てランプを出た。キャデラックは、、 / イウェイの下を通る道路をぐるりとまわり、ディヴィジョ ン・ストリート へ出た。一瞬、べったりと広がる製鋼所の明かりに目を走らせ、スティーヴンの 家へ向かった。 そこへ着くと、マイケルは車を縁石へ寄せ、ホーンを鳴らした。アクセルとスタンがうしろの 窓を開けて身をのり出し、ドアやルーフを叩いて口笛を吹いたり大声をあげ、スティーヴンとア ンジェラを呼んだ。マイケルは断続的にホーンを鳴らした。近所の大が吠えはじめた。家々の窓 に、人影が現われた。 二階の窓が開き、スティーヴンが身をのり出して手を振った。 「おい、ステーヴ ! 」アクセルが大声で呼びかけた。「感想はどうだ ! 初夜のお味は ! 」 うしろの座席で、アクセルとスタンにはさまれたジョン・ウエルシュが言った。「おい、俺の 所へ行って一杯飲もう」 「よし ! 」 「それがいし ! 」 「 ( 行こう」 マイケルがギアを入れ、猛烈なはねをあげて車を発進させた。 89 山脈 1968 年
「どめだ。・ フーツも、何もかも、だめだ。もう二度と貸さない」 スタンが顎を突き出した。「おまえは、なんて奴だ。わかってるのか ? 情ない自分勝手な野 郎だよ」 マイケルが立ちあがった。指を地面に向けている。「これはこれだ、スタン。他のことは関係 ない。これはこれなんだ ! 今回は自分で何とかしろ」 「俺はな、何度となくおまえの手助けをしてきたんだぞ、マイク ! 」スタンはみんなの方へ向き なおって話しかけた。「何度となく手助けをしたんだ。女のことだって、何度助けてやったかわ 、か、り・ . やよ 1 オい。だから何事も起こらずにすんだんだ。何もだそ。これつぼっちもだ」 「やめろよ、スタン」アクセルが言った。 スタンも振り向いて指を突き立てた。「おまえのやっかいなところはな、マイク、おまえの言 うことが誰にもわからないってことなんだよー 『これはこれだ』だとー どういう意味なんだ、 『これはこれだ』ってのは ? 」 年 彼は、またみんなに顔を向けた。「俺が言いたいのはな、それは人をけなすホモ野郎のたわご囲 とか、ただのホモ野郎のお題目だってことさ。さもなけりや、何だというんだ ? 」 脈 山 彼らはいくらか困惑して姿勢を変えた。 スタンがマイケルの方へくるりとからだをまわした。「俺が何を考えているかわかるか ? と
デラックを取り返した。すでに町を出て一時間たっていた。彼らは汚れたタキシードを着たまま、 ナップサックや寝袋やライフルや罐ビールのケースのあいだに、ぎゅうぎゅう詰めになって乗っ ている。ビールのロが開けられ、まわし飲みだ。 「天国からーー」マイケルがうたった。 ニックも加わった、「十一人が降りて来た、ジェロニモ ! 」 「何だそれは、 しオし ? 」スタンが訊いた。 「ワシの叫び、空輸の歌さ ! 」 「ケツの叫びだろ ? 」スタンが言った。 「そのとおりだ ! 」アクセルがこう言って、勝手にうたいはじめた。「俺を自由にしてくれー 俺を自由にしてくれ ! もし : : : おまえが : : : 俺を自由にしてくれたら : : : おまえはいつも幸せ になるだろう : : : 俺といっしょに ジョンが両手を口に当て、トランペットの音を真似た。「ウアウアウアー 空が白みはじめた。マイケルが目をしばたかせてうなずいている。彼は車を脇へ寄せて止め、 運転をニックと代わると、即座に眠ってしまった。 キャデラックはゆっくりと進んだ。新雪を踏みしめてタイヤがキュッキュッと鳴り、背後に粉 雪を舞いあげている。
