新潮文庫 よー 18 ー 2 0 0 価格はカバ 1 に表示してあります。 乱丁・落丁本は、ご面倒ですが小社読者係宛ご送付 ください。送料小社負担にてお取替えいたします。 発 著 発 行 行 所 者 者 電東郵 読編京便 者集都番会株 イ / ミ : 士 : よ 係部 新号社式 〇〇 本 六来〒潮 隆 な 五五町八 四 な 印刷・株式会社精興社製本・株式会社植本製本所 0 Banana Yoshimoto 1988 Printed in Japan 工 S B N 4 ー 1 0 ー 1 ろ 5 9 1 5 ー X C 0 1 9 ろ 平成十四年七月一日発行
島田雅彦著 島田雅彦著 島田雅彦著亡れ、ら、れ義に ) 国十八で死んだ少年が帝国の記憶として語る、 ノスタルジーあふれる「郊外ー今昔物語。 光のない世界でアンジュが見る夢は ? 一一一一口葉 そして、 が、音楽が、匂いが、彼女の世界を創造する アンジュは眠りにつく 表題作など、ノスタルジーと官能の短編集。 とまどうばかりの二十代初めの宙ぶらりんな 優しいサヨクの 日々を漂っていく若者たち 。臆病で孤独 ための嬉遊曲 な魂の戯れを、きらめく言葉で軽妙に描く。 果歩と静枝は幼なじみ。一一人はいつも一緒だ : 。対照的 った。歳を目前にしたいまでも : 丿ー・カーテン な女性一一人が織りなす、心洗われる長編小説。 夜の散歩が習慣の四歳の私と、タイプの違う 江國香織著去乢しのしたの越目二人の姉、小さな弟、家族想いの両親。少し奇 妙な家族の半年を描く、静かで心地よい物語。 ハニラアイスの木べらの味、おはじきの音、 江國香織著亠 9 ・い , 刀の匂いすいかの匂い。無防備に心に織りこまれてし まった事ども。Ⅱ人の少女の、夏の記憶の物語。 江國香織著ホ 1 「帝国」はばくたちのこころの中にある
がいては淋しさが増すからいけない。でも、台所があり、植物がいて、同じ屋根の下に は人がいて、静かで : ・ベストだった。ここは、ベストだ。 安心して私は眠った。 目が覚めたのは水音でだった。 まぶしい朝が来ていた。ぼんやり起き上がると、台所に″えり子さん。の後ろ姿があ った。昨日に比。へて地味な服装だったが、 「おはよう。」 と振り向いたその顔の派手さがいっそうひきたち、私ははっと目が覚めた。 「おはようございます。」 と起き上がると、彼女は冷蔵庫を開けて困っている様子だった。私を見ると、 「いつもあたし、まだ寝てるんだけどなんだかおなかがへってねん でも、この家 なにもないのよね。出前とるけど、なに食。へたい ? 」 と一一 = ロった。 私は立ち上がって、 「なにか作りましようか。」 し」一一一口った。
と、つららは一一一一口った。 わたし次第。 今の、こんなに縮こまって、自分を守ることで精一杯の 「うん、きっと行く。」 私は笑った。 と私の関係。私は、どきりとしながらも即座にイエース、と思「た。私にとってあ 」の川は、等と私の国境だった。あの橋をイメージすると等がそこに立って待っているの も見える。いつも私は遅れ、いつも彼はそこにいた。出かけた帰りもいつも、二人はそ こで川向こうとこっちに別れた。最後もそうだった。 ム 「これから、高橋くんの所に行くんでしよう ? 」 まだ幸福で、今よりころころ太っていた私と等との、それは最後の会話だった。 「うん、一度家に帰ってから。みんなで久々に集まるんだ。」 「よろしくね。でも、どうせ男ばっかりでやらしい話するんでしよう。」 私 . が一一 = ロ、つと、 「そうだよー。悪いか ? 」 171 と彼は笑った。
「目が覚めちゃって、腹へって、ラーメンでも作ろうかなあ : ・・ : と思って 夢の中とはうって変わって、現実の雄一は寝ばけたブスな顔でぐしゃぐしやそう言っ た。私は泣きはらした。フスな顔で、 「作ってあげるから、すわってな。私のソフアに。」 し」一一 = ロった。 「おお、君のソフアに 9 」 そう言ってふらふらと彼はソフアに腰かけた。 闇に浮かぶこの小さな部屋の、ライトの下で冷蔵庫を開ける。野菜をきざむ。私の好 きな、この台所でーーーふと、ラーメンとは妙な偶然だわ、と思った私はふざけて雄一に、 背を向けたまま、 「夢の中でもラーメンって言ってたね。」 と一一一口った。 すると、反応が全くない。寝てんのかなと思った私が振り向くと、雄一はすごくびつ くりした目できよとんと私を見つめていた。 「ま、まさか」 私は言った。 雄一はつぶやくように、 やみ
151 そそいで飲もうとした。 その時、 「なに茶 ? あたしも飲みたい。」 丿に・水同 とふいにうしろで声がして、私はびつくりした。あまりびつくりしたので、 の本体を落としてしまったほどだ。手元にはふたに人った湯気の立つお茶が一杯残った。 いろいろなことを思いながら振り向くと、笑顔の女性が立っていた。自分よりも歳上 ウだということはわかったが、なぜだか歳は見当もっかなかった。しいていえば二十五く らい : : : 短い髪にとても澄んだ大きい瞳をしていた。薄着に白いコートをはおり、少し も寒さを感じないようにさりげなく、本当にいつの間にか彼女はそこに立っていた。 うれ そして少し井い鼻声で嬉しそうに、 ム 「今の、グリムだっけ、イソップだっけ。大の話によく似てたね。」 と笑いながら言った。 「あの場合は。」私は淡々と言った。「水に映った自分を見て骨を離したんでしよ。加害 者はいなかったよ。」 彼女はほほえんで、 「じゃあ今度水筒買ってあげるわ。」 」一一 = ロった。 とし・つえ
