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検索対象: アメリカ南部危機の政治論―J.C.カルフーンの理論
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1. アメリカ南部危機の政治論―J.C.カルフーンの理論

区住民の意志に従うこと、連邦議会は州際間の奴隷貿易に干渉しないことを含むものであった。クレイ提案のこの決 議案は奴隷冫 ーこ対する大きな譲歩を含むものであったが、南部の強硬派も北部のアポリショニストも共に反対した。 カルフーンはクレイの決議案に対する所信を表明すべく草稿を準備したものの持病の気管支炎が高じて心臓を冒 し、四九年には三度も議会のロビーで倒れるほどに弱っていた。かくして、一八五〇年三月四日、カルフーンはその 所信の表明をバージニア選出のメースン (James M. Mason) の代読に頼らざるをえなかった。この演説を最後に彼は 議会から姿を消し、同年三月三一日の早暁、ワシントン Q ・ 0 で死亡し、故郷チャールストンの聖フィリップ墓地に 葬られた。享年六八歳であった。ここで、四 0 年に近い彼の政治生活最後の議会演説について検討することをとおし て、長い政治経歴を閉じるに際しどのような政治的状況認識を持つに至ったかについて、また分裂の淵にある連邦の 政治状況についてどのような救出の方途を模索していたかについてみておこう。まず劈頭、彼は次のように訴える。 「上院議員諸君、私は最初から、奴隷制問題をめぐる扇動が何らかの時宜を得た効果的方法で解決されないと、連 景邦は分裂の結果に陥るであろうと信じてきた。こんな意見を持っていたがゆえに、あらゆる適切な機会をみて、この 史国を分けている二大当事者両方の注意を喚起し、大きな不幸を阻止すべき何らかの方策を採用するよう呼びかける ( 矼 ) 論 ことに努めてきたが、成功するに至らなかった」。 ムロ カルフーンは「ユニオンは如何にして保持されうるのかーと危殆に瀕した連邦の維持という問題からその陳述を開 フ始する。彼はまず「ユニオンが危険に瀕している原因の本質と性格を正確且っ完全に認識すること」であるとし、 力「この原因の一は、明らかに北部の側で長い間にわたって繰り返されてきた奴隷問題に対する非難であり、また、こ 一の間に南部の権利に対し加えられてきた数多くの攻撃に求められるものである」と述べる。そして、挙げられるべき 原因として、「憲法が批准され、政府が活動を開始した時の状況と異なって、今日の政府においてみられるように両 カントリー

2. アメリカ南部危機の政治論―J.C.カルフーンの理論

六 ' これら諸州の連邦はその成員の権利と利益の平等を基礎としている。この平等を破壊せんとするものはなんであれ、連邦自 体を破壊せんとするもである。中央政府の利益を連邦の諸部分に拡大せんとするにあたり、州の間に差別を定めようとする一 切の試みを拒否することこそ、総ての州の、とりわけ諸州の共同権限 (corporate capacity) において諸州を代表しているこ の議会〔Ⅱ上院〕の神聖なる義務である。また、南部や西部諸州を強化し、あるいはより安定したものたらしめる恩恵をこれ ら諸州に与えることを拒否したり、あるいは、奴隷制が、現にみられるように不道徳ないし罪であるとか、そうでなくとも不 愉快であるという仮定ないし口実によって、これら諸州が新しい准州や州を併合しその領域あるいは人々を増大させることを 否認することは、憲法が連邦の全成員一様に確保すべく意図した権利と恩恵の平等に矛盾するものである。そして、事実上、 一方では彼らに中央政府の負担を強いておきながら、彼らから恩恵を奪うという点で奴隷保有州の市民権を奪うことになるも のであろう。 この長文の決議は、既にサウス・カロライナの・ 0 ・プレストンが上提していた類似の第六決議を棚上げにし、 他の一部に修正を加えて、ほぼ原文のまま採択されるところとなった。ここにおいて、州域を越えて展開されるに至 った奴隷の解放運動の高揚を目のあたりにして、カルフーンが南部奴隷制経済の保守のために援用した正当化論、 憲法論的根拠はどこにあったか明らかであろう。すなわち、合州国憲法は基本的にはプルジョア民主主義的成文憲法 であったが、その構成主体の一翼を南部の奴隷主が占め、また、南部の奴隷制を容認したジム・クロウ条項を憲法条 項から廃棄しえてはいなかったのであり、またその構成原理は、各地に割拠する主導的階級の既得利益を擁護しなが ら相互の妥協的均衡を導出することを課題とするものであった。カルフーンは、この一定の歴史的状況の中で構築さ れた合州国憲法を援用し、奴隷制は憲法採択時において権力配分の基礎になったとし、また他州の州内制度 ( 奴隷制 ) や治安に干渉を加えることは越権行為であり、憲法に違反するものであると主張し、奴隷制の撤廃という問題をアメ

