持っ - みる会図書館


検索対象: グリーンベンチ
73件見つかりました。

1. グリーンベンチ

栄貴は涙を流すように微笑む。 栄貴濡れた砂の上を歩き回って : : : 貝殻を拾ったわね。 栄敏 : : : 海に行ったのは : : : 俺が小学校三年ぐらいの時までな : : : それからは夏休みな んてどこにも行かなかった。俺は小学校四年のとき : : : 夏休み : : : 家族で遠い海に 行ったって貝殻のいつばい詰まった箱を持ってきた同じクラスの友達が : : : とても 憎らしくて : : : その貝殼の箱を盗み出して、一つずつ石ころで割ったことがあった ーパズルをするように、思い出の欠片を一つ一つ手にとる。 栄貴は真っ白なジグソ せみ 栄貴蝉の抜け殻の。フローチをつけてルイを連れて原つばに行ったのよ : : : 私 : : : しろっ 柩 の め草の首輪を作ってルイの首にしてあげたわ。 向栄敏まだ小犬の頃だろ ? : ルイちっちやかったわ。 栄貴そう : おれ かけら

2. グリーンベンチ

246 常にリアリズムの基礎的な訓練となる。しかし現代作家にとっては伝統的な自然主義リア リズム文学への批判的視点が必要だ。戯曲形式というのは近代小説よりも古い文芸形式で ありながら、だからこそ小説という形式を批判的に見ることもできる側面を持っている。 そして柳美里はさらに、家族それそれに感情移入し、それそれを演じることもできる演技 者でもあったのだから鬼に金棒といえるではないか。こうした演劇的体験を武器にして書 かれた小説が、芥川賞を受賞した「家族シネマ」であった。 「向日葵の柩ーで、柳美里は母親の不在を書き、弟を兄として書いている。それでもこの ゆが 劇を見た母は泣き、弟は怒り、父は微笑ではない唇の歪みを見せた。あきらかに家族を劇 として定着させたのであり、ドラマトウルギーは現実の対立を表現し得たと言える。それ でも柳美里はまだまだ「家族ーを書き続けなければならなかった。「仮面の国」という最 新エッセイ集における柳美里の社会的発言を読めばわかるように、今や書こうとすればど んな題材であっても書ける力量を持っ柳美里は、家族のことしか書けないのではなく、家 族を書くことがまだ終っていないのだし、それはいつまで続くことかわからないのだ。読 者は、自伝的作品である「水辺のゆりかごーを読み、例えばどの部分が「向日葵の柩」と して虚構化され、どの部分が「グリーンべンチ」の準拠枠になっているかなどと当て嵌め ていき、また戯曲にも小説にもなっていない事件やテーマを見つけ出せば、家族テーマの

3. グリーンベンチ

泰子は、二人の間に紙の皿を置き、桃を食べやすいように切り、血で染まった桃を ナイフに突き刺して皿の上に一つずつ載せる。 谷口清泉って中高一緒でしょ ? 僕が高校三年の時、君が中学二年 : : : ( 面白がって ) 同じ電車に乗ってた可能性ってすごくあるんじゃないかなあ 陽子 ( ロごもりながら ) 私 : : : 中学二年からほとんど学校に行ってないの : : : だから : 谷口 ( 興味を持って ) え ? どうしてフ 谷口は夢見がちな瞳をしていて、注意散漫で、不意にそわそわしたかと思うと急に 生き生きしたりして、陽子を落ち着かなくさせる。 陽子 ( しばらく谷口を見詰めてから、きつばりと言う ) 話したくありません。 泰子 ( 桃をすすめる ) さあ、お二人とも、よかったら食べて下さい ひとみ

4. グリーンベンチ

199 向日葵の柩 栄貴ごちそうさまでした。 栄貴は立ち上がる。 アポジ傘を持って行け。 かばん 栄貴は傘と学生鞄を持つ。 栄貴行ってきます。 栄貴は外に出ようとする。 テレビはニュース ( 天気予報 ) が終わり、ドッグフードのが流れる。 栄敏は箸を動かす手を止めて、興味深げにそのを見る。 いらだ 父親は苛立たしげにテレビのスイッチを切る。 栄敏 ( 栄貴に ) 外に出るついでにルイに餌をやってくれ。 えさ

5. グリーンベンチ

206 わず 置き場に流れる。ォルゴールの音色が二人の気まずい空気を僅かに救う。 栄貴 ( 寂しく ) 雨 : : : 降らなかったわね。 田中 ( 怪訝そうな表情で ) : : : 雨 ? 栄貴朝の天気予報で、雨の確率六〇。ハーセントっていってたのよ っていわれたから持って出たんだけど : ・ 沈黙。 けんか 栄貴私・ : 小さい頃 : / とママが喧嘩し始めるとここに座って聞いていたのよ。 田中何を ? 0 、 0 、 栄貴 / とママの怒鳴り合いをよ。喧嘩をするときは韓国語になるのよ : : : 二人とも : 一日中続く夫婦喧嘩はしよっちゅうで、私は何時間も何時間もラジオでも聞く ようにママとパパの怒鳴り合う、意味の分からない言葉を聞いていたわ。 ゅうひ 栄貴は落ちていくタ陽に見とれる。 0 、 0 、 。。、パに傘持って行け

