泰子 ( 狂ったように笑いながら ) ちょうど、 ハバがクルリと向き直ったところで、克美 君がパ。ハの顎をまともにパンチー けんか ハンチ、。ハンチ ! 克美君ってボクシングやってたことあるから喧嘩とっても強い のよ。もう一発、 ハの顔にパンチー カットー きれいなアッパ 。、。ハはフラフラッとなって、二、三歩よろけると、家 の前のつつじの植え込みにズッテンー チ ( 笑いながら ) 見て、見て、陽子ちゃん、 ハ。ハが転んでる ! 転んでる ! ン明 ( 小声で ) 克美君って誰 ? 陽子 ( 。ほっりと ) 川島さんの前の、ママの恋人じゃない、覚えてないのフ グ 泰子陽子ちゃん見てたでしよ、私が克美君に家まで送ってもらったら、 立ってて、 。ハと克美君が殴り合ったのを ! それ ! それ ! 転んだ ! りは駄目ねえ : : : おかしな格好 : 泰子、腹を抱えて発作のように笑っている。 。、。、が転んだ ! ( 狂ったように笑う ) やつばり年寄 ハ。ハが家の前に

かな 泰子 ( 哀しい微笑 ) ほんとうは、ママ、陽子の前に男の子を産んだの。 でも : ・ : ・その子、五歳の時に : : ・・茫くしてしま「たの。 明 ( うわの空で ) 死んたの ? 泰子そうじゃないの : : : ある日 : : : 消えちゃったのよ。 私の目の前から消えちゃったの : ( 泡のように笑って ) ママね、あの子が玄関の前で遊んでるのをちゃんと見てたの よ : : : でもちょっと目を離したすきに、影も形もなくなってしまったの : : : どこか の変質者がさらっていって、こっそり始末したのかもしれないわね。 ただ迷子になったんなら見つかるはずだもん。 明 ( 球を打っ姉の姿を見詰めながら ) 警察には届けたの ? かす ほほえ ゆくえ 泰子 ( 幽かに微笑む ) 警察は何カ月もあの子の行方を捜してくれたわ : : : 何カ月も何カ 月も : : : 一年がたって、あの子のいない暮らしに慣れた頃、警察が家にやってきて あおざ こう言ったの、結論はたった一つしかない。 ( 青褪めて ) あの子はさらわれたその 明、母の創り話だと分かっているが、白球を目で追いながら適当に受け答えする。

134 栄貴は兄の顔をじっと見詰めているが、立ち上がって外に出て行く。 栄敏おい 栄敏は壁に掛けてある犬の鎖を、立ち止まった妹に手渡す。 栄敏鎖を放さないように注意しろよ。 シーン 3 栄貴と九官鳥 Part1 〈家の前の通り〉 栄貴は犬の鎖をぶらぶらさせながら外に出て、鉄屑置き場の前を通り過ぎようとす る。 鉄屑の山に鳥籠が捨てられている。鳥籠の中から幽かなはばたきの音が聞こえてく る。 栄貴は気づかない。 とりか 1 」 かす

陽子まあね。 よっ。ほど大事な用がなぎやこないもんな。ホレーする ) 陽子あっ ! 陽子、明がポレーした球を打ち返すのたが、ネットにひっかかる。明、ネットにひ つかかった球を拾いあげる。 陽子、明に近寄る。 陽子 ( 泰子に聞こえないように ) ママ、なんでテニスやろうなんて言いだしたんだろ う ? それに此処、学校のテニスコートでしょ : : : ? 日曜だからって勝手に使っ チ明ママ、昔つから、このテニスコート の前を歩くと、立ち止まって女学生がテニスや ってるの眺めてたじゃないか。 「私もあそこでテニスしたいわあ」ってさ : グ それがさあ、半年前にテニスラケットを買ったんだよ。 ( 姉が使っているテニスラケットを指さして ) それだよ、それ : : : 。俺が学校から おれ

221 向日葵の柩 栄貴は魂を奪われたように月を見詰めている。 できし 栄貴 ( 溺死しそこなった人間が水を吐き出すように ) 血まみれの月は嫌 : : : ねえ : : : お兄 ちゃん : : : 血まみれの月は嫌よ。 栄貴の目の前を猫が足音もたてずに通り過ぎる。 栄貴は猫の姿でわれに帰る。 栄貴は破けた服を拾い集め、家の中に入る。 〈李家の居間〉 とりか′」 部屋には栄貴と鳥籠の中の九官鳥の他には誰もいない。 栄貴は服を着替え、流しに破れた服を持って行く。 そしてマッチを擦り、その服に火をつけて燃やす。 火はほとばしり、その前に立っ栄貴の姿が血に浸されでもしたかのように見える。 鏡台が月光を反射して光っている。

