巧実 - みる会図書館


検索対象: QED : 鬼の城伝説
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1. QED : 鬼の城伝説

て、圭佑さんも着替えをしていた理由を堂々と述べ 「で、では、巧実さんはどうだ ? 少し時間的には ることができたんです。やはり健爾さんに言われた厳しいが、可能性はゼロじゃない」 といって 「確かに時間的にも厳しいですがね、それ以前の問 「きみは : : : 」忍田が尋ねた。「どうして風見子さ題として、巧実さんは容疑者から除外されるでしょ んの言葉を、そんな簡単に信じられるんだ ? あ、 いえ、決して風見子さんを疑っているわけではあり 「どうして ? 」 ませんよ、もちろん。ただ、そう断定する理由を知「巧実さんの身になって考えてみてください。その 時巧実さんは、健爾さんがどこにいると思っていた 「はい。なぜならば、風見子さんは時間的に無理だでしようか ? 」 ったんです」 「 : ・・ : といわれても」 「明日香さんがおっしやっていたしゃないですか。 「どうして ? 」 「だって」崇は微笑んだ。「あの時、すでに塗り終健爾さんは明日香さんと一緒に部屋を出て行った。 えたマニキュアを乾かしていたんしゃないんですつまり巧実さんは、お二人は一緒にいると思ってい たはすです。普通、そんな所を襲おうなんて思いま か ? そうしたら、そんな時間の余裕はなかったは ずです , すか ? 」 「ーー確かに」 「ゆえに、 ここで容疑者として圭佑さんがかなり濃「こっそりと後をつけたという可能性もなくはな 厚になってきたわけです しかし、わざわざそんなことをするくらいなら

2. QED : 鬼の城伝説

た、とか」 ちらの想像に過ぎませんけどね。だが、少なくとも 犯人は、あの通路の存在をきちんと知っていたわけ 「犯人に ? 」 「巧実さんが呼び出されたのか、それとも巧実さんです。そしてそれを隠そうとしていた」 が犯人を呼び出したのかは分かりませんけれど、と「その根拠は ? 」 「こちらの土蔵側の通路は、厚い木の蓋で塞がれて にかくあの場所で待ち合わせた」 いるんですがね。その出入り口に、内側から木の板 「わざわざ、あんな場所で ? 」 「はっきりとしたことは、今はまだ分かりませんを打ちつけた奴がいたんです。しかもごく最近」 がら 「え : : : 最近 ? 」 が、おそらくは例の地下通路絡みでしような。あの 通路があれば、春の事件の際に犯人は、誰にも見ら「そうなんですーと片岡もメモを取る手を休めて口 れすに土蔵から逃げ出すことができた。そんな話をを開く。「板もまだ新しかったですしね、釘も全く しようと思われたのかーーあるいは、犯人が場所を錆びていませんでしたから、本当につい最近のよう 指定したのか : しかしとにかく、そこで犯人にですね」 よって殺害されてしまった」 でも : と遠童は眼鏡を上げた。 全員が無言のまま、お互いに顔を見合わせた。 「そんな地下道の存在なんて、誰一人知らなかった 「どうやら」忍田は言う。「犯人は、あの地下道の わけじゃないですか。どうしてまた、巧実さんが知存在を隠したかったようですな。ということは、逆 に考えればあの地下道は、健爾さんの事件と関連性 り得たというんですか ? 」 「巧実さんが知っていたというのは、あくまでもこがあったとみられるわけです。そこで、巧実さん殺

