できるべンチャーなどと飲食ビジネスは違う。実際に食材や酒を仕入れる必要があ り、店舗拡大には家賃や保証金などの費用がかかる。足立社長はその点を甘く見ていた としか思えない。社内にも、足立社長に手元資金の重要性を教え、出店に歯止めをかけ る財務に明るい人間は最後まで育たなかった。 なお、遠藤商事の破産手続き開始とともに、同社が所有していた「ナポリ」「ナポリス」 などの商標権は、これらの商標に担保権を設定していた飲食店経営支援会社に移転した。 この飲食店経営支援会社は、 2017 年 7 月に業務提携を発表し、これらの商標を用い たビザ店の展開に新たに乗り出している。現在のナポリ、ナポリスは遠藤商事とは 関係がない。 ( 2017 年 6 月号掲載 ) 027 第 1 章急成長には落とし穴がある
進出した。 しかし、金融機関からの借り入れに頼った強気の出店で運転資金を確保する手法は長 続きしない。負債が増えて金融機関の姿勢が変わると、一気に資金繰りは苦しくなった。 海外出店も順調なところばかりではなく「契約でもめて閉めた店もいくつかあった」 ( 遠 藤商事の関係者 ) 。 遠藤商事は、この頃から自転車操業に追い込まれていたようだ。比較的最近加盟した 店オーナーの話がそれを裏付ける。 この店オーナーが保証金と加盟金を支払うとすぐ、店舗物件が決まる前に遠藤商 事から電話があり「窯はイタリアから運ぶので発注を急ぐ必要がある。代金 500 万円 と搬送料浦万円程度をまず払ってほしいと告げられた。 物件も決まっていないのに窯の発注は無理と返答すると「中型の窯ならどんな物件で も合うから、とにかく発注してほしい」とせかされたという 025 ー第、章急成長には落とし穴がある
ードルが高く、 毎回、成功するわけで 経営者本人からコメントを得ることはかなりハ はないですが、記者は最大限の努力を尽くしてアタックします。その結果、 156 ペー ジのケースのように 、 " 倒産体験。を赤裸々に明かしてくれる経営者もいます。 しかし、それ以上に重要なのは、時には食い違う複数の証一言をどう分析し、原因を持 定するか。靴底を減らす地道な取材と、脳に汗かく考察の積み重ねの両輪なくして、「破 綻の真相」にはたどり着きません。 本書は 3 章構成。経営破綻によく見られるパターンに基づいて社のケースを分類し 第 1 章は「急成長には落とし穴がある」。 経営は、いとの戦いといっても過言ではありません。ヒット商品が出たばかりに慎重 モノ、カネのバランスが崩れるのはよくあることです。高い技術力で さを失い、ヒト、 世間から脚光を浴びたこと、金融機関からの潤沢な資金を調達できたことなども、それ 自体は喜ばしいことですが、破綻の契機になり得るのです。経営においては、容易にプ ラスがマイナスに転じることを、実例が教えてくれます。 はじめに
度には 2 倍以上の億円にまで膨らんだ。 ゲーム事業進出も実らす 経営不振が深刻になる中、遠藤社長は 2013 年に起死回生を狙って新規事業に乗り 出す。それがスマートフォンなど向けのゲーム事業への参入だ。エプコットにとって経 験のない事業だった。 ゲームはヒット作が出れば、一気に業績が伸びる。しかし、投資から回収までに時間 がかかることに加え、竝肌争が激し、。 そうした事業に資金繰りの厳しい状况で、しかも 後発で中小企業が参人するのはリスクが大きい。 実際、いざ事業を始めてみると、開発が思うように進まず、投資回収が遅延。資金繰 ひつばく りがさらに逼迫する形となった。「エプコットからゲーム開発を受託していたが、途中で 経営破綻し、事後対応が大変だった」とある債権者は振り返る。 業績回復の目途が立たないことで、エプコットは 2014 年川月以降、金融機関から 新規融資が受けられなくなった。 065 第 1 章急成長には落とし穴がある
社員の離職率が高い だが表向きは順調でも、内部では問題を抱えていた。 1 つは収支管理が甘かったこと。グルメンは自社でトラックを保有せず、運送会社に 外注した。物流センターは首都圏に破綻時点で 7 カ所あり、 〔ずれも賃借物件資産を 抱えない分身軽な経営ができるが、きめ細かな収支管理ができなければ利益率が落ちゃ 「他の物流会社でも外に委託するケースはよくある。ただグルメンは運送会社に丸投げ で管理が甘かった」とある運送会社の役員は指摘する。例えば 1 日 2 万円で十分配送で きるルートなのに、 2 万 4 0 0 0 円でグルメンに請求すると、それで通るのだという。 この点はグルメンも認める。破綻の前年、取引先に配った改善計画にこうある。「拠点 ごとに独自の物流網を確立しており、運賃も拠点ごとにバラッキがありました。これに より拠点間が線でつながっていない配送ルートとなり、効率 ( 積載率 ) の悪いコースも基 本的に満額の運賃を支払っているため配送コストが過大となっておりました」。 033 ー第 1 章急成長には落とし穴がある
