、ロを開かない。 れていますので、できる限り手短に」 忍田は自分の横に控えている片岡巡査に命じて、 分かりました、と忍田は頷く メモの用意をさせた。忍田もペンを手にしてはいる「では 。笙子さん、あなたのお誕生日のお祝い が、これは自分の頭を掻く時と、地図に線を引く時ということで皆さんお集まりになられたとか ? 」 くらいにしか使われることはなかった。 「ええ」笙子は震える声で答えた。「息子たちが、 忍田は全員を前に確認する。 私の五十歳の誕生日を祝ってくれるというもので 「ます、あなたが、鬼野辺笙子さんですね」 。それで、妙見さんご兄妹にも来ていただいた 「 : : : はい」と、目を真っ赤に泣き腫らした上品な とい、つのに : : ・・何とい、フことでしよ、つか : : : 」 白髪の女性は、か細い声で答えた。 「まことに、ご心痛をお察し致します : : : 」 その側に心配そ、フに控えている、白いワイシャッ 「それで : : : あの警部さん」 に紺色のネクタイの初老の男性は、この家の主治 「はい ? 」 えんどう 医、遠童医師だ。白髪の交じった髪を綺麗になでつ 「あれは : : : 本当に、健爾だったんでしようか ? け、色白の顔に黒の眼鏡をかけている。遠童は電まだ信しられなくてー・ー」 かたおか 31 ANTICIPATION

3. QED : 鬼の城伝説

神武の軍が手こすったということだ」 見た場合の言葉で、吉備の人たちから見れば、朝廷 じんしん 「あっ。なるほど : : : 」 の『侵略』ということになる。その他にも、壬申の 沙織が頷いた。何だかんだ言っていた割りには、 乱の頃には、敵に回してしまうとやっかいな規模の いつの間にか崇との会話に参加している。 戦力が吉備にあった、と『書紀』にあるしね。だか 「そういうことだったのか」 ら吉備よ、旨【、 貢雲 ( Ⅱ蜘蛛 ) 、蝦夷、蛇などと同し 「だから国名も『吉備』なんしゃないか」 ような意味で、『鬼避』あるいは『忌避』だったん あわ 「え ? どういうこと ? だって : : : 阿波の国が粟だ。そしてその『鬼 ( 忌 ) 避』の国を討伐したの から来てるように、吉備は黍から来てるって」 が、きみたちが昨日参拝してきた、吉備津神社・吉 かた 「騙りだね . 崇は苦笑いする。「吉備は『鬼 ( 忌 ) 備津彦神社の祭神である彦五十狭芹彦命ーー吉備津 避』から来てる。つまり朝廷が、どうしても遠ざけ彦命だというわけだな」 たかった国の一つだ」 「温羅を倒したんだよね」 「本当 ? 」 「そうだ。温羅伝説は知ってるかな ? 「本当も何も 。だからこそ崇神天皇の御代には「知ってますー沙織が意味もなく手を挙げる。「し いくさ 『若し教を受けざる者あらば、乃ち兵を挙げて伐つかり調べて来ました ! て』ーー、逆らう者は皆殺しにしろーーとまではっき「それは良かった。あの話も、なかなか興味深く り言われたんじゃないか。そして実際に吉備国は、 そして面白いからね」 ゅ、つりやく 雄略天皇の時代に大きな反乱を二度も起こしてい ええ、と奈々も頷く。 る。もちろんこの『反乱』という一一一口葉は朝廷側から「でも : : : 首を落とされて、何年経っても吼え続け のり 176

4. QED : 鬼の城伝説

倒壊寸前の山門をしろしろと見上げながらくぐ 山小屋みたいだしな」 片岡は苦笑いする。「でも仕方ない り、鑑識たちが立ち働くそのそばを、例によって片「確かに・ 岡を連れて歩く でしよう。十年前の台風の時に、見事に倒壊してし そ、つもんじ 「この寺の正式名称は『相聞寺』というらしいでまったって聞いていますから」 すー本堂らしきものの木の固まりが見えてくると、 「十年前か・ 忍田は大きく頷いた。「ああ、そ う言われれば、そんなこともあったな。あん時の台 片岡は忍田に告げた。「元々は天台宗の寺だったよ し、ゆ、つ、し ~ うなんですがね、色々と宗旨替えを行ってしまった 風は、物凄かった。俺の家も、床上浸水した」 結果、檀家もどんどん減ってしまい、寂れて廃寺に 「ええ。市内の道路は冠水してしまうし、ここらへ なってしまったようですね : : : 」 んの近くの河川なんて、危うく決壊しそうになりま 。それで、その時以来すっとこのま 「そのようだな」忍田は、ぐるりと見回した。「立したからね : 派な、狐狸の住み処だ」 んまだとか。仕方ないですけれど」 もんぜんじゃくら 「最後に住職がここに詰めてたのは、もう一一十年も「なるほど。門前雀羅を張るーーってやつだな。寂 z せいりし、つ 前の話になるそうです。その後しばらくは、近所に寥というよりは凄寥だものなあ : : : 」 住むお坊さんが、境内の掃除がてら様子を見に来て 忍田は草ほうばうの境内を歩く。今では全く人も たそうなんですがね。それも、もう十五年も前の話訪れることはないのだろう。以前に見た、風化寸前 だそうで : の地蔵たちの姿が脳裏をかすめた。 「道理で狛大も淋しそうだと思った。この間の時は 「それで : あそこが現場か」 よく見なかったが、こうして見れば本堂も解体中の 「はい」と片岡は頷いた。 こり こまいぬ け・い・たい

