ないなど、子どもを育てる親にも、それなりの規律が必要になります。 適度なフラストレーションは子どもを強くする 子どもの健全な成長には、ある程度のフラストレ 1 ションも必要です。 まだ話すことができない赤ちゃんは、おなかが減ったとか、おむつを替えてほしいなど、なに かしてほしいときには、泣くことでそれを要求します。 を しかし、お母さんがほかの用事で手が離せず、すぐにその要求に応じてやれないときもありま す。そのときに、フラストレーションが生じます。 る え そんなとき、赤ちゃんはしばらく泣いたあと、ク 1 クーと泣き声とはまた別の声を出して自分 を慰めたり ( スージング ) 、近くにあるおもちゃにさわったりして、気を紛らわします。このよう にして、フラストレーションの処理法を身につけていくのです。 ノ もフラストレーションをなにも感じないような環境では、そうした技術は必要がないから身につ もきません。しかし、そのまま成長すると、自制のきかない、わがままな人間になるかもしれませ 親 ん。 五私のところにカウンセリングを受けに来ているある女性は、六人兄弟の末っ子で、家族全員か らかわいがられ、ちやほやされて、なに不自由なく育ちました。自分がほしい、してもらいたい
と思うようなことは、両親、兄や姉が先を見越して、すべて与えてくれたといいます したがって、フラストレーションというものをほとんど感じたことがなく、当然、それを乗り 2 越える訓練もしてはきませんでした。 大人になった現在でもその習慣が抜けず、だれかがやってくれるだろう、だれかが助けてくれ るだろうと期待したり、まわりの人間を操作したりしています。そして、そのたびに期待を裏切 い、私のとこ られているうちに、フラストレーションによって情緒が著しく不安定になってしま ろに相談に来たのです。 彼女は、サイコセラピーによって、いまやっと自分を慰める方法を身につけるべく訓練をはじ めたばかりです。 子どものときから困難なことや逆境を経験することは、健全な成長にとってはむしろ必要なこ となのです。どんなに子どもがかわいくても、度を越した過保護は、かえって子どもを不幸にす るだけです。 しい親になろうと努力をしても、失敗をするときもありますし、怒鳴ってしまうこともありま す。しかし、子どもに対して失敗することを恐れる必要はありません。間違ったら、直せばいし のですから。適度なフラストレーションは、子どもを強くします。 ですから、子どもの前では完璧な人間であろうなどとは思わないことです。自分のことを放り
出産、子育ては大変なこと 歴史的に見ても、女性には、社会では認められないため、やむなく家庭に引きこもったという 面がありますから、出産とか子育ての過程を苦痛に感じる女性もいることでしよう。 子育てがいやだと思ったとしても、そのことに必要以上に罪悪感を感じる必要はないと思いま と自分に一 = ロい聞かせても、ことさら恥じることはありません。 す。「子育てだけが人生ではないー 局社会が要求するから、結婚したら子どもは生まれるものだから、子どもがいないと寂しいか まら、跡継ぎがほしいから、老後の面倒を見てほしいから、子育てよりほかに技術がないから : あこのような理由から子どもを生むと、あとで大きなフラストレーションを抱え込むことになりか でねません。 、も ど子どもを生めば自然に母生も生まれて、子育ても自然にできるようになるーー・こういう言い方 のには、 かなりのウソが含まれています。それがほんとうなら、こんなにたくさんの母親が育児ノ 4 は イローゼで私のところに相談に来るはずがないでしよう。 あ 重いフラストレーションを負った母親が、ヒステリー状態で子どもを虐待するという例を、私 六はあまりにもたくさん見てきました。 第 これでは、母親も子どもも、ともに悲惨な犠牲者になってしまいます。 261
親も毅然たる態度で「ノー」と言うことも必要 子どもは本質的に自己中心的 自発的に自らに課す規律を 適度なフラストレーションは子どもを強くする たんれん 家族会議は感情表現の鍛練の場 家族会議はある程度定期的に行なう 夕食の時間を有効に使う工夫 理想的な健全家族の一週間の夕食タイム ものごとを決断するときの四つのステップ 子育てに全力で取り組むという誓約 親の否定的な言葉は子どもをとても傷つける 第六章「あなたの子どもではありません」 子どもは両親の対立を敏感に察知する 夫婦間の話し合いは重要 230 232 238 214
妻から、「あなたから子どもを叱ってやってください」と言われて、そのまま子どもを叱った り、罰を与えたりしていたのでは、父親としての存在価値はありません。 これでは、家に母親が二人いるようなものです。妻から子どもについての不満や批判を聞いた ら、母親の手下になって叱りつける前に、それが真実かどうか、少なくも自分で確認してほしい のです。 子どもと心を開いて話し合うさいに必要になるのが、子どもの父親に対する信頼感、尊敬の念 むとんちゃく しさというときに、父親としての力は発揮 んです。ふだんからそういうことに無頓着な父親では、 ) 、 まできません。 あそれから、子どものいないところで、妻の話をじっくりと聞いてやることも必要です。子ども 「に対して不平や不満を抱いているということは、フラストレーションがたまっていることにほか どなりませんから、精神的な支えになってやらなければなりません。 のそして、こういうときに、エンパシーや論争解決法などのコミュニケーション技術がものをい なうのです。 章 最初から守れない約束はしない 第 一家の大黒柱たる父親には、一貫性と安定性が要求されます。 2 ラ 3
