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検索対象: 大陸縦断列車抹殺計画 カサンドラ・クロス
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1. 大陸縦断列車抹殺計画 カサンドラ・クロス

ヘルマン・キャプランは、五〇代も後半の道化じみた男だった。見たところ陽気に振る 舞っていたが、これまでの半生で積み重ねてきた苦悩の傷痕はおおい隠すことはできなか った。額に刻まれた二本のしわの深さが、それを物語っていた。 とはいえ、いまの彼は申し分なく明るい気分にひたっているようであった。本を抱え、 通路に立って、走りゆく車窓の風景に見入っている男に、彼は話しかけた。 深「ヘルマン・キャプランです、よろしく 「こちらこそ、ジョナサン・チ = ンバレンですー 正 二人は握手を交わした。 日 曜「ところで、あなたは腕時計をしておられませんね」キャプランはちょっとお道化た口調 で言った。 「たまたま極上の時計を持っているんですがね。お讓りしてもいいんですよ」 《 = 一一 2 ~ 03 P. M.

2. 大陸縦断列車抹殺計画 カサンドラ・クロス

イスラエルから戻る途中のアメリカの大学生が収まっているコンパートメントでは、い まやパーティがたけなわだった。彼らはギターや即席のさまざまな楽器をひつばりだし、 手持ちの安物のワインをつぎつぎに空にしていた。 午学生たちの陽気な騒ぎに、ほかの乗客の注意が注がれた。とりわけ数人の兵隊は、気を 惹かれたようにみえた。彼らは兵舎住まいをしている者にしかわからない、熱い憧れの眼 町差しで若い娘たちに見とれていた。彼らの一人は、おい見ろよ、といわんばかりの仕草を 一して、仲間をつついた 曜兵隊たちの視線をたどると、そこにはスーザン・フ = アモントがいた。スーザンは二〇 歳。ィリノイ州ゲイルズバーグ出身の大学三年生で、暑さのせいか、しどけなくプラウス ーゼルは、なにをぐずぐすしているんだ ? 」

3. 大陸縦断列車抹殺計画 カサンドラ・クロス

XXIV/IO ~ 26 AO M. エレナは壁のスクリーンの前で、地図上の列車の位置を一心に見つめていた。点滅する 午赤いランプが、大陸縦断列車がカサンドラ・クロスに近づきつつあることを示していオ 橋そのものは、列車の経路を横切っている何本もの非常に細い線と手書きの「カサンドラ」 という文字で、表わされていた。 明 一地図上では、橋までの距離は、二・五センチ足らず。縮尺率から逆算すると、およそ八 曜〇キロだった。コンビューターは、到着時刻を六七、八分後。正確にいえば、午前一一時 三七分とはじきだしていた。 は君と一緒だったからさ : : : 。君のためにしたことなど、なに一つないんだよー 彼はチェンバレンと連れだって、出ていった。あとに残った彼女の目に、・苦悩の色が広 っ一」 0 193

4. 大陸縦断列車抹殺計画 カサンドラ・クロス

キャプランは、コンバートメントの空気がにごってきたように思った。彼は通路に出て 「ノブをまわせば、新鮮な空気が入りますーと表示のある室内換気装置を調節していナ 乳飲み子を抱いた女性が、そばに立っていた。赤ん坊は、火がついたように泣いていナ 熱が出はじめたらしい。母親は腕のなかの赤ん坊をゆすり、やさしくあやしてなだめよう 深としていた。だが、い「こうに泣きやまず、ほかに術もなく困りはてていた。彼女はキャ プランを見つめ、困りましたわと言うように、肩をすくめた。 午 一キャプランは自分の耳からビンポン玉をとりだして、赤ん坊の気を惹こうと努めた。そ 曜れが効かないので、今度はどこからともなく腕時計を出して見せたところ、赤ん坊はます ます激しく泣きだした。 彼はわざとゆっくりうなずいた。「うん、行こう」 X 一《一 9 ~ 00 P. M.

5. 大陸縦断列車抹殺計画 カサンドラ・クロス

ようにジェニファーに向かって、肩をすくめて見せた。だがチェンバレンは、調理室にい た男の顔をふと思いだした。息を大きく吸いこみながら、彼は目をむいた。 「なんということだ」彼はマイクにかがみこみながら、吐き出すように言った。「大佐、 あなたのいう男は、この列車に乗っています。しかも、彼は生きています。少なくとも、 私が彼を見かけたときは ! 少し前には、彼は生きていました カらだをこわばらせた。「生きている ? それでは、 マッケンジーは勝ち誇ったように、 ) 彼を探してくれ、チェンバレン博士 ! あなたが彼を探してくれれば、われわれが彼を降 ろします ! 」 マッケンジーは電話を切り、スタック少佐に大声で命令を下した。 エレナ・ストラドナーは、ビデオ・テープのところへとってかえし、増殖をつづけてい 夜 深る病原菌の非情な姿を見つめた。彼女は呟いた。「だけど、そんなこと考えられないわ。 か仲間は、五時間以上も前に死んでいるのに 正 日 曜

