カウンセラー - みる会図書館


検索対象: ガイダンスとカウンセリング : 指導から自己実現への共同作業へ
56件見つかりました。

1. ガイダンスとカウンセリング : 指導から自己実現への共同作業へ

164 第Ⅳ部技法論 分には荷が重すぎるとして , その関係の展開を回避し職を辞めていたのである。 そのことがカウンセラーとの話で明瞭に理解された段階で , カウンセラーはそ の繰り返しの行為を生んでいる体験過程を問題にすることなく , 換言すれば彼 女の回避行動の徹底操作をすることなく , 彼女に上司の意図は聞いてみないと 分からないのではないかと , 行動による解決を示唆した。 彼女は次回の面接を休み , 喘息発作を起こし , カウンセラーにまだ上司とは 舌ができていませんと告げてきた。 1 三ロ このカウンセラーは , 心の構えがある程度整理された段階で , いわば前述し た行動と心的構えの関係原理に基づいて , 行動変化を進めることによって心的 構えの一層の変化をもくろんだのであるが , それが失敗したばかりか , さらな る回避行動のために症状形成をも , もたらしている。行動と心的構えの関係が 単純直接的でないことが , よく理解できよう。 行動は , 人格構造におけるプロセスを何らかの形で表出する実体的現象であ る。つまり人格構造内の情報とエネルギーは , 言語だけでなく , 行動によって 思ⅱ , 無意識的に表出の場や媒体を得 , それらの広がりを可能にする。同時に 行動は , 環境の情報とエネルギーを人格構造にアクセスする働きをするもので ある。この点において行動は , 人格構造のシステムバウンダリーの透過性を高 めたり低めたりする機能がある。すなわち人格構造と環境の相互作用を高める 働きをする一側面を持ち , これが成長や治療的活動に活用できるのである。し かし行動の変化が人格構造の変化にとって必要十分条件ではないと同じように 人格構造の変化も行動の変化に対して必要十分条件ではないことを留意してお くことが重要である。 言葉がある。主要なカウンセ 行動と並んで人格構造に影響を及ほ。すものに リングおよびサイコセラピーがお話療法であることからも , その機能の重要性 は , 想像がっくことであろう。言葉の持つ創造的働きについてはすでに多くの 著者が , 哲学 , 文学 , 言言ロ子 , 意味論 , 精神医学 , 精神分析学等々さまざまな 葉

2. ガイダンスとカウンセリング : 指導から自己実現への共同作業へ

第Ⅱ部基礎理論 理学・カウンセリングへの批判がある。カウンセラーにとって必要なのは長期 40 してパールズによって統合されたもので , 心理療法 , カウンセリングなど 理学 , 現存在分析 , およびライヒ (Reich, w. ) の性格分析などを源流と ②ノヾールズ (perls, F. ) によるゲシュタルト・セラビー : ゲシュタルト心 医療や産業カウンセリング , 福祉臨床など幅広い分野に影響を与えた。 ングにおいては , 最も多くに取り入れられた技法であり , 教育に限らず , これについてはすでに詳述しているが , わが国のガイダンスとカウンセリ ①ロジャースを中心とする来談者中心療 Basic Fncounter Group : がら , さまざまな流派を形成してきたことがわかる。それらを以下に列挙する。 理学の具体的適用がなされており , 他の心理療法諸理論と相互に影響し合いな 技法別にみると , ガイダンスとカウンセリングにおいては実に多様に人間性心 することとする。 セリングにおいてどのような実践がなされているのだろうか。各技法別に概観 今まで述べたような人間性心理学の理論を背景として , ガイダンスとカウン カウンセリングにおける実際 3 ・ 4 人間性心理学諸派のガイダンスと 受容性を高め , ガイダンスやカウンセリングの研究の方法論の発展に寄与した。 通してカウンセラーの訓練に有用な資料を提供し , カウンセリングの一般への また彼はカウンセリング研究の重要性を主張し , 共同研究者たちとの研究を 校の生活指導者 , ソーシャルワーカーなどに幅広く用いられている。 としてロジャースの理論は心理カウンセラーばかりでなく教育相談担当者 , 学 心的枠組みであることが示され , その結果ガイダンスとカウンセリングの技法 にわたる特殊な訓練ではなく , 人間としてのひとつの態度 , かかわりにおける を成長モデルとして規定し , の旦 視している。 間としての求長がそのまま治療である考 とし の renes ③メイ (May, R. ) やプーゲンタール (Bugental, J. ) らの実存的アプロー