3. アメリカ南部危機の政治論―J.C.カルフーンの理論

南北戦争が北部の勝利に帰した後、産業資本の全国制覇とその独占段階への移行は、これと。ハラレルに行政手段の 収奪、集中と統治構造のビラミッド的再編、整序の過程を随伴させたが、この過程の中で主権論争は新たな装いで再 び繰返されるところとなる。しかし、それは憲法の文言に拘泥することなく、社会的・政治的事実から論じられると ころとなり、同時にそこでは、皮肉なことに、主権の不可分性を主張したカルフーンの主権論は、連邦主権の不可分 ( 8 ) 性の論理に包摂されてゆくことになるのである。 ところで、次の引用は、一九六四年の大統領選挙に際し、共和党の候補として立ちながら民主党候補の・・ジョ ンソン (Lyndon B. Johnson, 1908 ム 973 ) に大敗を喫した・・ゴールドウォーター (Barry M. GoIdwater, 一 89 ー ) の著書、『保守主義の本領』 ( ド ~ 0 ci ce 、ゝ 0 ~ ミき 1960 ) からの引用である。 「われわれは共和国を保持しえていない。 : ・ : 抑制の組織は破壊されている。連邦政府はその活動が必要だと信ずる あらゆる分野に入りこんできた」と、また続けて、「その結果、今日では、民主、共和両党とも州権の原則について は重大な公約をなしえないでいる。こうして共和国の礎石であり、巨大な政府による個人の自由侵害に対する防波堤 はうず高く積まれた専制主義という砂の下に急速に消え去ろうとしている」と、かくして、「連邦政府はこれらの〔農 業に関する職業教育、家庭経済、保育の実習、漁業の取り引き、下水処理、スラム街の除去と都市の近代化、原子力計画に関連し た保健安全標準の施行ーー引用者〕分野に入りこむ資格がない、 つまり連邦政府には州の行為についてその判定を下す資 び ( 9 ) 格がないということが肝心なのである」。 結さらに、次の引用は、四年後の一九六八年大統領選挙に際し、・ウオレス (George Corley Wallace, 1919 ー ) を 四大統領候補に擁立し、南部の選挙人票をおさえることによって第三政党としては、一九四八年の「州権民主党」 (States' Rights Party) 以来の成功を収めた「アメリカ独立党」 (American lndependent Party) の政治綱領の一部である。 191

4. アメリカ南部危機の政治論―J.C.カルフーンの理論

付録 国あるいは特定の州の有する権利を損うよう解釈されてはな らない 第四節合州国には、この連邦内の総ての州に共和制を保障 し、侵略から各州を守り、州内の暴動に際しては、州議会ま たは ( 州議会の召集が不可能なときは ) 州行政部の請求に応 じて、これを防護しなければならない 第五条 連邦議会は、両院の三分の二が必要と認めるときはこの憲法 に対する修正を発議し、あるいは各州中三分の二の州議会の コンヴェンション 請求があるときは、修正発議のための憲法会議を召集しなけ ればならない。いずれの場合も、修正は、四分の三の州議会 によるか、または四分の三の州における憲法会議によって承 認されるときは、あらゆる意義において完全にこの憲法の一 部として効力を有する。この二つの承認方法のいずれによる かは連邦議会の選定するところに従う。ただし、一八〇八年 以前に行われる修正によって第一条九節一項および四項の規 定に変更をきたすことはできない。また、いずれの州もその 同意なしに、上院における平等な投票権を奪われることはな 第六条 〔一項〕この憲法の確定以前に契約された総ての債務および 締結された全ての約定は、この憲法下においても連合〔規約〕 の下におけると同様に、合州国に対して有効である。 〔二項〕この憲法およびこれに準拠して制定される合州国の 法律、ならびに合州国の権限をもって既に締結され、また将 来締結される総ての条約は、国の最高法である。これによっ て各州の裁判官は、各州憲法または法律中に反対の規定ある 場合といえども、拘束されねばならない。 〔三項〕上記の上・下両院議員、各州議会議員、および合州 国並びに各州総ての行政官および司法官は、宣誓または確約 により、この憲法を支持する義務を負う。ただし、合州国の いかなる公職または信任による公職についても、その資格と して宗教上の審査を課してはならない。 第七条 九つの州の憲法会議の承認あるときは、この憲法は、これを 承認した諸州の間において確定、発効すべきものとする。 紀元一七八七年、アメリカ合州国独立第一二年九月一七 日、憲法会議におき列席諸州全員一致の同意をもってこの 憲法を定めた。この証明のために、我らはここに署名す る。 〔以下、署名者名省略〕 憲法修正箇条 〔修正第一条から第十条までは権利の章典とも呼ばれる。一七八九 209

