り、初級・中級・上級段階の修行者 ( 下士・中士・上士Ⅱ三士 ) それぞれに適した包括的かっ凝縮され た修行を通じ、修行者を導いていく書きかたになっています。だからこそ、ツオンカバ大師は、論書や ラムリム・チェンモ 実践書の著者が有すべき資質について『菩提道次第広論』の冒頭て注釈した際、アティーシャの資質に ついて記し、それによって、アティーシャこそ論書の著者にふさわしい資質を備えた人物だと暗示した のてす。アティーシャは、チベット人に 一測りしれない恩恵を与えてくれたといえるてしよう。 のちにゲルク派が新カダム派として知られるよ・フになると、アティーシャの派は回顧的に旧カダム派 と呼ばれるよ - フになりました。アティーシャと彼の一番弟子ドムトウンパによってはじめられたカタム 取は、深い称賛に値する宗派てあり、たい へんに前むき、実践的て、純粋な教義を持っています。ツォ ラム ンカバ大師のさまざまな形式の菩提道次第論は、アティーシャの『菩提道灯論』を下敷きにしているだ けてなく、「甚深なる智慧」の章ては、ナーガールジュナ ( 龍樹 ) などインドの諸師の論書を引用した教材も加えられています。ツォ ンカバ大師は、これらの章て単に語りの道 ( 菩提道 ) の二要素 「智慧 , と「方便ーーーの修行法を体系的に解説したばかりてなく、 シそれまて不明瞭なまま残されていた数多くの間題点をも明瞭に説き テ明かしています。 そして前述のとおり、パンチェン・ラマ一世が、今回とりあげた 菩提道次第論書を記したのてす。彼は高い悟りを得た超宗派の偉大 な人物てあり、当時の多くの偉人たちから深い称賛を受けていまし
アティーシャよ 吉祥なるドムビー 密教の実践加持の血脈の上師たちに礼拝いたします 弥勒アサンガ ( 無着 ) ヴァスパンドウ ( 世親 ) よ 偉大なるヴィムクテイセナバラマセナヴィニタセナ シュリキルティシンガハドラクサーリニ世セルリン。ハ ( ダルマキールティ ) よ 広大なる菩薩行の血脈の上師たちに礼拝いたします どいう我執を打ち砕く文殊師利 「あるー「ない ルジュナ ( 龍樹 ) チャンドラキールティヴィドヤコキラ 偉大なるナーガー リタどその他超越した上師たちょ ブッダハ これら仏の意図を守る甚深なる空性の教えの上師たちに礼拝いたします 仏陀の卸世にはヾドウラバラ ンカラ・アティーシャ チベットにおいてはディ そしていま兜率天に御座してナム・カ・ティマメーど呼ばれる御身は あたかも世に善をなす魔法の宝石のごどし 栄光あるアティーシャに礼拝いたします 第 2 章前行
菩提道次第の実践と本書の構成について 提道次第は、その名の示すように、菩提 ( 語り ) を得る方法を段階的に説いた教えてす。この教 えの実践には、前もって特別な知識や経験は必要ありません。菩提道次第は、瞑想の座法にはじ まる初級の段階から、解脱を願う心を持つ中級段階、さらに生きとし生けるものを苦しみから救う願い を起こす上級段階へと、私たちを自然に導いてくれます。そのなかには、菩提心を起こすテクニックや 褝定、あるいは空性など高度な仏教哲学をも含み、いわば仏教のすべての教えが凝縮されています。 菩提道次第は、十一世紀にインドからチベットに招かれた偉大な学僧アティーシャの『菩提道灯論』 にはじまります。短いながら仏教の教えのすべてを含むこの論書を下敷きに、その後、多くのチベット ラムリ ム・チェンモ の聖者が論書をものしました。とりわけツオンカバ大師の『菩提道次第広論』は、アティーシャの流れ を受け継ぎつつ、深い哲学的見解によって、仏教のあらゆる教えを矛盾なく詳細に説き明かした金字塔 とい - んるてしょ - フ。 われわれを本当の幸せへ導く巧妙なシステム、菩提道次第は、過去の仏教修行者たち、特にチベット の仏教聖者たちが、全身全霊を傾け、複雑きわまりない人間の心ととり組む過程から生まれました。瞑 想 ( 心を集中して深く考えること ) をとおして、日ごろ覆い隠されている人間の心の本質 ( 悟り ) 〈私た
