鐘楼 - みる会図書館


検索対象: QED : 鬼の城伝説
31件見つかりました。

1. QED : 鬼の城伝説

ああ、そういうことか 奈々も納得する。単純な原理だ。 「相聞こえる寺ーーという意味で」 ああ・ : 「おそらくそうだろう」崇が頷く。「共鳴だ」 「なんだって ? 」片岡が詰め寄った。「共鳴という 「じゃあ ! 片岡が尋ねる。「鬼野辺の呪いとは、 と、つまり 何の関係もないのか ! 「鐘楼でしよう。鐘楼の釣り鐘の下の出入り口と、 「関係なくはないでしよう。土蔵の釜が鳴ってその 土蔵の出入り口は地下道で一直線に繋がっている。 後に人が死ねば呪いになり、誰も死ななければ、た しかも、その地下道は所々鉄板などで補強されてい だの奇妙な自然現象になるわけです」 たそ、フじゃないですか」 「 : : : 何を言ってるんだきみは ? 意味不明なこと 「反響も良かった 「そしておそらく , ーー詳しくは知りませんがーー鬼「呪いや怨念というものは、そういうものです。後 野辺さんの釜が鳴ったというのは、嵐が来たり、風付けなんですよ」 が強かったりした時じゃないですか。もしくは、誰崇の言葉に、片岡が何か言いかけたけれど、 かが釣り鐘を撞いた時も充分に考えられます。たま「分かります ! 」桃田の「そういうことなんです たまなのか、それとも誰かが故意的に仕掛けたのかね ! 」 は分かりませんけれど、あの廃寺の鐘楼と土蔵の釜 という叫び声に遮られて、ムニャムニヤと口を閉 z じてしまった。 が地下道を通じて共鳴していただけのことです。だ から廃寺の名前が『相聞寺』だったんでしようね」 「さてーー」崇は続ける。「問題はここからです。

2. QED : 鬼の城伝説

た。「地下で、繋がっていたんです , 古い物であることは間違いないですな」ーー何しろ 骸骨が という言葉は呑み込んだ。「人一人きち 「あ、あのーー」風見子が小声で尋ねる。「おっしんと通れる立派な地下道が、土蔵の床下から鐘楼の やっている意味が良く分かりませんけれどーー」 台座の下まで一直線に繋がっていたんです」 「そのままですよ」忍田は微笑んだ。「地下道があ「 : ・ ったんです」 息を呑む声。 「え : : : 」と全員が呆気にとられたような顔つきで 低いため息。 忍田を見返した。 小さな唸り声が応接間に満ちる。 もしもこの中に犯人がいるとしたならば、これは 「ちなみに、巧実さん撲殺の凶器は なかなかの演技力だな、と忍田は思った。それともび、ゆっくりと口を開いた。「地蔵の頭でした」 最初からこんな場面を想定していて、とっくに覚吾 「石地蔵の ? 」 を決めていたのか 、風見子さん。犯人は地蔵の首を手に取っ z 「この : : : 邸のですか ? 」 て、巧実さんを後ろから思い切り殴打したんです」 「ええ、そうです、圭佑さん」忍田は大きく頷く。 「その通路は、おたくの土蔵と、廃寺の鐘楼で繋が 「全くおっしやる通りですーー・・。しかしそれだけで っていました」 はありません。犯人は、巧実さんの体を鐘楼まで運 「一体どうして : : : 」 びました。そして台座の一部分に隠されていた地下 「さあ。私には特定できませんね。しかし、かなり道の入り口から、巧実さんの体を地下に投げ落とし 忍田は再

3. QED : 鬼の城伝説

「変ですねえ : ・ 「しゃあ、やつばり被害者らしき人物は、お堂から しばらくすると、鑑識たちの顔に困惑の色が浮か ここまでやって来たってわけか」 「そうですね び始めた。というのも、血痕も、何かを引きすった ただ、ここから先の足取りが全 痕跡も、両方共にこの近辺で綺麗に消え失せていた く無くなってる」 のである。 「ふん : : : 」 「おかしいですね : ・ 鑑識は立ち上がって腕を組 忍田が腕を組んで不満げに鼻を鳴らした時、 んだ。「血痕は、明らかにこの近くまでは来ている。 「警部 ! ー鐘楼の周りを捜索していた片岡が大声で でも、ここから先の痕跡が何もない 叫んだ。「こんな所に、血痕らしきものが ! 」 「足跡はどうだい ? 「どこだ ! 」 「それが ここらへんは草むらですしね、もう と忍田と鑑識たちは、片岡のしやがみ込んでいる 少し土が露出していれば分かりやすかったんでしょ 場所に集まった。そこは鐘楼の向こう側、竹藪の近 、つけ・、れど : それに、このところすっと晴天が続 くだった。その向こうには、鬼野辺家の塀が見え る。 いていますから、ちょっと厳しいですね」 「だが、誰かがあの地蔵堂からここまでやって来て 片岡が指差しているのは、鐘楼の台座の一部分だ ることは確実なんだろう ? それとも、こっちが現った。古ばけた台座の高さは、ちょうど忍田の腰の 場ってことはないのかい ? あたりまでーー・とい、フことは、高さ一メートル立だ 「いや、それはないでしよう。それならば、それころう。そしてその台座の地面から一一十センチメート そもっとはっきりと痕跡が残ってるはすです」 ルほどの所に、赤黒い染みがあった。

