知ら - みる会図書館


検索対象: abさんご
116件見つかりました。

1. abさんご

う . だがその真偽のおぼっかなさはどんな傍証によっても 補修できないぜったいのあやふやさをもったぐいのもの だったし , 話題にされることのけしてないままに三十八ね んがたち , 二つ目があった . 二つ目についても話題にされたことはいちどもない . ひ とりだけの子がいあわしえなかったとは , ちかしい者ほど かえっておもいもつかなくて , あえてたしかめなどされな かった . 七しゅうかんにわたる死病者の人院ちゅう , その 子がじぶんの住まいにほとんど帰れなかったのは知られて いたし , 衰弱死がさほどとうとっともかんがえられないか どの時点でもそうするしかしかたのないことをしていた 者は , どの時点でもすでにあきらめていたようである . あ るはずもなさそうな , ないはずもなさそうななりゆきに どうであろうと指示人の指示にさからわないのがまだしも もっとも静かな死への協力かと , 七しゅうかんのことでは なく , 一万にちずっとそうしてきたとおなじに , 臨死者と ひかる十ねんをくらした土地の草いきれのうつつなさで , そのあちこちに青い虹たちを見うしなうときのひとすじこ とのすべのなさで , はるかむかしからあきらめられていた 0 6 6

2. abさんご

ていた . らんぶやゆりいす , 円卓や戸棚などを配してあそ ぶために , しようめん手まえはまったくあいているのだ が , むろんそこには壁と窓が , いちばんゆずってかんがえ てもがらす戸のなんまいかがあるはずだったから , にん ぎようたちの出人りはかならずひさしつきの開口部からで なければならなかった . 比率としてはいくぶん大きすぎる 犬小屋が配されるときには , そこから出ていった大が出人 りぐちでないところから室内にふみこんではにんぎように しかられていた . もっとも , その家に見あう身たけのにん 街のかざりまどですばらしく大きな三階だてのにんぎょ れるのは犬ではなくて水いろの熊であった . 手ざわりをおもんじる気ぶんになっている日には , ちな木彫りのすこっちてりあしかいなかったので , ぎようにとりあわせられる大としては , 軽すぎてころびが しから 幼児が 0 4 2 ろうものの細部について , すこしあっけにとられて聞いて れるのなどはじめての者は , そのついに見ることのないだ もたらされない贈りものについてわざわざ話さ とだった . は , じっさいに三階だての家に住んでいたおわりごろのこ えなくてとてもざんねんだったと五さい児が聞かされたの うの家を見つけたのに , 売りものではないとゆずってもら

3. abさんご

小虫をいぶしころすけむりからのどをかばうくふうに難 渋しながらも , ききようとなでしこのなよびかな平絽を廃 してあてがわれた夏ぶとんが , あぶらげかなにかのように こわばって身にそわないのをこつけいなことにかんじなが らも , おもてむきなごやかにその夏も夏だった . つぎつぎ に息をとめていくならわしにひとつひとつなずんでいては もっとたいせつなことがおろそかになると目をそむけてい る者たちにより , きんいろの吊り輪のはしやぎもそれきり けうといおほ。ろの底へとからめきおちていった . く旅じたく〉 樹皮で編んだ衣料用の大箱にはまだ蒼みが消えのこって いてかぐわしかった . まったくおなじつくりの深いふたが 底までかぶさるかたちなので , いれこになる大小二つをそ ろえればふたなしの四はことしてなどいろいろに使いまわ せるし , ひもをかけて運ぶときには中身のかさに応じてふ たが浮くわけでかなりふえてもまにあう . あとはふとん と , ずっと使われてきた小さなうるしぬりの文机と本箱ぐ 0 3 8

4. abさんご

たことがある . それまでのいつでも , まんいち必要が生じ れば子から親をさがしあてることはそうむずかしくはない はずだったから , 大していみもない情報として聞きながさ れ , たとえばときに食事にでもさそうようなことにはかん がえおよばれなかった . むろんたがいに繁忙をきわめてい たにはちがいないが , そしてまたいまさらわざわざふたり だけで話をすることに抵抗がありすぎたにはちがいない が , ひとつにはまずしすぎ , かっそうは見せまいと秘術を つくしていた者には , 親がそとでするようなまともな食事 をねだるけっかになるというそれだけのことがよけていた いあまり , 五ねん十ねんと年をかさねていく親のほうでど うしたいかまで気がまわらず , 二十ねんは淡淡とすぎた . 巻き貝のしんからにじりでた者は , 小児をつれてしばし ば長いさんぼをした . 晴れておだやかな日にならいっそう 長いさんばになった . 松と花木の庭庭にやぶまじりの , 人 と行きあうことのまれな土地で , よく知っている道も , ま れにもぐりこむ道も , はじめての道も , ぜんぶうれしがら れた . 道が岐れるところにくると , 小児が目をつぶってこまの 4 みさんこ 0 7 7

