身動きひとっしない。見張りの男が死体を闇のなかへ引きずっていき、椅子をなおし、拳銃を拾 ーがニックに合図を送ると、彼はテープルへ向かった。 ってテーブルへ戻した。レフェリ マイケルはジュリアンのところへ行き、彼の襟をつかんだ。「俺にやらせろ ! 」彼は大声で言 った。「ニックとやりたいんだ ! 」 ジュリアンは疑わしげに眉をひそめた。 マイケルが彼を揺すった。「やりたいんだ」 ジュリアンは腹を決め、マイケルについてこいという合図をした。ふたりはテープルをまわっ て、部屋の裏のドアへ行った。ジュリアンがノックすると、ドアがわずかに開いた。ジュリアン が何事かをささやいた。しばらくするとドアが大きく開き、四五口径オートマティックをシ ヨルダー・ホルスターに収めたアジア人が、ふたりをなかへ入れた。 はしを使って肉と野菜の料理を食べている。そ 細身のハンサムな中国人がテープルに向かい、 のうしろには、ボディガード がふたり立っていた。ひとりはベルトに拳銃をつけ、もうひとりは年 ー・テレビはっ 銃身を短く切ったショットガンを肩から掛けている。部屋の隅に置かれたカラ 郷 ているが、工場の騒音で音声は何も聞こえない。 故 その中国人は、上目使いにマイケルを見つめた。 マイケルはまえへ進み、テーブルに両手をついて身をのりだして言った。「俺はやりたいんだ。
撃鉄は空の薬室を突いた。 見張りの男がニックをつかみ、椅子から引きずりおろした。 「よせ ! これは俺の勝負だ、俺の勝負だ ! 」ホールへ引きずってゆく男たちともみ合いながら、 ニックが叫んだ。 もうひとりの男がマイケルにつかみかかったが、しばらくもみ合ってその手をふりほどいた。 彼は人々を押しのけてホールへ走った。 中庭に、ニックがしやがみこんでいた。男がその腹を蹴りつけている。ニックは何事かをつぶ まとんど同時にふたりは立ちあがった。 やきながら男の踝につかみかかり、地面に引き倒した。を ニックは、男の胸ぐらにえぐるようなパンチを食わせると男は息をつまらせ、さらに顎へのパン チが決まると、男は倒れこんで気を失ってしまった。 「ニック ! 」マイケルが叫んだ。 年 ニックは向きを変えると、門へ向かって走った。 「待て ! 」マイケルは大声で呼び止めた。「ニック、戻れ ! 戻ってくるんだ ! 」 彼はニックのあとを追った。門からとび出し、左右を見た。先の方に逃げていく人影を認め、林 それを追った。半プロックほど走ると何かにつまずき、もんどりうってひっくり返ってしまった。 3 彼はからだを震わせ、息を切らせて立ちあがった。電柱にもたれ、目を閉じた。頭を振った。ポ
いまだ ! 」 「天使は強力だ ! マイケルは強い マイケルは魔術師だー 彼は銃を取って将校の顔へ向けた。「死ね、下郎 ! 」引き金を引いた。マグナムは大音響を発 し、将校の頭を吹きとばし、もんどりうつように床へ叩きつけた。 ニックは椅子にすわった態勢から、脇にいる兵隊に体当りを食わせた。両手でその兵隊のライ フルを握りしめ、激しく動かして台じりでその頭を殴りつけた。 マイケルは、さらにふたりを射った。ひとりはテープルにくずれ落ち、それとともに倒れこん だ。もうひとりは壁まで吹きとばされ、半分それを突き破って倒れた。下半身は床に、上半身は 外へだらりと垂れている。 ニックも射った。 マイケルは倒れた兵隊からーを奪い取り、ニックを背にして射ちまくった。 残りの兵隊も倒れたが、ふたりが最後の力をふりしぼって銃を発射した。一発が、マイケルの 年 頭上の壁をえぐった。もうひとりが射った二発はニックを捕え、一回転させて床へ倒した。 まだ息のあるひとりの兵隊が、ライフルを構えようとしている。 マイケルは、六発の弾丸を真一文字に射ちこんだ。男はがつくりと倒れ、そのまま動かなくな林 ニックは腹を押さえ、唸っている。マイケルがその脇へひざまづいた。「やったぞ、ニックー