「罰を与える」という発想を変える ルールをつくったなら、それを守れなかったり、破ったりした場合の対応法も必要になりま す。それが抜けていると、責任感は養われません。そこで、選択肢の一つとして、罰という考え 方が出てきます。 家庭の中での罰のあり方を観察してみると、親の怒りやフラストレーションのはけロであった り、親の仕返しであったりするケースがかなり見受けられます。子どもを苦しませるのが目的と しか思われない罰が、多いようです。 社会に出てから、社会のルールを破れば、罰金とか刑罰を科せられますが、そのさい、法廷で 審理し、中立的立場の裁判官が裁定を下すというように、しかるべき手続きがなされます。被告 側にも弁護人がついて、権利を守ってもらえます。 ところが家庭内では、子どもははじめから問答無用の有罪で、だれからも権利を守られること なく、親の意のままに″処刑。されるというケースが少なくありません。しかし、子どもに痛み を与え、恐れを植えつけて、その行動を変えようとするのは、独裁者のすることです。 子どもが他人の迷惑になるようなことをした場合に、それを改めるよう指導することは必要で ちんと実践することです。 2 0 2
夫からひどいあっかいを受けた妻が、そのフラストレーションのはけ口を子どもに求めるとい うことは、よくあることです。しかし、そのたびに子どもの心に傷を刻み込み、それがやがて取 2 り返しのつかない結果を生むことになるのです。 ある調査では、満足な夫婦関係がもてなかった夫が、自分の娘に性的虐待をする率がかなり高 いという悲しい結果が報告されてもいます。 夫婦関係がうまくいっていない場合、一般に子どもへの圧力や強制、管理が強くなったり、子 どもに対して否定的な言葉が多くなることも実証されています。このように、夫婦間の葛藤は、 子どもに直接的に悪い影響を与えてしまうものなのです。 夫婦間の怒りの感情は、そのまま子どもへの怒りにつながり、夫婦間の不信感は、そのまま子 どもへの不信感となって伝わる可能性があります。 逆に、夫婦間の愛情も、そのまま子どもに伝わっていきます。そして、両親の関係が、子ども が自分の配偶者を選ぶときの原形ともなります。だからこそ、できるだけ夫婦だけの時間をとっ て、愛情をつちかうことが大切になってくるのです。 夫婦間の話し合いは重要 夫婦関係はとっくに破綻しているのに、「子どものため」という大義名分だけでみじめな関係 はたん
いしゆくしんきこうしん 体にパンチを受けたのと同じ生理的反応が起こり、筋肉の萎縮、心悸亢進、震えなどの後遺症が のちのちまで残ることがあります。 ばりぞうごん 親が自分のフラストレーションを処理できず、子どもに罵詈雑一言を浴びせてしまうのは、もっ ともよくない行為です。 そういう言葉が出そうになったら、深呼吸をして気を落ち着かせるとか、鏡に自分の姿を映し て見るとか、まず自分の怒りを鎮めることが第一です。 たとえ怒りの原因が子どもにあったとしても、そのときの感情のたかぶりをそのまま子どもに ぶつけるのはよくありません。それでは、ほしいものを買ってもらえないときに泣きわめいてダ ダをこねる子どもと同じです。 子どもより自分のほうが人生経験が豊富なのだから、自分の怒りの処理の仕方をもっとしつか り練習して、子どもの手本になる必要があります。 同じ罵声でも、「バカやろう」と一言うより、「おれは怒っているんだ」と言ったほうが、まだま しでしよう。主語は自分ですから、自分の行動が認識できていることを意味します。 それなりの理由があるにしろ、いつも怒りを爆発させてばかりいる人と親密な人間関係を結び たいと考える人はいるでしようか。 子どもは恐布心から表面的には親にしたがうかもしれませんが、ほんとうに信頼し合える人間 124
親です。いずれの場合もはっきりしているのは、これでは妻子から尊敬されるはずはないという ことです。 考えてみれば、ゝ しくら収入を得るためとはいえ、会社で上司に抑えつけられて牛馬のようにコ キ使われるのも、らくではありません。そのフラストレーションを、つい弱い立場の者に向けて 発散しようとする気持ちもわからないではないですが、しかし、それをしたら自分の価値はます ます下がる一方だということを、忘れないでいただきたいのです。 父親が家に帰ってくると子ども返りをして妻になだめてもらうというだけでなく、同等の伴侶 として、妻の精神的な安定にも貢献する必要があります。 これからの男性は、ただ頭や体力だけでなく、感情の安定と表現力、エンパシーの力が必要と されるでしよう。 父見も、 いまからでも遅くはありません。妻や子どもとの人間関係のもち方、感情の幅を広げ さいぎしん ていく方法などを練習しましよう。また、多くの男性は猜疑心が強くて、他の男生仲間と問題を 分かち合う術を知りません。一人で悩んでいないで、他の父親と連絡をとって話し合う習慣も身 につけたいものです。 男の子は、「男のくせに、めそめそするな」「めめしいまねをするな」などと、やさしい感情表 現や、困ったときに助けを求める気持ちを阻害されて育っことが多いようです。そのたびに体罰 2 ラ 6