5. abさんご

ごく短くてもあ あえてしのごうとけしかけあってもいい るいはじっさいにあけられなくても , あけると決めてそそ のかしあえるのなら , すなわちそれがつぎの幕である . しかし , 二十ねんないし二十六ねん半に逸しかさねられ てきたおびただしい機会とおなじに , おびただしい機会は 死の床のまわりにも逸しかさねられた . まだ弱りつくして いないうちにはそのゆえにひかえられ , すでに弱りつくせ ばそのゆえにひかえられて , けして言いだされないでおわ ることばがひしめきふえる . 親も子もそうされるしかない のをよく知っていた . 二十ねんないし二十六ねん半 , じぶ んもそうしかできなかったのだ . 二十ねんの子のくらしの実態を親は知らない . きこうと こともなく , 住みかわった八か所ものどこも見たこと がない . どれほどみじめであろうと , なんとかじんじよう であろうと , だからどうするということのできないのなら いっそまったく知らないことがえらばれた . これも八しゅ るいほど変わった食べるためのしごと , ずっと変わらない ほんらいのしごと , のぞんだ見聞 , のぞまない見聞 , いく っかの恋と , よくもわるくも立ちどまれない生の夏日のめ まぐるしさへ , ころんでも泣かないがじぶんで立つのを待 4 みさんこ 0 6 9

6. abさんご

ての気がるなともだちあっかいを供されたが , ひとたびと もだちという仮構に立てば年のじゅんからして十七さい が二十九さいより目したになってしまうというあやうさ は , 楽観からも悲観からも放置され , ふくれつのってきて くらべて世俗の地位と収人のある五十四さいは , 対 等という仮構に立ってもやはり目うえである . つきあった 配役が親にとってと子にとってとどれほどことなるいみを もっているかにうかつな親を , 子はすでにたよれなかっ だから浮遊感は , ひとっきの不在のせいというより , ゆいつの身うちの喪の予習だった . 体力のおとろえとぎやくにふえかさむ役職と雑事にこと さらその二ねんほど疲れきわめていた者に , もはや小児で はない者にかまけすぎていないでもっとじしんのつごうを 優先すべきであり , それがけっきよく子のためでもあろう とのすすめはのったほうがらくなことであり , るすはまも るからあんしんして好機を活用するようにというとき , あ んしんとは子の平穏の保証ではなく , 平穏のふりをしつづ ける意地の保証にすぎないのだとは気づかないほうがらく なことだった . 出立の宵はまだ夏やすみで , さしまわされてきた大型車 れみさんこ 0 3 1

7. abさんご

日も風も人らなくしてしまうことになった . 小べやの中 は , そのろくに用をなさない窓ひとっと出入りぐちとのほ かをがんじような書架で厚くかこまれ , 机の上にも本や小 ひきだしがつみあげられて , がらす板をおいたほんの手も とのひとところだけが山かげの小沼のようだった . 机と直 角にも低めの棚がおかれ , 足もとにはたくさんのかーど箱 がかさねられた . 背もたれからひじのせにかけて曲線の木わくのついた布 ばり回転いすは , 戦時のひっこしにあたって新調されたほ とんどゆいつのものだったが , だれもそれほどのせまさを おもいつけなかったのか机につりあう大きさにされたの で , なまじゅったりしたもたれがつかえてしまい , せいぜ い直角の半ぶんぐらい向きを変えられるだけだった . そう やって身をななめにようやく立ちあがった者は , 巻き貝の しんからにじりでるようにして書庫へのひき戸までをこす りぬける . ひき戸のあけたてがまた芸当で , 砂地への安ぶ しんですぐさまゆがんでしまったたてつけを , 身うごきも ままならない姿勢であやさなければならない . むろん庫内 もそまつで潮かぜと砂ぼこりとがようしゃなく人りこみ , 革装に浮くかびのまだらがしじゅうざしきのえんがわへと れみさんこ 0 1 3