スティーヴンは、彼の肩を叩いてにんまり笑った。 : 、 カその表情には不安が見てとれる。その 原因はアクセルにあるのではない。彼はアクセルが好きなのだ。そうではなく何か別なもの、自 分自身でもはっきりとはわからない何か、解決のついていない何か、に関しての不安だった。彼 とて、少年期はもう過ぎている。が、すっかり大人の世界へ入りこんでいるわけでもないのだ。 ニックが目くばせをした。「気をつけろよ、アクセル。今夜からは奴を『火の玉』と呼ばなけ りやいけないんだからな」 「そのとおりだ」アクセルが答えた。 「スタンがいるそ」 「スタン ! 」ニックが大声で呼んだ。「こっちだ ! 」 「スタン ! 」スティーヴンも叫んだ。 駐車場の車へ向かう人の流れに流されながら、スタンは首をまわした。 ; 、 カ彼らがどこにいる のかわからない。 「奴をひつばってこいよ、アクセル」マイケルが言った。 「よしきた」 アクセルは労働者のなかへ分け入り、スタンを連れて戻ってきた。五人の男は風と雪のなかを、 背中を丸めて駐車場を歩きはじめた。 17 山脈 1968 年
あのアメリカ人とやりたい ! 今すぐにだ ! 」 「な・せだ ? 」 マイケルはポケットを探り、もっているカネすべてを出してテープルに置いた。「こいつのた めさ ! 」 中国人はそのカネに目を向けた。彼はジ = リアンに手招きした。ジ = リアンが彼のところへ行 き、頭を近づけた。ふたりは二、三分協議をしていたが、やがて中国人が手を振り、食事をつづ けた。 ジュリアンがマイケルのところへ戻った。「許可がおりたそ」 ふたりは部屋を出た。 = ックの向かいに、ヴ = トナム人がすわっている。レフェリーが弾倉に 弾丸を一発装填し、みんなの目に触れるように高々とかかげた。 ジュリアンが話しかけると、レフリエリ ーが肩をすぼめた。彼がヴェトナム人に何事かをささ やくと、その男は椅子から立ちあがり、脇へどいた。 マイケルがすわった。彼を見つめるニックの額に、困惑のしわが入った。 レフェリーが拳銃をまわした。銃は、 = ックを指して止まった。 = ックはそれを手に取り、銃 口を頭に当てた。彼はマイケルの目を見つめ、何かを思い出そうとするかのように口をすぼめて 210
カ表情は空ろなまま変わらない。 ニックが目をあげ、マイケルを見つめた。 ; 、 マイケルは大急ぎでテープルをまわり、ニックに近づいた。「おい、ニック ! 」彼は大声を出 ニックは、退屈した男が窓から外の雨をぼんやり眺めるような目を、マイケルに向けた。 「ニック何か一 = ロってくれ ! 」 ニックは彼の目を見つめたが、何も答えなかった。 二、三人のギャンプラーがふたりの方へ目を向けたが、何事もないのでまた勝負の方へ注意を 戻した。 「おまえはいつも、この俺が気違いだと言っていたな ! 」マイケルが叫んだ。「なぜこんなこと をしているんだ ? いったいどうしたというんだ ? 」 ニックは、・ほんやりしたままだ。 「俺は、目的もなしにこんな所へ戻ってきたわけじゃない ! 」マイケルが言った。「 の街はもうおしまいなんだ。今すぐ脱出しなければならない ! 」 マイケルの背後で。小さなはじけるような音がした。ニックの目がゆっくりと動いた。マイケ ルも振り返って見た。 勝負師のひとりが、床にころがっていた。左側頭部は血まみれで、白い骨の破片が散っている。 した。「俺と会っても、何も感じないのか ? 」 しし、刀」 208
マイケルはからだを伸ばして、助手席の窓を叩いた。 「大丈夫かい ? 」 彼女がうなずいた。「人生がこんなふうになるなんて、考えたことある ? 」 「いや、ないね」 彼はドアを開けた。リンダは一瞬立ちつくしたが、やがてすばやく乗りこむと、ドアを勢いよ く閉めた。 真っ暗なトレーラーのなかに、通りの街灯の明かりがわずかに入りこんでくる。 マイケルは頭のうしろに手をまわし、裸のままべッドに横になっている。心のなかは空つぼだ が、努めてそうしようとしていたのだ。 が、からだは緊張し、興奮し、飢えていた。手の平と足の裏には、うっすらと汗がにじんでいる。 パスルームのドアが開く音がした。素足が居間を抜けて寝室へやってくる。リンダが、窓を背 にシルエットになったーーー裸のままだ。頭を下げ、やわらかい髪が頬にかかっている。乳房は品 のある大きさだ。背中の曲線は優雅で、脚はほっそりしている。やがて、彼女はマイケルの横へ すべりこんできた。 リンダの手が彼の頬に触れ、やがてゆっくりと下へ這っていき、指先が胸に触れると唇がマイ リンダがやってくると、彼は窓を開けた。 186
