思っ - みる会図書館


検索対象: 断ち切れ!虐待の世代連鎖 : 子どもを守り、親をも癒す
174件見つかりました。

1. 断ち切れ!虐待の世代連鎖 : 子どもを守り、親をも癒す

自分がかって親からかけてもらえなかった一一一口葉を、子どもに言ってやる。ここに、一番の 勇気を示す価値がある。 私「そしてお父さんからは、なんて言われたい ? 」 正美「そうだよ。お前が生まれてきてくれたことが、お父さんはうれしいんだよ」 こう答えた正美の頬を、一筋の涙が走った。自分のために流したはじめての涙だった。 数日後、正美から留守番電話にメッセージが人っていた。 「いい知らせがあります。娘に言おう、言おうと思いながら言えなかったことが、今日、 やっと言えました。言ったら、肩がスーツと軽くなりました」 それから二年たって、私たちは偶然、再会した。彼女は、もう右腕をプルプルさせなくて もよくなっていた。 「あのとき、娘さんになんて言ったのですか ? 」とたずねると、予想通りの答えが返った。 「あなたが生まれてきてくれて、お母さんはうれしい」

2. 断ち切れ!虐待の世代連鎖 : 子どもを守り、親をも癒す

人生目標はいっしカ女 、、「良に生きる意欲を」に変わっていた 「はじめて会ったとき、先生から『これから大変な日々が続きます』と言われました。あ の一「ロ葉で私はすごく楽になったんです」 こう言って電話を切った彼女に、もう私の支えはいらないだろうと思った。「自責の風」 はすっかりその方向を変えていたからだ。 愛すればこその怒り。矛盾だらけの児童虐待の支援に、常識的な助言は役立たない 付記本稿は『たすけて ! 私は子どもを虐待したくない』 ( 径書房 ) の第一章に詳述した事例である。 わ断ち切れ ! 虐待の世代連鎖

3. 断ち切れ!虐待の世代連鎖 : 子どもを守り、親をも癒す

ガラス越しの、達郎と私のやりとり。 私「どうして自分がやったと自白したのですか ? 」 達郎「刑事さんに、『お前がやったんじゃないか』って強く言われて、どうしたら刑事さ んを怒らせなくてすむかを考えてたら、認めるしかないと思って : : : 」 面接と心理検査の結果、彼は自分の利害に関係なく、相手の期待に応じて同調してしまう という、特異な人格の持ち主であることがわかった。それが作られた原因は、生育過程にお ける親からの強い抑圧にあった。いつも相手を「怒らせないようにする」ことばかりを考え、 反論などしたことがないという。学校でも度々いじめられたが、いじめた子のほうがロがう いじめっ子に謝ることで終わって まいので、教師には信じてもらえなかった。結局いつも、 い」 A 」い一つ もう一つの疑間がある。なぜ彼は、車中で生活していたのかということだ。 私「逮捕されるまで二年間も、車の中で寝泊まりしていたのはなぜですか ? 」 達郎「家におれんのです。妻がうるさいもんで : : : 」

4. 断ち切れ!虐待の世代連鎖 : 子どもを守り、親をも癒す

長男はそれからまったく学校に行かなくなった。 キレやすい父親たちのスイッチを入れるのは、「子どもが宿題をしていない」というタイ ミングだ。教師は、宿題をやるように励まし、やったかどうかをチェックするだけでなく、 自分が受けもっ子どもたちがどんな思いで宿題をやってきているかについても気にしてほし 自尊心を傷つけて宿題をやり遂げるより、家族に受け止められて、自分が生きる意味を見 つけることのほうが大切だと思う。 宿題をやらせることで親の権威をかざす姿は、親自身が抱く強い不安の裏返しだ。だから、 個を無視した無理な宿題は、親も子も追いつめることになる。 「宿題が理由で虐待されているなんて気づかなかった。それを話してくれていれば、もっ と考えただろうに : こう悔やむ教師もいるだろう。「宿題をやらなかったから」と言って虐待の責任を子ども になすりつけるよりずっとゝ しいが、それでも責任転嫁の姿勢に変わりはない。子どもが話さ わ 5 断ち切れ ! 虐待の世代連鎖

5. 断ち切れ!虐待の世代連鎖 : 子どもを守り、親をも癒す

思いながら、私はその校長に会った。 評判のワンマン振りとは別人のように、目尻に涙をたたえ、ポツリと語った一言は「おれ はもうだめだ」だった。 人生の歯車が狂ったのは、定年退職間際に彼なりの計画、すなわち出身地に近い都市部の 大規模校で職をまっとうすることから脱落した瞬間。異動が言い渡されたとき、その意味を、 当然ながら本人は悟っただろう。 もう一人、校長の尻拭いに疲れ果てた教頭の健二。こちらの校長にも会ってみた。彼も すんなり自身の問題性を、「私には、自分のどこがいけないのかわからんのです」と認める。 やはり涙目だ。彼は、地元で「不適格教師の吹き溜まり」と噂されるような学校に赴任し、 そこで教員人生をまっとうする。 校長たちとの対話を進めるうちにわかったこと。彼らの教頭時代、やはり「ヒラ校長」と の関係で悩んでいた。「ヒラ」と「エリート」の篩は、意外に早いらしい。落ちたことに薄々 気づきながらも、一部の教師はエリートとして君臨する夢を追い続ける。上ばかり見る眼差 しは、下の立場を思い遣るという道徳の感性を鈍らせる。 ふるい ノ 87 断ち切れ ! 虐待の世代連鎖