5. QED : 鬼の城伝説

「はい。そのためこの神社は、別名を朝日の宮と称日間、古くは深夜から執り行われていました。ます部 たまい のりとそうじよ、つ され、地元の人々から非常に崇敬されていました」拝殿で祝詞奏上の後、乙女による田舞という踊りが みとしろしんじ 優秀なガイド一一人に導かれつつ、奈々たち三人は奉納され『御斗代神事』に移ります」 ちょうちん 「この『御斗代神事』といいますのは、提灯にのみ ゆっくりと表参道松並木を歩く。 しんいけ この両側には神池が広がっており、右手の大きな照らされた神池の鶴島・亀島の池中に設けられた御 島が「鶴島」。そして左側のやや小さな島を「亀島」棚に、稲の苗を植える神事です , なんびと 「これは古来から『何人の植えるということを知ら と・呼ぶらしい しんかい かんじようれっせきいわくら 「亀島の隣の島に」猫村が言う。「環状列石の磐座す。神怪なりとす』と伝えられてきました。神のカ によって稲が植えられたことが、きっとこの神事の が発見されていますー 「それは」今度は桃田。「山上の磐座に対して、神始まりなのでしよう」 「神のカでね」 が里に降りた時に鎮座される里宮ーーといわれてい さいしじよう 小松崎がチラリと一一人を見た。 ます。いわゆる、古代信仰の祭祀場ですね」 しかし二人は、全く真面目な顔を崩すことなく 「祭祀場といえば、あと、この神社には不思議な行 おんだ 事がいくつもありまして : : : ええと : : : まず『御田「はい」と同時に頷いた。 いずも かんなづき うえまつり 「その他にも、神無月に神々が出雲に参集する前に 植祭』ですね」 ここに立ち寄ったという言い伝えに基づいて、神送 「備前七不思議の一つです , ・神迎えの神事というものもあります」 「そうです。これは、『うゑめの御神事』という古 「これは実際に私も見ましたけれど、なかなか異様 名を持っていまして、この祭は八月二日・三日の二 たな お

6. QED : 鬼の城伝説

は、押勝を追討。その一一年後には大臣となる。し幽閉してしま 0 た。しかし、その鬼は実は唐土に没 かし称徳女帝の崩御、そして弓削道鏡の失脚と共した阿倍麻呂の霊であったために真備は救われ ほうき に、政治生命を絶たれた。宝亀六年 ( 七七五 ) 死亡る。次に真備は、玄宗皇帝以下、君臣列座の中で と、こんなところ」 『東海姫氏国』に始まる、宝志和尚作の『野馬台』 やばたい 「あと『野馬台』の詩を解読したりとかな。ええとの詩を読むように求められた。現在伝わっているも なんだっけな、蜘蛛の糸か何かでだろう」 のは後世の人の偽作といわれているけれど、当時の 「そうそう」 物も同様に、文字の続き具合がクロスワード・パズ 沙織はノートに目を落とす。 ルのようになっていて全く読めなかった。しかし真 はせでらかんぜのん しかし 備が、大和の長谷寺の観世音を念すると、どこから じようぜっ この二人は、こんなに勉強家で饒舌だっただろう ともなく一匹の蜘蛛が詩の上に落ちて糸を引いた カ ? ・ いつもは、もっと饒舌な男・桑原崇がいるかそこで真備はその糸を辿って『茫々遂為空』までの ら目立たなかっただけなのだろうか。実はこの二人百二十文字を読み終わることができたという。 はる も、奈々の認識を遥かに越えた変人なのかも知れな その他にも、囲碁の勝負を鬼の力によって勝利し い。などと思っていると、沙織がノートを読み始めたとか、食を断たれて殺されそうになったが、鬼に す′」ろく 用意させた双六の道具を用いて日月を封してしまっ ごうだんしようきびだいじんにつとうえことば 「ええと : : : 『江談抄』『吉備大臣入唐絵詞』など たために、遂に唐人は彼を恐れて解放したとかいう によると、真備は入唐の時、諸道・諸芸に通じてい話が伝わってる」 これもまた、凄い人間がいたものだ。 たために唐人は自らを恥じて、鬼の棲む楼に真備を 0