ニックは、信じられないとでもいうように頭を振った。 「おまえか、俺だ ! 」マイケルが = ックに指を突き出してどなった。「準備はできた ! おまえ か俺が死ぬんた ! 」彼は椅子の背もたれに寄りかかり、両手をこすり合わせた。「さあ、これか らが本番だ」 用心深くマイケルを見つめつつ、将校が銃をテープルに戻し、回転させた。回転が止まった。 銃ロはマイケルの方を向いている。 「このげす野郎ども、賭け金を置け ! 」彼が言った。 兵隊たちは、すっかりこのゲームに心を奪われ、興奮して叫び声まであげている。 将校はーをこころもち上へあげ、マイケルに目を向けたままだ。 「おまえら、俺が怖が 0 ているとでも思 0 ているんだろう ? 」こう言 0 て彼らをあざ笑うと、「 イケルは銃を取 0 て同し手順をくり返し、頭へ当てると引き金を引いた。無事だった。 彼は大声で笑った。「大丈夫さ ! 絶対だー このマイクは最強なんだ。マイクは強い。マイ年 クは魔術師だ。イクは生きのびる。さあ、あの音を聞かせてくれ ! さあ、聞かせてくれ ! 」四 彼は銃を = ックの方へ押しやり、指を向けて叫んだ、「さあ、やれ ! 」そして両手を組み、薄林 気味の悪い笑みを浮べて低い声で言「た。「俺の意志のカでここから逃げられるようにしてみせ るぜ、 = ック。おまえが射っ薬室は空だ。いいか、空の薬室を念じろ」
テーブルや椅子は壁ぎわへ片づけられ、たくさんのカップルがぶつかり合いながら争うように自 トナーをかえ、くるくるまわって踊っている。中、老年の 分たちのスペースを確保しつつ、 女が飲み物や食べ物を給仕するふたつのテープルのところで、境界線のようなものができている。 彼女たちは大急ぎで空いたグラスや皿をいつばいにするのだが、それでも間に合わない。ホール の四隅には老人がかたまり、タ。ハコを吸ったり、大真面目に何ごとかを話したり、軽いわい談に 大笑いをしたりして立っている。 マイケルは踊っているカップルたちの脇で、罐ビールを片手に友達の踊りを見つめながらひと りで立っていた。アンジェラはスティーヴンに笑いかけ、リンダはニックにそっと身を寄せ、ス タンは赤く染めた髪を振り乱す丸ぼちゃの三〇がらみの女と踊り、ジョン・ウエルシュはくすく す笑ってばかりいるふつくらした女の子に鼻をすり寄せ、アクセルはプロンドの花嫁付き添いの 女の子 ( たしか名前はベスだったな、とマイケルは思った ) を、周囲の目などいっこうにおかま いなしに熱つぼく抱きしめている。マイケルは、素早くビールを飲みほした。 年 その曲が終わると、何人かの年老いた女たちがグラスをフォークで叩きはじめた。その音はあ っというまに広まり、すぐにホール中がその音に包まれ、他の音は何も聞こえないほどになって脈 山 - しノ スティーヴンはまわりを見まわし、にやっと笑うとアンジェラを抱きあげ、熱つぼくキッスを
