父親 - みる会図書館


検索対象: グリーンベンチ
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1. グリーンベンチ

222 九官鳥オカエリナサイオカエリナサイママオカエリナサイママ 栄貴は籠の中の九官鳥を見詰める。 栄貴は鏡台の前に座って母親の櫛で髪を梳かす。 ロの端の凝固した血を母親のレースのハンカチで拭う。 そして、自分の体に母親の香水をかける。 だんらん シーン李家の団欒風景 Part 3 〈李家の居間〉 父親が帰宅する。 アポジどうしたんだ ? 電気もつけないで : 栄貴 ( 父親には顔を向けずに ) すこし : : : 眠ろうと思ったの。

2. グリーンベンチ

向日葵の柩 147 金宮 ( 立ち上がり ) お前が誰とっき合おうが、俺には関係ないけど、栄貴ちゃんを連れ て行くのはやめろよ。あの申って奴はなあ、最低な男なんだそ ! ずうずうしくて、 あっかましくて、馴れ馴れしくて、朝鮮人まるだしさ ! わかったな ! 金宮は立ち去る。 栄敏とアポジ〈李家の居間〉 風で障子戸がカタカタ音をたてる。 栄敏は金宮が畳に投げ出した母親の香水の瓶を手に取り、鏡台の上に戻そうとする。 父親が音もなく障子戸を開け、栄敏の背後に立つ。 アポジ水商売をしているような奴とっきあうなといったろ ? 栄敏は父親の声に驚き、万引きを誰かに見られたときのように母親の香水を手から シーン 6

3. グリーンベンチ

143 向日葵の柩 金宮お前のアポジ : 栄敏何のことを ? 金宮俺のことをだよ。 おやじ 栄敏なんで親父がお前のことを怒るんだ ? 金宮 ( 卑屈に ) : : : 俺を嫌ってるからな : 栄敏 金宮お前の妹だってそうだよ。この間 : : : 俺 : : : 夕方、遊びにきて : : : 夕食一緒に食べ ただろ ? あの二人が俺を見る、何ともいいようのない目つきで、俺はすぐ分かっ たよ。二人は俺を嫌ってるんだってな : ・ 金宮は鏡台の鏡の中の自分の顔を横目でちらっと見る。 そして、鏡台の前に置いてある、スプレー式の香水の瓶を手にとって眺める。 障子戸の向こうを父親の影がよぎる。 父親は指を唾で湿らして障子紙に穴をあけ、部屋の中を覗く 栄敏と金宮は父親の影に気づかない。 : 怒ってるだろ ? のぞ

4. グリーンベンチ

156 栄敏親父、電話かけて、富士丸を取り消して、金剛丸にしろって ! ほらあ、電話で話 してたじゃない ! 「韓国で一番りつばな山は金剛山だ ! 富士山の富士丸じゃあ 駄目だ ! 」って : : : 覚えてないのつ・ 栄貴 ( 台所の父親のようすを窺う ) : : : うん。 父親が包丁を片手に気色ばんで居間にやってくる。 アポジ昨夜、アポジが風呂場で漬けて、盥の中に人れて置いたキムチに石鹸の泡を入れ たのは誰だ ! ( 栄敏に ) お前だろ ! 栄敏俺じゃないよ。 栄貴私が : : : さっき : : : 手を洗うとき : : : お風呂場の電球切れてて : : : 暗かったから : ・ ・ : 手を洗うとき : : : まちがって石鹸をキムチの人っている盥の中に落っことしちゃ ったの : : : ごめんなさい : アポジ ( 栄敏に ) お前が犬の話を止めればいいんだー のぞ 栄敏は覗くように父親の顔を見詰める。それはまともな凝視で、眼には皮肉な微笑

5. グリーンベンチ

152 アポジ ( ウイスキーを飲む ) お前は高校を卒業するまではなんでも一番だったのにな : うれ : お前が生徒会長になったときは本当に嬉しかったよ : : : 自慢の種だった : 栄敏は畳に転がっている母親の香水の瓶を手に取り、鏡台の上に戻す。 だんらん シーン 7 李家の団欒風景 Part 1 〈李家の居間〉 栄貴はなにげない顔で軒下に鳥籠を吊るす。 栄貴 ( 父親と兄の顔色を窺いながら ) ただいま。 栄貴は犬の鎖を壁にかける。 父親が棚からウイスキーの瓶とグラスを取り、グラスにウイスキーを注ぐのをじっ と見守る。 とりか 1 」

