陽子まあね。 よっ。ほど大事な用がなぎやこないもんな。ホレーする ) 陽子あっ ! 陽子、明がポレーした球を打ち返すのたが、ネットにひっかかる。明、ネットにひ つかかった球を拾いあげる。 陽子、明に近寄る。 陽子 ( 泰子に聞こえないように ) ママ、なんでテニスやろうなんて言いだしたんだろ う ? それに此処、学校のテニスコートでしょ : : : ? 日曜だからって勝手に使っ チ明ママ、昔つから、このテニスコート の前を歩くと、立ち止まって女学生がテニスや ってるの眺めてたじゃないか。 「私もあそこでテニスしたいわあ」ってさ : グ それがさあ、半年前にテニスラケットを買ったんだよ。 ( 姉が使っているテニスラケットを指さして ) それだよ、それ : : : 。俺が学校から おれ
帰ると、家の前の駐車場でタ方、素振りしててさ、俺に「アッ君、北白河女学園の テニスコートでテニスしよう」って言うんだよ。俺、「できるわけないだろーって 言ったら、「そうよね」って笑って素振りやめてラケットしまったんだよ。 でも、何週間かたって学校から帰ると、ママ、テニスウェアの上にエプロンしめて 夕飯つくってたんだよ、 ( 陽子が着ているテニスウェアに目をやり ) その、テニス ウェアだよ。 陽子家に着くそうそうママに「これに着替えなさい」って渡されたのよ。 ドミントンのようにノ 陽子と明は泰子の視線を気にし、テニスラケットで。ハ ンドで球をやりとりしはじめる。 明俺が着てるのは川島さんのだぜ。 陽子 ( 敵意を抱いているような太陽の光に耐えながら ) そう言えば、川島さん元気 ? おおげんか 明 : 話してなかったつけ ? 別れたんだよ。三カ月前にママと大喧嘩して、あっ : 陽子何 ? 聞いてないわよ。私、お正月以来だもん、明と話すの : 川島さん、嫌になったんだよ。ママを毛が抜けた鶏を見るよ 明ママもう五十だろ ?
7 グリーンペンチ 泰子 ( ぶつぶつ呟く ) : : : 黄色 : : : 白 : : : 赤 : : : 。ヒンク : : : 黄色 : : : 紫 : : : 黄色 : : : 白 シーン 1 色の欠片〈テニスコート〉 とき 季は八月。まとわりつくような蝉の鳴き声が聞こえる。 空にぎらぎら油絵の具を塗ったくったような真夏の昼過ぎのテニスコートで、陽子 とその弟の明がテニスをしている。 ネットの横にあるグリーンのべンチには、陽子と明の母である泰子が腰を下ろして、 行ったり来たりするテニスポールを目で追っている。 よど 泰子は長い間、澱んだ水に浸かってでもいたかのようにむくんで見え、皮膚の色も 青白い。 泰子は少女のような奇妙な格好をしている。 っや せみ
105 グリーンペンチ 陽子はグリーンべンチに腰を下ろす。明、姉の隣にそっと腰を下ろす。 谷口は陽子を眺めている。 泰子は谷口のシャツの袖を引っ張る。 谷口 ( 歪んだ微笑を浮かべ ) よしてよ ! のびちゃうだろ : ・ 泰子テニスをしましよう。 谷口 ( しどろもどろ ) さっき、陽子ちゃんとテニスして、ポールなくしちゃったんだよ。 泰子 ( 脅し、だが穏やかに ) 宝物をあなたにあげる。 谷口 ( 卑屈な微笑 ) 宝物って : : : 何 ? 泰子 ( 何も載っていない掌を谷口の鼻先に突きつけ ) テニスポールですそ、これは。 谷口 ( 怪訝な表情で ) えフ 泰子は片手の拳に透明なテニスポールを握りしめると、その拳を空に突き上げ、王 のようなポーズをとる。 泰子行くわよ ! そおれ ! そで