6. 断ち切れ!虐待の世代連鎖 : 子どもを守り、親をも癒す

親が、包丁のことも話せるような、受け止める器の広い先生が現実にいる ! それを確認 できた私は、これからも学校という巨塔に埋もれる「人間先生」に間いかけ続けようと思った。 さて、娘からの包丁の反撃でようやく気づいた秋子は、しみじみと語るのだった。 「宿題なんてどうでもよかった」 そう、これが京子も手に人れていた「秘訣」だ

7. 断ち切れ!虐待の世代連鎖 : 子どもを守り、親をも癒す

久しぶりの手紙は「あたしは元気だよ」で始まっていた。 「誰かを食べたいと思った事がある ? 食べちゃいたいほどかわいいってよく言うよね。 あの気持ちよくわかるよ。結婚する前に彼と別れるとき、『ああ、この人を殺して食べてし しいなって思うの。恋人が私を殺してくれ まいたい』って思った。最近は、食べられるのも ) たらホント最高だよね。すべて残さずに食べてもらえたら、あたしは彼の一部になれる」 最後の手紙 ( 十二通目 ) 「私はすつごく元気。誰にも話せなかったことをぜんぶ聞いてもらえたからかな ? 結局、連 世 私はちっとも連鎖の輪を切れないでいるじゃない ? 親と同じような道を歩いてる ? うう の 待 ん、そうじゃない不 ムはこうして自分のことをわかろうとしてる。わかってもらおうとして 虐 いるじゃない ! 」 れ 切 ートマークの便箋に、汚い字で書きなぐって、ぜったいに長谷川さんのこ 「ヒョウ柄とハ ち 断 とを『先生』なんて呼ばない私だけど、ちょっぴり感謝しているよ。さようなら」 けつきよく私は最後まで、咲子の真実がよくわからなかった。いっかこの十二通に込めら れた「宝」が役立っときが来ると信じている。何も疑っていないから。

8. 断ち切れ!虐待の世代連鎖 : 子どもを守り、親をも癒す

「どうして、私のことをダメだって言わないんですか ? 」 「どうしてって : ダメだなんて思わなかったからです」 「誰に話しても、私のことをダメだって言う。本当に先生は思わないんですか ? 」 はいだって、なんとかしようと、こうして電話をかけてきているじゃないですか ? 」 「よ、よ そうですね : なんか、私 : ・ 私を受け人れてもらえたようで、と ても気持ちが楽になりました」 その後、秀美から電話がかかることはなかった。この電話が、彼女に何らかの影響を与え たかどうかはわからない。しかし、私にすれば、自身の眼差しを変える貴重な体験になった ことは確かだ。助言より、まず徹底的に聴く ( 受け人れる ) こと。そうしてもらうことを希 求しながらも、電話をかけ続け、ことごとく撥ねつけられてきた親たちがたくさんいる。 しばらくして小百合という母親から電話がかかってきた。やはり、止められない子どもへ の虐待と、根深い自己不信を一方的に話した。自らの幼少期に受けた虐待。その連鎖に立ち 遮ることなく聴き続けた。一段落した秀美は、私が予想していなかった質間をぶつけてき 78

9. 断ち切れ!虐待の世代連鎖 : 子どもを守り、親をも癒す

「そのあと」を思った私は一瞬「しまった」と思うが、ごまかすわけにもいかず「はい そうですが : : 」と答える。そして「十五分なら時間がとれます」と、念を押すようにつけ 加えた。実際に、山積した仕事を考えると、これが精一杯の時間だった。 冷たい印象を与えるかもしれないが、この見立てがいずれ双 時間制限から人るとは : 方にとっての安全弁になる。 三、四年前までは、私が直接電話を受けることも多かった。一度の電話で終わったケース連 世 もあれば、その後しばらく支援を続けることになった人もいる。 の 待 前者の一人に秀美がいた。彼女のことが印象強く残るのは、私に支援の「コツ」を教えて 虐 くれた人になったからだろう。 れ 切 秀美は、自分がいかにひどい母親であるかを、三十分ほどかけて一気に話した。イライラ ち して幼い娘に当たる。罵声を浴びせ、平手で頬を叩く。そのあとに襲う罪障感。買い物もお つくうで、家事も手がっかない 「こんな悪い母親、死んだほうがいいんです ! 」

10. 断ち切れ!虐待の世代連鎖 : 子どもを守り、親をも癒す

母親孝行 連続少女暴行事件を起こして逮捕された良介がいた。被害に遭ったのはいずれも小学生か ら中学生の少女たちだった。 私が良介に会ったのは、彼が自分の行いの解明を望んでいたからだ。聡明な彼にも、自分 がそんな行為に走ってしまう理由がわからなかったのだ。というのも、少なくとも彼の意識 上にそのような欲求は存在していない 私「犯行に至るまでの経緯を説明できますか ? 」 良介「それが、わからないのです」 私「記憶がないということですか ? 」 良介「は : 気がついたら、もう行為の最中なのです」 私「気がつくまでに、どれくらいの時間がたっていますか ? 」 良介「三十分くらいだと思います」