人の兵士が金庫を運搬車に乗せようと、悪戦苦闘している。どなったり、悪態をつきながら、人 人がせわしなく動きまわる。キャビネットや椅子などが、あちこちに散らかったままだ。 彼らはジープを降りた。「マクダウエル司令官にお目にかかりたい ! 」大佐が叫んだ。 彼の脇を走り抜けようとした軍曹が、疑いの目を向けた。「冗談でしょ ! 」その場の混乱を示 すように大きく腕を広げて、彼が言った。 マイケルは、こっそりとジープをあとにした。通用門から外へ出ると、司令部の前にタクシー がやってきた。大尉と中尉が降り、ゲートをくぐってなかへ入っていった。 マイケルは、運転手に合図を送った。タクシーがやってきて、彼が乗りこんだ。 ソウ . レ . く ミシンツ。ヒ / ーだ。店は以前のように暗く、混み合ってい 彼は行き先を告げた。 た。が、音楽は以前にもまして騒々しくなり、人々の声も荒くなっている。そしてゴーゴー ンサーはスタフライも着けず、腰をくねらせ、互いに尻を当てて卑猥な踊りを見せている。すべ てが終わりに近づいており、人々はこうした大騒ぎに身をまかせているのだった。 マイケルは、キッチンへ通じるドアへ行き、なかへ入った。彼は、捜していた片眼の老ヴェト ナム人を見つけた。その男に五〇ドル払って多少の情報と、服を手に入れた。 角で燃えあがるビルが、夜空を赤く染めている。通りは記憶にもあるそのままの姿だったが、 200
教会のドアが、荒涼とした冬の外へ向かって開かれた。マイケル、スタン、ジョンの三人が、 国旗に覆われたニックの棺を持ってゆっくりと現われ、階段を降りた。マイケルとスタンが棺の 片側を、反対側を長身の力強い大男ジョンがひとりでもっている。彼らのうしろにはスティーヴ ンの車椅子を押すアクセルがつづき、階段を一段一段慎重に降りていった。車椅子の脇にはアン ジェラがっき、片手で彼の手を握り、もう一方の腕を息子にまわしている。 彼らは棺を霊柩車に載せ、それぞれの車に乗りこむと霊柩車のあとについて墓地へ向かった。 墓を囲んで立っ彼らに、風が吹きつけた。雪を舞いあげ、空高くそびえる製鋼所の五本の大きな 煙突から、五本の長い指のような煙を運んでくる。 祈りは短いものだった。牧師は詩篇第二三番で終えた。 : なんじ敵とともに我が前に席を とれ。なんじ我が頭に油を塗れ。我が器はあふれん。我が人生の日々、良きこととあわれみが従 いきぬ。そして、我永遠に神の家に住まん。アーメン」 アクセルは、墓の横へスティーヴンの車椅子を押しあげた。雪でぬかるんだ泥に車が取られ、 他の者が手伝った。スティーヴンは椅子のうえで前かがみになっている。彼は黄色いすいせんを 墓に投げ入れた。「さよなら、ニック」 マイケル、スタン、アクセル、ジョンの四人もそれそれ一本すっ花をもち、スティーヴンにつ づいて墓へそれを投げ人れた。 214
床下では、小屋のくいに巻かれた有刺鉄線のかごに閉じこめられた南ヴェトナム人やアメリカ 人の捕虜が、床板の割れ目を通して見あげている。彼らは切り傷やすり傷だらけで、やつれ、汚 らしく、両ひじを背中でしばられている。 ヴェトコンたちは最後の賭け金を置き、ロを閉ざした。 将校が銃を上へ向けた。屋根に銃口を向け、一瞬ためらったが、すぐに引き金を引いた。 耳をつん裂くような大音響が轟いた。銃弾が屋根に穴を開け、ふいてあるわらくずがばらばら と落ちてきた。 将校が、マグナムにもう一発の弾丸を装填し、弾倉を回転させ、椅子にすわった捕虜のあいだ に置いた。彼が銃をその場で回転させた。二、三度回転すると、銃は止まった。銃は若い捕虜の 方を向いている。彼は舌で唇をなめ、銃を取って撃鉄を起こし、銃口をこめかみに当てると引き 金を引いた。撃鉄は、空の薬室を打った。 将校が銃を取り、テープルにのせると、年上の捕虜の方へ押しやった。 , 。 彼よどうしようもなく年 震えている。その震える手で銃をつかみ、弾倉を回転させると銃口を頭に当て、撃鉄を起こし、期 林 唸り声をあげて目を閉じた。引き金を引いた。何事も起こらなかった。 ヴェトコン兵たちのあいたに不満の声があがった。 将校が銃を取り、弾倉をまわし、撃鉄を起こすと、少年のこめかみに銃口を当て、自分で引き