5. アメリカ南部危機の政治論―J.C.カルフーンの理論

( 四 ) Calhoun, TJ ミミ・ k 具率 0 8 14 -0 イ / 0- ゥー 1 人 8 , 〈 0 0- -4 ー 00 ・ 4 ・ 0 ) 0- 0- 4 4 丿マ vol. II, や 630. 面拡 ロ平 ( ) こ pp. 631 ー 632. 表員 ) 0 - -0 ワ朝つひ -4 っ 0 ワ -4 ・ 0- 41 ー戸 0 00 CO -4- -4 ・ ( 引 ) ・ホーフスタッター 大 LO 0- 。り . く 0 へ小 7 拡 【 0 っ 0 & ・ 8 ' 亠の・か 『アメリカの政治的伝統—』 ド 9 1 6 で域を・た 1 の方 の地ン・ 一一四ー一一五頁。 、もの。ヒ こ 5 る他リ ( ) Calhoun, T/ ミ、ミ、 - よのイ ナダスン領ンカイ ンコムア帯島島領他 にそフ 4 く 01. II, p. 631. 域 た・ コ 計計約 サゴ デス 域 合 地諸諸治 条ルし 0 . ( ) ミ : pp. 632 。 633. ワ ジ シ のイ立〃 ンカ統の 地リル 地 ロキレ キズラ 、 5 とマ独 。 o ( ) Calhoun. The 一まミ・ k 表 総ン方に : u 地成ルフテオメガア イ平。年 0 他フプグサ連コ。 ( 信そ vol. III, pp. 140 ー 141. の 0 CO 10 8 00 ー《 0 8 0 4 4 ーワー ~ 刊る ~ ( 肪 ) 合州国の成立とその憲法 0- 0- -11 11 ・ 4 ・ 9 で & 年・月 0 ー 8 8 8 8 8 8 00 8 一一 ・ー人 1 ・一 1 ・ -1 、 1 、 1 1 人、 1 の性格規定をめぐる最近の 論稿としては次のものがあげられよう。 Margit Mayer and Margaret A. Fay, "The Formation of the American Nation ・ state,' ・ in K 、、、 NO. 6 , FaII, 】 977. H. Aptheker, r ~ Years 、 the e 、ミ ~ ・ c. ・ From 6 、 ~ d of the Revo ~ 、、 ~ 、 0 、、ミ F, ~ ・こ、 d ミ is 、ミ、 ~ 'o of ま廴 ~ ミ 0 、 ~ ( 、 783 ー 7793Y 1976. ( ) CaIhoun, op. 、こ vol. ミ . pp. 296 ー 297. 同様の指摘は。 ( 1 ジニアの上院議員のジョン・テイラー (John Tay10r, 一 753 ー一 824 ) の一八 一一一年の議会陳述にもみられる (). T. Carpenter, op. ~ 、こ p. 40 ) 。 ( ) 右図第 1 表のとおり。 ( ) 憲法第一一条二節二項参照。 ( ) John L. O'SuIIivan ( 一 8 一 3 ー一 895 ) のゝ、 ~ ミトミ ~ 、 ~ ( 7845 ) で使われ有名になった言葉である。 ( ) CaIhoun, The まミト vol. III, pp. 462 ー 463. ( れ ) CaIhoun, ミこ vol. ミ . pp. 239 ー 254. ( 貶 ) メキシコ政府と交わされた条約文の全文については、 T 、ミミ vol. V, 名 . 322 ー 327. 参照。 ( 昭 ) Eugene H. Roseboom, ゝ Short History 0 、 Pr ミミ ~ 、ミ ~ 、、、夛 pp. 55 ー 60. 888 , 685 827 , 192 ( 1 ) 72 , 003 390 , 143 285 , 580 529 , 017 29 , 640 586 , 412 6 , 450 3 , 615 , 122 小 一三員 小 100