3. ガイダンスとカウンセリング : 指導から自己実現への共同作業へ

12 序人間理解と人間の成長 込む。個人に対するガイダンスの場合も , 伝統的にテストやその個人の成育歴 や家族状況などの外部よりの情報が用いられることが多いけれど , この場合は もし相手の内面に触れて , 共感による理解を得ることが心がけられるなら , そ の情報による理解が得られる。 カウンセリングの場合 , グループカウンセリングにおいては , グループ全体 の現在の凝集のあり方 , お互いの交流の様相を読み取ることによって , グルー プ全体への共感的理解が持てるし , 交流している個々のメンバーの個人的心情 に触れての理解が生ずる。個人力ウンセリングの場での共感的理解が重視され ていることはいうまでもない。 しかし , 個人力ウンセリングの場でも , テストによる理解や , 外部からの情 報が , さまざまな形で , さまざまな程度に活用されていることは見逃してはな らない。カウンセリングの学派や立場による相違はあるにしても , インテーク 面接において , クライエント個人やその家族からの情報を得て , それに基づい て , カウンセリングの方針や , 何が中心問題かについての最初の見通しが立て られるのが通例である。また HTP の描画や , サンドプレイ ( 箱庭 ) などの作 品は , 見方によっては , 疾患分類に役立っ外部情報とも , 精神内界に共感する ための内的情報ともなるし , 普通は両者にまたがる理解の材料であると考えら れる。 重要なのは , このような理解が , どのようなプロセスを経て , その個人の成 長に役立つものとなり得るかという点である。外部情報にせよ , 内部情報にせ よ , それがガイダンスをする側やカウンセラーにのみ蓄積されているのでは , クライエントにとって役に立たない。テストで得た情報や , 生活史を聞くこと で得た情報は , それがカウンセラー ( ガイダンスカウンセラー , 治療的カウンセ ラーを両者含めて ) とクライエントの共有の資源として生かされる必要がある。 一例として , 生活史に関連する外部から得た情報でも , それをクライエントに 適切なときに共感とともに伝え返すことができれば , それは , 今まで自分に とって意味あることと受け取っていなかったクライエントが , 自分を理解する 大切な資源となる。テストの結果にしても同じように用い得る。他者によるそ

4. ガイダンスとカウンセリング : 指導から自己実現への共同作業へ

13 章カウンセリングの技法構造論と過程理論 165 観点から , それぞれに貴重な論を展開されているので , 詳細は他書に譲ろう。 ここでは , カウンセリングにおけるクライエントとカウンセラーの作業や経験 に関する機能の要点についてのみ述べる。 くシステム間の情報伝達〉 言葉の最も直接的な道具的働きは , システム間の情報伝達にあることは明白 であろう。言葉は , 一方のシステムから他方のシステムに情報を伝える。カウ ンセリングの場合その際に重要なのは , その情報の内容と質である。著者は , カウンセラーの体験過程を踏まえた応答プロセスの訓練法を考案し ( 小谷 , 1976 ) , 以来その実践を重ねてきている。臨床知と訓練の経験から , 分化でき る重要な情報の内容と質は , 概略以下のように整理できる。 内容 : ①出来事の事実的記述 (description) ②出来事についての未分化なままの情動反応 ドバックできる感情のプロセス ③自己フィー ④主体者の思考 , 解釈 , 意志 これらの情報内容は , 通常上記のように分化されたものが提示されるわけで はなく , 混在したまま発せられるものである。それを , われわれはカウンセ ラーとして読み取るのであるが , その際には , さらに別の読み取りの軸も必要 である。それが質の次元である。言葉に託される情報は , 優れてダイナミック なものであり , それ自体 , 生きたシステム (living system) の性質を持って いるといってよい。①の内容は , カウンセラー自身の側のコミュニ ケーション においてなお重要になるものであるが , 比較的に中立的で客観的な性質を持っ たものである。しかしそれ以外の情報は , それぞれにべクトル性を有し , 情報 としての力学的性質を有している。すなわち方向性とエネルギー量である。 れら内容 , 方向性 , エネルギー量をカウンセリングにおける情報の 3 要素と , 著者は考えている。これらの情報 3 要素のかみ合わせの分析的理解によって , われわれは , キャッチした情報を以下の側面において分化し , また総合できる のである。 ①客観的 , 経験的事実の側面 : ここでの事実は , 自然科学的 , 実験心理学