6. グリーンベンチ

栄貴 ( ぎこちなく相槌を打っ ) ・ 栄敏 ( 夢中になって ) ルイを連れて散歩すると、みんな振り返るだろ : : : 牛みたいだも よあ ? みんな、最初は布がる んな : : : 。秋田犬の中でも一番でかいんじゃないかオ んだけど : : : 「おとなしいから撫でても大丈夫ですよ」って俺がいうと、みんな撫 でて通るんたぜ ! ルイは絶対人を噛まないもんなあ : : : 絶対 : ・ 父親は息子の話の邪魔をするかのように、わざと大きな音をたてて包丁で何かを刻 んでいる。 おやじ 栄敏親父が競馬で大穴を当てた日にルイを買ってきたんだよな : : : 覚えてるフ 栄貴何を ? 栄敏ほら、血統証にさあ、ほら、名前が書いてあったろ ? の 栄貴ああ : : : 富士丸 ? 向栄敏そうそう・・・・ : あれ血統証名っていうの ? あれさあ : : : 親父 : 覚えてるつ・ 電話かけて抗議したじゃない ? 栄貴忘れちゃった・ : あいづち ・ペットショップに

7. グリーンベンチ

130 舞台は洪水の後のような〈李家の居間〉。 四年前に家出をした母親の残していった鏡台の上だけが、ふわふわしたバレリ のスカートのように泡立っている。 栄貴はその鏡台を眺める。 鏡台の上にはビンクの縁取りのコルクポードが掛けてあり、かさかさになった薔薇 びよう の花がそこに鋲で止めてある。その他、絵葉書、料理法に関する雑誌からの切り抜 き、赤ん坊の頃の栄貴と栄貴の兄、栄敏の写真が鋲で止めてある。 いちべっ 栄貴は父親が撮った、自分と兄と母親が並んで笑っている写真を一瞥し、鏡台の鏡 の中の自分と、視線を絡ませる。 栄敏の登場〈李家の居間〉 鏡の隅に兄、李栄敏が現れたので、栄貴は小さい驚きの声をあけて振り返る。 栄貴は自分が、受話器を持ったままなのに気づき、慌てて受話器を元に戻す。 障子の穴から、外の斜陽が遠慮なく入り込んでいる。

8. グリーンベンチ

240 栄敏 ( 父親が母親を怒鳴りつけていた時のように ) モンネミ ! イヌムチャシィー イヌムカシナー 永玉の形相がみるみるうちに変わる。永玉は韓国語で栄敏を怒鳴りかえす。 栄敏の頭の中に ( ンマーのように容赦なく女の韓国語の怒声が響く。その韓国語の 響きからこれまでの苦々しい思い出が浮かび上がる。 たた 彼は今こそ徹底的に〈その響き〉を叩きつけ、びくりと動かなくなるまで容赦なく 永玉 ( たどたどしい日本語で ) 私は誰といても : ・ : 心がやすまらない : ・ : 安心できるのはあなただけ : 。 ( 韓国語で ) あなたは私を愛していますか ? 栄敏はロ笛を吹くのをやめる。 栄敏の頭の中に男ともつれ合うように歩きながら、その男の耳に今の言葉を囁いて いた永玉の姿が浮かんだからだ。 をする。 アイゴー

9. グリーンベンチ

158 栄敏は父親を殴る。 父親は倒れる。 栄貴は張り裂けるように泣く。 栄敏 ( 妹に、すごい剣幕で ) うるさい 栄敏は泣いている妹を殴り飛ばす。 父親は栄敏の剣幕に鼈き、凍りついたように栄敏を見る。 栄敏は障子戸を開け、ロ笛を吹いてルイを呼ぶ。 父親は見たくもないものから眼をそむけるように障子戸をそっと閉め、外に出て去 障子戸越しに犬小屋の影と栄敏の影が風にゆらめいて映る。 栄敏 ( ルイに ) お手 ! おかわり ! ちがうよ、逆の手だ ! ( 柔らかく ) そう : : : そう、 いい子た :

10. グリーンベンチ

148 落とす。 香水の瓶は畳の上に転がり落ちる。 栄敏は振り返り、夜空と鉄屑置き場を背景に縁側に立っている父親を見る。 父親の姿は、まるでプリキを切り抜いたように血の気がなく見える。そして、父親 の声もブリキのようにしわがれていて、ブリキのように冷たい。 アポジ ( 座椅子に腰を下ろし、溜め息を吐きながら ) アイゴチュケッター しの、カっ・・ 栄敏散歩 : : : もうすぐ帰ってくるよ : アポジ女は外に出すとすぐ虫がつくから注意しなきゃいけないそ ! 栄敏 ( 参考書を開く ) ルイがついてるから大丈夫だよ。 アポジあのカシナーの血が流れてるからな : : : 安心できないぞ ! 自分の家族を捨てて、 イルブンサラムと浮気するんたからな ! あのカシナーのおかげで、うちはめちゃ めちゃだー かぎ 父親は、急に立ち上がり、金庫の鍵を開けて、四年前に妻から届いた手紙を取り出 ・ : 栄貴はいな