3. QED : 鬼の城伝説

害理由のもう一つの仮定として、地下道の存在を知人が塞いだと考える方が自然でしような」 「そう言われれば : : : 確かにその通りですな」遠童 った巧実さんが、それを確かめるべくあの場所に行 った。それを、偶然ーーあるいは何らかの方法では軽く頷く。「しかし、どうして巧実くんは、笙子 さんたちでさえ知らなかったような、そんな地下道 知った犯人が、彼の後を追って地蔵堂まで行 の存在を知っていたんだろうか : : : 」 き、あの場で巧実さんを殺害した」 「しかし、地下道の出入り口を封鎖したのが巧実さ「不思議ですな」忍田は言って、圭佑を見る。「圭 んだったという可能性もありますよね」遠童が腕を佑さんは、裏のお寺に行かれたことがあります カ ? ・ 組んで唸る。「その理由は分からないにしても」 「それはどうでしようか : 忍田は大きく息を吸「え、ええ : : : もちろん、何度か」 い込んだ。「出入り口を封鎖し終わって、その帰り 「鐘楼もご存しですね」 「はい・ ・ : 知っています。あの六地蔵堂ーー首が取 に犯人と遭遇して殺害された 確かにあり得な い話ではないでしようけれど、しかし巧実さんがい れそうになっていた地蔵があったことも」 しかし、地下道については知ら盟 きなり出入り口を塞ごうとするその理由がないでし「そうですか よう。ご自分が春の事件の犯人だったならば、そのなかった」 「知ってい 可能性はあるでしようけれどもね。しかしそれなら「は、はい・ : 」圭佑は小さく頷いた。 れば、健爾兄さんの事件の時に言いましたよ」 ば、何も今頃になって出入り口を封鎖するなんてい うのも変だ。もうとっくにやってしまっているでし確かにそうだ。 とい、つことは、ここにいる全員、全く知らなかっ よう。ですからこの場合はごく単純に、最初から犯

4. QED : 鬼の城伝説

はんちゅう 「風見子、お前だって知ってるだろう。この間、釜けだ。まだ偶然の範疇だろう」 「三回もーーでしよう、巧実さん。これだけ重なれ が鳴ったってことを。あの土蔵の中でだ」 知ってるわよ ! と風見子は圭佑を睨む。こんなば、もう充分だ。それに久蔵さん」 時の風見子は、とても一一十歳の学生には見えない。 「 : : : はい」久蔵はさっきから立ったままだ。そし 「健爾兄さんから聞いて知ってるけど、何もこんなて今も、立ったまま答える。「何ですかのう」 時にそんなことを言い出さなくてもいいんしゃない 「俺は久蔵さんのお祖母さんも同じようなことを言 の ? しかも、巧実さんたちがいる前で」 っていたって、この間、母から聞いたよ」 リにいいしゃないか。巧実さんたちは全く赤の他 はあ : : : と久蔵は申し訳なさそうに頭を垂れた。 人というわけしゃない。遠い遠い親戚なんだから。 久蔵の祖母は、もう八十五になろうという高齢だ それに、明日香さんだって、本当は家族になるはすが、今も総社の外れに一人で住んでいる。昔は神社 だった。それならば、こういったことはきちんと伝 の巫女だったらしいのだが、現在は訪ねてくる人た ちの占トをして暮らしているという。 「止めなさいよ、もう ! 」 「八田トキさんか」巧実は言う。「噂は聞いてる。 「でも事実だ」 よく当たるそうしゃないか」 と巧実が間に入った。 「 : : : ありがとうございます : : : 」 「事実とばかりは言えないよ、圭佑くん」巧実は顔「今度、ばくも見てもらおうかな。将来のことを知 を上げて圭佑を見る。圭佑より、五歳年上。落ち着 りたいね。それで : : : トキさんが、何て言ったとい いている。「たった三回、不幸な事故が重なっただ うんだ ? 」

5. QED : 鬼の城伝説

た。「地下で、繋がっていたんです , 古い物であることは間違いないですな」ーー何しろ 骸骨が という言葉は呑み込んだ。「人一人きち 「あ、あのーー」風見子が小声で尋ねる。「おっしんと通れる立派な地下道が、土蔵の床下から鐘楼の やっている意味が良く分かりませんけれどーー」 台座の下まで一直線に繋がっていたんです」 「そのままですよ」忍田は微笑んだ。「地下道があ「 : ・ ったんです」 息を呑む声。 「え : : : 」と全員が呆気にとられたような顔つきで 低いため息。 忍田を見返した。 小さな唸り声が応接間に満ちる。 もしもこの中に犯人がいるとしたならば、これは 「ちなみに、巧実さん撲殺の凶器は なかなかの演技力だな、と忍田は思った。それともび、ゆっくりと口を開いた。「地蔵の頭でした」 最初からこんな場面を想定していて、とっくに覚吾 「石地蔵の ? 」 を決めていたのか 、風見子さん。犯人は地蔵の首を手に取っ z 「この : : : 邸のですか ? 」 て、巧実さんを後ろから思い切り殴打したんです」 「ええ、そうです、圭佑さん」忍田は大きく頷く。 「その通路は、おたくの土蔵と、廃寺の鐘楼で繋が 「全くおっしやる通りですーー・・。しかしそれだけで っていました」 はありません。犯人は、巧実さんの体を鐘楼まで運 「一体どうして : : : 」 びました。そして台座の一部分に隠されていた地下 「さあ。私には特定できませんね。しかし、かなり道の入り口から、巧実さんの体を地下に投げ落とし 忍田は再