186 見た。俺は息をしようにも空気がないときには、どんなに苦しいものかそのとき知 ったんだ。俺は、そっと隣の部屋のドアを開けた。くしやくしやに脱ぎ捨てられた 男の服とお母さんの服。 ( 異常なほど、優しく ) お母さんと男はすっ裸で絡みあっ て、お母さんは月を抱こうとするかのように腕を高く差し出したのを俺は見た。俺 たちは黙って見てた。男はお母さんの上にのしかかって : : : 俺たちの目の前でお母 さんは夜のように体を開く。男とお母さんはいつまでもいつまでも絡みあって : いっかみんなで海に行ったとき、お母さんが溺れそうになって : : : 俺が助けたんた かなづち けど、そのときに似ているなと思った。お母さんは金槌なんだよ。俺は何とかして 助けようと思ったんだけど、手がぶるぶる震えて : : : 助けられなかった。 あえ 栄敏は酸素不足の金魚のように喘ぎはじめる。 そして、押さえることができないほど、激しく泣き出す。 うつ 栄敏 ( 虚ろに ) あいつは、四年前、イル。フンサラムの妻子持ちのサラリ るために俺たちを捨てて、逃げて行ったんだ。 ーマンと同棲す どうせい

帰ると、家の前の駐車場でタ方、素振りしててさ、俺に「アッ君、北白河女学園の テニスコートでテニスしよう」って言うんだよ。俺、「できるわけないだろーって 言ったら、「そうよね」って笑って素振りやめてラケットしまったんだよ。 でも、何週間かたって学校から帰ると、ママ、テニスウェアの上にエプロンしめて 夕飯つくってたんだよ、 ( 陽子が着ているテニスウェアに目をやり ) その、テニス ウェアだよ。 陽子家に着くそうそうママに「これに着替えなさい」って渡されたのよ。 ドミントンのようにノ 陽子と明は泰子の視線を気にし、テニスラケットで。ハ ンドで球をやりとりしはじめる。 明俺が着てるのは川島さんのだぜ。 陽子 ( 敵意を抱いているような太陽の光に耐えながら ) そう言えば、川島さん元気 ? おおげんか 明 : 話してなかったつけ ? 別れたんだよ。三カ月前にママと大喧嘩して、あっ : 陽子何 ? 聞いてないわよ。私、お正月以来だもん、明と話すの : 川島さん、嫌になったんだよ。ママを毛が抜けた鶏を見るよ 明ママもう五十だろ ?

229 向日葵の柩 九官鳥ママオカエリナサイママオカエリナサイママ 兄妹は九官鳥の言葉に凍りつく。 九官鳥オカエリナサイオカエリナサイママオカエリナサイ 栄貴は鳥籠を抱えて立ち上がる。 栄敏どこに一何くの ? 栄貴は兄の顔を見ずに、鳥籠を抱えて外に飛び出す。 栄貴と九官鳥 Part 4 〈家の前の通り〉 栄貴は鳥籠を抱きしめる。 シーン圏 とりか′」

142 ら ) これもこの前買ってもらったんだ。この服も : : : サンローランた・せ ! 靴も ! 靴なんて俺ん家の押し入れに入りきらなくて困ってるんだ ! 風で障子戸がカタカタ揺れる。 金宮はびくっとする。 金宮お前のアポジ、いっ帰ってくるんだ ? 栄敏鉄屑置き場にいなかったか ? : と思うけど : 金宮 ( おどおどして ) いなかった : 栄敏いなかったら、きっといないんだろ : 金宮はもう一度、確認のために障子戸を見る。 栄敏風だよ。 沈黙。 いるのかフ

49 グリーンペンチ 突然、泰子が立ち上がって客席の方へ歩き出す。 客席の前でびたりと止まって、 泰子 ( 客席に向かって ) ( アイ ! 私の名前は泰子 ! 穴の中に住んでいます。 泰子、優雅に客席に背を向けて、グリーンべンチに戻る。 明相変わらず家ン中、目茶苦茶 ? : ううん、わりときちんとかたづいてた : 陽子 明ふうん。 泰子 ( 手招きをして ) 陽子ちゃん、陽子ちゃん。 陽子、母の側に駆け寄る。 陽子なあに ?