降り - みる会図書館


検索対象: ディアハンター
177件見つかりました。

1. ディアハンター

スタンレー そいつは空っぽなんだぜ」 「おや、そうかい ? 確かか ? 」スタンの表情が激しくなっている。「やってみようか、この野 ドアが開き、風と雪が吹きこんできた。マイケルが立っている。彼のほほえみが一瞬凍りつき、 次の瞬間、それは激しい怒りの表情に一変した。 彼はライフルを落としてスタンに突進し、その手から拳銃を叩き落として背中をいやというほ ど殴った。 スタンが立ちあがった。「おい ! 」 マイケルが拳を固めて彼につめ寄った。 アクセルは、あわてて背後からマイケルを押さえつけた。「落ちつけ、マイク、落ちつくん 「何てことをするんだ」拳銃を拾いあげて、スタンが文句を言った。「こいつに弾丸が人ってる とでも思ってるのか ? 」 「貸してみろ ! 」マイケルが拳銃をひったくるように取った。天井に向けて引き金を引いた。 小さな小屋に、すさまじい銃声が響いた。天井の破片がばらばらと落ちた。 アクセルとスタンがあんぐりと口を開けたまま、身動きひとっせずに立ちつくしている。 182

2. ディアハンター

電 一気 . が と も り 、近 ァ ン の 向 う に は 薄 明 力、 り が 見 ん る 、走 か へ 人 っ た 川 い 、ら ば ん 近 い は ず れ の 軒 を い て ど の 敷 も 真 暗 だ っ た ド ア の 目リ 彼 は 塀 を み ゆ っ く り と 通 り を 渡 ナこ 少 し の あ し、 だ 門 の 目リ に 立 ち や が そ れ を リ目 け て な 本反 に 囲 ま れ 軒 と 屋 根 カ ; そ の 塀 し に 見 え て し、 る 歓 と や じ が 聞 ナこ ヴ 工 - ト ナ ム 衄 だ な し、 尸 は 通 り の 向 か い 建 ち 並 ぶ 木 の 屋 敷 の ど か か ら 聞 ん の 屋 敷 は 波 状 鉄 ビ ス ト ル の 鋭 い 銃 大口 に 彼 は 回 転 し て か が み だ 両 手 を あ げ 目 ま た い た 誰 も 見 イ イ 雪 カ : 降 っ て る ぜ イ イ 雨 が 降 つ て 抑 も つ け ず に 彼 0 よ 何 度 も 何 度 も ぶ や く よ う に う た イ イ 風 が て る ぜ か ら だ を 縮 め る の だ た ッ ク の 0 よ 空 虚 だ っ た 汗 を 力、 き 顔 は 紅 潮 て る が 寒 身 を わ せ も し お も わ る 影 は な し、 カ : あ ち ち 力、 ら 丘 隊 を の せ た 輪 ク か な り て る ッ ク は の く の 細 い く ね く ね と 曲 が 通 を ら ぶ と い て た ほ か て ン が む せ よ に 聞 ん る 夜 の 北 西 の 空 が と ど き 砲 火 照 ら し 出 さ れ る 大 砲 の 日 忍 び み く イ レ 137 密林 1970 年

3. ディアハンター

ねてくれてありがとう、マイケル」 彼は、トレーラーへ向かって坂を登りはじめた。片手をポケットに入れ、あの紙切れを握りし めている。少し雪が舞っていた。セント・デイミトリアス教会を過ぎた。ミサが行われている。 聖歌隊がうたっている。深みのある、なめらかな声だ。 角に電話ポックスがあった。ドアが半分開き、雪が吹きこんでいる。紙切れをいじりながら、 マイケルはためらった。その場で立ち止まって目を閉じ、風を避けるようにコート、 のえりをす・ほ めた。目を開き、電話ポックスに目を向けた彼は、やがて、歩きはじめた。 マイケルは、トレーラーの闇のなかにすわりこんだ。椅子の脇に、猟の装備を引き寄せた。通 りの向こう側の街灯の明かりが窓から忍びこみ、長椅子の脇のテープルを照らしている。その上 には、電話が置かれていた。 マイケルはそれを見つめた。右手の関節を、ひとつずっぽきつ、ぼきつ、と鳴らし、右手が終 えると左手にも同じことをした。 ドアの外の階段で、がさがさという音が聞こえた。シルエットになったリンダが人ってきた。 食料品の袋を抱えている。彼女が電気のスイッチを入れた。 「マイケル ? 」 168