4. QED : 鬼の城伝説

「だが、入って来てから閂を掛けることもできただ 「ちょっと行ってみるか」 「しかし犯人は、こちらには逃げ込んでいないと思 ろう。最初から門か開いてりゃあ」 いますがね。木戸には閂が掛かってましたし、塀も 「でも、足跡がありませんから」片岡は辺りを見回 乗り越えたような跡はーー」 した。「この閂は簡単に外れそうですけれど」 「かも知れないがな : ・ だか、たまには地蔵参り そう言ったわりには苦労した。この雨で木戸も、 もいいだろう。俺たちのような凡俗には、貴重な体 そして当然木でできた閂もしっとりと濡れてしまっ ていたからだ。しかし片岡は苦労して、何とか無理験だ」 忍田は竹林を歩く。時折り風にあおられて、雨滴 矢理に引っこ抜いた。そして扉を手前に引くと、重 がサアッと二人の上に降り注いできた。それに合わ そうな扉がゆっくりとこちら側に開いた。 せて、バラバラと一一人の傘が鳴った。 ちょっと出てみよう」 「向こう側は竹藪か : 忍田は身をかがめて木戸をくぐる。その後ろから すぐに竹林は終わり、雑草の海の中に、ポツンと 片岡も続いた。 灯台のように立っ鐘楼が姿を現した。 ほうぎようづく 鐘楼の屋根は入母屋ではなく、正方形の宝形造り 目の前は、鬱蒼と茂る竹林だった。 け・い」い 「ここいらは昔、何とかっていう野寺の境内だったの小さな物だ。しかも、所々破れている。それが、 んですよ、隣の町が地元の片岡が説明する。「しかすっかり変色してしまった四足の上に、頼りなさそ ぼんしよ、つ しとっくの昔に廃寺になってしまって、あそこに見うに載っていた。しかし釣り下げられている梵鐘は しようろ、つ える」と言って、前方の建物を指差した。「鐘楼と、意外に大振りだった。直径一一メートル近くあるだろ ろくじぞうどう うか。立派な物だ。しかしいかんせん、全体がすっ その脇の六地蔵堂しか残っていませんでして」 、つっそう

5. QED : 鬼の城伝説

しゅじよ、つ げだっ 本物の地蔵というのも、凄い だ。我々のように解脱できていない一般衆生は、こ えい′」う しかも、実際に冥土に行った ? の六つの世界を、未来永劫まわるわけだ。いわゆ 奈々の思惑をよそに、崇は続ける。 る、生まれ変わり思想だな」 「その後、平清盛が西光法師に命して、都に通しる 「地蔵は ? 」 主要街道の入り口に地蔵を分祀したのが、六地蔵巡 「今言ったような六つの世界にそれぞれいらっしゃ りの始まりといわれている」 る。そして我々を、教え導いてくれるというわけ ひょ、つし だんだ そんな崇のぶつきらばうな解説を聞きながら、 だ。地獄道には、手に人頭の標幟を持った檀陀地 ほ、つじゅ 蔵。餓鬼道には、宝珠を持った宝珠地蔵。畜生道に奈々たちは鐘楼に近づいていった。 するとそこで、予想通りに見張りの警官に声をか は、如意宝の印相を結んだ宝印地蔵。阿修羅道に じよがいしよ、つ は、大地を持った持地地蔵。人間道には、除蓋障地けられた。この場所は現在立ち入り禁止になってい と彼らは大声で叫ぶ。見れ 蔵。天道には、日光地蔵がいる。そこでそれぞれのるので戻って下さい こんく 地蔵を祀って、迷い多き我らの魂魄を救ってもらおば鐘楼の周りには、確かに黄色いロープが巡らされ うというのが六地蔵信仰だ。京都・伏見の大善寺のている。そして 六地蔵は有名だな。ここは、法雲山浄妙院と号する「あれだよ、お姉ちゃん」 きしつ、つん 沙織か小声で囁いた 浄土宗の寺で、慶雲一一年 ( 七〇五 ) 創建といわれて りゆ、つぞう いる古刹だ。しかもこの寺の地蔵菩薩立像は、かの奈々が沙織の指差す方を見れば、鐘楼の台座の一 z おののたかむらめいど 小野篁が冥土へ行った時に自分の眼で見た本物の部分が、ポッカリと開いていた。そしてその部分に かたど は、真っ黒い入り口が見える。あそこから地下道に 地蔵尊を模って刻んだ物だと言われている」 だいぜんじ