余力を残した投資が鉄則 一連の経緯について、香川社長は今、何を思うのか。破産管財人弁護士や申立人弁護 士を通じて、香川社長に取材を依頼した。しかし、「債権者への最終的な報告がまだ済ん でいないので、それ以前に応じるのは難しいと本人が話している」 ( 申立人弁護士 ) との 理由で断られた。 一定の技術力があり、取扱製品も幅広く、販路も多様。大手の得意先を複数抱えるな ど、堅実な経営を続けているかに見えたエルビー技研工業。しかし、振り返ってみると、 身の丈を超えたレベルの果敢な設備投資が、最後まで会社を苦しめることとなった。 消費者ニーズや取引先の要望が目まぐるしく変化する昨今、自社だけではコントロー 、大兄が生じるリスクはある。そうした中で投資するには、万が一失敗した場 ルてきな ( 月、冫 合でも、二の手、三の手が打てる余力を残す必要があることを今回の事例は示している。 ( 2015 年 6 月号掲載 ) 087 第 1 章急成長には落とし穴がある
出資の名目で約 5000 万円を拠出。しかしその直後、この会社の業績が急に悪化した という。また、このコンサルタントが経営する包装資材会社に対しては約 4600 万円 を貸し付けたが大半が焦げ付き、返済を受けたのは 300 万円ほど。小寺氏は最終的に このコンサルタントと関係を断ったが、多角化を狙った投資は、ほかにも多くあり、少 なくとも合計 2 億円以上の損失を被ったと見られる。 足元が瓦解し始めた。 本業以外の投資で振り回されている間に、 2012 年 3 月、『こびとづかん』の担当編集者が辞職する。原因は、経理にあった。 「小寺氏は、経理や財務に社員を一切タッチさせなかった。そのわりにはお金にルーズで、 著者への印税の支払い漏れが頻発していた。社外の活動が増えるとその傾向に拍車がか かり、ヒットを生んだ編集者は不信感を募らせたと元社員は話す。 主力商品の権利を失う 退職した編集者は、『こびとづかん』のキャラクターグッズなどの権利管理を請け負っ ていた企業の関連会社で顧問に就任した。 075 ー第 1 章急成長には落とし穴がある
エプコットは将来のヒット作を求めて、欧米など複数の国に版権の買い付けに出向い ていた。特大ホームランは見込めなくても、映画やドラマファン向けに少しずつヒット を積み重ねて得点に結びつけるスタイルで成長してきた。 韓流プームで業績好調に そんな同社に大きな転機が訪れる。それが韓流プームだ。これは事業拡大の願っても ないチャンス。遠藤秀隆社長 ( 仮名 ) は積極的に韓国ドラマの買い付けに動き、 2 0 0 4 年から素早く韓国ドラマの販売を開始した。 韓流プームだけでなく、レンタルビデオ店の記録メディア入れ替えに伴う特需もエフ コットを後押しした。「フレーヤーが家庭に普及したことに伴い、 2 0 0 5 年頃、 レンタルビデオ店は貸し出す商品をビデオテーフからに変え始めた。その結果、業 務用パッケージの需要が急拡大した」 ( 業界関係者 ) 。 市場環境に恵まれたこともあり、 2 010 年 6 月期に収入高 ( 売上高に相当 ) は約 % 億 5400 万円を計上 ( 帝国データバンク調べ ) 。順風満帆に見えた。 063 第 1 章急成長には落とし穴がある
2003 年にが放送した韓国ドラマ『冬のソナタ』をきっかけに、日本を席巻し た韓流プーム。一時は地上波テレビ局などで多数の韓国ドラマが放送され、現地のロケ 地を巡る旅行者が増えるなど盛り上がりを見せた。 その韓流プームに翻弄され、経営破綻した会社がある。海外映画、ドラマの制 作・販売などを手掛けたエプコット ( 東京・渋谷 ) だ 2015 年 3 月 2 日、エフコットは東京地方裁判所に自己破産を申請した。負債総額 は約億 4800 万円。約人の従業員は、この日に全員解雇された。エプコットから 制作の大半を請け負っていた関連会社のパビルス ( 東京・中野 ) も同日、自己破産 を申請した。 「 2014 年秋頃から、資金繰りが厳しいらしいという清報は業界内で伝わっていた。そ れ以降、商品の大量発注は控えていた」とある取引先は打ち明ける。 事業は制作が 8 割 ケームの 3 つ。 エプコットの事業内容はの制作・販売、海外映画の輸入・配給、。 061 第 1 章急成長には落とし穴がある
千葉大学大学院自然科学研究科を卒業した内山会長は、もつばら研究者肌の経営者と の評判だった。「組織をマネジメントしたり、資金繰りを考えたりするのが得意な人では 全くなかったと、内山会長に近しい人は証一言する。 ただ、仮に経営が苦手だとしても、阪路をきちんと確保しないまま大型工場を 2 つも 立ち上げるというのは、理解しがたい。 しかも 2 工場の建設・稼働と並行して、みらいは複数の事業を進めていた。 2014 年から年にかけて国内の企業や団体のほか、ロシアやモンゴルなどにも、立て続けに 植物工場を販売したのだ。 それらの国では、寒冷期の野菜栽培が難しいため、植物工場に対する潜在ニーズが大 きいことは理解できる。しかし、海外に装置を納めるには人手もかかる。 2 工場の稼働 と合わせると、みらいには相当な負荷がかかったはずだ。 補助金でプームに もともと、みらいの事業規模は知名度の割に小さかった。自社工場は、産学連携の一 045 第 1 章急成長には落とし穴がある