陽子 泰子 ( 女教師のように手を叩いて ) さあ、これで休憩はおしまいです。 ( 陽子と明のお尻をはたいて ) テニス、テニスよ。 明は立ち上がり、テニスラケットを陽子に差し延べて、陽子を沈黙から救い上げる。 陽子と明は立ち上がり、並んで歩き始める。 明、野村との関係を姉に尋ねたいのだが、話を切り出せない。明は水の中にいるよ かな うな哀しみで息が詰まりそうになる。 チ 陽子 ( 声を潜めて ) どんな男なの ? ン明えフ 陽子さっきの話の続きよ。 明ああ : : : あのお : 陽子何それ : ・ ほど速く呼吸をしているのに気付きびつくりする。 ・ : 最近、家に谷口って若い男が出人りしてるんだよ。
明、陽子、泰子の側に駆け寄る。 泰子 ( 放心したように ) 私の初恋の人はテニス・アンド・ ューっていう所に住んでいた の。 ( うっとりと ) 三十五面のテニスコートとクラブハウスがあって、ビンクの塀に囲 まれているのよ。 彼はミスタ ・ブルックスって名前のア。ハートに住んでたわ : ブルックスフ・ 明 ( 怪訝そうな表情で ) ミスター 泰子 ( 目を丸くして ) アッ君、まさか知らないんじゃないでしようねえ ! 陽子は知っ 陽子 泰子 ( 二人が知らないことに憤慨して ) いやあねえ、テニスのチャン。ヒオンの名前じゃ てるでしょ ? ううん、知らない。 確か一九三五年のウインブルドンのチャン。ヒオンよ。 ( 目を柔らかく閉じて、少女のように胸に両手を組み合わせて ) ああミスター ックス・
泰子は陽子の手をとり、きつく握りしめる。 泰子 ( につこり笑って ) わかったわね。 陽子 泰子わかったら、二人ともテニスよ。 二人はテニスコートに向かう。 陽子 ( 声を潜めて ) ママが、正彦って言ってるのが谷口って人フ うなず 明、頷く。 陽子ママ : : : どうするつもりなんだろう ? / んとこに泊まったんだろ ? 明昨日、 陽子うん : ・・ : 相変わらずよ。 0 、 0 、 、元気だった ?
はずないでしよ。 陽子と明はテニスコートに向かう。 チ 陽子 ( 明の目を見ずに ) 谷口って人、何処に住んでるのフ ン明家の近くだけど、いつもいないんだ。 陽子何の仕事してるのつ・ 明今は何もしてないよ。 陽子じゃあ、その人どうやって生計をたててるの ? 陽子、突然、吐き気をもよおす。 こわば 泰子 ( 表情を強張らせて ) 陽子ちゃん、まさか : 泰子、陽子の下腹部を凝視する。 陽子 ( 噴き出して ) ママ、変なこと考えないでよね。妊娠してたら、テニスなんてする
泰子あるわよ。 陽子何処に ? 泰子 ( ニッと笑って、陽子の前に立っ ) 此処に。 陽子、言葉を呑む。 陽子、明、無言でテニスを再開する。 泰子、客席に向かって歩き出す。 泰子 ( 客席に向かって ) ハアイ ! 私の名前は泰子ー むしか′」 クビアカモモプトホソカミキリと一緒に虫籠の中に住んでいます。 泰子はグリーンべンチに戻り、映画女優のように脚を組んで座る。 すらっとしたいかにもスポーツマンといった感じの美青年、谷口正彦がテニスコー トの向こうから歩いてくる。 明、突然テニスを中断する。
122 谷口 ( 泰子の耳元で ) ひどい顔色だよ。 泰子の呟きがびたりと止まる。痛ましい沈黙。 そでぐち 泰子 ( 袖口に忍ばせた短剣のように素早く微笑を浮かべ ) 帰さない。 私は帰さないわよ。 たた 泰子はくすくす笑いながら冗談のようにテニスのラケットで谷口の頭を軽く叩く。 陽子もくすくす笑いながら、谷口の頭をラケットで小突く。 谷口も困ったように笑う。 泰子と陽子の笑いは次第に激しくなり、ラケットを握る手に力がこもる。 谷口 ( ひきつったように笑いながら ) 痛いなあ : : : まいった : : : まいった。 泰子、カ任せにテニスラケットを谷口の脳天に打ち下ろす。 つぶや