5. ガイダンスとカウンセリング : 指導から自己実現への共同作業へ

10 序人間理解と人間の成長 実践活動の面でも重なっていて , 精神療法 ( 心理療法 ) との関係が問題にされ てきた。形式的には , カウンセリングは , ガイダンスに中心を置いた , 比較的 表層的な適応行動への援助であり , 精神療法は , 人格の深層にまでかかわる問 題への治療的援助活動であるとする区別が , 今までなされることが多かった。 しかし現在ではこの両者は区別することなく用いられ , カウンセリングは深い 重篤な障害に対しても適用されている。 ◆ガイダンスとカウンセリングにおける人間理解 上に述べたように , ガイダンスもカウンセリングも , 広義の個人の適応 , 自 己実現を援助するための活動と考えられ , そのためには何よりもまず , 被援助 者の人格の理解 , その人が持っている問題様相の解明が前提とされる。 20 世 紀の初め , アメリカで職業指導の重要性が説かれ , そのためのカウンセラー養 成が始められたが , それが少しずっ , 人格の全領域での適応問題にかかわるカ ウンセラー ( いわゆる専門家としてのパーソナルカウンセラー personnel coun- selor) の養成の必要性へと移行する。初めの頃 , 職業選択に迷ったり , 選択 した職業が適していないと感じて辞めてしまう人が多いので , その対策として 職業指導力ウンセリングが考えられ , 適切な指導のためにカウンセラーは , 個 人の問題の分析や診断 , 特に知能テストやバーソナリティーインべントリー 職業適正検査などを用い , その結果から得た知識に基づく助言が中心と考えら れていた。しかしこのやり方で , 適切と思われる助言をしても受け入れられな いことがよく生じた。その場合個人的感情や人格的問題 , その人の環境的状況 が大きく左右する。そこで職業指導といっても , 全人格にかかる援助に視野を 広げる必要が痛感されたのである。そのためにも全人格的人間理解が要求され , それまでの能力やどのような職業に向く傾向があるかという測定に基づく理解 では不十分であると指摘されるようになった。指導もそれまでのガイダンスを 中心に置くカウンセリングから , そのカウンセリングではうまく職業指導に乗 らない人に対しては , 人格的問題に対する心理的治療的カウンセリングが行わ

6. ガイダンスとカウンセリング : 指導から自己実現への共同作業へ

15 章カウンセリングの効果 205 カウンセラーは二郎君の提出してくる身体症状を性急に心の問題に結びつけ ~ ず , 身体と心のそれぞれのひとり歩きを自由にして , 心がゆっくりと身体に近 づき , その距離が縮まるのを待っ姿勢を保持し続けようと努力した。そこを基 点として同盟者としての信頼関係が築かれ , ひとりで立ち向かうには苦しすぎ る身体と心のつながりとそこに包含される内容に触れることができたのだと考 えられる。 このようなカウンセリングを通して一番大きな仕事は , 心の護りを取り除く ことではなく , その取り除かれた後の責任を負うことであると筆者は考えてい る。それまで有効であった心の護り方が取り除かれることは , たとえカウンセ リング場面のように最大限に安全を配慮した空間の中であっても決して完全に 安全ではあり得ない。まだ新しい護り方ができていないからである。この症例 の場合 , # 21 以後がそれに当たる。二郎君が自分の足と自分のエネルギーを 使って , 自分の責任のもとで「したいこと」を探す作業をカウンセラーは見守 り続けた。一見逸脱的に見える行動に対しても , 新しい心の護り方や成長を求 める姿として受け止め , 待っ姿勢を継続した。カウンセリングの大部分は「待 っ」仕事である。しかし , それには 2 種類ある。最初は現在の心の護り方をは ずす準備が十分にできるまで待っことであり , 次に新しい護り方ができるまで 責任を持って待っことである。このことは「からだ」以外の他の護り方の場合 も同じである。 症例に挙げた二郎君は「自分は何を求めているのか」というテーマから , 最 終的には看護士の道 , つまり人のケアをすることを選んだ。この選択は「から だ」という護り方から治療者への投影や同一化ともいえる新しい心の護り方へ の移行であるとも考えられる。しかし , 自己を見つめる中から二郎君が探し出 した道であることも確かな事実であり , 筆者は見守りたいと考えている。カウ ンセリングの目標はカウンセラーとクライエントの関係の中からクライエント の内界に潜在する可能性が開かれていくことにあり , 「完全な人間」を目指す ものではないからである。 [ 後藤清恵 ]