満 雰囲気だった。こういう所はたいていおいしい。私は待ちながら、 ゆき届いた感じのいい一 手の届く所に置いてあるビンクの電話を見つけた。 私は手を伸ばして受話器を取り、ごく自然な気持ちでメモを出して雄一の宿に電話を かけてみた。 宿の女の人が電話を切り替えて雄一を呼んでいる間に、私はふと思った。 えり子さんの死を告げられて以来、ずっと私が彼に感じているこの心細さは " 電話 ~ に似ている。あれ以来の雄一はたとえ目の前にいても電話の向こうの世界にいるように ~ , 感じられた。そしてそこは、私の今生きている場所よりもかなり青い、海の底のような キところだとい、つ気がした。 「もしもし ? 」 雄一が電話に出てきた。 「雄一 ? 」 私 . はほっとして一一 = ロった。 「みかげかー ? どうしてここがわかったんだい ? ああ、そうか、ちかちゃんか。」 少し遠くにあるその静かな声は、ケープルを抜けて夜を駆けてくる。私は目を閉じて、 さび なっかしい雄一の声の響きを聞いていた。それは淋しい波音のように聞こえた。 「そこって、なにがある所なの ? 」 121
112 やみ : 今夜も闇が暗くて息が苦しい。とことん滅人った重い眠りを、それぞれが戦う夜。 翌朝はよく晴れた。 旅行にそなえて朝、洗濯をしていたら、電話が鳴った。 十一時半 ? 変な時間の電話だ。 首をかしげて出ると、 「あーっ、みかげちゃあん ? お久しぶり ! 」 と高くかすれた声が叫んだ。 「ちかちゃん ? 」 私はびつくりして言った。電話は外からで車の音がうるさかったが、その声は私の耳 にはっきりと届いて、その姿を思い出させた。 ちかちゃんは、えり子さんのお店のチーフでやはりオカマの人だ。昔よく田辺家に泊 まりにきた。えり子さん亡き後は、彼女が店をついだ。 彼女、とはいうが、ちかちゃんはえり子さんに比べて、どこから見ても男、という印 象は否めない。しかし化粧ばえのする顔だちをしていて、細く背が高い。派手なドレス がよく似合うし、ものごしが柔らかい。一度地下鉄の中で小学生にからかわれてスカー トをまくられたら、泣きやまなくなってしまった、気の小さな人だ。あまり認めたくな
ン チ キ 色に映る中を、ばしやばしゃ歩いていった。 私は、正直言って、呼ばれたから田辺家に向かっていただけだった。なーんにも、考 えてはいなかったのだ。 その高くそびえるマンションを見上げたら彼の部屋がある十階はとても高くて、きっ と夜景がきれいに見えるんだろうなと私は思った。 エレベーターを降り、廊下に響き渡る足音を気にしながらドアチャイムを押すと雄一 がいきなりドアを開けて、 「いらっしや、。 と一一 = ロった。 おじゃまします、と上がったそこは、実に妙な部屋だった。 まず、台所へ続く居間にどかんとある巨大なソフアに目がいった。その広い台所の食 器棚を背にして、テープルを置くでもなく、じゅうたんを敷くでもなくそれはあった。 べ ージ、の布張りで、 o に出てきそうな、家族みんなですわって > を観そうな、横 に日本で飼えないくらい大きな大がいそうな、本当に立派なソフアだ「た。 べランダが見える大きな窓の前には、まるでジャングルのようにたくさんの植物群が 鉢やらプランターやらに植わって並んでいて、家中よく見ると花だらけだった。いたる 所にある様々な花びんに季節の花々が飾られていた。 み
るく笑った。彼が注文すると、ウェイトレスは彼をじ「と、じ 0 と上から下まで見て不 A ニ一一口っ」。 田 51 載そ、つにま、、 顔はあまり似ていなかったが、柊の手の指とか、ちょっとした時の表情の動かし方と ゝは、よく私の心臓を止めそうになった。 「う「。」と私は、そういう時、わざと声に出して言った。 「なに ? 」 とカップを片手に柊が私を見る。 「に、似ている。」 と私は言う。そうするといつも彼は " 等のマネ ~ と言「て等のマネをした。そして二 人で笑った。そうして二人は心の傷を茶化して遊ぶことくらいしか、なすす。へがなかっ 155 私は恋人を亡くしたが、彼は兄と恋人をいっぺんに亡くしてしまったのだ。 彼の恋人はゆみこさんと言 0 て、彼と同い歳の、テニスが上手な、背の小さい美人だ った。歳が近いので四人は仲良くなり、よく一緒に遊びに行ったものだ。等の家に遊び に行くと、柊の所にゆみこさんがいて、四人で徹夜でゲームをしたことも数え切れない。 その夜、等は柊の所に来ていたゆみこさんを、出かけるついでに車で駅まで乗せてゆ こ 0