6. グリーンベンチ

55 グリーンペンチ 泰子ママが電話している間に、陽子ちゃんとアッ君が、二人でキャッキャ笑いながら、 ママの女学校時代のアル・ハムの写真をアル。ハムから破りとって千切っちゃったの : : ママ、哀しかったわ。 怒る力も湧いてこなかったのよ。 ( 声を滲ませて ) 今でも、ほら、涙が出てきそう 陽子は微笑を浮かべている。カナリアの羽根をくちもとにつけた猫のように : 陽子覚えてるわよ : : : ママは私たちが破って、ばらばらにした写真ーーーセビア色に変色 した時間の前に泣きながら何時間も何時間も座っていたわ。そしてセー・ラー服姿の 自分の写真の破片を一つ一つ拾いあけて、セロテープでくつつけてたわ。ジグソー パズルをする子供みたいに : 蝉の鳴き声が激しくなる。 沈黙が生まれる。

7. グリーンベンチ

61 グリーンペンチ 明 ( やや間があって ) ねえ、ママ、俺、安い家賃のア。ハ 思うんだ : 泰子 ( 柔らかく ) アッ君、僕って言いなさい。 三人は何千日も夏の中を生きているように思えてならない。 まぶ 風はなく、光と熱ばかりあって、耐えられないほど眩しく、暑い あまご 三人は雨乞いをする人々のように雲一つない真っ青な空を見上げる。 陽子 ( 誰に言うともなしに ) 私たち、引っ越しばかりだったわね。 ( 独り言のように ) 住み慣れた家を離れるのはいつだって私 : : : つらかったけど : ・ : 荷物を一つ残らずトラックに積んで : : : いったん車が走りだすと、私は心の何処 かでいつもうきうきしてたわ。 あの : たど ( 思い出を辿る ) ノの車とは違う青い車。運転してるのは川島さん。あの夜・ : : ママが私と明を連れて夜逃げした時でさえ : : : 私、とんでもない遠い所に 0 、 0 、 おれ ートに引っ越した方がいしと

8. グリーンベンチ

160 急速に溶明。と、ともに韓国のメロディーも遠のく。 舞ムロはコーリャン。ハ あご 顎が異常に長い青年、申寿英がカメラを持っている。 申 ( 日本語と韓国語のちゃんぼんで ) 今度、俺人りたいから、安ちゃん代わってよ ! 安 ( 韓国語で ) いいわよ。 申は安にカメラを手渡す。 安はカメラをかまえる。 一同は、再びカメラのレンズに顔を向ける。 一同 ( 通常、「チーズ ! 」という写真を撮る合図 ) キムチ ! おれ

9. グリーンベンチ

・「ひどい顔色だ」ぐらいにしとけばよかったのかもね。 泰子が呼吸する空気は何処にもない。 あえ 泰子は酸素不足の金魚のように喘ぎはじめる。 うつ / ともう一度やりなおす。 泰子 ( 虚ろに ) 私、やつばりパ。、 明 ( 励ます ) そうだよ。それが一番いいよ。 ( 優しく ) ママはそうするしかないよ。 陽子 ( 虚ろに ) みんなでまた一緒に住むのフ また・ : : : : 繰り返すの : 泰子 ( 長い間 ) みんなでまた一緒に住めば何もかもよくなるわよ。 チ ・カしらっ・・ 陽子 ( 長い間 ) そう・ : ・ : たぶん : 泰子きっと : ハ陽子やって行ける ? ( はっきりしない口調で ) 行けるよ。 ほほえ 泰子 ( 虚ろに微笑み ) 大丈夫よ。

10. グリーンベンチ

栄貴のペンを持つ手が震える。 栄貴 : : : 落としたの : 栄敏あんなところに ? 栄貴・ほうっとしてて : : : 落としたのよ : 栄敏今日、雨、降らなかったからな。 栄敏は傘を壁にかける。 アポジ ( 苛立って ) おい、消したか ? つぶ 栄貴は先刻消せといった箇所をベンで黒く塗り潰す。 柩 の 葵 向アポジ読んでみろー 栄貴 ( 読む ) 《君は元気でやっていると思う。何も言わないで君が出ていってしまってか ら、どうしたらいいかわからないうちに四年が過ぎた。三年前君から電話がかカ : 彳に立たなかったわ。