ラムリム + 八冊の菩提道次第論書の起源 ラムリム 菩提道次第の修行にはふたつの主要な系列があります。そのどちらも仏陀釈迦牟尼に由来するものて ありますが、ひとつは文殊菩薩をとおして伝授された「甚深なる智慧、の系列、もうひとつは弥勒菩薩 によって伝授された「広大なる行」の系列てす。このふたつの系列は、仏陀ご自身の説いた般若経の主 な二側面を説明した結果として生じました。それら二側面とは、すなわち「空の教義 ( 明示された主 0 題 )- と「完全なる悟りへの段階的な道 ( 暗示された意味 ) 」のことてあり、前者は文殊菩薩によって、 後者は弥勒菩薩によって詳細に説き明かされました。 0 このふたつの系統を融合させたのがアティーシャ ( 九八二ー一〇五四 ) てした。そしてのちに、その爪 二系統の融合のなかからカダム派の三つの血脈が起こります。アティーシャはチベットて『菩提道灯 論』と題された教義書を記していますが、この『菩提道灯論』が、その後チベットて数多く記された 菩提道次第論書の土台となるのてす。 前述のカダム派の三血脈を受け継いだ偉大な僧侶ツオンカバ大師 ( 一三五七ー一四一九 ) は、 ラムリム・チェンモ ラムリム・チェンモ 『菩提道次第広論』を記しました。また彼は、その『菩提道次第広論』を中くらいの長さに縮めた『菩 提道次第略論』も作成しています。『菩提道次第略論』の作成にあたってツオンカバ大師は、苦心して ム・チェンモ 作りあげた『菩提道次第広論』のうちの数か所 ( 主に仏陀の言葉や他の論書などからの引用、および過去の まちがった見解に対する反論の部分など ) を省略したわけてすが、それても観の章においては二諦に対し 4
王冠の玉石のごどきこれら三名に祈願いたします ナーが ールジュナの思想を正しく解説し明らかにするチャンドラキールティ ( 月称 ) よ チャンドラキールティのすぐれた一番弟子ヴィドヤコキラど 第ニの弟子ヴィドヤコキラニ世よ これら三名の自在なる論師に祈願いたします 深遠なる縁起をあるかままにご覧になり 大乗の体系を守るアティーシャど このよき菩提道を解説し守りつづけるドムトウンパ 世界の飾りのようなニ名に祈願いたします 偉大なる瑜伽行者グンパワよ 甚深にして堅固な禅定を体得したネウスルバよ 律学の教えを守るタクマ。ハよ 光なき蛮人のなかの輝く灯明のごどき三名に祈願いたします 精進努力によって偉大なる行をなすナムセンよ 丿ンポチェよ PART 2 PREPARATORY PRACTICES
おお世にも稀なる輝かしきバラマセナよ おお深遠なる道て心相続を浄化した上師ヴィニタセナよ 広大なる行の蔵てあるヴァイローチャナよ 衆生の善友なる三名に祈願いたします 甚深な般若学の智慧の教えをひろめたハリバドラよ われらの決意を見まもるクサーリよ 一切衆生の救済者ラトナセナよ 衆生の導師たる三名に祈願いたします 尊き菩提を体得したセルリンバよ 偉大な大乗の教えを守るアティーシャど 丿ンポチェよ 正しい菩提の道の体系を守るドムトウンバ これら教えの命のような三名に祈願いたします たどえるすべもないほどの比類なき指導者釈迦牟尼よ あらゆる仏陀の智慧の体現なる文殊師利よ 最も深遠なる意味をご存じのすぐれた聖者ナーガールジュナ ( 龍樹 ) よ PART 2 PREPARATORY PRACTICES
います。 十上師が有しているべき資質 それぞれの修行に関して上師が持つべき資質について、仏陀ご自身が律蔵や般若経、密教経典など、 ラムリム・チェンモ さまざまな経典て概説なさっています。ツオンカバ大師も著書の『菩提道次第広論』て、上師の有すべ き資質について広く言及しています。上師を探している修行者にとっては、語りの道案内をしてもらお うと思う人物が、本当にそれにふさわしい資質を備えているかどうか判断する基準を与えられているわ けてす。悟りの道 ( 菩提道 ) を正しく指し示すことのてきる人物に信頼を寄せるのが重要てす。また、 ひとたび上師に信頼を寄せたなら、行動のうえても考えのうえても、その信頼を持ちつづけることが大Ⅸ 切てす。 ラム + 菩提道次第の出典 ム・チェンモ くぶん凝縮した形て説明しているため、『菩提道次第広論』の瞑 本書ては菩提道次第の瞑想法を、 ラムリム・チェンモ 想法とは多少異なっています。『菩提道次第広論』の概要は、以下の主な四部分から成り立っています。 ①教義の信憑性を証明するため、『菩提道灯論』の著者アティーシャのすばらしい資質を説明する。