6. QED : 鬼の城伝説

だって」 ってことは、何を隠そうお前にも関わるんだ」 「バカな 「話にならない理屈だ」 いいってもんじゃないんだよー 「話になってりや 「事実なんだな、これが。ああ恐い」 おい、奈々ちゃん、沙織ちゃん。一緒に行くなら、 「そんなことがあるわけがない」 「証明できる ? すぐに支度しろ。さもないと、置いて行くぞ ! 」 「半日もかからないだろう」 「はいつ」沙織は敬礼した。「ラジャー 奈々は 「じゃあーー」沙織はニャッと笑った。「してみて」 ど、フしよ、フ : 迷っていると、 「また今度だ」崇は乗ってこない。「今日は忙しい」 「お姉ちゃん、行くよ」沙織は言う。「早く支度し「でもね」沙織も粘る。「その他にも、鬼野辺家の こさっ 裏には古刹があってね。そこには屋しげな六地蔵堂 て。さあ、タタルさんも」 「いや、俺は と、鐘楼の下には古い地下道がーー」 「でもねタタルさん、鬼野辺の家には鳴釜があるん「鐘楼の下に地下道 ? 」 「そうよ。しかもそこで、骸骨が発見されたの」 だよ」 「鳴釜が ? 「まさかーー」 「本当だってば ! ね、ね」 「そ。すつごいらしいよ。吉備津神社にあるやつみ 沙織に同意を求められて、奈々は頷いた。 たいなの」 「本当みたいなんですーー」 見たこともないくせに、沙織は一一一一口う。 「それが鳴るとね、鬼野辺の人たちが死んじゃうん「ほう : : : 」 191 UNQUESTIONED

7. QED : 鬼の城伝説

AJ 」」 , か 「いや、正確には今から説明するが 「え ? え : : : 私 ? 」 ばくさっ 、巧実さんの撲殺死体が発見されたんだ。今、司 「本当にタタルは、とんでもねえ野郎だこういう 時に顔を見せないで、いらない時ばかりああだこう法解剖に回ってる」 「本当に : : : 他殺なの ? 」 だと長屋のご隠居のように講釈を垂れてな」 「完全にそうみたいだ。後頭部を、地蔵の頭でガッ 「あ。いえ、別に私はーーー」 「俺もおかけで、ツインのシングルュースになっちンーーと」 まった。忘れすに差額を請求してやる」小松崎はグ「地蔵の頭 ! 」 「そばにあった地蔵堂の地蔵だ。六体あったんだ それで、肝心のこっ ラスを傾ける。「さてと が、犯人はその一つの地蔵の頭をもぎ取って、巧実 ちの事件の話なんだが」 さんを殴りつけたらしい」 「そうそう ! 」沙織が身を乗り出した。「それで、 : どうして ? その犯人は捕まったの ? 「でも : どうなっちゃったの ? 」 「いやまだだ。理由も分からねえ」 そして、辺りを横目で見回して声をひそめる。 「でもそれって、もしかして春に起こった事件と繋 ・つて ? 一体どこ 「明日香さんのお兄さんが・ かりがあるのかなあ」 「可能性は充分にあるんだよ。というのもな 「鬼野辺の裏手に廃寺があってな、その鐘楼の下か 小松崎はビールを一口飲むと、話し始めた。 ら、明日香さんのーー、巧実さんの遺体が見つかっ たんだと 「鐘楼の下 ? それって、どーゅうこと ? 」

8. QED : 鬼の城伝説

その周りで捜索に当たっていた鑑識たちが全員色 「分かった」 忍田は、床に転がっている首を、そして残りの地めき立つ。彼は振り向く忍田たちに向かって、再び 蔵を眺める。春に見た時は、地蔵の首は全部きちん叫ぶ。 と載っていた。果たしてそれが、しつかりと接着し「血痕です ! よしつ、と忍田と片岡は顔を見合わせて草むらの ていたのかどうかは分からなかったが、取りあえす 中に飛び込んだ。しかし、間違って証拠を踏みつけ は全部胴体の上に載っていた。 「こいつだが : : : 」忍田は再び尋ねる。「他の地蔵てしまわないように、慎重に近づかなくてはならな いのがもどかしい。その向こうでは鑑識が、何かの も、首が取れるのかね ? 痕跡を新たにたどり始めていた。 いえ、と鑑識は首を横に振る。 「このーー凶器になったと思われるーー右から三番「とぎれとぎれですが、間違いなくあちらの方に続 いてますね : : : 」 目の地蔵の首だけみたいですね。あとの五体は、何 とかくつついてます。でもまあ : : : 他の地蔵も相当鑑識が立ち上がって指し示したその先には、例の z し 6 、つろ、つ 年季物ですから、頑張れば無理矢理にもぎとるとい鐘楼があった。 うことも可能だったでしようけれど」 と、忍田が頷いたその やがてその場の全員が、鐘楼の周りに集まり、 確かにその通りだろう しよ、つ 再 鐘を下から覗き込んだり、台座の上に登ったり、 時、若い鑑識が声を上げた。 び辺りの草むらを掻き分けたりと、一斉に捜索を始 「こちらに、何かを引きずった跡がありましたー める。しかし、 お堂から少し離れた草むらの中だ。