ボウラドロームは混み合っていた。リンダは、スラックスにセーターを着ていた。両手にポー ルを抱え、足をそろえて立って。ヒンを見つめている。三歩の助走をすると、右手のポールが大き 年 くスウイング・バックし、次の瞬間には腕が前へ振りおろされてポールが転がっていく。 マイケルは、レーンを転がるポールではなく、リンダを見つめていた。彼女はしなやかで足が四 長く、とても美しい 故 ピンが七本倒れた。リンダが振り向いてマイケルに笑いかけた。カウンターに腰かけた彼も、 彼女は、ボールが戻ってくるのを待っている。 笑い返した。 / リンダはべッドの脇へ行き、飢えたような目で彼を見おろした。思わず彼女の唇から小さな声 がもれた。バスタオルを床へ落とし、彼の横へすべりこんだ。べッドの脇のスタンドを消し、彼 彼女はマイケルに腕をまわし、窓 に毛布をかけてやると、リンダはびったりと彼に寄りそった。 , の外を眺めた。製鋼所の炎が、夜の闇に舞っていた。
「奴は苦労性なんだよ」アクセルが言った。 マイケルは頭を振った。「そんなことより、飲みにいこうぜ」 三人はスタンの車に乗り、近くにあるジョンの店へ向かった。 店は、すでに混み合っていた。誰もがマイケルと握手をしようとし、肩をゆすったり、腕を取 ったり、なんとか彼に触れようとした。みんなが彼を丁重に、暖かく迎えた。誰の口からも冗談 はとばなかった。 ジョンが彼を見つけ、カウンターからあわてて出てきた。マイケルに両腕をまわし、抱きしめ 「元気だ、ジョン」 「裏へ来いよ。この連中から逃げ出そうぜ。アクセル、スタン、来いよ」 ンがバーテンのひとりに何か指示し、四人はキッチンへ入っていった。ドアが閉まり、店 のざわめきが小さくなった。しばらくして、 ーテンがシーグラムのポトルと、ビールとグラス を持ってきた。 / 。 彼よマイクに笑いかけ、カウンターへ戻った。 「さあ、いこう」ジョンが酒を注ぎ、グラスをあげた。「マイクに乾杯 ! 」 「そうだ、いい そ ! 」アクセルが合づちを打った。 「そして、他の連中に」スタンが言った。 た。「やあ ! 帰ってきたな ! 元気か、マイク ! 」 164
「まるで同じさ」 「それじゃ、コートを脱いで」 彼がコートを脱ぐと、リンダがそれを椅子にかけ、セーターを頭からかぶせて着せた。リンダ は、彼に触れると両手をあげてしまった。セーターがひどく大きすぎたのだった。からだのまわ りはもこもこし、太腿のところまである。 「大きすぎたわ」マイケルから脱がせながら、リンダが言った。「でも直せるから。直せるわ しいところは、簡単にーーーでも、ちょっとひどいわね ! 」 彼女はくるりとからだをまわし、怒ったように手で目をこすり、セーターをごみ箱につめこん で、おし殺したような声をだした。 「それで : : : 仕事の方はどうなんだい ? 」 マイケルが穏やかに訊いた。他には何も考えっかなかったのだ。 リンダは、頭を軽くのけそらせた。「ええ、素晴しいわ。最高よ。一、二度、つぶれそうにな ったけれど。さあ、そろそろ行かなければ」不意にリンダがこう言った。彼女はクロゼットから 自分のコートを出した。 「丘の下までいっしょに行っても、 しし、刀し ? 」 彼女は足を止め、ため息をついた。彼女のからだから堅さが消えていった。「あなたって、お 巧 8