6. アメリカ南部危機の政治論―J.C.カルフーンの理論

貧感を知らない地位にある人々の数を凌駕するかも知れない。投票権の平等という原則に従えば、権力は、彼らの手中に落入ることになる」 (quoted in K. prewitt . A. Stone, 7 、 ~ e R 新、 ~ g E 鬻 . P. 33 ) と、また、「土地利は、現在のところ主要な地位にあるが、時がた 1 てば : : : 土地保有者の数が相対的に少数になったとき : : : 次の選挙でひっくり返されることにならないか」 (quoted in V. L. Parrington, A40 C r 、ミミ .4 きゝミ Though 、 . vol. I, P. 287 ) と危惧感を表明している。 ( 幻 ) 一九一三年に確定した憲法修正第一七条により、これ以降、上院議員の選出は、全国的にも一般民衆の直接選挙によるものに変えられる。 ( ) 一般に、アメリカ独立宣言の理論的淵源はロックに求められているが、・・コールマンは、ロックにおける変革の原理は権力担当者の 変更の理論であって、統治原理の根底的変革の理論という点ではホッブズに求められるべきであるまいか、としているが、これは一つの示唆 的見解ではあるが、一層の文献学的・思想史的検討を要する問題である。 Frank M. Cooleman, 。ミミミミミ Ex 。、 ~ g ・、守 C ミ ~ く ~ ・、 ~ 、、 ~ ・ミミ ~ Fo 、 ~ 戔に、まミ p. 68- 78. ( 四 ) 後の諸章で明らかになるが、憲法制定会議におけるハミルトンとメイソンの議論の妥協的形態としての連邦権力の地理的分割、連邦と州の 一一元的統治構造は、後に、国権論と州権論の対立となって現れる。 "tJnited States ・・を字句どおり訳すと「合州国」となる。カルフーンは、 "United States" を「これらの合州国 these United States 」 ( 強調符訳者 ) と呼び、また、「ユナイテッド・スティッ」の政体を論じている 著作、例えば、ゝ D 3 ミ・ . ミ 0 洋 the C ミ冫、 ~ 、 ~ 、、洋ミ ~ G ミミこ ~ ミミ ~ 、 of the U ミ S ミ、 ) をみると、彼は、「ユナイテッド・スティ ツ」を「合州国」の概念で考えていることは明らかである。わが国でも、「ユナイテッド・スティッ」を「合衆国」ではなく「合州国」と呼 ぶべきとする意見があるし、「合州国」の訳語をあてている図書も散見される ( 例えば、加藤秀俊『アメリカの思想』一四頁、本多勝一『ア メリカ合州国』 ) 。「ユナイテッド・スティッ」を「合州国」と訳したのでは、幅広いアメリカ人民を結集することによって成立した連邦共和 制国家の成立の契機や、その後の連邦権力を媒介とした緊張に満ちた統合化の過程が看過される懸念はあるが、筆者は、ここでは混乱を避け るため、引用文は別として「ユナイテッド・ スティッ」に「合州国」の訳語をあてることによって統一しておく。 ( ) 菊池謙一『アメリカの黒人奴隷制度と南北戦争』一九頁。 ( ) 宮野啓一一「南北戦争前における農業の発展」『アメリカ経済史』 ( 鈴木圭介編 ) 一一〇四頁。 ( ) マルクス『経済学批判要綱』高木幸一一郎監訳、第五分冊、九五六頁。 ( ) マルクス「北アメリカの内戦」『マルクスⅡエンゲルス全集』第一五巻、三一九ー三二〇頁。 ( 四 ) エンゲルス「反デュ 1 リング論」『マルクス日エンゲルス全集』第二〇巻、一八三頁。