4. ディアハンター

マイケルは、それが走り去るのを見つめていた。「これでいいんだ ! 」彼が叫んだ。 鹿は、藪のなかへ姿を消した。 近くの斜面から、かすかなこだまが返ってきた。これでいいんだー あたりはもう真っ暗だ。コールマンのラン。フに火が灯された。風のせいで、たるきに吊るされ たそれがゆらゆらと揺れる。ジョンはいびきをかいて寝袋で眠っていた。アクセルとスタンは、 酔ったままライフルの手入れだ。 スタンが先に終え、脇へ置くと、こんどはホルスターから三八口径を取り出して、オイルで磨 きはじめた。 「そんなものをこんな所まで持ってきて、どうするんだ ? 」アクセルが訊いた。 「もしものときのためさ」スタンが、つつかかるように答えた。 や 「もしもだと ? もしも何だい ? おまえの女友達が森林警備隊の奴と交ってる所へでくわした年 ときのためか ? 」 スタンの顔が青ざめた。彼は撃鉄を起こし、アクセルにつきつけた。「もう一度言ってみろ ! 郷 もう一度 ! さあ ! 」 アクセルが鼻で笑った。「おまえときたら、カッとすると何もわからなくなっちまうんだな、

5. ディアハンター

き出ているウインカーのレバーをはじき倒した。 彼はダブル・クラッチを踏み、ギアを一段ずつシフト・ダウンしていった。トラックがス。ヒー トを落とすと、ンジンのノイズが高まる。側道へ近づくとプレーキに足がかかった。圧搾空気 がこも「たような破裂音をあげ、トラックは ( イウ = イから出口のランプへとゆ「くり方向を変 えた。運転手はそこでもう一段ギアを落とす。トラックはランプのカーヴに沿って弧を描き、 イウ = イの下を抜けて古い二車線道路へ出た。路肩の標識にはクレアトンと書かれ、その下に人 ロ三万六千五百、の文字が読める。 その町は狭い谷間にあり、そこから両側の山の上へとのびている。家々は小さく、渦巻いて降 る雪をとおして薄暗い朝に見ると、黒っぽい小さなドームのようだ。 しかし、雪や光の弱々しさも、山々に対してさえ挑戦的な姿をみせる、四方にのびた巨体、谷 間を威圧し、町を小さくみせる巨大な製鋼所を、かくすことはおろか霞ませることさえもできな それはくねくねとひろがり、アーチを描き、大きく複雑なパターンをつくりだしているが、 とてもひと目で見渡せるものではない。建物のうえには十二階の高さに匹敵する溶鉱炉が五基、 空に向かって突き出し、白い煙を吐いている。そしてその下にも、多数の煙突やフード のついた 通気孔がある。そこから吹き出す水蒸気がゆらゆらと大きくうねっての・ほり、凍てつくような空 へゆっくりと消えていく。 工場の汚れた窓の内部に、飛び散る閃光が見える。 8

6. ディアハンター

一五分後、ジ = リアンは流れを外れ、ポートを半分腐りかけた小さな桟橋へ向けた。その大半 は通る船が起こす波に揺られて水につかっている。船着場の端の陸地側には、エッソのガソリ ン・ポンプが二基設置されている。が、機械には南京錠がかかり、チェーンが巻かれていた。そ の向こうには、トラックの車庫に囲まれた二階建ての倉庫がある。その脇には、月の光を不気味 に反射させる五ガロン罐が、幾山にも積まれていた。 ジュリアンがポートを着けてエンジンを切り、水の中へ降りた。彼の体重で桟橋が揺れた。彼 はポートのまえへ行き、桟橋の奥まで引っぱっていくとそれをロー。フでとめた。マイケルが降り た。桟橋がさらに深く水中へもぐった。水がひざのあたりまでくる。 建物のなかから、打ちつける音やカチャカチャいう音が聞こえてくる。 「工場だ」ジュリアンが口を開いた。「あの罐を造っている」 入口があり、その脇には二 ふたりはその方向へ歩いた。工場の音が次第に大きくなっていく。 階の入口へ行く木製の階段がある。二階の壁のすきまからは薄明かりがもれてくるが、一階には年 何も見えない。 郷 「ここで待ってくれ」ジュリアンが言った。彼は階段を登り、ドアをノックした。 故 カ彼の顔を見ると勢いよく閉まってしまった。 ノックとほ・ほ同時にドアは開いた。 ; 、 ジュリアンはドアを叩き、中国語で何事かをどなっている。もう一度ドアが開き、顔に傷のあ

7. ディアハンター

アクセルもジョンも、小さすぎてきゅうくっそうなタキシードを着ている。ふたりとも、大き く引き伸ばされたトウィードルダムとトウィ】ドルディのように瓜ふたつに見える。ふたりはバ ・。 ( ック、ライフル、アノラックをもち、マイケルのキャデラックのトランクを激しく叩い ていた。 「アクセレ もう少し待ってくれ」 たのむから ノ ! 」ニックが叫んた。「ジョンー 酒に酔ったアクセルが大声をだした。「こんちくしよう、開こうとしないぜ ! 」 マイケルが雪のなかを車に近づき、指をさした。「ここを蹴るんだ。ここだ、アクセル、そっ ちじゃない」 「どこを蹴れって ? 蹴るところを教えてくれりやいいんだ」 「ここだ」マイケルが言った。「ここを蹴るんだ」 アクセルは目を細め、一歩うしろへさがって片足をあげ、水圧。ヒストンのように靴でトランク を蹴った。 トランクが勢いよく開いた。 「本当だぜ ! 」アクセルが声をあげた。 べこべこになるまで蹴りまくればいし 「よし ! 」ジョンが言った。「盗まれないように、 彼は頭をあげた。「おっといけない ! 俺はな、つまり、俺のいいたいことは、そのーー」 45 山脈 1968 年