7. ガイダンスとカウンセリング : 指導から自己実現への共同作業へ

1 一 11 ロ 210 第Ⅵ部結 この例が , いわば典型的なクライエントの心と身体を育てるカウンセリング の , 「積極的な受動性」の例である。ただし短い事例記述であるが , この事例 提示の中に , カウンセラーはただ無為に待っているのではなく , 生活上の出来 事や体験の歴史 , 経緯に加えて , 時々刻々のクライエントの表出 , 表現 , 行動 に観察できる , カ動的意味を多角的視点でとらえ検討していることが見て取れ よう。 カウンセラーは , 確かなクライエント理解と臨床仮説を構築しながら , その 作業に極めて積極的に取り組み , その積極的な取り組みの安定感を基盤にした 揺るぎのない自由空間をもって , 受動的に待っことを行っているのである。 れが , 積極的受動性の意味である。 1 6 ・ 4 ガイダンスとカウンセリングのシステムカ動 何とか本書の主張の到達点にやってきたようである。第 1 章の課題から , 関 連理論を踏まえて , 基礎 , 技法構造論を編者の再構成によって展開してきたこ れまでの論の展開から , 結論の道筋がすでに読者には見えてきていることであ 指導から , ガイダンス , カウンセリング , 精神療法 , 精神分析に至る人間の 人格にかかわる援助法は , ひとつの連続線上のスペクトルをなしている ( 図 16 ・ 1)0 すなわち教授・指示の極から自由連想中心の極めて自由空間の大きい 精神分析に至るまで , 教師 , インストラクター コーチ , ガイド , カウンセ ラー , セラピストそしてアナリストのそれぞれの介人法は , それぞれのスペク トルの位置において異なり , かつ重なり合っている。 教授・指示 指導 自由空間 精神分析 精神療法 カウンセリング 図 16 ・ 1 援助教育システムの指導から自由空間へのスペクトル ガイタ、、ンス

8. ガイダンスとカウンセリング : 指導から自己実現への共同作業へ

154 第Ⅳ部技法論 環境情報は , 達成課題に関与する 1 ) 各社会システム , 2 ) 利用可能な介在シ ステム , 3 ) 種々過去の実績 , 統計 , 事例資料であり , 通常相談機関において , データベースを整えておき , 逐次の相談実践の経過で収集が行われ , 補充され ていくものである。近年はコンピューターの普及によって , 情報は相当に整理 されたものが提供できる。 プロセス課題は , いわば基本仮説の具体的な内容の情報化の作業であり , 何 の援助が最も必要とされているか ( 基本仮説① ) , 固有の素質は ( 基本仮説② , ③ ) , 未開発の素質は ( 基本仮説④ ) , どのようなものがあるかが , やはり口 ジャースによる面接の基本 3 仮説 ( 基本仮説⑤ , ⑥ , ⑦ ) を基盤に探索される。 この探索の過程が , クライエントの自己システム整備としても働き , カウンセ ラーをはじめとした外世界との情報とエネルギーの交換を活性化させ ( 基本仮 説⑧ ) , 生きたシステムとしての活動性を高めることになる。 第 4 位相 : 情報評価 プロセス課題は , 問題解決にかかわる情報に対する各視点を , 構造的 , 立体 的に定位させ総合的評価を定めること。それをもとにして情報の価値を確かめ る行動計画をデザインすることである。情報の統合アセスメントは , まずは D クライエント自身が行う , 2 ) 並行してカウンセラーも独自に行う , 3 ) そ の両者を突き合わせて , 目標の課題解決に照らした両者の相互吟味過程を通し , 現実に即した問題解決のための試行行動計画を立てる。 ここでも , ロジャースのカウンセリング 3 条件 ( 基本仮説⑤ , ⑥ , ⑦ ) が満 たされる必要がある。その上で , クライエントがそれまで自らの内に生産でき なかった情報を自己内に試験的に取り入れてみることをするわけであるが , 明 瞭に取り入れた体験をする必要がある。そこでガイダンスカウンセラーは , 自 身のアセスメントを伝えるときも , クライエントの自己バウンダリーを明確に 保ちつつ行うことが重要である ( 基本仮説⑧ , ⑨ , ⑩ ) 。 第 5 位相 : 試行 プロセス課題は , アセスメントと試行計画において整理されたそれまでの個 人情報と環境情報を , 具体的な活動を通じて確かめ , 実践レベルにおいて問題