9. QED : 鬼の城伝説

: なるほどな」忍田は頷いて嘆息した。「しか珍しい出来事だった。わざわざそんなことをするよ ちのり しこっちもまた、ずいぶんあっさりと殺しちまった りも、おそらく後で血糊だけサッと落として、その もんだな : ・ まま転がしておいた方が自然に証拠が消滅すると考 「よっぱど地下道の秘密を知られたくなかったんでえたんじゃないでしようか。おそらく、その時に例 しようね。まあ確かに、鬼野辺家全体の秘密でもあの地下道への入り口も、何らかの方法で塞ごうと考 るわけですが」 えていたと思いますが」 「そういうことだったんですな」片岡も頷く。「そ「そう・ : ・ : 圭佑兄さんも言っていました : して、おそらくその事件後に圭佑さんは地下道を塞「ああーーー」と忍田は思い出したように言った。 いだというわけか。これもまた運が良かったです「そういわれればあの時ーーー。私が皆さんに地下道 な。もしも、土蔵側の蓋を内側から打ちつけに行っ を発見したという報告をしていた時、圭佑さんが た時、鐘楼側の蓋を閉じて中に入っていたら、その『一体どうして : : : 』と絶句したが、あれは『一体 まま自分が中に閉じこめられてしまうところだった どうしてそんなものがあったのか』という意味では んですから」 なくて、『一体どうして見つかってしまったのか』 「確かにな」忍田は苦笑いする。「しかし そという意味の絶句だったわけだ : : : 」 れならば何故、凶器の地蔵の首をそのまま転がして 「そういうことです。圭佑さんにとって、非常に計 おいたのかね ? 巧実さんの遺体と一緒に、穴の中算外だったのは、すぐに凶器と鐘楼の台座の入り口 z に隠してしまっておけば良かったんじゃないか ? 」 が見つかってしまったこと。そして、巧実さんの残 「あの寺は完全に廃寺で、人が来るなどという方がした、ダイイング・メッセージですね」 ふさ

10. QED : 鬼の城伝説

ろくしよ、つ 小屋ーーが見えた。そして、これもまた瓦解寸前 かり緑青に覆われてしまっている。殆ど野ざらし状 態なのだから、仕方ないだろう・ : 。入り口の扉は壊れ、狐狸たちの住み処になって 一一人は鐘楼の周りを一回りする。 いそうだった。壊れた戸の隙間から、地蔵が見え る。忍田は物好きにも、やっと人一人分ほど空いて 忍田の腰のあたりの高さまでの台座を覆っている 木の板も、やはり所々朽ちていた。そして朽ちてい いる小さな空間に、大きな体を滑り込ませた。 ない場所は、苔にびっしりと覆われている。 見れば地蔵自体も、石でできた粗末な物だった。 「その昔には。ーー・」片岡が言う。「ここで除夜の鐘その前には何の供え物もなく、ただ朽ちていくのを も撞いてたんですがね。私が小学生の時代くらいで待っているだけのように見えた。頭が半分ほど欠け すかねえ」 てしまっている物や、風雨にさらされて顔の凹凸が きちんと判別できなくなってしまっている物まであ 「へえ、この鐘でね : 。今、撞いたら五十ももた どうじようじ すに砕け散ってしまいそうだがな。道成寺にはなりる。そんな物を何体も目の前にすると、別に何の信 そうもないな」 心もないけれど、何となく背中がひやりとする。そ そんなこともないだろうが、しかしポロポロと緑れとも実際に、地蔵の体が辺りに禦う冷気を蓄えて z いるのだろ、つか : 青が剥げ落ちてきそうだった。忍田は何度か振り返 って眺めながら、鐘楼を後にする。 「どうして地蔵は六つあるのか知っているか ? 」 振り返って尋ねる忍田に片岡は、 「あれが六地蔵です」 さつばっ 「さあ : ・ 片岡の指差す方を見ると、昼なお暗い殺伐とした と首を捻った。「どうしてでしよう」 ちくしよう ろくどうりんね がき 「六道輪廻ってやつだ。人が死ぬと、餓鬼とか畜生 草むらの中に小さなお堂ーーというよりも、木製の そな