8. ディアハンター

ひとつの人影があった。彼は手袋をした手を叩き、足踏みをしている。男は、長いことそこにじ っとしていたのだ。彼はトレーラーに向かっておりはじめた。 男はドアをノックして待ち、もう一度ノックした。ドアが開いた。リンダは思わず息を呑み、 その場に立ちつくした。彼はリンダににこっと笑いかけた。 リンダは気をとりなおすと、彼の腕へとびこんでいっこ。 ナ「マイケルー マイケル ! 」彼女は がむしやらにマイケルを抱きしめた。 ふたりがからだを離すと、マイケルは彼女をまじまじと見つめた。穏やかな声で、彼が言った。 「これまでのきみより、ずっときれいだよ」 一瞬、彼女は顔をそむけた。「私 : : : マイケル : : : 私 : : : ニックがあなたといっしょに帰って くるといいのに、と思っていたの」 「すまない。 っしよじゃないんだ」 リンダは、もう一度彼の腕に抱かれた。「マイケル ! みんな、あなたがいなくて寂しがって いたのよ ! お帰りなさい ! 」 ふたりはからだを離した。リンダが、鋭い目を彼に向けた。 「ニックについて何か知ってる ? 」 「全然知らないんだ。彼が無届け外出をしたきりだということ以外はね」 156

9. ディアハンター

りさえすれば、どこへでも行きたい所へ行けるー、ー命令書は容易に盗まれ、偽造書類も見過ごさ れ、政府の検査官もろくに確かめずに人を通す。ワイロの効き目は十分だ。それというのも、み んなが発覚を恐れて普段以上のワイロを手渡すからだ。 マイケルはくたびれ果てた旅のすえ、五日目の夕方、ようやくサイゴンの上空へ着いたのだっ た。黒煙が地上を覆い、エプロンには死体がころがり、六機のジェット戦闘機が燃えあがってい る。兵隊たちが残骸を片づけ、防衛ラインを形成している。ジープやトラックがせわしなく動き まわり、西の方では砲撃戦が行われている。 マイケルは窓の外を眺めた。世界の終焉を見る思いだった。 通路の向こうにすわっている大佐が声をかけてきた。「何ということだ。奴らめ、空港に攻撃 をかけてきた ! 」 マイケルはうなずいた。 「ばか野郎 ! 」大佐が言った。 砲撃を避けるため、パイロットは損傷を受けた滑走路を使った。着陸もかなり荒かった。機体 が止まると、乗客たちはシートベルトを外し、出口の方へ集まった。 大佐が、神経を引きつらせたような若い少佐に忠告を与えている。「もうひとっ言っておこう。 いいか、メロンはロにするな。川の水が注人されているんだ」 195 故郷 1973 年

10. ディアハンター

「どめだ。・ フーツも、何もかも、だめだ。もう二度と貸さない」 スタンが顎を突き出した。「おまえは、なんて奴だ。わかってるのか ? 情ない自分勝手な野 郎だよ」 マイケルが立ちあがった。指を地面に向けている。「これはこれだ、スタン。他のことは関係 ない。これはこれなんだ ! 今回は自分で何とかしろ」 「俺はな、何度となくおまえの手助けをしてきたんだぞ、マイク ! 」スタンはみんなの方へ向き なおって話しかけた。「何度となく手助けをしたんだ。女のことだって、何度助けてやったかわ 、か、り・ . やよ 1 オい。だから何事も起こらずにすんだんだ。何もだそ。これつぼっちもだ」 「やめろよ、スタン」アクセルが言った。 スタンも振り向いて指を突き立てた。「おまえのやっかいなところはな、マイク、おまえの言 うことが誰にもわからないってことなんだよー 『これはこれだ』だとー どういう意味なんだ、 『これはこれだ』ってのは ? 」 年 彼は、またみんなに顔を向けた。「俺が言いたいのはな、それは人をけなすホモ野郎のたわご囲 とか、ただのホモ野郎のお題目だってことさ。さもなけりや、何だというんだ ? 」 脈 山 彼らはいくらか困惑して姿勢を変えた。 スタンがマイケルの方へくるりとからだをまわした。「俺が何を考えているかわかるか ? と