6. QED : 鬼の城伝説

「はい」と風見子は頷いた。「しかし、やがて巧実に行ったわけではありませんでしたからね。まあも さんがーーー先ほど桑原さんがおっしやったようにちろん、小さい頃から何度も遊びに行っていたでし 圭佑兄さんが怪しいということに気づいて、二ようが、しかし最近も行っているはすだ。おそら 人で話をしに廃寺に出かけていったんです。巧実さく、 地下道を調べに行ったんでしよう」 んは、前もって鐘楼を調べ、抜け穴の存在も確認し「どうしてそれをーー ? たと言っていたそうです。そこで六地蔵堂の前に圭「だって圭佑さんは、わざわざ地蔵の首をもぎ取っ きつもん 佑兄さんを呼び出して、詰問したらしいです。そのて凶器にしているんですよ。俺も実際に足を運んで みましたけれど、あの周りには石がゴロゴロと落ち ために圭佑兄さんは、仕方なく巧実さんをーー」 「仕方なく、とは酷いもんだな」片岡が顔をしかめていました。普通ならば、その中から手頃なものを る。「だが実際問題として、圭佑さんはそんなに追拾って凶器にするでしよう。しかし犯人ーーー圭佑さ んは、いきなり地蔵の首をつかんだ。忍田さんも、 いつめられていたのかね ? 」 「第三者から見てどうだろうか、ということは問題最初は首が取れる地蔵があるなんて気がっかなかっ にはならないと思います。重要なのは、その時兄自たでしよう」 身がどうっていたか、ということでしよう」 「ああ。知らなかった」 「だから忍田さんが『地蔵の首を手に取って』とだ 「そりゃあそうだがーー」 け言ったにも拘わらす、圭佑さんは『首が取れそう 「そこで、首が取れる地蔵があったことを知ってい になっていた地蔵があった』とすぐに返答できたわ た兄は、その首を握って巧実さんを : : : 」 「圭佑さんは」崇が言う。「その時初めて六地蔵堂けですね」

7. QED : 鬼の城伝説

AJ 」」 , か 「いや、正確には今から説明するが 「え ? え : : : 私 ? 」 ばくさっ 、巧実さんの撲殺死体が発見されたんだ。今、司 「本当にタタルは、とんでもねえ野郎だこういう 時に顔を見せないで、いらない時ばかりああだこう法解剖に回ってる」 「本当に : : : 他殺なの ? 」 だと長屋のご隠居のように講釈を垂れてな」 「完全にそうみたいだ。後頭部を、地蔵の頭でガッ 「あ。いえ、別に私はーーー」 「俺もおかけで、ツインのシングルュースになっちンーーと」 まった。忘れすに差額を請求してやる」小松崎はグ「地蔵の頭 ! 」 「そばにあった地蔵堂の地蔵だ。六体あったんだ それで、肝心のこっ ラスを傾ける。「さてと が、犯人はその一つの地蔵の頭をもぎ取って、巧実 ちの事件の話なんだが」 さんを殴りつけたらしい」 「そうそう ! 」沙織が身を乗り出した。「それで、 : どうして ? その犯人は捕まったの ? 「でも : どうなっちゃったの ? 」 「いやまだだ。理由も分からねえ」 そして、辺りを横目で見回して声をひそめる。 「でもそれって、もしかして春に起こった事件と繋 ・つて ? 一体どこ 「明日香さんのお兄さんが・ かりがあるのかなあ」 「可能性は充分にあるんだよ。というのもな 「鬼野辺の裏手に廃寺があってな、その鐘楼の下か 小松崎はビールを一口飲むと、話し始めた。 ら、明日香さんのーー、巧実さんの遺体が見つかっ たんだと 「鐘楼の下 ? それって、どーゅうこと ? 」