9. ガイダンスとカウンセリング : 指導から自己実現への共同作業へ

13 章カウンセリングの技法構造論と過程理論 173 状況の構造的理解に基づいて , クライエントが吟味し選ぶことができるような , 可能な援助法や援助システムを複数提示できることが重要である。その選択肢 の中にガイダンス , カウンセリングを入れ , クライエント自身の関心に沿い当 該の援助法を説明する。カウンセリングに関心があれば , その構造 , 具体的な 活動の内容 , 手順 , 実施する際の条件 , それによって得られる成果 , そして限 界が明瞭に伝えられるとよい。その結果 , クライエントが実施を申し出れば , 改めてカウンセリングへの導人ということになる。ここでの過程展開のいわゆ るプロセス課題は , クライエントがカウンセリング作業の現実的なイメージを 持ちそれをカウンセラーと共有することであり , これをく作業同盟〉という。 第 2 位相 : 開始 / 同盟形成 インテークから導入までの作業が体系的になされていれば , すでにカウンセ リング活動をクライエントとカウンセラーで協力し合って進めていく作業同盟 は , 幾らか形成されていよう。しかしこの段階では多くの場合 , クライエント の依存もしくは逆依存が働き , 同盟は , 表面的なところにとどまっている。 の作業同盟を確かめ合いながら , さらに質的により内容のあるものに展開させ ていくのがこの位相前半のカウンセリング過程のプロセス課題である。それは , 図に示されている下位位相のカウンセリングの目的の共有から , その作業に対 する相互信頼感 , それを現実に展開していく際の両者のチェックシステムとし ての基本ルールの共有までの作業を進めていく過程で , 内容と見通しと責任の より明瞭化したものとして形を成していく。形をなすと , そこには自然と抵抗 感が生まれるものである。そしてその抵抗感の背後には , 変化にかかわる障壁 とその存在の意味が潜んでいる。下位位相のプロセスは , 自然にスイッチバッ クの展開をすることになる。この行きっ戻りつの展開の中で , 二者間の信頼感 と作業対象の確かさの共有は進み , 作業同盟の質的変化が進む。この質的に変 化したものを , 新たに < 治療同盟〉と呼ぶ。そしてこの治療同盟の形成作業の 過程で , クライエントは自分の問題や , 本当の自分に出会うことに対する自己 の障害 , 恐れ , 不安に出会い , 本当に自分が求めているものは何かを問うよう になっていく。この本当に自分が立ち向かう相手 , 対象 , 自分の中の問題の存

10. ガイダンスとカウンセリング : 指導から自己実現への共同作業へ

9 章発達理論 117 わることによって , カウンセラーが体験し識別するクライエント感情のとらえ も変わるということがあり , またその逆もある。感情体験の異なるものを意識 することで , クライエントのものの見方も変わるのである。これは本書では特 に扱っていないが , 認知療法における原理と同軸の事柄である。 すなわちものの見方を変えることによっても , また感じ方を変えることに よっても , 問題の解決を得ることができる。しかもそれは訓練 , 練習すること ができるのである。またわれわれは , 個人の葛藤状況に立ち会い分析すること で , その人の持っ適応機制を知ることができ , 不適応機制も知ることができる。 その人が多用し信頼を置いている通常適応メカニズムについても , 分析によっ て知ることができる。それによってわれわれはその個人の問題解決のソフトウ ェアのキャパシティーを把握することができ , どこから修正し , 何を加え何を 削除するかのソフトウェアの改造計画に乗り出すこともできるのである。これ までのガイダンス , カウンセリングの考え方には , 予防の発想はなかった。こ の図式は , 個人の人格機能を教育 , 訓練していくことで , 問題にぶつかる前に 問題対処能力の力をつける援助の可能性を示唆している点の意味が大きい。心 理教育 (psycho-education) の考え方は , 積極的ガイダンス , 積極的カウンセ リングの展開を広げ , 教育とカウンセリングをつなぐ領域を , 改めて確かなも のにするであろう。 9 ・ 3 教育・心理臨床ノートとしての発達的視点 最後に , 著者の臨床経験から , 実践的有用性を第 1 に置いて , 以下の視点で 発達過程を整理する ( 表 9 ・ 1 ) 。 ① ② ③ ④ 身体・認知・行動・思考・情緒的特性 : 観察され得る各側面の能力的特 徴 対人関係 : その段階層に典型的な人間関係様式の特徴 発達課題 : 年齢段階および心理発達に応じた成熟に , 最小限要求される 身体的・社会的・心理的技術 教育的・臨床的対応の留意点 : 発達的に注意すべき対応のポイント