しいますが、阿 のが大乗仏教の立場だからてす。自分の解脱だけを願って実際に解脱した者を阿羅漢と、 羅漢は解脱はしていても、完全な存在てはありません。阿羅漢の境地てはいまだ所知障 ( ものごとをあ りのままに直接理解する一切智智の獲得を妨げる障害 ) が存在し、完全な境地には到達しえないのてす。 てすから、修行者は最初の段階から大乗仏教に入るべきてす。大乗仏教徒てあるかないかは、菩提心 ( 一切衆生を救済するために自分自身が仏陀の境地を得ようとする利他の志 ) のあるなして決まります。たと え空性を理解するほどの深い智慧を持つ者ても、菩提心がなければ大乗仏教徒てはありませんし、ほか に何の功徳はなくとも、菩提心があればその者は大乗仏教徒てす。また、い くら大乗仏教の教えを学ん ていても、学ぶ側の人間がそれを知識としてのみ理解して、本当の菩提心を持っていないのては、何の 意味もありません。私たちは、正しい大乗仏教徒とならなくてはなりません ( 第 3 章川 ) 。 ては、どうやって菩提心を起こしたらよいのてしようか ? 菩提道次第論てはふたつの修行法が説か れています。ひとつはアティーシャの伝えた「因果の七秘訣」、もうひとつは、シャーンテイデーヴァ の伝えた「自と他を入れ替える」方法てす。 因果の七秘訣の修行法ては、菩提心を生じさせる原因をたどってみます。つまり菩提心は、殊勝な心 がまえ ( 一切衆生を苦しみから解き放ち幸福にする責任を自分が背負おうという心がまえ ) から生じます。 殊勝な心がまえは、何から生じるかといえば、衆生を苦しみから救、 したいという大悲から生じます。大 悲は衆生を幸福にしたいという大慈から生じ、大慈は衆生から受けた恩を返したいという報恩の気持ち から生じ、報恩の気持ちは受けた恩を思いかえすことから生じ、恩を思うには、一切衆生がかって自分 の母てあったことを認めることから生じる、というところにたどりつきます。そこてまず、一切衆生を 276 APPENDIX 1
『現観荘厳論』の最終部分には、「三つの瞑想の対象」「四つの訓練 , 「結果として得られる仏身」と題 された、経典全体を三分割して要約した詩が付されています。基本的にはこの詩が菩提道次第の暝想実 践の出典だとされています。この経典のなかぞ、上師への信頼と確信を因果の法則との関連て強調して いる第四章にも、特別な詩が記されています。また、この第四章 ( 「一切相現等覚」 ) ては、利他心と菩 提心を育む過程、またそれらの実践や六波羅蜜の修行など、いわば菩提道次第の修行全体の概要も説明 されています。 十さまざまな血脈 教えの実践には、修行者の能力、興味、必要性に応じて実にさまざまなやりかたがあります。また経 典や論書を勉強するにあたっては、その本が書かれたり、教えが説かれた時期、環境、状況、時代、社 会、組織などを考慮に入れる必要があります。たとえば、インドの聖者や学僧が記した論書や注釈書と、 チベットの聖者や学僧が記したものとては、解釈の構成法に違いがあります。弟子や修行者を導こうと 努力した数多くの師が、いろいろな形式や技巧を用いて悟りの道 ( 菩提道 ) を説いたのてす。こういっ た多様性はとても重要なことてす。 菩提道次第論のなかて説明されている道次第の様式および進めかたは、インドの師アティーシャに よって最初に考えだされました。彼はインド人てしたが、彼の菩提道次第論書 ( 『菩提道灯論』 ) はチ べットて書かれました。そのため彼の論書は、チベット人の国民性やチベット人の必要が考慮されてお ム ム PART 1 INTRODUCTION -4 ・ 2