8. QED : 鬼の城伝説

たものと思われます」 うる 笙子が、そして風見子が目を潤ませながら自分の 口を両手で覆った。圭佑はがつくりと肩を落とした まま下唇を固く噛み締め、久蔵はしっと俯いて拳を 固く握り、遠童は自分の前方の床に視線を落とした まま身じろぎもしない。 しかし と忍田は目を細めた。 「おそらく犯人は遺体を隠蔽しようとしたんでしょ うが、でもその時はまだ、巧実さんに息があったよ うなんです」 「え ? 」風見子が視線を上げる。「生きていた ? 「そうです 「どうして分かったんですか ? 「何やら、土の床の上に、巧実さんが自分の指で書 き残していたんですよ」 忍田は全員に手帳に写し取った文字を見せた。 150

9. QED : 鬼の城伝説

時半過ぎ。ここで何らかのトラブルに巻き込まれてていた。それを確認して、忍田はロを開く。 「ではお話しします。いずれお知らせしなくてはな そして、十一時前ーーー四十五分前後か に土蔵らないことですからね : : : 。被害者ーー健爾さんの とうぶざしよ、つ を訪れた明日香が、健爾の切断された頭部を発見し直接の死因は、頭部挫傷によるものです。つまり、 どんき 後頭部を鈍器で強く殴打された模様なんですな」 ゆが それ以降は、はっきりしている。 「頭部挫傷 ? , 巧実の顔が歪んだ。「じゃあ、一体 十一時十七分に県警に連絡が入り、一昨日起こっ どうしてあんなーーー」 たくだらない事件の面倒臭い書類を嫌々整理してい 「そうですね。全く分かりません、今のところは」 た忍田が呼び出されたというわけである。 「凶器・ : ・ : は ? まき 「土蔵の脇に積んであった薪です。犯人はその薪 「それでーー」巧実が忍田を見上げながら尋ねてきで、健爾さんを後ろから襲った。そしてその後、土 なた 。「健爾くんの遺体は : : : 実際の所、どんなもの蔵の中にあった大きな鉈で、健爾さんの首を切断し たようなんですな」 だったんでしようか : : : 」 「実はそれなんですがね」忍田はチラリと笙子と明「なぜ ? 」 日香を見て尋ねた。「お話ししてもよろしいです「分かりません」 忍田は苦々しく答えた。 か ? 大丈夫ですか ? 」 一一人は弱々しく、コクリと頷く。笙子は遠童医師確かに、頭部切断の意味が謎なのだ。 頭を後ろから殴って殺した。それだけで充分では に付き添われ、明日香は巧実の手をしつかりと握っ

10. QED : 鬼の城伝説

・ : 間違いじゃないんですか ? 」 かそうけん 「非常に残念ですが 先ほど科捜研の方から、 確認が取れたという連絡が入りました」 それを聞いた途端に風見子は、 忍田の前には、再び鬼野辺家の人々がいた そして横には、メモ帳を広げた片岡が立ってい 「ああ : : : 」という泣き声ともため息とも取れない 声を上げると、自分の両手の中に顔を埋めた。 る。場所は例によって広い応接間である。 目の前のソフアには左から、今日も遠童医師に付 そして久蔵は、膝の上に載せた両手の拳をプルプ き添われた笙子が。そして順番に、圭佑、風見子、 ルと震わせたまま、ただしっと俯いていた。 久蔵が腰を下ろしている。誰もが例外なく居心地悪「今、明日香さんの方にも連絡が入っていると思い そうで、そわそわとしていた。 ますが : こちらでも、皆さんに少し確認したい ことと、お尋ねしたいことがありましてーー」忍田 「今日は、お忙しいところをお呼び立てしまして、 申し訳ありません」忍田は頭を下げる。「もうすでは、ゆっくりと全員を見回した。「ちなみに、巧実 z にお聞き及びかと思いますが : 。ます、裏の廃寺さんの死因なんですが、健爾さんと同様に、後頭部盟 のうざしよう で発見されました遺体は、妙見巧実さんであること打撲骨折及びそれに伴う脳挫傷。廃寺の境内に於い が判明しました」 て、何者かに後ろから殴打されたものと思われます駅 そこで皆さんにお訊きしたいんですが、ここ 「そんな ! 」圭佑が息を呑む。「しかし、どうして 数日、巧実さんがこちらの家に顔を出されたという またーー」 「嘘でしよう : ようなことはありませんでしたか ? 」 ? 」笙子が弱々しい声で尋ねる。 「何かの : こぶし