8. abさんご

におかれたとたん , けたたましい群れにおそわれてすべて の色を散らしつくした . 教員の足おとでいっしゅんにそれ ぞれの席へひきあげていったあと , つややかなものたちを たずさえてきた者の机には白と灰いろの二まいだけがあっ たが , それはおわりから三まい目を手にした者の慈悲だっ たか , だれもほしがらなかったからか , それともただ びようか二びようの運がすくいのこしたのだったか . けたたましさにあっけにとられて , だがおこるとかとり もどそうとかはかんがえつかなかった者は , 言われた作業 のための選択肢の少なさにいくらかの困惑はよぎらせた が , かえって気らくにすぐとりかかった . くばられた台紙 のまんなかに灰いろのをそのまま貼りつけ , まるく切った 白をその上に六つ並べた . 六つというのは糊の人った大ぶ りのつほ。で型どったところその紙で六つとれたというぐう ぜんなのだが , だからまたおなじ大きさの灰いろの長方形 によこに三つたてに二つ貼り並べたときもちょうどどうど うといつばいになったのだった . 貼るまえにためしおきし て目だたないようなしるしをつけておいたり , 中央をきめ てからわきを配分したりする手じゅんは , おとなあいての 紙あそびでしぜんに習熟されていたので , 色をうしないっ 0 4 6

9. abさんご

男が水筒を片手で押して寄越したので、タミエは磁石付の小さな蓋で七杯位飲み、満足し て、白いツメクサの花の腕輪を編み始めた。 男は同じ勢いで四つめも平らげ、水筒を飲み干し、それからちょっとの間黙ってタミエの 手許を見ていた。なよやかでまっすぐな茎の先で、くるくる捩れて咲く濃い桃色の花を編み ちりば 混ぜると、その塵のような小花が、鏤められた宝石のようにあでやかに見えた。 その花のことはまだ訊かなかったね。うん、これはグルグルソウ。そうか、ス。ヒランテ ス・スイネンスイス : : : 男はまた呪文のようなことを言った。ずいぶんいろいろ教わったっ けが、きっとまだたくさん、僕の気の付かなかったのがあるだろうね。今咲いてるのだけ じゃなくて、もう終っちゃったのとか、これから先のとかさ。 そりゃあもう : : : タミエは憐れむように請合った。自分のまわりに数多の草木が溢れ返っ て、目も鼻も口も塞がれるようであった。そりゃあもう、どんなにたくさんあることだろ う。入れ替り立ち代りこの山に芽ぐみ花開き実る木々草々の種類は、とても数えきれるもの ではない。そしてタミエはみんな知っている。よく知っている。葉の付き工合も、蕾の形 も、花びらの裏側の色も、樹皮の匂いも、茎の折れ方も、花期の長さも、しべの数も。 男は水筒をしまって、かわりにさっきのとはまた別の帳面を出し、タミエに頼んだ。なん でもいいから、今までに言わなかったので思い付いたのを言ってみてくれないか。 どうしたものか、そうしたら途端に、目鼻を蔽うばかりに溢れ返っていた花や葉が悉くど

10. abさんご

らいで , その乾いた軽い容器だけが家出どうぐだった . 代は夕刻とどけたときひきかえるほうがかえってめんど うがないと店さきで言われた者が残暑の午後をさんぼの足 どりでもどると , 車のついででもあったのか , すでにそれ は上がりぐちのゆかで枯れ野の匂いをたてていた . おどろ いているのヘ , もう支払ったと , こともない声が書斎から あり , ちゅうもん者が返そうとするのはあいてにしなかっ た . そんなつもりではなかったのにとちゅうもん者のほう ではむしろ不服の声になったが , 支払い人のほうではきげ んよくおだやかながらてんからうけとるつもりのないちょ うしで , そんなときの子から親へならしばしばそうである ように礼らしい礼も言われないまま , ゆいつの家出どうぐ はととのったのだった . 住みこんで六ねん半になっていた住みこみ人は外出して いて , 夜までは帰らないはずのその日 , 夕刻ならかならず ちゅうもん者じしんでうけとれるつもりのところへのそん ななりゆきだったので , 家出計画者としてはまずはその買 いものの用途をいぶかられないですんだ安堵に気をとられ てその場はすぎてしまったが , やがて七へんも八ペんも住 みかわり , 家具など買わないままのくらしが十ねん二十ね なみさんこ 0 3 9