6. 大陸縦断列車抹殺計画 カサンドラ・クロス

「イアゴーがとても喜びますわーニコルは、チェンバレンや尼僧の皿からラム・チョップ の残りを集めながら言った。 「まだ食べ終わったわけじゃありませんのよ」 尼僧はいくぶん遠慮して答えた。こういった大好きはまったく困りものだ、とチェンバ カテープルにあたふたと駆けよったので、そ レンは顔をしかめた。そのときジェニファーゞ こで二人の会話は跡切れた。 「ジョナサン、お話があるの」 ニコルがひやかすように言った。「やつばりドクターは女の人を隠していらしたのです ね。気づいてはいましたけれどー 「いや、私が彼女から隠れていたというのが本当のところです。こちらは私の前の家内、 夜 深ジェニファーです」とチェンバレンは答えた。 ナバロは自分が挨拶する番がくると、ジ = ニファーの手をとってキスしたが、気がせい 一ていた彼女のほうはそれに気づかなかった。 曜「ジョナサン ! さあ ! 」 金 チェンバレンは、明らかに苛立っていた。

7. 大陸縦断列車抹殺計画 カサンドラ・クロス

赤十字のマークをつけた一台のヘリコプターが、午後の空に飛び上がった。 マッケンジーは、ヘリコプタ 1 に大陸縦断列車を見つけ、あとを追うよう命じた。もし 生きている間にスウ = ーデン人を確認できたならば、彼は自分の手で患者をジ = ネープに 連れ戻したいと思っていた と同時に、彼は秘密を守るうえから、鉄道関係筋と列車の運行を変更する交渉において 深 も、すでにつくり話をまとめあげていた。したがって、感染した男を探し出すために列車 午の乗務員の手をい「さい借りるわけにはいかよかった。 一またエレナが、チ = ンバレンは医師としての経験があるから、事態を彼には説明すべき カスウェーデン人を撼まえ 曜だと主張したが、マッケンジーはその必要は認めなかった。。、、 、こ。もし、列車に乗っている医師が信頼 るためにチェンバレンを利用する方法は考えっしオ

8. 大陸縦断列車抹殺計画 カサンドラ・クロス

三一 9 " 05 A. . 午 正 大陸縦断列車は、毎日、午前九時にコルナバン中央駅から出発する。この列車は、途中 プリュッセル、アムステルダム、コペンハ 咄何十もの駅で停まりながら、バ 夜 ーゲンを経て、終着駅のストックホルムに向かう。全行程は時刻表どおりに走ると、二九 。たいていは時刻表どおり走る場合が多かった。 曜時間五二分 金 列車の電気工ンジンは、食堂車、荷物車、それに郵便および通信用車両をふくむ 「その必要はありません。博士 : : : 犯罪はアメリカ合衆国の外交団の敷地内で起こったも のです。あの男の死体の身柄は、私の権限下にあります」 「どうなさるおつもり ? 」 マッケンジーは視線を、ふたたびスタックに移した。 「この男を焼却しろー

9. 大陸縦断列車抹殺計画 カサンドラ・クロス

XXIII/9:15 AOM, そもそもカサンドラ・クロスは、一七六〇年から六二年にかけて、ヨハネスとハンス・ ウルリヒ・グルーベンマンという名の二人のスイス人の大工によって建てられた。彼らは その前の五年間に、シャウフハウゼンでライン川にかける木橋を二つ完成し、ライへナウ でも、同型だが大型の橋をかけていた。 深さ六四メートルの谷間をつないでいる。 午高タトラ山地の木造の橋は幅二七三メートル、 坊橋の建造は、当時の支配者ハプスプルグロートリンゲン朝のフランツ一世が命じたもの : ハンガリーとボヘミアの女王、 堋である。もっと正確にいうと、神聖ローマ帝国の皇帝て 一マリア・テレジアの夫がその人である。 曜フランツは、皇帝としては当然のことながら、自らの王国を堅固に統治したいとする欲 土 求に、たえずとらわれていた。そこへ軍事顧問たちが、古くからすすめていた橋の建造の

10. 大陸縦断列車抹殺計画 カサンドラ・クロス

XXI/7 ~ 00 A. M. 大陸縦断列車は、一点の雲もない空のもと、強い日射しを受けてきらきらと輝いていた。 列車はボヘミアの森を通りぬけてチ = コスロパキア領内に入った。花崗岩と木立ちのほか にはほとんどなにもない高地を横切り、オストラバへ向けて、一路北東に進んでいオ ジュネーブの戦略コントロール ・センターのコンビューターがはじきだした最高の条件 午を満たした進路は、決して最短走行距離ではなかった。 それは、大都市を通る危険を避けるよう考慮されていたからだ。通過をまぬがれた駅は、 弸プラハ ヘラディ、クラロプ、カルビナ、そしてオストラバである。 一それでも時間的には、どんな直線的なコースより、この迂回進路は節約されていた。バ 曜リの鉄道当局が提供した記憶テープを、コンビ = ーターが徹底的に分析した結果、この交 通量の少ない路線をはじき出したのである。 169